イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

プレイレポート 23/09/19 愛と有刺鉄線

 昨日は今最もトガッたTRPG”愛と有刺鉄線”を遊んできました!

 システム:愛と有刺鉄線

 GTさん:アレク・ルカニオ:23才男性 尊大で自信過剰な、銃弾のほうが避けて通る英雄気質の男。過酷な戦場でもその眩しい人格はくすむことなく、幸運にも恵まれ無事に愛する人の元へと帰還する。

 織川さん:イザベル・ワイス:20代女性 賢さと優しさを兼ね備え、後送されてくる負傷者達に手当を欠かさない看護婦。移り変わる戦況に心を痛めつつも、果たすべき責務を見事に成し遂げ、恋人と入れ違いに新たな責務を求め、前線へと歩を進めた。

 千本松さん:ヴィクトリア・バウマン:17才女性 性別を偽り、前線へと身を投じた少女兵士。かつて自分を救ってくれた従兄弟の代わりをするように、過酷な戦場で戦い抜き、背後に置き去りにした彼女の英雄を守ろうとする。

 コバヤシ:ゲオルグ・バウマン:22才男性 従兄弟をかばって足に障害を負い、戦場へ行けなくなった愛国者。過酷な戦争の現実は皇帝への幻想を剥ぎ取り、社会主義革命という夢に男を飲み込んでいく。

 

 こんな感じの面々が、戦雲渦巻くヨーロッパで手紙のやり取りをし、ままならない運命に翻弄されながら時代をかけていきました。
 二度目のセッションともなるとシステムとの取っ組み合い、より細かい突っ込みが始まるもので、五回の執筆チャンスをどう活かしてお話のダイナミズムを作り、引き出された運命をどう解釈してドラマを引き寄せていくか、考え試しながらのプレイになりました。
 このゲーム、『カードを引く→それに応じて手紙を書く』という手続きしかない、非常にシンプルなゲームなんだけども、メカニズム自体は非常によく考えられていて、第一次大戦という背景世界をわざわざ選んだのと、的確なシナジーを為している。
 戦争という大きな装置が、ちっぽけでありながらかけがえないはずの人間の思い、恋人たちの繋がりを不条理に飲み込み、すれ違わせ、悲劇(あるいは幸運な喜劇)へと後押ししていく。

 この構造自体が、四種のカードを引いて手紙を書き、それを公開するまで相手にどんな運命が訪れたのか、何をテーマに手紙を書くのか見えないことで、上手くブーストされていると感じた。
 1/2で薄暗い不幸が訪れ、どれだけ順調に進みそうでもラストは理不尽な死がすべてを終わらせかねない重圧を、飲み込んでカードを引いていく。
 このゲーム進行が、望むと望まざると時は流れてしまっていて、良いことばかりは続かない……けど、もしかしたら幸せな終わり方をするかもしれない不安定さを、いい具合に揺らしてくれる。
 先が見えないこと(それが分かる程度には、PLに物語の進行フレームが可視化されていること)、選べないことと、ヨーロッパという幻想を決定的に打ち砕いた大戦争、それに巻き込まれる市民という舞台設定と、とても良く響き合っているのだ。

 

 せっかく史劇TRPGなので、史実要素を取り込みつつ進行してみたけども、個人的悲劇のダイナミズムよりもうちょい横幅広い所に、物語のレンジが拡張した手応えがあった。
 こういう試みに踏み込めるのも、やっぱ二回目だからこそで、システムとの挨拶を終えてぐぐっと懐に踏み込めるタイミングで、なんか新しいことやろうとしたのは正解だった。
 引いたカードには逆らえない絶対性と、それをどう解釈して同卓相手に開示していくかは自由極まる、両極端なバランス。
 結果としてPLの興味が強く引き出されて、『オレはこういう話をやりたいんだ、好きなんだ!』と伝えるプレゼンテーション要素も、結構強くプレイの中に組み込まれてくる。
 ルール処理自体はシンプルなんだけども、実は結構複合的な面白さが仕込まれていて、遊んだ後はへとへとになるけどもその疲労感が楽しいという、いいデザインをしているように思う。

 自分はソヴィエトほど明瞭に形にならず、しかしその後の歴史に決定的な変化を与えたドイツ革命が好きだったので、そのど真ん中にキャラを投げ込んでみた感じ。
 引いたカードがまた、ドンピシャで引き返せない蟻地獄に突っ込んでいく道を示唆してて、『そうなるんなら……こうしなきゃなぁ!』と、出た札に応じた物語を編んでいました。
 色んな予感を抱えつつ、出た札を絶対的運命として素直に受け取り、その上で自分独自の味がある筆で、自分の責任と尊厳でもってキャラの進む道、選んだ道を刻んでいく手応えはやっぱこのシステム独自で、とても楽しかった。
 まぁ背景世界とルールの過酷さが凄いので、大概ロクでもない方向に転がっていくんだがな……。

