イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

星屑テレパス:第1話『彗星エンカウント』感想

 奇人と百合と青春!
 きららアニメの王道ど真ん中に、Studio五組とかおり監督がロケットの如き推進力で強い一発を叩き込む第一話である。
 人間社会に馴染めず、”ここではない何処か”を求めて空を見上げるばかりの女に、突如飛来した超絶アクティブ宇宙人。
 『この設定なら……堂々と女女疑似接吻が敢行できるぜッ!』という天才の発明”おでこパシー”を駆使し、初手から強めのゼロ距離戦闘をブン回してきた。
 内にこもりすぎ&外に開けすぎな宇宙人二人、運命の出会いが元気にブン回りつつ、SEや小物の使い方、テンポよく挟まる可愛いSDなどなど、湿度が高くなりすぎないようまとめる手腕も的確。
 かおり監督らしい手数の多さと横幅の広さで、ポップでチャーミングでありながらも運命力の強い物語が、小気味よくスタートしていた。
 能天気に軽やかに駆け抜けるような場面も、しっとり重たく内面と関係性に潜るカットも、両方異様に上手いので実は盛り沢山な内容&演出がサクサク気軽に食べれてしまうの、一種の魔法だなマジで……。

 

 

 

 

画像は”星屑テレパス”第1話より引用

 というわけでお話は、人間社会に馴染めず宇宙を夢見る主人公が、おでこの触れ合いテレパシーと異様な身体能力を誇るガチ宇宙人と、第三次接近遭遇を果たすことで幕を開けていく。
 僕はきららアニメを、美少女の皮をかぶった奇人珍獣を横から観察するジャンルだと思っているフシがあるが、人付き合い苦手すぎて世界が灰色な海果のイカれっぷりは、十分以上に期待に答えてくれる。
 シリアスに踏み込むと重くなりすぎる彼女の特性を、あくまでコメディの質感で明るく楽しく描きつつ、彼女自身から見た世界がどんな色なのか、しっかり灰色に描く演出……そこに唯一の色彩として、空中を浮遊する可愛いUFOが冴えている。
 当人にとっては極めて重大な課題であり、旗から見てりゃ笑い事な人格のアンバランスは、ドタバタ楽しいガールズコメディを転がしていく大事なエンジンであり、思いの外繊細なバランス感覚なしでは駆動しない物語装置だと思う。
 海果の灰色世界を嘲笑わず、重くなりすぎず描いていく手付きはそういう難しいバランスを24分間、絶妙に維持したまま展開していき、運命的に出会ってしまったユウがどれだけ特別なのかも、見ている側に精妙に理解させていく。

 灰色の世界に怯えて自分を出せない海果の内面に、ユウだけがふれあい理解できる。
 茫漠と形なく、ただただ自分が傷つかぬまま自分でいられる”ここではない何処か”を求めていた灰色の旅は、宇宙人的特権でもって人見知り少女の真実を全部分かってしまえる、特別な女の子との出会いで終わりを告げる。
 少女たちがこれからどんな学園生活を送っていくかはまだまだ不明だが、それが”雨中”に関わるものなのは、『記憶喪失の宇宙人』というユウの設定、あるいは結構ガチめに宇宙知識をため込んでいる海果の描写から見て取れる。
 そんな二人の未来を照らすように、触れ合う前の二人の背後にチャーミングな色合いのUFOが浮かんでいるのが、なかなかに示唆的だ。
 それは”宇宙”を仲立ちに、海果は人見知りによって自分の外側との接点を、ユウは記憶喪失によって自分の内面との繋がりを、それぞれ見失いかけている子どもたちを導くものが、どんな形をしているかをうまく示している。
 過剰にシリアスではなくパステル色にチャーミングで、笑えて軽妙な未確認飛行感情に導かれながら、二人は関係性の宇宙をロケットで飛んでいく。
 距離が近すぎて特別すぎて、だからこそ生まれる特別な想いを燃料にして、キラキラな場所を”手が届く此処”に変えていく旅だ。
 世間一般的には、青春と呼ばれる。

 誰も自分を理解してくれない(つまりは、自分も誰も理解しようとしていない)灰色の孤独の中で、ユウだけがピンク色に眩しい。
 ゼロ距離で触れ合う特別な感覚が、誰にも届かない孤独と恐怖を受け取って隣り合ってくれる運命を教えて、かすかに熱い。
 この麗しいエロティシズムを、下唇にうっすら乗っかったルージュで表現してるキャラデザインの絶妙な艶めかしさ、なかなかに凄い仕事だと思う。
 おでこで繋がる二人の関係はけして清廉潔白でも真っ直ぐでもなく、絶望的なコミュニケーション下手とブンブン飛び回る教室の宇宙人、奇人どうし捻れて絡み合っている。
 吐息が間近に感じられるフィジカルな距離感の中で、灰色のモブには与えられない特別を、自分を見つけてくれることを待ち望んでいた少女は理解していくのだ。
 すがるように伸ばした手がユウの身体に触れ合う瞬間の実在感を、短く鋭くしっかり描き切る筆の確かさが、二次元美少女にかすかな欲望を与えて、パステル色のきらら時空に重力を生んでいる。
 対外的には迷子の宇宙人であるユウが、内面の旅路に迷って極限ぼっちになってしまった海果を見つけ、手を伸ばすという転倒した構図も、なかなか面白いわな。

