イマワノキワ

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アンデッドガール・マーダーファルス:第8話『夜宴』感想

 霧の都倫敦を舞台に展開した、黒き金剛石を巡る笑劇も遂に大詰め。
 赤き殺戮の権化が舞台に上がり、陣営入り乱れての争奪戦の行方やいかに……ッ! という、アンデッドガール・マーダーファルス第9話である。
 倫敦事変事態は一旦収まったけども、<夜宴>と<鳥籠使い>の因縁はいよいよ深まり、血みどろの挨拶を終えて舞台は闇深き人狼場へ……といった塩梅。
 完成形半人半鬼であるジャックの圧倒的な戦闘力と、危機にも嘲笑を消さず食らいつく津軽の生き様、犯罪卿と探偵二人の対峙と、期待していた以上のたぎりを得られるクライマックスだった。

 

 ロイスエージェントの出オチっぷりはまぁその何だ……って感じではあるが、カーミラの媚毒に負けず忠節を貫いた静句さんの戦いも良かったし、やっぱ魔人が死力を尽くしてバチバチやり合うのは良いもんだ。
 いい気絶頂ぶちかましてた<夜宴>の連中が、どぶ板育ちの旧世代半鬼にしてやられた時の表情などもたいそう見もので、下世話な道化師がふんぞり返った犯罪王を下から潰す、<鳥籠使い>の戦い方に筋道が付いた感じ。
 今回示されたスタイルや因縁を生かして、新たに紡がれる人狼城の恐怖がどうなっていくか、アニメ最終章にも期待が高まります。

 

 

 

画像は”アンデッドガール・マーダーファルス”第8話より引用

 というわけで至る所で大激戦、伝奇魔人が博物館に集う展開となっていく。
 今回のエピソードは4話使った倫敦編のフィナーレであり、<夜宴>と<鳥籠使い>が本格的に敵対していく、その序章といった趣もある。
 それはライヘンバッハの滝で終わったはずの、犯罪教授と名探偵の物語がもう一度動き出す瞬間でもあり、ホームズも得意の頭脳をフル回転させて、シャドウゲームで魔術師を追い詰めていく。
 ダイヤを巡る知恵比べ、探偵と怪盗の面子勝負という趣が暴力的に拭い去られて、生きるか死ぬかのせめぎあいになっていくのは、血みどろで下世話なところに魅力がある作風を、話の盛り上がりに合わせて漂わせる運びと感じた。
 種も仕掛けもある”魔法”だからこそ、理屈の極限で読み切ってチェックメイトに追い込めるあたり、ホームズとアレイスターの対決は見ごたえがあった。
 <夜宴>でも一番の下っ端がぶっ飛ばされた後、底の見えない親玉が出てきて余裕綽々で因縁を語る構図も、ケレンが効いてて良い。
 チェス盤めいた床の市松模様に、ライヘンバッハの思い出が再生される見せ方とか、今回は面白い絵が随所にあってよかったな。

 『超常者が余裕ぶっこいて、足元をすくわれて歯噛みする』というのが今回の基本構図だけども、カーミラと静句さんの戦いも、通常戦力で人間が圧倒→吸血鬼の異能で切り崩される→思わぬ反撃にプライドズタズタ……という形で推移する。
 媚毒漬けにした女からしか血を吸わないカーミラの、イカれて薄汚いスタイルに飲み込まれかけてなお、武装メイドの誇りにかけて最後まで意地を通す静句さんは大変良かった。
 エロかったし。(率直な意見で何もかもダイナシマン)
 <夜宴>の魔人に圧倒されるけども、意地を通してギャフンと言わせる構造は相性最悪な津軽と良く似ていて、鳥籠探偵の側仕えを務める二人の確かな絆を、激戦の中で感じられる回でもあったか。

 

 

 

画像は”アンデッドガール・マーダーファルス”第8話より引用

 ジャックと津軽は同じM謹製の半鬼だけども、使い捨ての実験体とデータを得た後の殺戮キメラでは根本的な仕上がりが違っていて、暴力比べは圧倒的にジャックに軍配が上がる。
 彼のヤバさを示す指標として、ロイスの褐色ちゃんが超あっさりぶっ殺されたの小気味よかったけども、いつ終わるか分かんない不安定なプロトタイプと、様々な異能を盛り込んだ完成形とじゃ、魔人としての毛並みが違う。
 ジャック自身、最も新しき伝説となった己に誇りがあるだろうし、殺すべき相手を選ぶスタイルとプライドでもって、背骨を真っすぐ伸ばしている。
 その思い上がりが、最後の最後で足をすくわれる原因にもなるわけだが。
 悪の秘密結社に未完成な技術で運命捻じ曲げられ、自分を上回る技術で完成した赤い怪物と対峙する青の戦士……って書くと、メチャクチャ石ノ森ヒーローみ強いな、真打津軽

 土壇場に追い詰められてなお、津軽が軽薄でおどけた調子を崩さず何もかもをせせら笑っていたのは、道化なりの意地を感じられて良かった。
 そもそも人殺しに気品も毛並みもないわけで、一皮むけば皆同じ穴の人でなし、百鬼夜行のロクでなしでしかないのだ。
 そこで変に取り繕わず、運命に翻弄された自分を憐れむこともなく、己の旅路を化け物興行と諧謔出来るところに、真打津軽のねじれたユーモアがあり……それはあの浅草で、名探偵に己の犯行計画を見破られたからこそ、保てる矜持だ。
 世界を道連れに何もかもぶち殺すより、なんとか生き延びて反逆の道に踏み出す。
 そういう道を鴉夜に示されて、倫敦くんだりで血みどろのボコボコにもなっているわけだが、そこでマジにならないのが津軽の生き様であり、戦術でもある。

