イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

蒼穹のファフナー THE BEYOND:第9話『第ニ次L計画』感想

 回天を期した希望の船は、包囲に押しつぶされ水底に沈む定めか。
 情報優位を盗られての絶望的包囲戦、また犠牲が積み重なるかと思われた所で主役覚醒の、ファフナーBEYOND第9話である。
 暗く重たい水の底で、希望が見えない戦いを延々繰り広げ、美三香と零央の命が捧げられる展開を、ニヒトとソウシがぶち破って戦場が空に映る。
 見ている側の感情と、作中描かれる戦闘の推移が上手く重なって、メリハリの効いた見せ方だった。

 L計画、息苦しい水の包囲、永訣を共にする恋人たち、幾度目かのフェンリル……。
 否が応でもRoLを思い起こさせるシチュエーションで、いかにも”ファフナー”らしい悲壮さで若人がまた死ぬ展開を、ソウシが拒絶(nicht)して希望が繋がったのは、彼が主役を務めるBEYONDも覚醒を果たした感じがあって、大変面白かった。
 過去幾度も繰り返され、それに傷つけられながらもどこか当たり前と受け入れてきた自己犠牲だの特効だの自爆だの……そういうのを終わらせるべく、ソウシは偽物の平和から確かな何かを受け取り、宿敵なはずのフェストゥムに混じって己の根源を育ててきたのだろう。
 ”ファフナー”を終わらせるべく、皆城総士の形と運命を継ぎつつも別の存在である少年が切り開く、闘争の宿命と憎悪の連鎖への否定(nicht)。
 彼の愛機がかつて、希望や生存を徹底的に否定したマークニヒトであることが、”ファフナー”という物語自体が自己否定から生まれる自己再生を掴み取ろうと、必死にもがいている証にも思えた。
 生きることと死ぬこと、人間と異なった知的生命体と絶滅戦争をやっていることに、あまりに真摯であるがゆえに生まれた抗いがたい重力を、引きちぎって物語を決着へ持っていくことが、多分ソウシの使命なのだろう。
 それは皆城総士の面影を、ファンからも一騎筆頭に作中のキャラからも重ねられる彼が、他の誰でもない人生の主役となる歩みと重なって、とても力強い。

 

 目の前のある現場を否定したあとの虚無を、不毛の終局と諦めてしまうのではなく、むしろその何もなさにあらゆる可能性を生み出せる希望を見出す姿勢は、彼が今まさに自分を掴みつつある子どもであるとこと、強くシンクロしている。
 世界がどんな形なのかも、そこに向き合う自分がどうなりたいかも解らぬまま、悪しざまな言葉で他人に憎まれ、無軌道な憎悪を振り回してきたクソガキは、色んな人と出会い必死に学ぶ中で、極限状態の戦場の只中で、彼らとは違う望みを見つけ出していく。
 それは過酷すぎる世界で人間であり続けるという、無理難題に向き合い続けた結果いつの間にか当然になってしまっていた、犠牲と諦観の否定だ。
 ”ファフナー”はもっと夢見がちで、熱くて、身勝手でいい。
 そうあるために物分り良く命令を聞き届け立ち止まるのではなく、激情の赴くまま秩序を乱し、既存のフレームでは実現不可能な奇跡を引き寄せること。
 その実感がソウシの、幼く危うい自我を支える土台ともなり、奇跡を形にしつつ人間であることも止めない、新世代の救世主が存在感を増していく。
 ここら辺、何かを捧げなければ求めるものを掴み取れなかった真壁一騎との寂しい対比でもあり、しかしその犠牲がなければソウシや美羽ちゃんが羽ばたけなかった事実も濃く描かれていて、なんとも複雑である。
 奇跡の代償に飲まれかけていたソウシを、一騎が追いかけ引き止める形になったのは、乗り越えられるべき”ファフナー”の旧い主役がまだ、誰かを助けられる……助けたいと心から願っている存在なのだと、お話に告げてもらった感じがあった。
 故郷壊滅島民皆殺しという、あまりにハードなイニシエーションでソウシを偽りの楽園から引っ張り出し、憎悪の矛先となることで彼を活かす以外の物語が、まだ真壁一騎にはあるのだろう。