 

 というわけで、大変楽しいセッションでした。
 同卓していただいた方、ありがとうございました。
 おまけとして、自分がプレイ中に書いた手紙を、そのまま記載しておきます。




・ゲオルグ・バウマンからの、五つの手紙

・夏 ハート(愛について)
 戦場を包んでいる熱気が、このうだるような街の風と同じ温度ではないことを祈りながら筆を執ります。
 数多の英雄とともにあなたが、誉れある帝国の未来を切り開くべく戦場に向かったと聞き、私は真夏の稲妻のようにおののきに撃ち抜かれました。
 この忌々しい足が、湧き上がる祖国への愛をかの場所へと届けてくれない悲しみを押し流すように、羨望と高揚が私の中で湧き上がるのを覚えました。
 羨ましくもあり、誇らしくもあります。
 
男の装束に身を包み、銃を掲げ戦友と肩を並べて決戦へと赴く貴方は、女神ゲルマニアのように神々しいお姿をしていると思います。
 貴方の撃ち放つ銃弾一発が祖国の敵を打ち砕き、偉大なる帝国の理念を形にするのだと想像する度、耐え難い喜びが背骨を駆け上がる。
 どうぞ私の代わりなど、卑近な役割を背負わぬまま、勇ましく戦い勝ち抜いてください。
 泥濘を書き分けて突き進む貴方のブーツに、私の唇を触れさせてください。
 祖国万歳、皇帝万歳。
 貴方の行く末に、幸運と栄光のあらんことを。

 


・秋 スペード(関係性の終わりについて)
 栄光に満ちた夏が終わり、冷たい風が冬の気配を連れてきました。
 戦争の長い影は貴方がいる戦場からわが町へと伸びてきて、パンにはじゃがいもの粉が混ざり、それすらもなかなか手に入りにくくなっています。
 今年の冬は、飢餓の冬となりそうです。

 栄光と祖国への愛に浮かれていた季節が行き過ぎて、ふと己を顧みてみれば動かぬ足を引きずり、コートの襟を立てて街を進んでいます。
 先日同僚の兄が無言の帰還を果たし、その棺が空っぽであったと気づいた時に、私は冷たい木枯らしに吹かれました。
 これまで忠誠と熱狂に隠されていた瞳が、同じく空の棺に乗っかって貴方が帰ってくる可能性に向かって開かれ、もはや閉じることはありません。
 神は人に想像する力を与えました。
 女神のように燦然と、戦場を駆け抜けていく貴方の幻想を思う力と、貴方を永遠に失う現実を考える力は、おそらく同じ場所から湧き上がるのでしょう。

 もはや夏は遠いです。
 一瞬の熱狂と幻想が行き過ぎて、迫る寒さに古い傷が疼きます。
 それが私に思い出させるのは、押し寄せる巨大な鉄の塊を前にどうするべきか、想像を圧倒して身体が動いたあの一瞬です。
 貴方を守りたかったなと、今更ながらに思い出します。
 私の足が用を為せば、戦場にて再び貴方のために身を投げ出すことも可能でしょうが、国家が敷いた動員のルールは私を弾き出しました。
 あなたと共に死ぬ未来を夢見ることを許されないのならば、あなたと共に生きていく未来を夢想したいと、心の冷たい部分は願います。
 しかし痛みとともに熱く疼く思いが、そんな未来は約束されていない陽炎だと教える。

 不確かな蜃気楼が、この街と貴方の戦場の間に広がっています。
 どれだけ不安に苛まれようとも腹は減るという、現実の厳しい教えを受け止めながら、貴方の帰りを待ちわびています。
 私の英雄が、無事に故郷へ戻ることを祈っております。
 それが叶わぬものだと告げる手紙を、私の元へ届けないでください。

 


・冬 クラブ(恐怖)
 かつて私を打ち砕いたのと同じ運命の一撃が、貴方にも到達したと聞き及び、深い悲しみの底で寒さに耐えています。
 秋に送った手紙では夢想であり想像でしかなかった破滅が、戦場の現実として貴方に手を伸ばしたと知れば、様々な幻想が去っていく。
 貴方が飢餓と寒さと恐怖が支配する場所に赴いたのが、私の浅はかな熱狂に押し流されての行いならば、どれだけ己を悔いても足りません。
 貴方はまるで運命の糸に引かれる人形のように、私の祈りに忠実に男を装い、英雄を目指し戦場へと突き進んだ。
 しかしそれが引き裂くのは血の通った、たった一人いまを生きている貴方自身であり、貴方に生きてほしいと願うむき出しの私です。
 皇帝陛下の栄光に満ちた戦場が、そんな風に百万の兵士と彼らを思う人達の願いを食らって突き進む怪物だと、ようやく私は知りました。
 あまりに、私は若くて愚かだった。

