イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

君は放課後インソムニア:第13話『最古の星 メトシェラ』感想

 二人の度はゴールに辿り着き、そこからまた進み出す。
 高校一年生の熱い夏が終わる、君は放課後インソムニア最終話である。
 大変良かったです。
 最後までこのアニメらしい歩調で、丸ちゃんと伊咲ちゃんが一緒に進んできた道のりを振り返りつつまとめてくれて、見ごたえのあるお話でした。
 天体観測にしても写真術にしても、二人が出会ったから始まったものが凄くいい結果へとたどり着いて、その一番大きな者である二人の恋も文句なしに成就して、相変わらず眠れない夜を共に過ごせる特別な人との時間は、まだまだ未来へ続いていく。
 13話の物語が彼らに生み出したもの、思い出し取り戻させたものをしっかり噛み締めさせてくれる、とても優れた最終回でした。
 やっぱ1クール一緒に付き合ったお話が、こういう落ち着きで自分のことを振り返り、一個一個その意味を差し出してくれる終わりは良い。
 最高に良い。

 

 

 

画像は”君は放課後インソムニア”第13話より引用

 というわけで先週衝撃のラストをもう一回やって、その先に最終話が滑り出していく。
 俺は丸ちゃんの生真面目陰気顔の奥にある、燃え盛る思いの強さに惚れ込んでこのアニメを見てきたので、何回見ても『正しくなくても、君を攫っていきたい』と告げるシーンの美青年っぷりは、最高にありがたい。
 母に捨てられた過去に、身の丈に合わない靴のように傷だらけ置き去りにされた丸ちゃんの過去は、伊咲ちゃんと出会ったことでまさに彼が生きている”今”にようやく焦点があって、自分を縛っていた鎖を引きちぎってそこから前に進んでいくのだ。
 そういう不自由と自由を同じくする同志として、一緒に眠ったり星見たりしてきた伊咲ちゃんとしては、そらー飛び上がるほどに嬉しいだろう。
 僕は伊咲ちゃんがどっか幼い所を残したスーパー無邪気ガールであることが大好きなので、最終話はそういうHappyが山盛り襲いかかってきてくれて、大変良かった。

 正しくないことに踏み出すにあたり、二人は自分たちの青春を柔らかく包んでくれた家を最後に掃除し、置き手紙を残してしっかり旅立っていく。
 これは『ちゃんと』に縛られていた丸ちゃんが自分の美質と学び取れた置き土産で、こういう所を折り目正しく生きていくことは、ただ眠れない辛さだけを彼にもたらすわけではないと思う。
 燃え立つ願いへと力強く進みつつ、その足で他人に泥をかけないための生き方が、”掃除”という行為を架け橋に白丸先輩とも繋がっている描写が、凄く好きである。
 ゆったりと進むお話の中で、こういう人間と人間が知らず通じ合う瞬間を見落とさず、ゆったり物語に埋め込んでくれていたのは、このお話のとても良いところだと思う。

 そういう呼応は人間だけでなく、時間においても豊かに描かれていて、二人が旅の終わりに進み出す時一瞬、停留所が映る。
 第8話で突然の不運と溢れ出した感情、それを受け止めてくれる特別な愛しさを切り取るキャンバスになった場所は、もう彼らが足を止めるべきゴールではないのだ。
 とても熱い思いが交わされた場所に、良く似た途中経過を気にもとめずに、二人は前へ前へ進んでいく。
 『ちゃんと』生きていればいつか母が戻ると、思い詰めてそれが崩れて苦しむ自分を、吐き出してなお共にいてくれる伊咲ちゃんがいてくれたから、丸ちゃんは『ちゃんと』していない自分に胸を張って、この美しい夏を終わらせていく。
 二人で始まったから、二人で終わらせていく。

 

 

 

画像は”君は放課後インソムニア”第13話より引用

 最終回まで草薙の美術力は全開で、遺跡への道はまるで夢のように美しい。
 石川の豊かな情景に支えられ、色んなところを旅するアニメだったことが、丸ちゃん達がこの物語で何を見て、何を学んで、どう変わっていったかを記す手立てとして、かなり良かった実感がある。
 空間的な移動だけでなく、時間的な遷移においても美術の強さは大変良い仕事をしていて、過ぎゆく時の中で様々に美しい顔を見せてくれる自然の不思議が、青春を不安に過ごしている青年たちに教えてくれるものを、無言で豊かに描いていた。
 作中のキャラクターたちが行き過ぎ浴びる、そういう語らじのメッセージを見ている僕らも感じられるよう、どっしりとカメラを巡らせて世界を美しく伝えてくれたのは、僕好みでとてもありがたいアニメだった。