 くだらないと嘲られ、ナメられ踏みにじられた裏側で、思わぬ逆転の芽を積み上げる。
 それは見事にダイヤ奪還を成し遂げ、殺すべき相手を見逃して勝利の花火をあげるような、伝奇エリート様に自分を認めさせるための、一番よく聞く薬……あるいは毒なのだ。
 伝奇文脈に燦然と輝くバックボーンを持つ<夜景>と、このお話独自の怪人である<鳥籠使い>の対峙が鮮明になる今回、主役サイドが歴史もねぇ野良犬だからこその意地を嘲笑の端っこに匂わせて、勝てないけど負けない戦い方で収まっていくのは見てて面白い。
 『なるほど、それが<鳥籠使い>のスタイルか……』という、納得がある。
 これは冷静に戦力差を見切り、ダイヤ争奪戦から降りたように見えて怪盗らしい脱出路を確保し、金庫の確保には成功して意地を見せた、ルパン一味にも通じる書き方かと思う。

 

 

画像は”アンデッドガール・マーダーファルス”第8話より引用


 

 圧倒的高みに立って大勝利、悪事の美酒に酔おうとしたジャックの顔をひきつらせる、巾着切りの一芸披露。
 手挟んだ剃刀でもってポケットを切り裂き、一切気づかせないまま中身を盗み取る下世話な手妻が、死人も山盛り出たダイヤ争奪戦を<鳥籠使い>の勝利で終わらせる決定打になるのは、なかなか痛快である。
 旧世紀末のただれた”臭い”が魅力のこの作品、華麗にすりとるのではなくポケットを切り裂いて盗み出す、怪盗紳士たぁとても言えない盗みの手際を津軽が収めているのが、たまらなく良かった。
 そういう最悪な生活の知恵を、収めなければ生き延びられない泥がたっぷりと、時代の奥底に溢れていたのだと、しみじみ感じさせてくれる手際だ。
 こういうどん底のバイタリティをナメてたから、ジャックは津軽を見逃して足元をすくわれ、ナメさせるように振る舞うことで津軽は逆転のチャンスを作った。
 どこまで計算で天然か、ヘラヘラ笑いの底が読み切れないところが、チャーミングでいいと思う。

 バンケットの目的が、時代に追い立てられる怪物の残骸を寄せ集め、最強のキメラを生み出すことなのが、また面白い。
 鬼に吸血鬼に不死、改造手術を重ねたジャックの体は異形の博物館のようにも思え、『滅びゆくお前らを、せっかくだから役立ててやろう』という西欧の傲慢が、そこには体現されている。
 ここに一発入れるのが、極東から来たたいそう育ちの悪いフリークスだってのが、なかなかに愉快な文化衝突エンタメの香気だ。
 <夜宴>が欧州の知恵と闇を寄せ集めたおハイソな邪悪で来るってんなら、こっちは下町の諧謔とより旧い不死の血脈でぶち当たろうという、主役と仇敵の対立構造も鮮明になってきた。
 津軽と鴉夜の過剰な軽口、溢れ出す地口と洒落と諧謔はただのお笑い頂戴ではなく、全く笑えねー悪事と殺戮にふんぞり返ってるクズどもが、犯罪街の王様なんぞではなく嘲笑されるべきカスなのだと、立場を逆転させる/正しく戻すための武器にもなっている。
 人殺しのクズのくせに、お高くとまって貴族ぶっている連中に一泡吹かせる時、同じくシリアスな顔で横並びするのではなく、嘲弄と笑劇を崩さずに踊り抜けるやり口を、<鳥籠使い>は選んでいるのではないか。
 最後まで戯けた調子を貫き、仇の目的を暴いて痛快な一打をいれた幕引きを見ていると、そんな事を考えてしまう。

 ホームズとモリアーティと鴉夜、作中の三大頭脳が一堂に会する現場と、二匹の半鬼が殺し合う修羅場。
 そしてカーミラと静句がエロティックにせめぎ合う愁嘆場と、多面的な戦いが展開され、それぞれ苦戦してなお生き残った今回。
 軽口まみれで見えにくい、<鳥籠一味>のしぶとい絆のようなものも、激戦に裏打ちされて強く感じられた。
 いずれ劣らぬ魔人を相手取り、所詮化け物興行と自虐しつつもその唇の端、譲れぬ何かを一欠片噛み締めて前に進む。
 そういう旅路を走り切る為には、強さと生き汚さをそれぞれ示す必要があり、<夜宴>を相手取った今回、そこらへん上手く描けてたんじゃないかと思う。
 媚毒の名残に焼かれつつ、津軽と静句の間に交わされる視線には今までの腐れ縁とは少し違った熱と湿り気があって、こういう表情を書けるところが、このアニメの……その主役たる<鳥籠使い>のいいところかな、と。

 

 

 というわけで長らく続いた宴の始末、どったんばったん大騒ぎの決着とあいなりました。
 宿敵たる<夜宴>の格も、<鳥籠使い>のしぶとさも両方見せれて、なかなか良い運び方だったんじゃないでしょうか。
 地味にワトソンくんがフッツーに強くて、オタクカルチャーだと良くやられがちな美少年トランスフォームされないおひげのオジサンが、名探偵の相棒たる資格をしっかり示していたの良かったですね。
 つーかおひげのオジサン多すぎんだよなぁ味方サイドに……。

 14世紀末に滅んだドワーフが生み出した、存在するはずのない人工ダイヤに刻まれた暗号が、当時人間が知り得なかった紫外線を用いているのも、伝奇的ケレン満載で素晴らしい。
 時に飲み込まれ滅びゆくものを追う旅の舞台は、はるかドイツの人狼の森。
 次回も大変楽しみです。