イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-:第1話『はじまりのうた』感想

 どこかに似ていてどこでもない、異世界ヌマズ。
 なんにもない港町を舞台に繰り広げられる、ポンコツUターン少女の青春やり直しが今堂々の開幕である。
 TV放送から六年、劇場版から四年を経て、まさかの異世界ファンタジーとして新たに紡がれるAqoursの……というより、津島善子の物語。
 一体どうなることかと身構えていたが、大胆なアレンジを加えてキャラを捻りつつも、ラブライブらしさが随所に眩い新機軸幻想譚として活き活き力強く、大変面白かった。
 μ'sが打ち立ててしまった伝説に惹かれ、かなり捻れた足取りでなんとか自分たちの物語を駆け抜けた前世の、無理くり萌え萌え大所帯取り回そうとして無理が出ていた部分を上手く引っ剥がしつつ、ヨハネとハナマル、そしてライラプスに焦点を絞ることで凄く率直な、帰還と再出発の物語が展開していた。
 なにしろ魔法が実在する異世界なので、津島善子のヒネた自意識は悪目立ちする中二病として発露することはなく、何かとエグい当てこすりが目立った国木田花丸もピュアな美少女ヒロインとして、透明度の高い立ち回りをぶん回す。
 正調ファンタジーというには、現実の風景が濃い目に多い焼きされた不思議な世界の中で、何かと捻くれ素直になれない少女がどう自分の居場所を見つけていくのか、話を支える芯がとにかく真っ直ぐで力強かった。
 自意識とか承認欲求とか虚栄心とか、年経るごとに背負ってしまった余計な荷物にネジ曲がった背骨を、危機にある故郷を大事な仲間と進む中で、どうやって伸ばしていくのか。
 歌と絆と魔法は、そのためにどんな助けをしてくれるのか。、
 作品のスタンダードな方向性が、力強いフォルテシモで奏でられる第1話だったと思う。

 

 

 

画像は”幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-”第1話より引用

 まず目を引いたのは異世界としての構築方、24分を通じたその見せ方である。
 ネオンがビカビカ輝き、ピンクの公衆電話が堂々鎮座する都会は戯画化された東京そのもので、あんまりガッツリファンタジーという感じはしない。
 それは誰かが奇跡を手渡ししてくれることだけを待ち望んで、努力も内省もしてこなかった空虚なニ年間の反射で、現実に押し潰され不本意な帰還を果たした故郷にこそ、ヨハネが求める魔法はある。
 なのでブーブー文句言いつつヌマズを進む内、だんだんとファンタジックな良い美術がグイグイ前に出てきて、ハナマルちゃんから夢と希望を返してもらうことで、その足取りは最高潮に達する。
 世界もに自分にも認めてもらえない自分を、特別に輝かせてくれるファンタジーはただ異世界に突っ立っているだけでは生まれず、自分の内側から本当の夢を引っ張り出して、それに素直に身を委ねることで、花を咲かせるわけだ。
 ラブライブ名物音曲結界展開を、マジな魔法として上手く料理した”Far far away”が際立つように、現実の手応えをあえてゴロッと残し、『仲見世通り』とかモロに感じで書いてある、ハンパなファンタジー世界をあえてお出ししてきた印象を受けた。

 

 

 

画像は”幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-”第1話より引用


 ずーっと文句ばっかり口から垂れ流し、何処かの誰かが自分を特別にしてくれることを望んでいたヨハネは、一度は逃げ出したヌマズをでっけー犬に導かれるうち、自分だけの魔法を森の中で取り戻していく。
 巨大な切り株のステージは新しい夢を反射するのではなく、あくまでかつて夢を見ていたはずの自分を思い出させる、魔法の鏡だ。
 そこに確かにあった輝きはハナマルちゃんの心に魔法をかけて、それを丁寧に育てた彼女は既に、パン屋という夢に自分を進めている。
 だがライラプスに木の枝を手渡され、ハナマルちゃんの言葉に勇気をもらうまで、そこには『みんなにバカにされた』というネガティブな思い出しかない。
 育つ内ひねくれたヨハネは自分に魔法が使えたことも、このなんにも無いド田舎に確かに暖かな光があったことも忘れてしまっていて、それを思い出させてくれる人はもう、すぐ側にいるのだ。
 前世で振りまいていた毒気と食欲を綺麗に抜いた結果、国木田花丸が持っていた正統美少女ヒロインとしてのポテンシャルが限界を突破しており、なにかと素直になれない主人公に寄り添い支える立ち位置に、完璧な姿勢で滑り込んできた。
 下手に横幅広げてキャラや舞台を散漫に描くより、主役から魔法を受け取った女の子がそれを返す足取りにクローズアップして見せた結果、二人の人格がクッキリ描かれたのは、とても良かったと思う。

 お礼も挨拶も言えないヨハネは、怠け癖と他人だよりも併発したダメダメ人間として、彼女の物語をスタートさせる。
 そんな彼女がどんな可能性を秘めているのか、ハナマルちゃんを鏡とし、ライラプスに導かれて森の中のステージへ……素直な自分でいられた幼年期へ帰還する中で見えてもくる。
 魔法はここではないどこか、自分ではない誰かに求めても形にならず、捻じくれて都合だけがいい現実改変のために、力を貸してはくれない。
 かつてハナマルちゃんの夢を後押しした日のように、自分の中から湧き出る音楽に素直に、それで誰かと世界を震わせれるような、素直な気持ちを真っ直ぐ形にするためにこそ、彼女の魔法は形になる。
 ライラプスを自分に都合のいい便利な存在に書き換えることを、実は彼女自身望んでいないから、その願いは実現しないのだ。