 そういう美しい場所で、丸ちゃんと伊咲ちゃんはめっちゃイチャイチャする。
 是非しろ……してくだっさいッ!!!
 先々週で……いやさそのはるか前から”答え”は出ていて、ゆっくり歩いてこの旅の終わりで追いつくような足運びになったけども、そこにこのアニメ特有の呼吸、中見丸太という青年の心地よい生真面目があるので、このペースこそがありがたい。
 友達や家族や、色んな人と出会って笑って託してくれたものがあればこそたどり着けた場所で、自分と自分が好きな人の思いを、『ちゃんと』言葉にする。
 そこに焦りのない着実さがあってくれることが、中見丸太をいっとう好きになった自分には、最後までありがたい。
 恋を伝える前の丸ちゃんのちょっと緊張して、優しい表情が本当に最高で、『この少年を好きになって良かった……このアニメを見届けれて良かった……』と、最後の最後に思わせてくれた。
 ずっと何かに苛立って、何かに怒って、何かを大事にしたくて、大事にして欲しかった子がこういう顔してくれるのを、俺はずっと待ってたから……。

 

 恋は二人が出会って、共に昼と夜を、春と夏を歩いた日々一番の宝物であるけども、天文部の活動がその添え物かといわれると、無論そんなことはない。
 面白いと前のめりにファインダーを覗き込み、満天の輝きに瞳を輝かせる驚きと喜び。
 眠れない夜に星空を写す旅は、恋と同じくらいファンタスティックな出会いであり、彼らの心を豊かに満たしてきた。
 そうやってなにかに夢中になって、うまくできない難しさにはがみし、それでもうまくなりたいから必死に勉強して、実地で幾度も試行錯誤を繰り返す。
 部活アニメとしてみても、初心者がどこでつまずいてどう乗り越えていくか、それを共に手助けしてくれる人たちのありがたさとともにしっかり描けていたのは、とても良かった。
 ここもこのアニメ特有のテンポが生きている所で、失敗と成功をそれぞれ丁寧に描き、それが積み上がって見えてくる新しい景色、湧き上がるやりがいと楽しさを一つ一つ確認できた手応えを、見ている側も共有できた。

 星と人、同じくらいに大事なものを同じように大事にするためのメディアとして、この作品におけるカメラはとても公平で優しい。
 晴れて恋人となった、世界で最高の女の子とお互いをファインダーに収める時も、散々苦労して掴まえた最高の星空を見上げ照らす時も、父が不器用に手渡したカメラは丸ちゃんの手の中にある。
 未だ明瞭な解決には至ってないけども夜を迷う中で、ちょっとずつ丸ちゃんの心がより善い出口を見つけている様子は、伊咲ちゃんに初めて母と星の思い出を告げれるようになったことからも理解る。

 眠れない夜が、綺麗に治るわけでもない。
 砕かれてしまった過去が、元の形に戻るわけでもない。
 それでもその『ちゃんと』はしていない不格好を、見つめられないほどの痛さを和らげてくれる誰かの心音を聞きながら、自分の一部だと見つめれる所まで、二人はなんとか進みだしたのだ。
 そういう自分のあるがままを抱きしめてくれる誰かに出会って、彼らはあるがままの自分と、ようやく握手できるようになった。
 子どものように瞳を輝かせて、眠れない憂鬱さではなく眠りたくない興奮を、一緒に叫ぶことが出来るようになった。
 13話使ってお話がたどり着いたのは、たかだかそんな結末だ。
 でも、それ以上に素晴らしいことは世の中、なかなかありゃしないのだ。

 

 

 

 

画像は”君は放課後インソムニア”第13話より引用

 というわけで、丸ちゃんと伊咲ちゃんの、彼らをたくさん助けてくれた人たちの夏が終わっていく。
 写真コンテストに無事入賞を果たし、部に予算がついたのを受川くんがサラリと、でもしっかり告げてくれるのが、色々苦労しながら部活と青春に挑んできた子たちが報われて、でもそれは終わりではないことを教えてもくれていて、とても良い。
 カニちゃんが言う『中見は変わった』というのが、1クールに及ぶ物語の総まとめであり、眠れぬほどの苦しみが何もかも消えてなくなったわけではないけども、そんな夜を孤独で光のない牢獄ではなくて、遠く離れても誰かと繋がっていける自分の場所なのだと、丸ちゃんは思えるようになった。
 受川くんがかつて憧れ、いまも信じているスーパーマンとしての実力を、生真面目に発揮できるようになってきた。
 そうさせてくれたのは学校の外れで管巻いてる不良教師であり、奇っ怪で自由な生き方しているゲーセンの主であり、新しく出来た友達であり、中見丸太が心から好きになった、彼の大事な女の子だ。

