イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

呪術廻戦「懐玉・玉折」:第25話『懐玉』感想

 夏の覇権は俺が貰う!
 スタイリッシュ呪術アクション青春地獄絵巻の決定版として、人気爆裂の話題作が2023夏クールに堂々のリングイン!! である。
 気合い入れまくった一期がいい飛距離を出して場外までかっ飛び、『どのくらい浮かれてるか見届けてやるよー王者様よ~~ッ!!』と斜に構えて見たが、透明度の高い美術の冴え、ホラーと青春コメディと呪術サスペンスを行き来する緩急、クオリティを活かした演出の強さと、俺が呪術アニメで好きな所全部初手から全開で、大変良かったです。
 新しくこのアニメに出会う人も多い二期第1話、『呪術廻戦ってこんな感じだよ~』と告げる豪邸心霊事件にかなり時間を使って、同時にそれがもはや時代の寵児となった悪童二人のお目見えを際立たせる”タメ”としても機能している、構成の妙味が何より良かった。
 初めての人も久しぶりの人もずーっと呪術にズッぱまりな人も、この二期第1話をみるすべての人が24分ハラハラワクワクと楽しめ、出てくるキャラクターの人となりと作品世界の空気を感じ取り、終わってみれば楽しかった次も見ようと、気持ちよく乗せられるスムーズな話運び。
 同時に過剰に力んで世間を殴りつける気合も随所に感じられ、作品が持つ多彩なポテンシャルも生かしきり、絶大な人気にあぐらをかかず『やるべき事やれる事、やり尽くして天下取ったるで!!』という、健全なやる気を浴びることも出来ました。
 ホラーからアクションから笑いからキャラ萌えまで、呪術アニメで見たいもの全部乗せの幕の内弁当だったのスゲーよなホント。

 

 

 

 

画像は”呪術廻戦「懐玉・玉折」”第25話より引用

 というわけで本編に入る前に、OPとEDのお話を。
 楽曲映像共に素晴らしい仕上がりで、青い季節を舞台にした本編のエッセンスをギュギュッと濃縮した象徴性で殴りつけてくる、大変優れた開幕と閉幕……で終わらない、めちゃくちゃ戦術的な勝負手だと感じた。
 本編は五条と夏油の運命を決定的に分かつことになる事件へと、やや駆け足で突っ込んでいくことになる。
 そこでは異様で過大な能力を持ちつつただの高校生でもある彼らが、どんな日常を過ごし価値観を育んだか、青春の下積み時代を書いている余裕がない。
 爆エモ青春日記をモリモリ捏造し、原作読者の知らない記憶を脳髄に直接送り込んでくる良すぎる絵面でもって、そこを補い分厚くしていくことで、後に損なわれ失われていくもの、何もかもが終わり果ててなおしがみつく思い出が、一気に陰影を増していく。
 この優れたOP/EDが補助線になることで、オモテの世界から遠ざけられた呪術師としてどう生きていくのか、未だ決められないモラトリアムを酷く残酷に、鮮烈に選び取ることになる物語の足場が、ギュギュッと固まるのだ。

 そういう仕事に自覚的だから、テロップ出しのテンポを音ハメ兼ねて凄く早くして、画面に文字がかかっていない状態を多く作ってもいる。
 余計な情報のない美麗で強烈な”絵”を視聴者の脳に突き刺すことで、本編では描けないバカとエモいっぱいの青春が毎週毎週刷り込まれていって、本来なかったはずの怪物たちの日常が、決定的に壊れていくカタルシスもより強まる。
 まるで爽やか青春異能バトルアニメかのような、前向きでポジティブな印象を与える映像群はある種の詐欺であり、同時にずっとそのままあって欲しかった幸福として、作中のキャラもそれを見届ける僕らにも、深く突き刺さる。
 それは確かにあったし、ずっとあるはずだったし、もう無いものだ。
 五条悟と夏油傑は、これから鮮烈に描かれたOPが残骸に成り果てる一瞬へと、止まらない歩みを進めていくことになる。

 

 

 

 

 

