イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

【推しの子】:第10話『【プレッシャー】』感想

 B小町初の大舞台となるアイドルフェスに向け、センターは超絶かわいいかなちゃんでキマリ!
 チョロいし優しいし楽勝でしょ! ……と思っていたら、思いの外心の中の闇は深く、さーて最終回一個前にして波乱模様だぜ!! という、アニメ推しの子第10話である。
 前回フルスロットルで開幕を告げたスーパー有馬かなTIMEが、より加速して深く深く、暗くてディープな部分までゴリゴリと突き進んでいく話数であった。
 僕はこのアニメのナイーブな表現力が好きなので、現実で起きている事象よりもキャラ一人の内面に深く彫り込む時、一番作品を美味しくいただけると思っている。
 それが”有馬かな”だってんなら、こらー鬼に金棒カツカレーに半熟目玉焼きトッピング、ありがたい限りでございます。
 一話じっくり、決戦のステージを前に”アイドル”は何背負って挑むのかを描いたことで、最終話に相応しい物語の熱量をしっかり準備できたのも、見事な組み立てだと思う。
 こんな綺麗で重ぇモン背負ってんなら……翔ぶしかねぇだろB小町!!

 

 

 

画像は”【推しの子】”第10話から引用

 というわけで今回は、青から赤へかなちゃんの世界を包む色が増え、星のない暗がりから希望に満ちた輝きへと、瞳の内側が変化していくまでを追いかける回だ。
 焦がれる自分に断りもなしに、勝手に恋愛リアリティショーに出るわキスはするわ、振り回される生活に疲れて『話しやすいかも……好きになってもいいかも……』と思えたぴえヨン(細)の正体は理解らなくても、ときめきの夜はアクアマリンの色に染まっている。
 自虐と世慣れたフリで自分を鎧っても、芝居を愛し恋にときめく柔らかな心は全く死んではおらず、しかしその感性を殺さなきゃ生きていけないほどに、芸能界は世知辛い。
 そういう場所で生きていける青い希望が、アクアと向き合う世界には確かにあって、それに押し流される形で有馬かなはアイドルに……新生B小町になった。

 じゃあ彼女の世界は惚れた男の色一つに染まっているのかというと、そうじゃないよと告げるのがルビーの赤さである。
 今生の兄であり遠い初恋の星でもある男に過剰に護られ、真っ直ぐ夢に向かって突き進むアーパー小娘の熱は、優しさと自己防衛が入り混じった薄暗さを綺麗に跳ね飛ばし、夢色を失いかけていた瞳に星を取り戻させる。
 青い色合いの恋だけが輝きの全てだと、過剰に意識してアンバランスになっていたところに、奇縁で仲間になった年下のアイドルバカが、自分にとってどれだけ大事な存在になっていたのか、思い出すことで有馬かなは”アイドル”になっていく。
 そうさせるだけの優しい烈火を、ルビーは母から受け継いで、誰かに手渡す才能がある。
 兄が暗く冷たく、思い詰めた復讐に閉じ込めて自分の思いを、誰かに預けないよう振る舞っているのとは真逆……のようで、根っこは兄妹良く似ているなぁと思う。
 そういう人情の温もりを感じ取るセンサーが、長い芸能生活で摩耗しつつも消え去っていないから、かなちゃんは星野兄妹には特にチョロいのだと思う。
 やっぱ好きだなぁ、有馬かな……。

 

 

 

