イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アンデッドガール・マーダーファルス:第9話『人狼』感想

 山深き村に漂う獣と血の匂い。
 赤頭巾ちゃん、気をつけて……ヒトの皮を変わったケダモノが、貴方のハラワタ狙ってる。
 ……ああ失礼探偵さん、アンタにゃ狙われるべき胴体がなかったね。
 そんな感じのレッツ陰惨因習独逸の田舎! 湿り気強い差別と迫害がプンプン臭う、人狼村のアンファルアニメ第9話である。

 やや穏やかな新章スタートといった塩梅で、じりじり描写を積み上げながら核心に近づいていく一歩目という感じの今回。
 都会的な倫敦での怪人五つ巴から少し落ち着き、血生臭さは五割増といった風情がなかなかに味わい深い。
 都市を中心に人外を駆逐していった世界の端っこ、未だ偏見残る寒村に蔓延る疑心暗鬼と人狼狩り。
 横溝正史めいた舞台建てが、お互いの正体を探り合う人狼ゲームの趣を帯びているのは、なかなかに令和の怪奇推理劇っぽい味付けで面白い。
 しかしまぁ人に混じった狼に怯え、お互いを吊し上げていく疑心暗鬼の檻にハマってしまえば、真実を見る瞳は覆い隠されてしまう。
 自身怪物であるが故に、偏見なく怪物と人間を真っ直ぐ見れる鳥籠探偵の慧眼が、一体何を見つけてしまうのか。
 陰鬱な村に足を運ぶ、鳥籠使いの旅路がいつも通りの軽口まみれであることが、妙に頼もしい幕開けとなった。

 

 

 

 

 

画像は”アンデッドガール・マーダーファルス”第9話より引用

 冒頭挿入される、八年前の人狼狩り。
 『こんだけ印象的で陰惨な絵で差し込まれると、話の中核に関わってくる大事件なんだろうな……』というメタ読みはさておき、『人は狼を駆り立て、狼は人を殺す』というのが、今回の事件の基本ルールのようだ。
 山間に閉ざされた村落共同体が、異物を排除する圧力の強さは烈火のごとく激しく、そのクセジメジメと湿って秘密が多い。
 瞳のアップが印象的な今回、ベールの向こう側に何かを見つけてしまったり、それに魅入られて動けなかったり、真逆に瞳をそらしてなかったことにしたり、目を通じた人間心理が印象的だ。
 『狼が加害者、少女が被害者の連続殺人』という事件の見かけを、鴉夜の鋭い視線は黙って見抜き、解体し、再構築していく。
 月に狂った狂気の獣ではありえない、粗雑さを捏造した理性的犯行は、はたして人の手によるものか、はたまた人と獣の共犯か。
 そしてこの事件にどれだけ八年前の惨劇が、あるいは長年村に積み重なった因縁が絡んでくるのか。
 そこら辺にまず、目が行く回である。

 剽軽な地口を延々絶やすことなく、あらゆる状況をナメてかかる津軽のやり口は今回も健在で、お調子者の鳥籠持ちを演じつつ、何処かじっとりと村の様子をすがめている。
 戯けた寄席芸をアルプス山奥でも演じきる軽みが、生きるか死ぬかの土壇場でもけして揺るがぬ筋金だというのは、切り裂きジャックとの死闘で良く見えた。
 首から上でモノ考え、真実を的確に開示して状況を動かすのは鴉夜の特権であるけど、そんな彼女の付随物……あるいは暴力装置である津軽が、この村の欺瞞と真実をどう見ているのかは、毎回気になるところだ。
 ホントのところはどうなのか、ぶっちゃけちまえば道化稼業は成り立たず、シリアスな重たさが軽妙洒脱を地に落とす。
 ならばカケラも本気にならないことこそ津軽生存戦略なわけで、大事なことは師匠に言わせて自分はあくまでお連れの三下、気軽な立ち位置から不意に刺す……というのを、常時狙ってる気配がある。

