イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

シュガーアップル・フェアリーテイル:第13話『湖水と緑の工房』感想

 衝撃の一期ラストから三ヶ月……行くぞ男女差別のど真ん中!
 古臭い職人文化にキラキラロマンスで中指突き立てる、女銀砂糖菓子職人奮戦記、待ってましたのセカンドシーズン開幕である。
 愛し合ってる二人を横合いからかっさらっていったクソアマを、追ってたどり着いた緑の工房は思いの外寂れていて、シャル奪還の戦いはなんか別の意味合いを孕んできそう……という所まで。
 ブリジットがなんであんな凶行に打って出たのか、その背景もチラチラ見え隠れする感じで、このアニメらしい陰湿な二期スタートとなった。
 妖精差別と同じくらい、男女差別も生臭くブン回るファンタジー世界、唯一の救いとして描かれる少女と妖精の純愛も、最後にしっかり一発キメてくれて、大変いい感じでした。

 

 というわけで純情を土足踏みつけにされて、花の第1クールは終わったわけだが、黙って引き下がってちゃぁ純情乙女の名がすたる。
 バキバキに各種差別が暴れ狂うファンタジー世界に、現代的価値観をネジこんで共感の足場と達成感を作っているお話なので、ただただ悲劇に翻弄されるだけのヒロイン立ち回りは、あんましっくりこないしね。
 アンちゃんなり全力を振り絞り、運命に噛み付いてせいぜい頑張ってくれるからこそ、幸運と優しさが振り向いて何かが上手くいくお話を、楽しみながら飲めるわけで。
 なので、シャル愛しさを隠しはせず、しかし今後のキャリアに影を落とさないために敵地に乗り込んで堂々奪還しにいったのは、大変良かった。

 銀砂糖業界はクソ嫉妬に満ち、新しいことを厭う派閥意識バリバリの足引っ張り村なので、乗り越えるべき試練には事欠かない。
 男社会に女一匹、必死には向かう様子にはカタルシスがあるし、半自動的にイケメン回転寿司状態にもなるしな……。
 後にペイジ派の実情が描かれると、栄枯盛衰の激しい業界のヤバさがまた別の角度から際立ってきて、愛する人を奪ったのが別に鬼たちの巣ってわけじゃない現状も見えてくるけど、まぁ大概クズ共の根城ッスよ。
 そもそもシャルが身売りしてでも勝負に出なきゃいけなかったのが、業界初の女性銀砂糖師を叩き潰そうとする、イヤーな圧力の結果だしな。

 

 んで敵の根城に踏み込んでみると、アンちゃんが現在進行系で立ち向かっている呪いに叩き潰された結果、ブリジットが歪んじゃった構造も見えてくる。
 結婚して派閥を継ぎ、古名を残すことだけを求められる女という人形。
 アンちゃんが幸運にもシャルとか心ある銀砂糖職人たちに認められ、支えられて成し遂げてきた道を、ブリジットは進む前から叩き潰されてきた。
 だからといって謀略で他人の愛を絡め取ることが許されるわけじゃないし、アンちゃんへの妄執は自分が成し遂げられなかった可能性への羨望……つまりは自分を叩き潰したものとの同質化だ。
 家を継ぐことに明らかに呪われているペイジ工房の空気替えと並走して、ブリジットを呪ってしまったものを跳ね返す戦いが今後待っているのだろう。

 そこら辺素直に聞かせるのに、大きな仕事をしそうなのが人を食った態度のエリオットくん……なんだけど。
 ブリジットがアンちゃんの歪な鏡であるように、愛情なき実務契約でしかないエリオットとブリジットの”恋”も、くすんだ色合いでロマンスの理想と現実を照らす。
 海辺の城で妖精と公爵の純愛が、悲劇と終わってなおくすぶっていたのと同じく、アンとシャルの関係性をより際立たせるために、彼らとは違った繋がり方、違った感情を抱く”もう一人”が、エピソードごとに顔を出してくる。
 なかなか底が読めない男が、あくまで形だけの関係とうそぶく奥に何があるのか、なかなか読みきれないけども。
 ここに真心の火種があるのならば、話が転がっていく内それが世界にズタボロにされたブリジットに届き、嫉妬と妄執に縛られる以外の結末を、用意してくれる……かもしれない。
 あんだけボロっカスになってる女の命令を、聞く義理も道理もないとはいえ堂々跳ね除けてアンちゃんに会いに行くの、『僕、このひとの問題解決するつもり無いっす』と初手から告げてるからな……背負ってやれるポジションが、エリオットしかいねぇ。

 

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第13話より引用

 因習、衰退、責務、妄念。
 色んな厄介さが絡み合い、魂を縛る緑の迷宮でいったい、何が真実なのか。
 五割増し気合の乗った作画と演出でもってこのアニメは、『恋だろ恋! それ以外ねーわ!!』と告げる。
 第2クール開幕のこのタイミング、非常にロマンティックに作品の”正解”を教えてくれると、因縁と差別がぐにゃぐにゃ絡まったややこしい状況に迷いすぎず、大変ありがたい。
 結局これだよなッ!

 千々に乱れる胸元は、アンちゃん自身の指ではうまくまとめることが出来ず、そこに触れて欲しい世界のたった一人の指が、貞節と純情にリボンを付けて整えてくれる。
 シャルが好きで、だから取り戻したい。
 銀砂糖が好きで、だから負い目なく仕事をしたい。
 その配分はどうあれ両方が本当で、ワケわからないまま運命に押し流されて見えなくなったものを、美しい妖精の手触りは掴み直させてくれる。
 絡み合う指、潤む瞳にはたっぷりとロマンティックが宿っていて、やっぱこの瑞々しさこそが作品の醍醐味だと、しっかり思い出させてくれた。

 概観してみると、『世界の呪いにより魔王になってしまった主人公のシャドウが、その愛しい人を暴力的に奪って閉じ込めているので、戦って取り戻す/信じて待つ』という、典型的な勇者の物語を性別逆転してやってる感じもある。
 歴史の重みに押しつぶされそうな工房を、職人頭として必死に立て直す今後の戦いは、『女でも銀砂糖職人できらぁ!』というプロテストをぶち上げ、ブリジットが押しつぶされた圧力を跳ね返していくだろう。
 憎き恋敵から恋人を取り戻す戦いは、その実彼女を救う……少なくともそのきっかけを作り、諦めと妬み以上の思いで新たに進み出す助けを差し出す、人間的奮闘にもなりそうだ。

 

 ペイジ工房と業界に漂う空気があまりに最悪すぎて、邪悪なライバルから救うべき被害者にブリジットがシフトしてきているのは、なかなか面白い。
 マトモにお友達になるにはあんまりにも色んなことが起きすぎ、色んなモノが奪われすぎ、複雑な思いが渦を巻きすぎている状態だが、ブリジットが婚礼でしか果たせないイエへの責務を、銀砂糖職人になったアンちゃんは仕事で果たせる立場なんだよなぁ……。
 緑の工房の物語はどうにも、女の生きざまが激しい火花を散らすコロセウムにもなりそうです。
 どっちが正しくどっちが間違いで、勝った負けたで終わる以上の結末にうまく物語をもっていけるか。
 第2クールの”シュガーアップル・フェアリーテイル”も、とっても楽しみですね!