画像は”【推しの子】”第10話から引用

 アクア主演の復讐サスペンスと、ルビー主演のアイドル成り上がり物語は露骨に流れる空気が違っていて、今回はそこらへんの落差をコミカルに生かした演出が冴える。
 『動画内の既成事実で押し切れば、かなちゃんチョロいし”真ん中”やってくれるっしょ!』という、ナメきった二人へのガチ目の拒絶を描く時は、獣めいた表情を織り交ぜ、その距離感もソリッドで冷たい感じに。
 しかしチョロさに押し流されセンター就任した後は、気の抜けた柔らかい空気で距離も近めに、洒落になる範疇に。
 B小町のアイドル修行は凸凹噛み合ったいいバランスで、ハードでありながら楽しく、本気だからこその笑いに満ちている。
 この明るく楽しい感じを、かなちゃんの低い自己評価で深く沈めていって、良いギャップを作ってから最後に上向きに反転させる。
 こういうトーンコントロールがずっと上手い作品だし、今回は特に冴えている。

 B小町のクソガキ共にチョロさを見抜かれているかなちゃんだが、それは責任感の強さと優しさの裏打ちだ。
 そういう柔らかな心を他人に見せれば、食い物にされるのが常の業界と身をもって知りつつも、かなちゃんはチョロい自分を制御しきれない。
 熱血アイドル物語の主役になれるほど真っ直ぐではなく、賢く業界を泳げるほど非情でもなく、とても中途半端な所で揺れながら、明るく楽しいコメディと黒く重いジュブナイルの狭間を、必死に泳ぎ続けている。
 その優しい力み方は、僕が有馬かなが好きな沢山の理由の一つだ。

 

 

 

画像は”【推しの子】”第10話から引用

 そんな有馬かなに生きるための潤いを手渡すのは、やっぱり星野アクアなのである。
 事務所の先輩にナシ通してまで、言葉が素直に通る仮面を作って間近に支える生き方は、復讐にすべてを捧げているにしては体温がありすぎる。
 だからこそ色んな女の子が彼に狂うわけだが、同時に彼女たちが一回性の青春を駆け抜けていく速度に自分が追いついていない……追いついてはいけないという意識も嘘つき転生者にはあって、あくまで別人のフリで武装したまま、柔らかな優しさを届けようとする。
 先週かなを癒やし惑わしたのと同じ、透明な水(Aqua)をぴえヨン(細)が差し出しているのがある種のヒントだが、世界に打ち捨てられたと思い込んでる女の子が求めるものは、全部青い輝きから出てくる。
 自分の本当を見つめて、その全部が好きだと伝えられるのは、道化の仮面が本当を隠してくれるからだ。
 そこらへん、ひねくれた元子役と捻じくれた転生者は似た者同士だ。

 アクアが顔を隠して導くB小町合宿は、眩い輝きと夢に向かって真っ直ぐ突き進む勢いに満ちて、見ていて気持ちがいい。
 アクアくんのドン曇り復讐絵巻とは正反対に見えるが、特にかなちゃんを中心に複雑怪奇な屈折が世界を包んでいて、鑑をフェティッシュにそこら辺が強調される。
 本心を悟られないように、自虐で一番大事なものを守る時に、天邪鬼なその表情を鏡面が切り取っていく。
 逃げ水のようにとらえどころのない有馬かなの実態を、ひよこ顔の道化がベランダで捕まえる時、虚実入り交じる不鮮明は真っ青な恋に塗りつぶされて、剥き出しの有馬かながそこにいる。

 MEMちょも困惑なツンデレ本音を語る時、かなちゃんの実態がその鏡像を上書きしてしまっているのが、巧みな心理表現だと思う。
 世間は彼女の頑張りや夢をなかなか認めず、その擦過傷はかなちゃんをどんどん嘘つきにしていくけども、幼い時に出会って胸に突き刺さった思いは、どれだけ合わせ鏡に囚われても嘘ではない。
 でも真っ直ぐ好きだと口にできる素直さも”有馬かならしさ”からは程遠く、甘やかな悪態に本音を織り交ぜてベラベラベラベラしゃべり倒す時、かなちゃんはとても幸せそうだ。
 星野アクアを憎む/愛する時だけ、ありまかなの写像と実態は重なり合う。