 血なまぐさい人狼事件の奥に踏み込むほど、怪物を排除して成り立ってる世界のルールと、それでも排除しきれない近代以前の闇が衝突する局面は増えてくるわけで、怪物を駆り立て殺す人間と、駆り立てられる鬼のあいの子である津軽にとって、村の湿った空気は見た目より他人事ではないのかもしれない。
 そこで同情を寄せず、己も含めた何もかもを笑いきって生き延びる方に、鴉夜と出会ってからの津軽は舵を切っている。
 鴉夜の推理が真実を暴くほど、超ろくでもない真相が表に出てくるんだろうけども、これもまた津軽は我関せずと遠くに蹴り飛ばし、ケラケラ嗤って乗り越えてしまうのだろうか?
 急に重たい真面目顔されても、その軽妙に惹かれたものとしてはなんか違うわけで、どんなふうに村落社会のクッサイ臓物が引きずり出されても、ヘラヘラやってて欲しい気持ちはある。

 

 そういうアウトサイダーに嘲笑われる側の、一生真面目ぶった深刻顔で隣人を疑い、狼を駆り立てる村人たち。
 随分とまぁ”人間らしい”顔をしていて、『少女連続殺人事件も、見た目通りじゃないんだろうな……』と、いい塩梅に偏見が元気になる。
 まだ推測可能なピースが出揃っていないので、何かを組み立てるには早い段階だと思うし、なにより滝の向う側にあるはずの人狼村……生臭く湿った人間社会のカリカチュアを、画面が切り取っていない。
 人間が狼を狩る村の在り方が、人狼の村ではどんな風に変貌し、あるいは共通しているのかを見れると、吸血鬼一家がひっそり暮らしていた仏蘭西の事件や、共同体としての繋がりが薄い大都会倫敦の物語とは違った、異物を殺戮して成り立っている作品世界の臭いを、フィルターなしで嗅げる予感がある。
 そういう波に追い立てられて津軽は半鬼となり、その波を悪辣に利してモリアーティは<夜宴>を立ち上げたわけで、アニメがひとまず幕を閉じる前に、ロクでもない世界をろくでもなく駆動させている差別と偏見と暴力の濃い精髄を、齧っておきたい気持ちは強い。

 いやまぁ掘り進んで見れば、人間の美しい部分がドドンとお出しされる可能性もないわけじゃないが、しかしここまでこのお話が持っているムードやテイスト……あるいは今回描かれ示唆される事件の匂いを思えば、いくつかの秘密を引っ剥がした後見えるのは、赤黒い残虐にはなろう。
 『人間みんな、そんなもんです』と嘲笑えばこそ、惨劇は笑劇になっていくわけだが、ここら辺のスタンスが津軽と鴉夜は結構食い違ってるのかな、という印象もある。
 鴉夜が既に見据えているだろう真実に首だけしか無い身体でどう向き合い、名探偵だけが扱いうる真相という爆弾を、どのように開陳するのか。
 情報という凶気をどう扱って、誰を殺し何を活かすのか。
 輪堂鴉夜が疑心暗鬼と因習に満ちた、ヒトオオカミの村をどう殺していくのか、ワクワクするのは良いことだ。

 そしてそこに、白い服着た怪物絶滅主義者どもが、どういう横槍くれてやるのか。
 あんまりにも出オチだった倫敦決戦の雪辱を果たすべく、オモシロ愉快エージェントが舞台に上がった所で、今回のお話は御仕舞である。
 ロイスの絶滅主義は、独逸の片田舎でピンピン生き残ってる前時代的な生活、狼を隣において生きるしか無い暮らしと真逆で、前みたいに超越者ッ面してたら猛烈な足払い食らわないか、今から心配だけども。
 奴らが出張ってくる時点で、尋常の推理合戦では終わらず超人どうしのぶっ殺し合いが確約しているのも、なかなか楽しみなところだ。
 <夜宴>の懲りない面々も、まだ顔見せてないしなぁ……。

 そんな連中が山奥で頭寄せ合って、化け物が着込んだヒトの皮を引っ剥がしていく。
 出るのは鬼か蛇か、何よりもおぞましい”人間”か。
 世紀末の人狼ゲームを、このお話がどう描いていくのか……アンファルアニメ終章も大変楽しみです。