 丸ちゃんが一人で部活して、伊咲ちゃんが家に閉じ込められている状況は、逆説的に彼らを取り巻く家庭関係の差異、無関心に思えるほどの不器用な愛と、いつ止まるか解らない心臓を心から気にかけている思いを、浮かび上がらせもする。
 それぞれを取り巻く難しさの中で、息もできずもがいていた二人はあの天文台で奇跡のように出会って、この最終回で振り返るような豊かな旅を経て、専用のラジオで言葉を重ねている。
 お互いの心音が重なる距離にいても、遠くに離れていても、同じ思い出の中を歩いて、同じ星と朝焼けを見つめられるところに、自分たちを連れてきたのだ。
 『そうしたいし、そうしてやりたい』と願って丸ちゃんは伊咲ちゃんの隣に立って、燃えるような瞳で世界を睨んできたわけで、彼の優しさと強さがとても良い形で夏の扉の先に繋がっているのが、それが彼だけの未来ではなくもう一人の天文部員にも拓けているのが、良いなと思う。
 素敵な二人の素敵な恋が成就しただけではなくて、二人なりの眠れぬ辛さを抱えたままで、治りきらずでも前向きに進んでいける自分を、お互い触れ合った心が、一緒に見上げた星が、確かに作ってくれた一つの証明が、何よりも眩しい。
 秋と冬の星座を巡って、また眠れない痛さと難しさに出会って、それでも彼らは進んでいけるだろう。
 そういう歩みをここまでしてきたのだと、最終回にとにかくしっかり描いてくれる、最高の終わりだった。

 

 

 というわけで、放課後インソムニアのアニメが終わりました。
 昨今の加速しているエンタメとはちと違う、独自のテンポでゆっくり、どっしり、しっかり悩ましき青春を追いかけていくアニメでしたが、舞台となる石川県の豊かな情景、星とカメラをメインテーマに据えた詩情との兼ね合い、眠れない子ども達の辛さをそこで息をしている現実として受け止める姿勢として、このアダージョは作品にベストマッチだったと思います。
 とても慎重に丁寧に、自分と世界の折り合いに難しさを抱えた少年が、真逆に見えて似通った辛さを背負った女の子と出会ってから、段々とお互いを知り、大事に思えるようになり、幾つもの夜を一緒に過ごして近づいていく様子を、特等席で見届けさせてもらいました。
 早足で駆け抜けてしまえばありふれた悩みと、その重たさや個別の辛さを置き去りにしてしまいそうな物語と、彼らが人生を進む歩幅一つ一つを丁寧に切り取りながら向き合うことで、凄く普遍的な暗さと眩さが、お話に宿っていたと思います。

 僕はとにかく中見丸太が好きになったので、彼が怒り笑い喜び泣きじゃくる全てに、拳を握りしめ画面の外から、キモいエールを送ってしまった。
 この前のめりを作れれば、作品を見るには”勝ち”なわけで、そんな俺の丸ちゃんが好きになり人生を助けてもらう少女が、とびきりの笑顔と死の陰りを共に背負い、泣けない男の辛さに手を伸ばしてくれる人だとくりゃ、もうなんも問題はねぇわねです。
 メイン二人の人間の良さ、彼らを取り巻く人々の面白さと気持ちの良さが豊かに響き合って、傷ついた人たちが真夜中流れ着いた場所を、自分たちが前に進んでいくための新たな港にしていく手応えを、微笑ましくも力強く受け取ることが出来ました。

 成り行きで頑張ることになった天文部の活動記録、最高のボーイとガールが恋を育んでいく物語、あるいはあらゆる人が背負うだろう個別の重荷と救いを静かに削り出す詩。
 オーソドックスな青春物語に見えて……あるいはオーソドックスな語り口を極めたからこそ、色んな面白さが作品の中にあって、毎回楽しく見れたのもありがたかったです。
 その多彩さが全部、丸ちゃんが置き去りにした靴をもう一度履き直して、朝焼けを疎ましく思わなくても生きていけるようになるには必要だったと感じられる、豊かなまとまりも含め、とても良い物語でした。

 放課後インソムニア、とても面白いアニメでした。
 この夏を過ぎ、恋人になった丸ちゃんと伊咲ちゃんを待っているだろう沢山の幸せと、避け得ない痛みと、そういうものを乗り越えていける絆の強さをまた見てみたい気持ちもありますが、今は素晴らしいお話を素晴らしく語り切ってくれた事に、心から感謝しています。
 ありがとう、お疲れ様でした。
 最高でした!!