 そんな気持ちをあえて気づかないように、仮面越し一方的な愛を押し付けながら、道化は裏方であり続けようとする。
 かなちゃんのラブリーツンデレが色んな人に見えやすいのに対し、アクアが自分の優しさ、本気の子どもたちに本気で向き合う熱量を隠す仕草は、ストーカーめいたヤバさを秘めて危うい。
 それは彼が、報や倫理を飛び越えた復讐を心に秘めて生きているのに対し、かなちゃんは夢に真っ直ぐだからこそ屈折している、罪なき夢追い人だからかもしれない。
 奇妙な仮面を貼り付けなければ、自分が好きになれた女の子の後押しも出来ない屈折が、どこから来ているのか。
 秘密と重荷が多いアクアは、かなちゃんが真っ向勝負で向き合うネジ曲がり方とはまた違った、もしかしたらより厄介な屈折に囚われていて、ずっと抜け出せない。
 愛ゆえに復讐に呪われた男を、愛で解き放つのが一体誰なのか。
 このお話のヒロインレース、人間の生き方が乗っかる分ラブコメの平均値よりやや重た目で、そこも好きだね俺ァ。

 

 

 

 

画像は”【推しの子】”第10話から引用

 天窓が月光の生み出す明暗を、鮮明に切り分けるみんなの寝室。
 眠れないほどに”アイドル”になる瞬間を待ちわびるルビーの純真は、一足先に夢の厳しさを知ったかなちゃんからは遠い。
 ルビーが転生者の真実を隠しつつ、そこに込められた痛みと熱はそのまま伝える旨の高鳴りに、かなちゃんは優しく手を添えながらも影の中から(まだ)出ない。
 この夜がアクアマリンの色に塗られているのが、恋情だけが有馬かなの全部ではなく、青春を共に駆け抜けるB小町の仲間との出会いの中でこそ、彼女を過去の檻から出す赤があるのだと教えてる感じで好きだ。
 たった一つ何かを見据え、全てをそこに捧げる生き方は尊くて危うい。
 生きてしまっている以上色んな縁が絡みついてきて、それは目的達成を邪魔する不純物ではなく、より豊かな場所へと自分を導いてくれるアリアドネの糸だから、大事なものはたくさんあった方がいい。
 大人びた自虐のその先にある、傷ついてなお夢に進むための多彩なパレットと、有馬かなはこの先出会うことになる。

 灰色の闘病生活に唯一、色を付けてくれたアイドルとの出会い……先生との出会い。
 後に捻じくれまくった奇縁の果て、歪な家族として繋がり引き裂かれていく未来など知らないまま、天童寺さりなはアイドルを夢見る。
 この純粋なまどろみがアクアは本当に大事で、傷つけないために勝手に走り回って汗をかいてきた。
 青いアジールに守られて少女は夢の舞台に踏み出すわけだが、転生を経てなお……あるいは、経たからこそルビーは病室に閉じ込められ苦しんだまま死んだ幼子時代から、あまり前に進めていない。
 アクアが役者と復讐に呪われたように、前世と今生でアイによって突き刺された”アイドル”という楔はさりなの魂を刺して、そこ以外に自分の行く道はないのだと信じて疑わない、真っ直ぐな強さと脆さを生み出している。
 今回は灰色の世界で見つけた眩い星として描かれたものが、実は抜け出せない檻としてさりなを呪っている様子が今まさに原作でほじくり返されてて、アニメと漫画の豊かな共鳴を感じるシーンでもあった。
 『転生者が背負ってる過去の体験、もはや自分のものではない誰かの人生は、人生二週目の特典であると同時に思いっきり人格歪める重荷。一般的な成長過程を踏めない上に他人に開かせない嘘を背負うので、外面作るのだけ上手くなって死ぬほど拗れる』って転生者の書き方、俺かなり好きなんだよなぁ……。

 

 

 