 

 

 

 

画像は”星屑テレパス”第1話より引用

 距離感近すぎるぶっ飛び宇宙少女との出会いを果たし、トンチキながら特別な関係が構築され転がっていく第一話。
 SDでの崩し演出もめちゃくちゃ可愛くて、『24分で、見ている連中の血中きらら濃度を危険域までハネさせてやる……ッ!』という、制作者たちの殺意がよく伝わってくる。
 いわゆるアニメ美少女然として可愛さもメチャクチャ元気なんだけども、こういうもうちょい頑是ない、普遍的なチャーミングもあらゆる場所で力強くて、人間が生きていく上で必要な栄養素がモリモリと補給されていく実感がある。
 当惑する海果に寄せられう、ユウの頬のぷにぷに感とかアンタ……これ食えば寿命が半年は伸びるって言われとるからね!
 八方破れなSD表現を活用することで、ユウ持ち前の元気さ、それが海果にもたらす救いと喜び、そこに宿っているかすかな陰りもいい具合に強調されていて、かなりメリハリのあるスタートだったと思う。
 崩すところは全力で可愛らしくトロトロ煮込んで、硬い質感にまとめるべきところは基本を抑えて徹底的に。
 無敵の天然天使だと思っていたユウが、実は故郷と記憶を喪失したエトランジェであると分かってくる場面の構図など、バキバキにキマり過ぎてて脳髄痛くなってくる。
 こういう強い演出をサラッと、必要なだけ刺して使い潰せるあたり、クオリティが演出意図を伴ってしっかり、アニメの中で生きてるなぁ、って感じ。
 かなり好みのタイプの『質の良さ』だ。

 最初の接触では灰色の欠落をユウに受け止めてもらった海果だが、エモさ抜群の廃灯台で恩人の秘密を受け止めたときには、かすかな背伸びとともに自分から少女を抱きとめに行く。
 与え満たし救う側に思えたユウにも欠けたものがあり、差し出され助けられる弱者に見えた海果こそが、天真爛漫に人の間を泳いでいるように見えて、誰にも言えない孤独を抱えてきたユウの特別だということが、第1話でしっかりと解る。
 ユウにとってもこの出会いは特別な奇跡であり、海果と手を取り合いおでこを触れ合わせて突っ走る青春の中で、魂のギブ&テイクは公平に成立しているわけだ。
 天使役が一人に固定されておらず、お互いにとってお互いがかけがえのない救いなのだと早い段階から解るのは、お互い様の公平な関係の中でどんどんと特別を育んでいく未来に、期待が持てて良い。

 ここでもフィジカルな質感はさりげなく、的確な扱いでもって描かれていて、ネアカなユウにとっては当たり前の善行だった触れ合いが、ユウにとっては勇気を振り絞って報いる背伸びなのだと、浮いたローファーのかかとでよく分かる。
 ユウの開けっぴろげで前向きな態度は、故郷も記憶もないからこそのやけっぱちであるかもしれず、おどけた態度の恩人にどれだけの悲しみがあるかを、暗い灰色に身をおいていた海果はよく理解できる。
 これまではその恐怖が自分だけの痛みなのだと思いこんでいたから、自分の大気圏の外側へと己を解き放つことをためらってきたわけだが、心と体に真っ直ぐ触れてくれた女の子が教えてくれた色彩に導かれて、海果はユウの重荷を抱きしめ返すことにする。
 それは与えられたものを与え返す、とても人間的な行いだ。
 ポップでテンポが早いきららのリズムを基調にしつつ、要所要所でシリアスな重さや暗さを画面に入れ込む手際が良いからこそ、人生の暗い引力を振りちぎって海果がユウに歩み寄った意味も、『尊い……』とかいう定型句を超えた独自の手触りでもって、しっかりと伝わってくる。
 そういう一歩を踏み出させるだけのぬくもりが、ユウのおでこパシーにはあったわけで、そういうものを手渡されてしまった意味合いを真摯に受け止め、自分を青春惑星に向けてロケットでぶっ飛ばせる程度には、このお話の主人公には積極性と感受性があるのだ。
 そういうモノが、ちゃんと第一話で解るのはとてもいい。

 

 というわけで、女と女が邂逅(であ)っちまい抱擁(だきあ)っちまう第1話でした。
 素晴らしい。
 めちゃくちゃ可愛いし、なにか特別な運命が動き出す強い振動が、画面をビリビリ揺らしてしっかり感じられた。
 このロケット、多分相当高く飛翔(と)ぶよ……。

 この後彼女たちなりの”宇宙”を目指して学園生活していくんだと思うが、その果てに待っているのが迷子をお家に返す離別だって示唆されているの、初手から強いパンチで殴ってきてて良いよね……。
 海果が求めている”ここではない何処か”ってのは、自分を肯定してくれる誰かの隣にしかなく、眼の前のぬくもりに全身全霊己を投げ込むことでしか、”どこか”への脱出など叶いはしない。
 そうやって第一宇宙速度でぶっ飛んでいった先に、灰色に失われてしまった世界を色彩で埋め尽くした果てに、取り戻したからこその別れが待っているって構図は……こら綺麗よ。
 いつか星星の彼方離れ離れになる日へと突っ走っていく、運命の女たち。
 その物語がどう編まれていくか、次回も大変楽しみです。