 近年、職場において労働者の団結を強めるための集会が多数開催されています。
 皇帝陛下のご意向を歪め、あなた達の献身を私欲のままにすする資本家階級が何を為しているのか、ウィーンから来た同志が真実を教えてくれています。
 飢えと寒さの冬は、我々の熱狂を覚ますに十分ですが、しかしなお燃える火があります。
 戦争継続のために投げ込まれる薪に、貴方の生命があってはならない。
 私は私が為すべきことを、この跛足で為せることを探しています。
 来るべき未来、真実のドイツのため、貴方のために。

 


・春 スペード(関係性の終わり)
 (荒らされた部屋、遺された走り書き)
 もはや耐え難い!
 私の愚劣な皇帝崇拝が、あなたの背中を押して地獄へと引きずり込んだことも。
 貴方がその糸に引かれるまま、銃弾に撃ち抜かれてなお戦争の傀儡であり続けていることも。
 そんなあなた達真の愛国者を食い物にして、簒奪の装置が駆動し続けていることも。
 春が来てもパンは店頭に並ばず、飢えた子ども達が泣きじゃくる声が街には満ちています。
 我々労働者たちは正統な怒りを胸に、今まで何に支配され、何に目を塞ぎ、何に狂わされていたを思い知りつつあります。

 玉座を打ち砕く闘争こそが、今のドイツには必要不可欠であり、それが長らく続いた皇帝陛下の栄光を地面に投げ落とすとしても、歴史的必然を避けることは出来ません。
 幻想によって維持された王権が、かけがえない生命と愛を泥の中に投げ込み、豚どもが肥え太りそれを啜る。
 そんな日々が続いてはいけないのです。
 春が来ました。
 おそらくは闘争の春であり、革命の春です。
 はるか彼方、我々の敵とされたルーシの地に置いても、歴史的必然がロマノフの旗を引きずり落とす日が近づいています。
 ドイツにおいても、そうなるでしょう。

 私はこの街において、私の戦争を始めます。
 皇帝の犬どもが私たちを下水道に追い立てたとしても、追い求めるべき未来は必ずそこに在る。
 人民の未来を切り開くべく、私は大罪人の烙印を喜んで受け取りましょう。
 徴兵文書を受け取れなかった私が選び取る未来としては、十分以上に似合いかと思います。
 さようなら、私の英雄。
 私の愛した人。
 私ゲオルグ・バウマンはこれより地下に潜り、闘争を開始する。
 革命万歳。

 

 

・夏 ダイヤ(相手を称える)
 (とある工場にて行われた、演説の一部)

 下水道網という、都市に掘られた塹壕から恋文を送る。
 階級の奴隷と化した同志労働者諸君を開放するべく、我々は自分自身を組織化し、歴史に範を取って己を名付けた。
 スパルタカス
 ローマ奴隷反乱の先頭に立ち、蛮人の気高さで戦い抜いた男の生き方を規範として、我々はここからの長い戦いに身を置く。
 それは長く険しい戦いであるが、かの泥濘の中で虫けらのように死んでいった英雄たちを思えば、なんということはない。
 我々が今息をし、闘志をたぎらせて皇帝の玉座を睨みつけていられるのは、全て彼らの奮戦によるものだ。

 私の愛する人は、この足の代理として戦場に赴き、戦い、傷ついた。
 それに報いる手立ては、時を巻き戻し私を真の英雄にする魔法は、何処にもないと虚無主義者どもはほざくだろう。
 しかし、確かに魔法はそこに在る。
 階級闘争が求める歴史的必然が、資本家と帝政の共犯関係を打倒する時。
 皇帝足下の歪な社会体制が粉砕される時。
 労働者がその手で平和な未来へ社会を舵取りし、同胞との友愛によってのみ運営する時。
 かの英雄たちに真実報いうる世界が、我々の前に立ち上る。

 過酷なこの反乱によって、数多の人々が死ぬだろう。
 スパルタカス団はその栄光ではなく、その挫折によって歴史に名を刻まれるかもしれない。
 しかしそれでも、私の動かぬ足を輝ける未来へと継ぐために。
 貴方と貴方の大事な人々が戦った日々を無駄にしないために。
 今こそ労働者諸君、我々の闘争を開始するのだ。

 さらば帝国、さらばドイツ。
 全世界の革命者たちよ、団結せよ。
 今ここに、塹壕から遠く離れた私たちの戦争が始まるのだ。