画像は”【推しの子】”第10話から引用

 その危うさは先の話として、今は二度目の人生を全力でエンジョイし切るルビーの赤が、かなちゃんの灰色を染め上げるターンである。
 さりなが囚われていた苦しみの檻と、売れなくなってからのかなちゃんを包囲している世界が同じ色なの、違うけど同じで同じだけど違う二人が、窓枠の境界線を飛び越えて手をつなぎ、真っすぐ進みだす場面と響き合ってて、とても良い。
 ルビーが天然元気なアーパー小娘であり、人生につきものの重たい暗さなんぞなんも知らねぇとナメていたかなちゃんは、過去を告げられることで認識を少し改め、自分と同じ影が彼女にもあることを知る。
 そのうえで、だからこそ多くの人を失望させた自分に傷ついてきたかなちゃんは、影を光に変えたルビーの眩しさに正対できず、背中を向けて目を背けてしまう。

 『自分は緊張していない、傷ついていない』と、嘘の麻酔でいつも通り魂をごまかそうとした所で、星の瞳が少女の心を射抜く。
 アイ譲りの眼光の鋭さが、誰かに見てもらっている安心を誰より求めていたかなちゃんに深く突き刺さる理由を、そう出来てしまうルビーの才能を、豊かに語っていてとても好きだ。
 このアニメは(例えばかなちゃんとMEMちょがB小町に勧誘されたときのように)凄くロマンティックな、現実から乖離したとすら思える夜を描くのが上手くて、それが世知辛い現実を突破していくファンタジーに、嘘でも信じたいと思わせる力を宿しているように思う。
 それは灰色の現実から自分を守るために、本当は信じてもいない嘘を口に乗せるクセがついてしまった女の子が、本当は何になりたいのか見つけた瞬間だ。
 自分すら気づかない……ってことにして、これ以上傷つかないために立ち止まって背負って震えている人の手を、真っ直ぐ掴める女の子の、ルビー色の夜だ。
 これまではこの夜の色合いはアクアの特権だったわけだが、震えながらデビューステージに飛び込むクライマックス前、もうひとりの星の子もまた異才を継いでいるのだと、しっかり書いてきた。

 転生者の芸能界無双、適度に戯画化された生臭い芸能学習漫画、復讐サスペンス。
 色んなジャンルを横断する欲張りさがこのお話の魅力だと思うが、アイドルに青春を燃やす少女たちの青春絵巻という、純度の高い側面もまた、このお話を構成する一つの要素だ。
 それがとても力強く美しいもので、夢を追いかける獣道に傷だらけになって、灰色の折に自分を閉じ込めて守って、なお誰かの夢を背負う重さに震えている女の子が、自分を見つける輝きに満ちている。
 そうさせてあげる仲間の強さが、友情の輝きが、しっかり描かれているのはとても良い。
 そういう綺麗なものと、捻じくれた情念や薄汚い現実が隣り合って、奇妙な星座を描いている様子は、一番星が眩しいからこそ面白いのだ。

 

 

 

 

画像は”【推しの子】”第10話から引用

 というわけで次回アニメ【推しの子】最終回、覚醒の有馬かなが星の海に漕ぎ出すッ!! ……という所で、今回はおしまい。
 俺はかなちゃんの捻くれ加減と真っ直ぐな優しさ、両方合わせていっとう好きなので、その影も光も鋭い筆先でたっぷりと描いてくれて、とっても良かったです。
 こっから新生B小町の初ステージを、赤い星を継ぐ少女の鮮烈なデビューを、アニメがどう描ききってくれるのか。
 カロリーぶっ込んだライブシーンが来るのは半ば確定として、そこに宿る繊細な情動、世間のどす黒いルールをどう描ききって、このアニメが選び取った筆致を完成させてくれるのかが、今とても楽しみです。
 話題性とスキャンダラスが取り沙汰されがちなアニメだけど、メチャクチャ気合入れて繊細な表現積み上げてきた事実は、何度褒めてもいいと思っているよ。
 次回も、大変楽しみです。