 そんなソウシとタッグを組む美羽ちゃんは、運命に選ばれた”島の子”としての物分りの良さがいい塩梅に崩れてきて、ワーワーギャーギャー騒々しいクソガキ力が、結構元気になってきた。
 フツーなら王子様のキスで悪夢から目覚めるところなんだろうけど、精神年齢一桁のガキどもにはロマンスは遠く、頭突きで目覚め即座に口喧嘩するのが、とても良い描写だった。
 独断専行ぶっこむ悪い子ソウシに、自然と『生きて帰らなきゃ怒るよ!』と言えてるの、負の感情にタブー意識が強かったいい子が新しい友達の影響を受けて、苦手(だけど踏み込まないと、新しい可能性をつかめない)分野に挑めてる手応えあって好き。
 めっちゃ社会的接触による人格形成~~~~って感じ。

 こういう当たり前の子どもらしさを、軒並み押しつぶすことでしかこの世界の人間にキレていなかったわけで、ソウシが島の外から持ち込んだ身勝手が美羽ちゃんに感染しているのは、なんだかワクワクする。
 豊かで優しい愛を大事に育んでも、戦場で一緒に死ぬ以外に許されてねぇ悲しきロマンティシズムが”ファフナー”でもあったから、それをソウシが『ぜってー認めね~ッ!!』と横合いから殴りつけ、僚と祐未の悲劇再演を防いだことが、もしかしたらこの戦いのあと待ってるかもしれない、ソウシ自体の恋を明るく照らしてくれた感じ。
 もーねー……マジフェンリル起動はもう沢山なんすわ……。

 

 里奈ちゃんをバックドアにした盗み聞きのからくりも見破って、絶望が希望へと相転移していく形で反撃の狼煙が上がっていくが、世の中に満ちる理不尽を否定するソウシは、こんだけのことをしでかしたマリスと、どういう決着に至るのだろうか?
 『許さない、思い知らせてやる』と、どす黒い感情をいつも通り燃え上がらせているソウシだけども、偽竜宮島と千鶴さんが死に食われる体験を経て、殺意ぶん回して何もかも消してしまえば解決するわけではないと、学んでもいるはずだ。
 名前に揺るがぬ悪意(Malice)を宿すマリスに、自分が押し付けているモノの意味を『思い知らせる』ことは、彼の生き方を変えるということだ。
 それが生半ではないから”ファフナー”の歩みは苦闘の連続だったわけだが、あのクソガキが人間一匹の魂を揺さぶり、悪意から希望への相転移を果たせるほどの何かを、これからの戦い……あるいはこれまでの物語の中から、見つけ出すことが出来るのか。
 悪意と絶望に己を閉ざしたものにも、確かに届く言葉はあるのか。
 そこら辺が、”ファフナー”なるもののスクラップ&ビルドを担う主人公の、一番大事な仕事になりそうだ。

 過酷極まる現実の中で、現状を否定し未来を切り開くには思いだけでは足らない。
 ニヒトの新たな覚醒は、意を通す力をソウシに与えたわけだが、これが身勝手なエゴの充足とか、誰かを傷つけて癒やされる危うさとかに繋がらないよう、零央との修行をやってたのかな、と思う。
 誰かを守るために武器を握る行為は、本質的に恐ろしいものであり、自分が握った刃の扱い方を常に考えながら、命の現場に立つ意味は重い。
 武人・御門零央の底力をナメていたマリスが、まだ気づいていないモノをソウシは既に実感していて、それを与えてくれた絆の尊さも、クソガキなり身にしみている。
 ソウシが浅はかで幼い悪童であることが、幾度も間違えながら為すべき正しさを、。自分の手で掴み取っていく頼もしさにも繋がっていて、良い子ちゃんが上から正解だけを垂れ流す展開より、与えられる答えを飲みやすくもなっている。
 まぁすっかり大人になって、正しさに粛々と殉じているように思える連中も、過去作では思う存分クソガキだったりしたわけだが……。
 やっぱそういう、人間が人間である以上生まれてしまうままならなさとか、間違えなきゃ分かんない愚かさとか、全部ひっくるめで愛しく書こうと頑張っている所が、”ファフナー”の良いところだと思う。

 

 という感じの、水底からの再起でした。
 否定の名を持つファフナーにソウシが乗っている理由が、『もう”ファフナー”は終わりにしよう!』と叫び運命を変えていく手応えとともにスッと染み込んできて、うっすら見えていたお話全体の構図が腑に落ちる。
 そんな回だったと思います。
 いやー、今までの”ファフナー”だったら絶対死んでたし、そう思い出させるための場面づくりが凄まじかったからな……だからこそ、それを否定し書き換えていくソウシの存在感が、まばゆく愛しい。

 皆城総士の面影を残しつつ、新たな生命として自分だけの夢を追いかけていく新主人公だからこそ、生み出せる可能性。
 それがどんなふうに悲しみに満ちた世界を否定し、新たな希望を切り開いていくのか。
 ファフナーBEYOND終盤戦、大変に楽しみです。