イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アンデッドガール・マーダーファルス:第1話『鬼殺し』感想

 さてさて皆さんお立会い、19世紀末のエログロナンセンスがたっぷり詰まった怪異アクションミステリ、堂々の開幕だよ~~という、悪趣味で知的な笑撃第一話である。
 怪人跋扈する欧州に赴く首だけの常若少女と鬼殺し、おどろおどろしいゴシック&デカダンスの匂いに期待が相当上がっていたが、流石の畠山監督&ラパントラック、大変いい感じに仕上げてくれた。
 乱歩テイスト満載な浅草の下世話に、鬼殺しと不死娘が織りなす丁々発止の会話劇。(すこし、”昭和元禄落語心中”を思い出す)
 追い立てられた怪物が見世物小屋で殺される末世の景色に、異形のロマンティックが月光に瞬く。
 綺麗なものと汚いもの、人間と怪物の狭間を気負うことなく踊って、独自の足跡を華麗に残そうという気概が随所に見えて、大変いい感じの第1話であった。
 見る前から解ってたけど、これ俺相当好きなやつだな……ありがたい……。

 

 というわけで第1話はこれから鳥籠使い一行が突き進んでいく悪趣味な世界と、彼ら自身をしっかりと描く序章である。
 とにかく主役のキャラが良く、黒沢ともよ八代拓両名の快演もあって、大変心地よく見れた。
 見世物小屋で怪物相手の剣闘士に落ちぶれつつ、地口の効いたぞろっぺぇ口調に隠せぬ知性を滲ませる、極めてセクシーな男。
 寿命を削る改造手術の果て似、なめくじ長屋の片隅に落ちぶれつつ、そんな自分を憐れむ湿り気もなく、諧謔と嘲笑で人生を笑い飛ばす。
 真打津軽の造形が大変によろしく、ぶっちぎりにセクシーなんだけども同行者とはそういう空気になりそうもない風通しの良さ含め、非常に良かった。
 1000年を生きる知恵の怪物が、自分を見透かす視線を堂々跳ね返して状況を把握し、相手を見通し返す視線の鋭さは、暴力を見込まれて一行に加わった”鬼殺し”がその実、ただのゴロン坊ではないとしっかり教えてくれる。
 見世物小屋に集うクズどもを、捻れた運命の巻き添えに皆殺しに果たそうと企む凶暴さも含め、奥行きがあってとても魅力的なキャラだ。
 探偵物語の様相を呈するだろうこの話が、序章の段階で主役の犯行計画を暴き阻止する形になっているのは、洒落た語り口だと思う。

 そんな鬼混じりの鬼殺しを、同行一人に選んだ首だけの永遠少女も、また大変よろしい。
 俺が今見たい永生者の全部を体現する、麗しい黒髪とアメジストの瞳、高慢でありながら人に寄り添う口調……動けぬ体を補って余りある、知性という怜悧な刃物。
 大変に良い。
 暴力的な知性派である津軽と、動けぬからこそ知恵を武器にする鴉夜のコンビは結成時点で凸凹が噛み合っており、知性や品格もまた程よい釣り合いを見せて、掛け合うほどに味が出る。
 絶望の現状をお互い、諧謔に隠してひっそり死のうとしていた者たちが、お互いの知性と怪物性をぶつけることで『少し、生きてみるか……』となる出だしは、この話がただ悪趣味なだけでなく、グロテスクだからこそ暴ける生き死にの諸相に首を突っ込む、気概があるのだと教えてくれた。
 ともすれば過剰な明るさと眩しさで描いてしまいそうな、絶望の淵に沈んだ怪物がそれでも人間であろうとする希望を、あくまで軽やかに愉快に描く筆先は正しくファルス的であり、ただただ形だけを借りてきたわけではないと納得させられる。

 ここに忠義の武装メイドが加われば、こらー大変およろしい取り合わせと言わざるを得ず、ここから転がっていく物語に期待はパンパンである。
 静句が異形の銃剣を抜き放つ時の、布地の動きが生み出す美しいケレン……そこから続くアクションの見せ方は、活劇としても十分楽しませてくれる期待をしっかり膨らませてくれた。
 大事な大事なおひいさまの間近にいていいのは、忠義を尽くす己だけだと津軽を疎ましく思う姿勢を、まーったく隠そうとしない鴉夜キチっぷりが大変チャーミングである。
 今後もギスギスしてねッ!
 鴉夜全肯定BOTだから主人の本意を見抜けず、対等に並び立ち契約のキスを交わす”探偵”にはなれない立ち位置が、逆に鬼と生首の旅路を良く支えてくれそうでもあって、良いトライアングルだなと感じる。
 おまけに三人共通の宿敵は”M”と来たもんだからね……欧州を席巻する怪人伝奇大戦に、俺の脳髄ももうパンパンよ。

 

 

 

画像は”アンデッドガール・マーダーファルス”第1話より引用


そんなキャラとドラマを更に加熱させる、画作りの良さもマジ最高~~~。
 『喋る生首といやぁこれでしょう』とばかりに、男女貴賤を逆転させたギュスターブ・モローサロメ”の引用を筆頭に、人物を据えて長屋迷宮の方をぐるぐる動かす歩みの見せ方とか、現実と想像が自在に入り交じる超現実主義的表現とか、色んな楽しませ方が贅沢に暴れてくれて、大変見ごたえがあった。
 浅草仲見世の極彩色をグロテスクに魅せつつ、晴れて契約なってロマンティックな共犯に口づける時、とびきり爽やかなきらめきを画面に宿す緩急とか、大変良い。
 罪のねぇ猫を怪物と蔑み、干からびた骸を疎むことなく奈でさすって、死を乞う女の瞳の奥、紫に燃える生存の意思を見て取る。
 不謹慎と生真面目の間を行ったり来たり、様々な境目を軽やかに飛び越えるからこそ成立する笑劇において、対比が鮮烈で美麗なのはとても大事なわけで、そこをヴィジュアルの力がしっかり支えているのは素晴らしい。

 津軽の仕草がいちいち小粋で、血みどろの剣闘士に落ちてなお紳士的なのもまた一つの越境であるけども、この仕草の良さが生首少女との異形のロマンスを背負う資格を、しっかり証明もしている。
 知性も品格も異常性も兼ね備えた鴉夜に釣り合うには、ただの人間でもただの怪物でもダメで、野卑の奥に智慧を、下劣の中に上品を隠した野生のジェントルマンこそがちょうどいい。
 最高の魔女をエスコートする資格を、蒼い月光が照らすキスシーンは十分以上に示していて、ドンピシャ欲しいのが真ん中に来た感覚が、大変嬉しいスタートである。

 こんだけ狂いきった怪人たちの旅立ちは妙に清々しく、同時にそこには運命的ロマンスの熱と同時に、生き延びるための打算的互助が色濃い。
 ベタついた恋情で結ばれていないからこそ、待ち受ける苦難を共に越えていけそうな期待感も含めて、鬼殺しと生首の魔女が出会い旅立つ物語として、大変良かったと思います。
 ヴィジュアルや設定だけでなく、キャラクターが生きて喋り動くその様がどうにも怪奇で魅力的で、旧世紀末のすえた薫香と、しっかり噛み合っている感じだ。
 舞台設定にふさわしい装いと振る舞いで、堂々お目見えに名乗りを上げてくれた一行が向かうは、銃弾とギロチンでもって幻想を駆逐した19世紀ヨーロッパ。
 面白い話しか飛び出してこねぇこの座組が、今後どんな眩さと薄汚さで踊ってくれるのか。
 次回も大変楽しみです!