イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

好きな子がめがねを忘れた:第12話『好きな子と調理実習したかった』感想

 写真に閉じ込められた幼い日から、僕は何処まで進めているのだろうか。
 幼気な嫉妬が調理実習に踊る、好きめがアニメ第12話である。

 三重さんが自分たちの関係にピントを合わせた第9話以来、アニメとしてのクライマックスに向けて、丁寧な加速を続けているこのアニメ。
 今回も同じところで足踏みしているようで、ジリジリ未来へ進んでいる二人のチャーミングな姿が、大変可愛かった。
 三重さんとの恋に出会うまでは何者でもなかったと、ラブコメ主人公が己を振り返るのかなり好みのメタ味だったけども、自分を逆上りできる何者かにしてくれる特別な女の子との思い出を描くのに、Go Hands謹製のキラキラ夕景は良いキャンバスだ。
 勝負どころだけでなく日常空間も、ほぼ同じ塩梅の光輝で満たされてるわけだが、次第に温度を上げてきた少年少女の自意識、それが擦れあって高まる摩擦熱がドラマとして宿ると、なかなかいい感じのパワーが出る。
 こういう噛み合い方を時折するので、”いつものGo Hands”があんま悪目立ちしていないのは、良いマッチングだ。

 ギトついた画風がいい具合にハマるのは、どんどんグツグツ煮詰まっていく自意識を、過剰なモノローグに乗せる変態紳士が主人公だからってのもある。
 今回はイケてる男子が好きな子に急接近して、小村くんの限界自意識がパンッパンに成ってて大変面白かった。
 12話かけてキャラを掴んでいくというか、このアニメ独特の煮詰まり感にチューニングを合わせていった伊藤昌弘の芝居の、一番コッテリして美味しいところをたくさん食べれて良かったな。
 ここ最近小村くんの虚無っぷりが強調されてきてるけども、何にもないからこそ過剰に”三重さん”を脳髄にぶっこみ、世界全部をラブコメ色で塗りつぶす過剰さが、アニメに定着してった強さもあるわけで。
 いまいちキマりきらず鼻血を出すのは相変わらずだけども、思い出も夢も特技も何にもない少年は、好きな子の前ではちょっとだけ特別になれる自分に変化しつつある。
 同時に『三重あいと相対する小村楓』以外の自分を掴めないと、歪な自我発達の果てに好きな子と共倒れにもなりそうで、今回果たした小さな変化は、あくまで長く続いていく道のりの一歩目なんだろうな、という感じ。
 まぁこのアニメ残り一話しかないから、彼氏彼女として支え支えられした先の自分ってのを、掘り下げ描き切る尺は当然ないがな!
 つーか彼氏彼女にお互いを定める、決定的な儀式まで突っ込むかどうかも怪しいよ!!

 そんな足取りを『ゆっくりでも良いよ』と、お互いに照らしながら肯定する仕草も作中、しっかり切り取られている。
 『夢はお父さんのお嫁さん』な時代からどこまで進んできたのか、進路志望に『三重さんのおむこさん』と書いてしまう幼さは未熟と=なのか。
 当人たちもなんとなくしか輪郭を掴めず、ムギュムギュ揉み込んでいるうちにちょっとずつ、なりたい自分と自分たちを見つけていく一歩一歩。
 懐かしくも普遍的な学校行事の風景を、サラリと静かにスケッチしてくれる筆先に、人よりちょっとだけペースが遅く、ヘンテコで可愛らしい主役たちを慈しむ視線が濃いのが、やっぱこのお話の良いところだ。
 二人は恋をするから昔と変わっていくわけだが、しかし恋だけが彼らの価値というわけでもなくて、中学三年生という特別でありきたりな季節の中、とても大事なものを育んでいく。
 その足踏みや背伸び全部をお話が愛でてる感じが、僕はとても好きだ。

 

 今回のエピソードは変わっていくものと変わらないことを、結構複雑な角度で織り合わせながら進んでいく。
 三重さんが『夢はお父さんのお嫁さん』からあまり変わっていなくて、小村くんがお父さんっぽいから好きで、つまりは……という方程式が導き出せるんだけども、脳内を埋め尽くす興奮で手一杯の小村くんは、その答えに気づかない。
 だから手渡されたクッキーの暗号も解けないし、解こうとしない自分たちの停滞に安堵している感じもある。
 何者でもない自分を蔑み、三重さんの至近距離を独占することにどこか後ろめたさを感じつつ、しかしそこが何よりも強く望んだ自分だけの居場所であることを確信している彼は、時は流れ何かが変わっていく定めに、見てみないふりをしている。
 東くん(木村良平の演じるティーンエイジャーに、マジでオレ弱すぎる……)が勇気を出して、憧れのお姉さんとの時間を望む形に定着させようと、必死の背伸びをしていることにも気づけない。
 その精一杯の未熟さも、慈しむべき特別な季節、特有の風だ。

 めがねを忘れた時だけ触れ合いを許される、不確かで曖昧な関係性。
 そこに明確な名前を与えてしまえば何かが変わるだろうし、それに値するだけの己を、思いの外虚無の色が濃い小村くんは認めていない。
 三重さんは既に特別さを確信して、いたずらに特権的に自分と小村くんの気持ちを大事に弄んでいるけど、それが”恋”という額縁に収まって安定するのは、時を待って自然に動き出す瞬間で良いと考えている。
 あるいは小村くんと同じ気恥ずかしさと臆病が、彼らを縫い止め続けているのか。

 その愛しき停滞を、アニメが一旦幕を閉じる最終話どう揺らしてくるのか。
 一気に恋人関係にまで突っ込む雰囲気でもないけど、このままではいられないのだと話数使って暗示もしてきてて、最後に作品が何を選び何を描くか、大変気になる。
 どういう所に落ち着いても、チャーミングな二人を祝福して見終われそうなのは、大変ありがたい。
 次回好きめがアニメ最終回、とっても楽しみです。