イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ひろがるスカイ!プリキュア:第29話『ソラと、忘れられたぬいぐるみ』感想

 無敵のヒーローガールが新たに向き合うのは、洋館に忘れ去られたぬいぐるみのお化け!?
 真夏のホラー回に切なさとノスタルジーを乗せて、叙情性豊かに語り切るひろプリ第29話である。
 出会って寄り添って別れていく、後を引かない花火のような話の作りといい、そんな一瞬の邂逅が確かにまばゆく照らす情景といい、夏休みシフトのプリキュアだからこそ書ける、優れた短編であり番外編だと感じた。
 無敵に見えて結構弱い部分があるソラ・ハレワタールの多彩な表情を、ぬいぐるみお化けとの交流を経て削り出していく筆致も良かったし、けして前に出過ぎることなく確かにその歩みに寄り添う、虹ヶ丘ましろの存在感も静かに強かった。
 一人で突っ走ってると危ういところもあるソラちゃんと、そんな彼女が羽を休めて自分にないものを学ぶための”家”としてのましろさんが、ホラーでもありコメディでもありファンタジーでもある贅沢なエピソードに、良く映えていた。
 野呂彩芳のコンテ・演出も要所でキマっていて、残暑に爽やかな風を届けてもらったような、心地よいお話を楽しむことが出来ました。

 

 何でも前向きに乗りこなし、ピカピカ充実しているように見えるソラちゃんの眩しさは、例えばその影になるましろさんの肖像を深く削り出した第17話なんかで鮮明なんだけども。
 今回”お化け”という苦手なもの、”ぬいぐるみ”という慣れ親しんでいないものを主題に選ぶことで、そんな彼女がカバーしきれていない影が、コミカルに可愛く照らし出されていたように思う。
 前回”ファッション”に対してそうであったように、ソラちゃんは『自分の中にない価値は、まだ自分が知らないだけ』と、新しい出会いを歓迎し自分を広げ変えていくことに戸惑いがない。
 ヒーロー願望に突き動かされ、世間のスタンダードや一般的な関係構築に背中を向けて、武道に邁進してきたソラちゃんには、ぬいぐるみの価値や文化は馴染みがない。
 一方ましろさんはぬいぐるみに救われてきた経験を持ち、その良さを身近に感じてきた立場にあり、『ぬいぐるみは私たちに寄り添ってくれる、とてもいいものなんだよ』とソラちゃんに語りかけ続ける。
 ずぶ濡れの自分にタオルを差し出してくれるような、穏やかで得難い手助けに支えられることで、ソラちゃんはブルブル怯え距離を取っていた存在が自分が守るべき弱者であり、ビビってる場合じゃねぇと姿勢を正していく。
 そうして背筋を正して、ソラ・ハレワタールらしい姿勢で馴染みなく怖いことに向き直すことで、ソラちゃんは自分のヒロイズムを再獲得していく。

 今回バトルシーンがやや長めだったが、そこに至るまでの必然性は(例えば第23話のように)そこまで濃くなく、プリキュアと歪な価値観に執着してるミノトンが、余計な闘争持ち込んできた感じが強い。
 彼が第一にフォーカスするべきだと感じ、プリキュアにもそうあるべきと押し付けてくる暴力装置を宿敵たちは全然見ていなくて、何処かに行ってしまったぬいぐるみをまず気にかけている。
 あそこのすれ違いはコミカルな味わいに反して結構根本的に感じて、”正々堂々”ほざいてるくせに罠にハメて分断撃破狙ってくる所とか含め、同じ武人キャラにみえて主役と敵がどう違うのかが、よく書かれていたように思う。
 殴る蹴るそれ自体……あるいはそれが証明する”強い自分”にはソラちゃん全然興味がなくて、打突が強いことで何が守れるのか、どんな自分でいられるのかを気にし続けてんのよね。
 ミノトンが大事にしている(それだけが世界の全部だと押し付けてくる)暴力には共感性も持続性もなくて、他人を踏みつけに自分だけが高い場所に這い上がる自己満足だ。
 『自分はこういう存在で、世界はそういう場所だ』という定義を切り崩され、他人が持ってる自分にはない価値と混ぜ合わさり、変化する行為に対して、ソラちゃんは開けているしミノトンは閉じている。
 まぁここが開けてしまうと、敵は敵でいられなくなってしまうので少なくともしばらくは、聞く耳持ってもらっても困るんだけどね……。

 