画像は”呪術廻戦「懐玉・玉折」”第25話より引用

 その足取りの重たさと暗さ、呪術世界の基本的なトーンを、この二期第1話はかなり親切に、見ているものに突き刺して始めてくれる。
 冒頭夏油が垂れ流すモノローグは陰惨で重たく、彼が飲み込むゲロまみれの雑巾の味わいを見ている側も感じられるような、イヤーな重たさに満ちている。
 それは後に訪れる破綻の予言であって、物語の行く末を静かに暗示し固定する素晴らしいスタートだ。
 これを引き継ぐ形で、冥冥と歌姫の退魔行は湿度の高いホラーテイストを、重厚に塗り重ねてくれる。
 あんまりバキバキに仕上がった美術に脳髄殴られまくって、最高背景で絶頂マンはノッッホッホイ~~~ってなっちゃったけど、やっぱこのキマリまくった美術啜るのが、俺的な呪術アニメ一番のごちそうだったりする。
 それがただ美しいだけでなく、樹齢が確かに存在して人を食っているのに表沙汰に出来ず、関わる人たちが鬱屈を溜め込んでそれ自体が呪いになっていく、作品世界の構造を反射しているところが、大変に良い。
 後に朗らかなコメディとか最高OPとかでぶっ飛ぶけども、この重苦しく逃げ場のない感覚が物語世界のデフォルトであり、こういう事を幾度も繰り返しながら呪術師は世界の裏側、生きてきたのだということが、練り上げられたホラー演出から良く伝わる。
 どんだけジャンプバトル漫画の血が濃くても、俺は呪術廻戦の湿り気強いJホラーっぷりが好きだからよ……初手でそれを忘れずぶん殴ってくれたのは、マジで嬉しいよ。

 

 

 

画像は”呪術廻戦「懐玉・玉折」”第25話より引用

 同時にその抑圧は結界の攻略法を見つけた時のいたずらな軽やかさと可愛げ、館の破壊という大規模カタルシス、待ってましたの天才悪童の颯爽で、気持ちよく打ち破られていく。
 五条悟という、もはや時代のアイコンでありポップなカリスマとなったキャラクターの登場をタメてタメて、真ん中折返しでズドバンと炸裂させる緩急としても、前半の重苦しさはよくよく効いている。
 これがだんだんと笑いと知恵に解けて、空気が柔らかくなっていく傾斜のかけ方が、怪物のハラワタをその内側からぶっ飛ばす、痛快な退魔行と重なっているのが面白い。
 豪邸を呪ったありふれた凋落の悲劇が、人食い屋敷を生み出す世界でも、正義の呪術師はそれに対抗し、打ち破って気楽にコメディやり続ける強さがある。
 それもまたこの世界の一つの事実であって、これがどんどん洒落にならなくなっていく転落も、一瞬明るく息をつかせればこそ効いてくる。
 一本調子で作品を塗りつぶすのではなく、見たいものをあえてタメたり、恐怖を丁寧に編んで緊張させた上で笑いと炸裂で緩めたり、緩急のしっかりついた楽しませ方でノセてくれるのは、大変ありがたい。

 

 

 

 

画像は”呪術廻戦「懐玉・玉折」”第25話より引用

 霊障とその始末が世間から遠ざけられている意味を、自分に引き寄せて考えられない幼いクソガキ共は、バスケにかこつけて作品の本質をやり取りする。
 クソ雑魚一般人共が受け止められない異能のボールを、同じ呪術師仲間だけが受け取れる事実を、この時の五条は疑いもせず飲み込んでいる。
 後に霊能選良主義を掲げて大規模テロに走る夏油は、この段階ではゲロゲロな正論で弱者救済を掲げているけども、それを語りながら放ったボールはゴールを捉えない。
 それは何もかもを隠蔽して異能者に押し付けまわっている平穏が、永遠に守られるべき真実ではないからなのか、それとも口から出てる綺麗なクソが夏油の真実を、欠片もえぐっていないからなのか。
 フザケた投げ方だろうとボールを入れれてしまえる、別格の才能に恵まれた五条の放つ本音のボールは的確にゴールを捉えるが、仮にその強者生存主義が世界に溢れ出した時何がどうなるかは、悪ガキでしか無い彼の想像の外側にある。
 あくまで体育館の戯言、学校というアジールの中でのモラトリアム……でありながら、未来を知っている立場から過去に立ち戻った視聴者としては、これが立場を反転させて暴れ狂う予言なのだと、切なく思い知らされもする。

 硬く閉ざされるべきと定められ、世界に満ちる泥の門番としてその身を捧げる呪術師たちも、心と魂を持った一人の人間だ。
 特別な強さをもってしまったばっかりに、生まれてから死ぬまでのドブサライ
 それこそが高潔なる貴種の責務だと、自分に言い聞かせている夏油が力を発揮するために飲み込むのは、勝利の美酒ではなくゲロゾウキン味の呪霊だと、既に冒頭に語られている。
 ジクジクジクジク、非常に日本的な味わいで臓腑の奥に溜まっていく最悪を、吐き出すことも出来ないまま正しさに窒息していくか……それとも選ばれた力に素直に、雑魚を踏み潰して爽快に生きていくか。
 二人が見据えている道がこの後激しく捻れて、さかしまにお互いを射抜く皮肉含めて、良いクソガキども最後の戯れだった。
 こういう下らねぇお喋りとお遊びを、当たり前のガキのように何度も繰り返した成れはてが”ああ”なんだから、時というのは悍ましいほど率直だね。

