イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

シュガーアップル・フェアリーテイル:第21話『赤い妖精 』感想

 純情少女の青春は、恋に仕事に大忙し! 降るぞ血の雨粘着く感情!!
 異世界少女職人奮戦記、待ってましたの血みどろフェイズ大突入となる、シュガーアップル・フェアリーテイル第21話である。
 初手失明を伴うガチ暴力が情け容赦なく襲いかかってきて、理不尽な暴力の犠牲になったオーランドには悪いが『この治安の悪さ……”シュガーアップル・フェアリーテイル”を食ってる!!』となった。
 最初にこの感覚を教えてくれたジョナスが、どん底酔いどれ状態からまさかのカンバックを果たしたり、ブリジットさんの王子様探しが『あ、そっちか!』という方向に加速していったり、あいも変わらず事件満載、留まるところを知らない大忙しである。
 ラファルのキモ暴力が抜き身で”仕事”に襲いかかってきた結果、まとまりが見つからなかった各要素が半ば強引に繋がりを見つけてきて、凄いグルーヴ感でお話がまとまりそうな雰囲気が出てきた。
 恋と暴力、仕事と差別が渾然一体となった、大変独特なこのお話らしさが、そろそろアニメとしての幕引きが見えてきたこのタイミングで濃く煮出されていくのは、なかなかに楽しい。
 血みどろ実力行使をダイレクトアタックされた結果、新聖祭の細工作りがが文字通りのデスマーチにもなったが、結果としてアンちゃん親方とペイジ工房が”仕事”にかける意地が表に出たのは、大変いい感じだと思う。
 まぁその試金石として、リアルな赤い血がドバドバ飛び出すわけだが……変な少女小説だな、ホント(そういう所が好き)。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第21話より引用

 というわけで脅迫とか匂わせとか軽やかにかっ飛ばして、ラファルによる直接攻撃がペイジ工房を襲う!
 前回ロマンスの燃料っぽく描かれた危機が、『寝てんじゃねーぞ、オレの斬糸は飾りじゃない』とばかりに最速で威力を発揮するの、この話が”暴”に抱いている奇妙な真摯さを感じさせて、大変良い(良くないけども)。
 ラファルが何望んで凶行に及んでいるかは見えないけども、一切手加減なしで欲しいものをもぎ取ろうとする本気を示す上で、赤い血流すのが一番手っ取り早く、極めて最悪な証明ではある。
 そもそも人間大嫌いっぽいので、ペイジ工房の職人傷つけるのに一切の躊躇ないんだろうなー……これまでの妖精の扱いを見ていると、妙に納得する部分でもある。
 アンちゃんとシャルの関係はいい塩梅に収まってるけど、それは二人個人間の問題であって、人間と妖精って大きなくくりだと、ぶっ殺し上等の超最悪だもんね。
 ここら辺、お姫様を攫った魔王が次回色々喋ってくれるだろうから、腐れテロリストの言い分聞くのが楽しみである。

 揺れる思春期の受け皿として、愛玩妖精にもたれかかってたら、そいつは極悪犯罪者。
 ブリジットさんの甘えたモラトリアムを終わらせるには、あまりに過酷で強力な爆弾が、閉ざしかけた扉を強引に開けさせる。
 ことここに及んで自分の責任棚上げしてたらどうしようとか考えてたが、流石にここ最近周りを見てる描写もあったし、ブリジットさんはアンちゃんが叩いた扉を開けてくれた。
 ようやくという感じでもあるし、ずっと待っていた瞬間でもあるので、なかなか複雑な味のする良い展開だった。

 今、出来ることをする。
 アンちゃんがブリジットさんに差し出した自分なりの答えは、抜本的な解決を先送りにする現状肯定の麻酔処置かもしれないけど、地道に困難に向き合っている当たり前の人間として、選べる最良の薬でもある。
 クソみたいな業界の差別と嫌がらせに、身体一つ立ち向かってきたアンちゃんにとって、そうやって意地と根性を支えに目の前の苦境にかじりつくことこそ、道を拓く唯一の手段だった。
 あんま高いところから説教たれず、『解んねーけど……やるしかねぇだろ!』と泥臭い事咆えて頑張る主役の汗は、やっぱり眩しい。
 この労働讃歌っぷりは、このお話の好きなところの一つだなー。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第21話より引用

 モチベーションを確認するにあたって、一番シンプルかつよく効くのは『降りろ』と告げること。
 教会の温情で、銭だけもらって”仕事”諦める道が差し出された時、自分が見込んだ職人頭のド根性を試すかのように、エリオットが軽薄な仮面を被り直すのが良かった。
 彼がアンちゃんを引っ張り込んだのは、品評会で間近に見届けたその根性に可能性を見出したからで、ヘラヘラ分かりにくいけどその職人魂に惚れ込んでる立場なのよね。
 なのでアンちゃんが反発すると分かった上で、あえてお軽い”逃げ”口にして熱い魂叩きつけてもらうという、回りくどくも彼らしい振る舞いをする。

 その後のキリッとした素面を見て、アンちゃんが目を丸くする所含めて、仕事人エリオット・コリンズの顔が良く見えるやり取りだったと思う。
 俺は軽薄気取ったナンパ野郎が、その仮面ぶん投げて本気になっちゃう瞬間が好きなので、値踏みの時間が終わって自分と工房の全部を預けても構わないと、アンちゃんを信頼してるエリオットが見れるのは嬉しい。
 彼がヘラヘラ距離を取って、信頼するに足りるか確かめていたアンちゃんの資質が、本当にこの苦境を突破できるのか厳しく試される局面で、同じ熱量でエリオットが”仕事”に向き合っていると解るのは、凄く良いことだと思う。
 第1クールの濁った空気の悪さから、ペイジ工房に軸足を移しての第2クール、砂糖細工に関しては凄く透明度の高い、希望と絆のガッツストーリーが展開されている感じだよなー。
 まぁその分、妖精差別に燃え上がった暴力の化身が暴れ倒しておるけどね!!