 ソラちゃんは誰かを助けることにヒロイズムと自分の根本を見出していて、それは一人でヒーローガールを目指していた時代より、エルちゃんを助け異世界に落ち、虹ヶ丘ましろと出会ってからの方が、より強く鮮明になったイデアだ。
 私と違うあなた、その差異が孤独よりも喜びを強めてくれるような素敵なあなたと一緒にいることで、ソラちゃんは自分が知らなかった世界や価値、自分が見つけられなかった自分をどんどん見つけていく。
 そうして”ひろがる”事自体がソラちゃんはとても好きで、昨日までの自分が新しくなっていくことに怯えない、変化に対してポジティブな人格をしている。
 そんな彼女がネガティブな変化に押しつぶされそうになった時、再び高い場所へ舞い上がる翼を与えたのは虹ヶ丘ましろであるし、苦境に潰されない確固たる自己像は、常に自分以外の誰かが与えてくれるものだと、このお話は描き続けている。
 ぬいぐるみをよく知らず、お化けが苦手だったソラちゃんは今回、ましろさんの穏やかな手助けに支えられることで、その二つを抱きしめられる自分になれた。
 『ソラちゃんはそうやって今回、小さいながら壁を超えたんだな』としっかり解るように、ホラー演出の切れ味が鋭かったことで、ソラちゃんが最初感じていた恐怖や距離感に視聴者がシンクロできてたの、とても良かった。
 クオリティが単独で浮かび上がらず、描くべきドラマとストーリーに歩調を合わせていた感じ。

 プリキュアという非日常の存在相手には、喋ったり動いたり出来る優しいお化けは、戦いが終わり日常が戻ってきて、ずっと会いたかった持ち主と再開した時、魔法が解けて動くことは許されない。
 一瞬のファンタジーが終わった時、マロンの代わりに/マロンと一緒に愛を抱きしめられるソラ・ハレワタールでいるためには、苦手なお化けにわーわー騒ぎ、おばけが苦手な自分を素直にさらけ出せる誰かに抱きしめてもらう必要があった。
 その当たり前に思えて、でもありえないほど貴重で尊い仕事を虹ヶ丘ましろは、微笑みながら自然に続けている。
 大事な友だちにもう一度会いたかった子どもたちを、魔法が解けた後も抱きしめてあげられるヒーローでいるためには、ヒーローではない自分を受け入れ、導いてくれる誰かが必ずいるのだ。
 そんなサポーターの意味合いを、本筋に反射して濃く描く回だと僕には思えて、凄く良かった。

 

 ソラちゃんがマジで偉いのは、そんな奇跡を毎日届けてくれるましろさんが世界最高のヒーローガールだと正しく認識していて、『ありがとう、大好きです!』とどストレートに態度で示し続けているところだ。
 ヒロイズムはストイシズムと結びつきがちで、言葉にしない不器用さこそが”男らしい”英雄の条件……みたいに拗れてしまいがちだが、ソラちゃんは喜びも哀しみも率直に(時に率直すぎる勢いで)表す。
 そのペカーっと隠し所がない晴れ渡り感が、また彼女の魅力なんだけども、自分を自分でいさせてくれるもの、知らなかった何かを自分に与えてくれるものがなんなのか、しっかり見据えてるのが賢い。
 そしてそれを素直に伝えたほうが、世界も自分も良くなるとまっすぐ信じて、ましろさんにメチャクチャ感謝を表し、愛を形にして届けまくってるのが、毎回偉いなぁと思う。
 そしてましろさんにとっても、ソラちゃんとの出会いが生み出してくれた変化は特別な奇跡で、感謝を受け取るだけでなく自分自身の愛もたゆまなく届け返しているのだと、タオル手渡す場面で伝わるの最高だったな……。

 同時にそんな愛の明示だけでなく、明朗な言葉にならずとも伝わる思いにもまた、風情と意味は大いにあるのだと描くのが、今回のいいところだ。
 ぬいぐるみお化けにビビりつつ、ヒーローたりえる自分を貫いて別れを抱きしめたソラちゃんに、最高の友達がそっと寄り添い見上げた空。
 二人だからこそ、みんなだからこそ涙を振り切って見上げるその色は、色んな感情をはらんで豊かだ。
 それは『大好きです!』と言葉にしてしまっては消えてしまう、微細な湿り気を宿しているから活き活きもしていて、ここら辺の詩情を丁寧に削り出す演出が、今回大変良かった。
 ソラちゃんとましろさんが、二体一心で示す明暗相補の関係性、それぞれの良さがしっかり書かれていて、”二人の個別回”だったなぁと思った。
 ホラーにコメディにファンタジーに、色々色彩を変えながら転がっていくエピソードだったけども、その全てが切れ味鋭く収まり良く、丁寧に編み上げられていたのが素晴らしい。

 

 というわけで、ひろプリ真夏の外伝としてとても優れた仕上がりでした。
 ジャンルや演出を軽やかに横断しつつ、その全てが一つにまとまって青春を描く話運びは、このお話が持っている豊かさを一度に味わえる感じで、とっても贅沢でした。
 こういう少し不思議で、とても素敵なお話が児童向けアニメにしっかりあるの、やっぱ良いなと思うよ。
 話のたたみ方がやや急な感じもあるけど、思い出に閉じこもっていたマロンを屋敷の外に連れ出し、向かい合い助けるべき相手としてしっかり見据えた時点で運命は動いていた……って感じになってて、俺は嫌いじゃないな。
 ていうか好きだな今回……。

 そしてこのしっとり感から、猛牛赤ふん爆走の水着回に突入していくわけですが!
 待ってましたのプリキュアビーチリゾート、エルちゃんに思う存分水辺で安全確保させつつハシャイでもらうぞ! とか思ってたら、ミノトンが全部持ってったね……。
 何が飛び出してくるかわからないひろプリの”夏”、次回は何が暴れるのか。
 楽しみですね!