 

 

 

画像は”呪術廻戦「懐玉・玉折」”第25話より引用

 悪童最後の青春を軽やかにスケッチして、物語は再び硬くきつく閉まりだす。
 溢れ出してはいけないものを閉じ込める結界術の物語でもある以上、画面を境界線で覆ってその窮屈に呪術師を閉じ込める構図は、幾度も繰り返される。
 一般人がヘラヘラ日常を送る呪的インフラが、壊滅しかねない500年に一度の危機を前に、放課後バスケットで一度緩んだ画面は再び緊張の度合いを高めて、二人がこれから向かうミッションの厳しさを物語っていく。
 しかしそういう場所でもヘラヘラクニャクニャ、人生ナメきったクソガキ共は大変いい塩梅にバカ歩きを続けていて、そうやって迫りくる壁に押しつぶされず踊ることが、今の二人のスタイルなのだろう。
 シリアスになりきらず、自分たちを窒息させる全てをナメて噛みつく。
 その反抗はガキの目線からも、自分たちが向き合う世界のヤバさと脆さが透けて見えていて、だからこそそれに取り殺されてなるものかと、あがいている証拠にも思える。
 まぁがっぷり組まれて食い殺されたから、あんなんなっちゃったんだけどさ……。

 どヤンキー剥き出しの歩き方で、五条と夏油は生き死にの現場に飛び込んでいく。
 それは二人なら跳ね除けられるいつものピンチであり、ずっとそんなふうな歩き方で未来まで、一緒に進めるはずだった場所だ。
 そういう二人の祈りを押しつぶすように、彼らを包囲している世界は致死性の境目を多数張り巡らせて、断絶に満たされていく。
 それは結界術の意地のために、”天元さま”に贄と捧げられる少女を守り抜いて殺す任務が、彼らの味方にはならない未来を陰湿に照らしている。

 弱者を守り生きていく正しさに、オエーッとゲロ吐こうが。
 お下品な歩き方で、自分たちのスタイルを主張しようが。
 彼らを包囲している境目の線は、何よりも鋭い刃になって何もかもを切り裂いて、しかしその残骸から呪いが立ち上がって最悪に歩き出すことこそが、この物語の厄介さでもある。
 終わったからといって、終わりじゃない。
 長く尾を引く破滅の残響、満たされたからこそ呪いに転じていく青春の行く末を、既に見ている身としては、クソ以下の世界でスタイリッシュに粋がっている子ども達の颯爽は、ある種の悲壮を既に孕んでいる。
 ……そういう暗喩をしっかり内包しつつ、めっちゃポップでシンプルにイケてるキャラの見せ方としても、五条と夏油の人生ナメっぷりが機能しているの、流石だなーと思う。
 湿り気とカラッと感を同居させる、バランスとセンスがとにかく図抜けている。

 

 

 

画像は”呪術廻戦「懐玉・玉折」”第25話より引用

 つーわけで子安ボイスの激ヤバおじさんも、皮肉な笑いで颯爽登場を果たし、行くぜ呪術アニメ二期! という話数でした。
 後に明暗を分かつ男たちが、未だ”無敵の俺たち”でいられた最後の夏に、どんな不適で笑っていたかを鮮烈に刻みつけてくれて、大変良かったです。
 それは世間のことな~んも知らないバカだから浮かべれたとびきりの宝物で、これから挑む事件の全てが丁寧に破壊していく、美しい夢だ。

 やっぱその土台を、バキバキに仕上げた本編外部で超絶補強してくるの、エグい演出プランだよな~~~。
 話としては理子護衛(殺傷)任務が結構なロケットスタートでぶっ飛んで、あんま余韻や奥行きがない構成になるはずなんだけども、あえて真打ちの登場を真ん中まで引っ張って作った余白で呪術のスタンダードを見せたり、存在しないけど確かに在った青春のモンタージュで、バキバキ殴りつけたりして、しっかり分厚くしてきた。
 この豊かな土台と、画面と物語の緩急を精妙に制御する手腕があいまった時、どんな残酷が見れるのか。
 今後の大暴れに大変期待が持てる、素晴らしいスタートでした。
 次回も楽しみです!