イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

好きな子がめがねを忘れた:第6話『好きな子と新学期を迎えた』感想

 学年が変わっても変わらぬ近すぎ距離感で、加速していく鼓動と体温!
 トンチキ青春ラブコメ、疾走の第6話である。

 

 物語も折り返しに近づき、いつも通りの二人……と思っていたら、Aパートはモノローグの主客を入れ替え、三重さんから見えている世界を描くお話だった。
 ここまでツルンと無害な顔の奥に過剰な情念を抱え込んだ小村くんの一人称で、謎めいた美少女珍獣に振り回されてきた物語だけども、三重さんも三重さんなりに小村くんのことを思い、一方的に助けられるだけの関係じゃ嫌だと考えている。
 むむむ~っと唸る役が三重さんに回ってきたことで、少年が追いかけるべき永遠の謎としての少女的ミステリアスは減じたが、小村くんの大事な友達としての三重さんの顔は、よりクッキリ見えた感じがする。
 ラブコメに関わらず人間を切り取る話は、良く分からなかった相手とコミュニケーションが成立して、だんだん相手が見えてくる(そしてまだ分からない部分が残る)過程が楽しいと思うので、いいタイミングで三重さんの内側にカメラを向けたな、と思った。

 小村くんが三重さんを追いかける速さと、三重さんがそれを向かい入れる速度が釣り合ってしまったら、その時アンバランスで不安定な関係は静止してしまう。
 それが恋の成就になるのか、安定した友情になるのかは分からないけども、解ってしまえばラブコメは(ある程度)終わりだ。
 Bパートでキモく(褒め言葉)暴走するように、小村くんは過剰な内面で三重さん中心の世界を加熱させて、過剰に力んだ力強さで物語世界を支えているが、今回描かれた三重さんのモノローグは、あんま言葉になっていなかった。
 むーむー唸りながら小村くんとの適正距離を探し、いい友達として彼を独占しすぎないようにエゴを抑える彼女は、その抑圧がどこから来ているのか把握しきっていない。
 ”良くない”独占欲だから抑え込もうとしているものが、実は”良い”恋心だとラベルが貼れてしまえば、すれ違いつつ奇妙に釣り合っている二人の関係は良い所に落ち着いて……あるいは自覚したからこそのぎこちなさで、今とは違う形になるだろう。
 めがねを忘れる彼女は小村くんの顔だけでなく、自分の気持ちも良く見えていないまま、しかしより良い関係を彼女なり誠実に探って、自分にだけかまける”悪い”間柄には落ち着かないよう心がける。

 小村くんはそんな内面が見えないまま、降りかかる迷惑をむしろ至上の幸福と受け止めながら、三重さんの特別になれる奉仕関係を喜んでいる。
 関わる当人がハッピーならなんでもかんでも問題はないけど、それはともすれば善意を簒奪する/させてしまうような歪さを宿していて、フツーじゃないからこそ恋は個別の顔を宿すのかもしれない。
 しかし中学二年生らしい(あるいはらしからぬ)純粋さで、三重さんは彼女だけの子守くんを心の底で望みつつ、手放して風通しを良くしようとする。
 結局関係はいつもどおり、二人だけの甘やかな親しさへ収まっていくのだけども、子守くんの異常で過剰な愛情を受け取る三重さんが、何考えてこの関係に甘えているのか分かったのは、彼らが好きになりかけている視聴者としてはとても良かった。

 僕は(小村くんがそうであるように)三重さんの得体が知れないところ、常識を蹴っ飛ばして自由なところ、野の獣っぽいところが好きだ。
 自分の言葉で内心を語る特権が三重さんに移ったAパート、小村くんから見えている彼女の内側に何が詰まっているかも僕らに開示されて、あの珍獣めいた態度の奥でどういう価値観が動いているのか、上手く切開された。
 そうして見えたのは『三重さんはこういう人なんだろうな』と、恋に曇った小村くんの色眼鏡越しに考えていたまんまの少女で、好きになりたいなと思っていた部分がそのまま本当で、とても安心した。
 内心を告げる言葉に裏打ちされて、小村くんを翻弄する三重さんの言動には真心がやどり、釣り合わない二人の距離感がある種の必然なのだと、確信を深めることも出来た。
 幼く不器用でヘンテコな、そしてとびきりチャーミングな二人の個性が釣り合って、心地よいアンバランスに安住できる唯一の均衡点が”ここ”なんだと、納得させてくれるエピソードだった。
 ちょうどお話とキャラが好きになってきた第6話、こういう物語が差し出されたのはとても良かったです。

 

 出会いからの一年を締めくくるに相応しい特別編を経て、Bパートはいつも通り……いつも以上に小村くんの血圧が高い、新学期の物語である。
 小村くんの過剰な自意識を加速させる東くんのイケメンムーブとか、新しい友達との交流とか、狭い独占欲に収まりたくない三重さんの気持ちを引き継ぐような場面が多くて、ちっとホッコリしちゃった。
 ぶっちゃけ二人だけで取り回すには軋みが出てくる話数でもあるので、進級はカメラを横に振って作品世界を広げるいいチャンスではあろう。
 同時に作品を牽引するエンジンは恋情怪人・小村楓の異常な内面にこそあるわけで、大変キモい(褒め言葉)熱量で三重さんLOVEを延々繰り返していたの、元気で良かったです。
 舞台設定とも話運びとも、Go Hands特有のギトギト作画は全く噛み合っていないが、作品を埋め尽くす小村くんの異様な内面とはかなり相性がいいので、無理なく食えてる感じはあるな。
 かわいいツラして、あの子かなり脂っこいんだよなぁ……そこが良いけど。

 毎回めがねを忘れるのも、小村くんがサポートできる距離に建つのも、”好きな子がめがねを忘れる”世界を成り立たせるための補正ではあって。
 ワンアイデアに縛られた作品世界を、どうネタ枯れから防ぎ色んな面白さで彩るか、工夫しながら転がっているお話でもある。
 手を変え品を変え、新鮮な胸キュンシチュエーションを提供してくる技芸に感じ入りつつ、そういう外側からの観察で終わらず、中学生二人にキモい共感寄せながら楽しめている現状は、なかなかハッピーだと思う。
 凄くシンプルに、ふたりとも見てて面白いんだよな……リアクションは天然かつ過剰だし、そのくせその異常さがフツーの学校生活に溶け込んで悪目立ちせずスルーされていくし、異常と正常が入り混じってる面白さもある。

 席替え一つで脳髄パンパンになっちゃう、恋という名の狂気がどこに行くか楽しみつつ、学年を一つあげた彼らの青春を、今後も楽しく見守っていきたい。
 次回もとっても楽しみです!