 

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第21話より引用

 つーわけで赤い暴力の犠牲となってなお、真っ直ぐな気持ちを保ち続ける幼馴染にブリジットさんも涙、涙の再出発よ!
 そっかこっちかー……エリオットが許嫁という立場にありつつ、ブリジットさんに冷たく思えたのは、ここら辺の慕情を感じ取ってあえて踏み込まなかった、つう話だったのかな?
 シャルとアンちゃんのロマンスがかーなりいい感じに煮詰まってきてもいるので、ここでブリジットさんの恋情で一つかき回してくるのは、理にかなって手筋だとも思う。

 今回は泣きの作画が特に良く、ブリジットさんもジョナスも思いの丈を涙に込めて、いい塩梅に強情を溶かして泣き崩れる。
 それは心の堤防が崩れたからこそ流れるもので、人間が抱えているそういう硬く湿ったものを埋め合わせ、癒やす力が銀砂糖細工にはある。
 これまでも示されてきた銀砂糖の本質が、ブリジットさんとジョナス両方の再出発にしっかりきらめいて、希望とか優しさとか、形なく美しいものを形にできるアンちゃんの”仕事”の意味が、上手くサブキャラクターを照らしている感じだ。
 希望としての銀砂糖細工を強く輝かせるためには、己の愚かさや弱さに向き合って打ちひしがれる人たちが必要なわけで、前回餓死寸前の所から生きる希望を手に取ったノアと同じ作用が、既に送られていた真心を受け取る気になったブリジットさんとか、アンちゃんの”仕事”に目を輝かせるジョナスを鏡に目立ってくる。

 つーかまさかまさかの再登場で、意外かつ納得の助っ人登場だよジョナスくん!
 最悪のゴミクズから始まり辛酸を嘗め、路上のカスに成り下がってようやく、砂糖菓子細工に夢を見る自分を見つめ直す。
 あんだけのことがあってなお、ジョナスの可能性を信じて発破をかける所がアンちゃんの良いところだけども、彼が立ち直れたのは小さな体でブーツにすがる、キャシーがいてくれたからでもあろう。
 ブリジットさんがオーランドの手を握る時の仕草もそうだけど、人が人に寄り添ってどん底から這い上がっていくぬくもりが、上手いこと対照し呼応しながら描かれていたのは、波乱まみれの物語の中で確かな羅針盤であった。
 人と人が寄り添うことの意味を、悪意と理不尽の嵐に負けず信じ続けて奇跡を引き寄せるお話なの、このアニメの好きなところだよホント。

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第21話より引用

 というわけで乗り越えるべき最後の試練、キモキモ激ヤバテロリストとの決着を……って、出てる出てる喉から赤いのがッ!!
 ここで一切の容赦なく、脅しでもなんでもなく喉笛切りにいくのがこのお話であり、ラファルという存在なのだろう。
 一歩間違えば人が死ぬ危ういものを、そういうモンとして扱い続けているのは結構好きなポイントで、飢えた野犬をけしかけられた時の激ヤバ感はずっと話の奥に眠ってて、要所要所で顔出す感じ。
 この”暴”の質感が、甘くなりすぎかねない少女サクセスストーリーにまとまりを与えて、バランス取れている感じもある。

 かつてはクズどもの嫉妬として描かれていた”狂”もまた、お話を甘くしすぎない大事なスパイスであり、なんでラファルがこんだけ凶行に及んでいるのか、シャルに執着しまくっているかが、次回見えてくるのだろう。
 『工房が生きるか死ぬかの大忙しに、余計な暴力投げ込んでこんクソボケがッ!』って感じもあるが、この山あり谷あり大忙しな感じが、話の盛り上がりに寄与しているのは間違いない。
 いやまぁ、洒落にならない後遺症とかオーランドに残ったら、”盛り上がり”ですまない激ヤバ感が先に立つけどさ……。
 ここら辺の『え、そこまでガチっちゃって大丈夫? 取り返しつくの?』と不安にもなるアクセルの踏み込み方を、ためらわないでブッ込むのも良いところだと思ってるよ、俺は。

 シャルトのロマンスとか、ブリジットさんのアレソレとか、厄介で大事な”仕事”とか、銀砂糖細工の価値とか。
 いろんなテーマや要素がギュッと濃縮されて、アン・ハルフォードの人生を彩る複雑な味わいとして噛みしめることが出来るのが、僕が思うこのアニメの面白さだ。
 むき出しの狂気と暴力が赤く迫って、その噛みごたえは相当分厚くなってきた。
 ラファルが語るだろう己の来歴と思いを受けて、アンちゃんとシャルは、ペイジ工房の仲間は、どんな答えを返すのか。
 山盛りの困難を前に諦めず、自分たちと砂糖細工に出来ることをどう形にしていくのか。
 凄くいい感じに、2クールに渡る物語をまとめるに足りる滑走路が整ってきて、終盤戦の飛躍が楽しみであります。
 やっぱ良いアニメだな、これ。