 あるがままの自分を見つけ、望みに素直に前に進む。
 ジュブナイル・ファンタジーが普遍的に追い求めるテーマを、真正面から見据えた話作りの主役として、クッソめんどくさく捻じくれ、生っぽいヘタレ感に満ちた津島善子という人選は、結構ドンピシャであったと思う。
 なりたい自分の眩さに目がくらんで、本当は何を求めているかすっかり見えなくなってるダメダメっぷりと、そればっかりが彼女の全部ではない可愛げ。
 それが歌が持つ可能性と化学反応して、美しい魔法が力を持つ展開は、アイドルの物語としても魔法を扱うファンタジーとしても、衒いなく”真ん中”を狙い撃てているように感じる。
 通奏低音のように目立たず、しかし確かにその響きを”ラブライブ”が継承してきた魔法少女アニメの文法が、異世界スピンオフとして動き出すことで凄く率直に、話の正面に躍り出てきた手応えを僕は感じていて、小さなヌマズを舞台にヨハネが自分だけの魔法を見つける物語としてどんだけ頑張ってくれるか、結構期待しているのだ。

 

 

 

 

画像は”幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-”第1話より引用

 魔法少女の物語ならば善導の獣が必要なわけで、その役背負うライラプスくんが最高に良いッ!
 でっけー犬と幼年期を過ごし、声なき声を聞き分けて時に反発し、時に導かれ認められて共に進んでいく様子は、トーテムと共に自分を探していく精神的探求譚の装いも宿していて素晴らしい。
 ライラプスはとにかくヨハネを良く見ていて、彼女が本音だと思いこんでいる嘘を代わりに睨みつけ、本当に行くべき場所へと大きな背中で導いてもくれる。
 ありふれた成長痛に心が捻くれて、大事なものが見えなくなってるボケ人間のかわりに、優しく賢い獣が真実を見定めている様子は……マジたまんないッスよ!
 明らか魔法的道士、あるいはヨハネのオルターエゴとして超越的な立ち位置にいるのに、共に育ったきょうだいとして肩肘張らないやり取りを交換し、なかなか表に出せない素直な気持ちを受け止め、すんごい至近距離でヨハネに寄り添ってくれてる落ち着きも、最高中の最高。
 ライラプスくんの立ち居振る舞いがぶっちぎりに”善”なので、その足取りに導かれるヨハネの物語にも信頼が置けるのは、良い第1話だなーと思った。

 ヨハネが心の鎧を引っ剥がして、自分と他人と世界に素直になっていく歩みが、多分このお話の真ん中にはある。
 それは他人を鏡にして自分を照らすこと、それを許してくれる特別で温かい関係を大事にすることで、初めて達成される歩みだ。
 だからサブタイトルが”SUNSHINE in the MIRROR”なんだと思ってるけど、素っ裸で無防備な心を現状唯一預けられる半身として、ライラプスくんがいつでも正しいのは大変良い。
 彼(あるいは彼女)を鏡にすることで、ヨハネがただでパンを貰ったことを気に病むマトモさとか、本当は素直になりたい願いとかたっぷり抱え込んでいる、柔らかな心の持ち主だと解ってくるし、ライラプスくんはそういう妹の身じろぎを急かすことなく、認め抱きとめてくれる。
 ハナマルちゃんが差し出してくれた、彼女が手ずから捏ねた夢の結晶(それを生み出したのは、ヨハネ自身のいつかの歌でもある)を口に運び、自分の養いにする行為を見守る時、ライラプスくんは優しく微笑んでいる。
 俺人徳のあるデッケー犬マジ大好きだからよ……ライラプスくんが常時ヨハネの側にいると、ファンタジー力も上がるし思う存分ダメ人間を迷わせられるし、最高の一手だよ本当に。

 『ライラプスの声が聞こえているのは、ヨハネだけ』つうサインも随所にあって、ますますヨハネが見失っている、もう一人の自分の存在感は強くなっている。
 それは都会では聴くことがなかった内心の木霊であり、ライラプスがいるこの街に戻ってきたからこそ、もう一度向き直るチャンスを掴める声だ。
 ライラプスくんが体現する正しさを、素直に飲み込めないからこそ迷っているヨハネの人間臭さをちゃんと描くことで、ここら辺の呼応が上から目線の押しつけではなく、しっかり内面(であり他者でもある存在)との対話になっているのも、とても良い。
 ヨハネにとってライラプスが喋るのはあまりに当然で、自分を善導し支えてくれる特別な魔法がもう隣りにあるのだと、奇跡の価値に全く気づいていないところから始まるのも、魔法の物語の正道で大変よろしい。
 ……OPでもひっそり示唆されてるし、一度はおおいぬ座の守護を失ってその意味に気づく展開も、そのうち来るかなぁ……。

 

 

 というわけで、描くものをあえて真ん中に絞ることでメチャクチャいい感じの馬力出てる、パワフル&ファンタジックな第1話でした。
 ファンタジー世界に逆さ写しにすることで、津島善子国木田花丸というキャラクター、ラブライブ! という物語のエッセンスがギュッと絞り出されてた感じです。
 迷いながら本当の自分を探し、特別な魔法を探し出す物語は、ヨハネが見落としているここヌマズの特別さを、探り当てる探求譚にもなるはず。
 鏡合わせの現実と幻日だけが描けるモノを、今後物語がどう追いかけていくのか。
 その足取りが、かなりしっかりしたジュブナイル・ファンタジーに、ステージが生み出す魔法に照らされているのを、頼もしく受け取れるスタートとなりました。
 大変面白かったです。
 次回も楽しみ!!