イマワノキワ

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アークナイツ 冬隠帰路/PERISH IN FROST:第10話『変革 Peril』感想

 封鎖された都市に流れる血が、激闘を描く。
 フロストノヴァという美麗なる絶望の初お目見えと、その脅威に膝を折らないロドス傭兵部隊の奮戦を、大変良い仕上がりでお届けするアークナイツアニメ第10話である。
 原作ではここら辺から物語のギアが上がっていった印象なのだが、その勢いを数倍に、アニメ独自の解釈と表現を交えて、氷の女帝の恐ろしさと美しさを描いてくれた。
 フロストノヴァがどインチキな強さを見せつけるほど、それに負けないロドスの頑張りも際立ってくるので、敵役としてとても良い活かし方だったと思う。
 レユニオンが顔のない均質的な暴徒集団ではなく、凶行に訴えかける理由も事情も願いもそれぞれ違っていて、指揮官と配下ごとに個別の集団……”家族”なのだというメッセージも、チーム一丸となって危機に挑むロドスと照らし合わせることで、よく伝わってきた。
 お互い大事な人がいて、譲れない思いがあって、それでも……だからこそ血みどろに殺し合う世の無常が、テラを薄暗く覆う通奏低音だと思うので、最初は声なき怪物として描かれていたスノーデビル小隊が反撃に傷つき、フロストノヴァ”姉さん”の異変を気遣う人間集団なのだと見えてくる書き方も、この作品らしくて良い。
 断絶と無理解と理不尽に満ちたこの世界で、それでも進み続けるに足りる”家族”を得て……その絆こそが心地よい家の外に立つ他人の事情を、知ったものかと跳ね除ける壁になっていく。
 ヒトがヒトだからこそ生まれる業の渦中に飲み込まれ、なおヒトであろうとするアーミヤと仲間たち、その敵のドラマが、凍てつく氷の中で激しく燃える回でした。

 

 

 

 

画像は”アークナイツ 冬隠帰路/PERISH IN FROST”第10話より引用

 というわけでレユニオン幹部二人が手を組んで絶体絶命かと思いきや、メフィストとフロストノヴァの関係は最悪で、その隙間を縫ってなんとか、たった五人のロドス先遣隊が戦場の伝説、スノーデビル小隊を相手取っていく形に。
 私怨を極めて残酷な形ではらしたいメフィストと、凍りついた理想を追って戦場に立っているフロストノヴァは、そらー相性悪かろうよ……って感じだが、レユニオンに集った連中みんなこんな感じで経歴も思想もバラバラ、それでもタルラのカリスマでなんとか”再統合”してるってのが、よく分かるやり取りだ。
 ”感染者”という共通項一つでは、くくりきれない悲劇と憎悪がそれぞれの胸の中にあって、それでもなお『自分たちはここにいる』と(暴力的に)声を上げ、世界に圧殺されない抵抗勢力として旗を掲げたレユニオンは、感染者支援組織であるロドスと構造的にはよく似ている。
 お互い超国家的な集団であり、マイノリティの生存権獲得のために戦っていて……だからこそ掲げる理念と選び取った手段は真逆だ。
 少年兵であるフロストリーフも、チェルノボーグ富裕層に殺されかけた子どもであるメフィストも、似通った経験をしつつ選んだ道は真逆で、だからお互い殺し合う。
 鏡合わせの光と影を一体、隔てるものは何なのか。
 ミーシャの物語において鮮烈に問われた疑問は、場面と演者を変えて幾度も顔を出していく。

 そんなシャドウの一人がフロストノヴァなのだが……インチキすぎるだろこの強さッ!
 傭兵共がガタガタ震える寒気と恐怖を押し殺し、人間相手の健気な武器で立ち向かっている中、相手さんはボッカンボッカン大爆発だからな……。
 おまけに脇を固めるスノーデビル小隊も、寡黙な戦争機械として的確に任務を遂行し、ボッ立ちでやられるだけではない手強さを有していて、先行偵察部隊は大ピンチである。
 このゲキヤバ状況をどうにか跳ね返す鬼札は、やっぱり我らがアーミヤ代表であり、ケルシー先生に『使わせなよ! 絶対に指輪の力は使わせるなよ!!』と釘さされていても、邪悪なオーラをぶっ放して白ウサギに対抗していくしかない。
 フロストノヴァのインチキっぷりがよく描かれていたので、それに対抗できるアーミヤの規格外な才能……運命に選ばれ翻弄される主人公としての条件が分かりやすいのは、良い描き方だなと思う。

 アーミヤの反撃のみがスノーデビル小隊に手傷を追わせれるわけだが、ここまで顔も見えず声も出さない怪物だった彼らの冷たさが、ここらへんから溶けていく。
 冷酷に獲物を見据えていたフロストノヴァも、攻撃の手を緩めて傷ついた家族を見つめる。
 取り巻きを人壁に使って不意打ちを防いでいたメフィストに対し、フロストノヴァは側近が障壁を貼って(自分の意志で)彼女を守っている描写があり、幹部とその配下がどういう関係なのか、闘争の中で描き分けている印象だ。
 仲間を見捨てず思いやる美質は、恐怖に囚われたジェシカを暗黒ママ力で癒やし、誰も見捨てず戦い続けるロドスと同じであり、しかしスノーデビルと主役達は生きるか死ぬかの激闘を繰り広げている。
 同じはずなのに敵対し、殺し合っているのに共通点がある。
 闘争という、最も人間的な営為の中で、矛盾とも不可思議とも取れる重なり合い、すれ違いが画面に刻まれていく。

 

 

 

画像は”アークナイツ 冬隠帰路/PERISH IN FROST”第10話より引用

 今回は戦いの遠近法がよく制御されていた回で、強大な力を持ちど派手な破壊を撒き散らす描写と、弱くちっぽけな……だからこそ命の本質に近づいていく人間の描写が、いいバランスで配置されていた。
 一見破壊の権化のように思えるフロストノヴァも、対手の奮戦に感じ入る心だとか、力の過剰な使い方で崩れ落ちたりだとか、既に脆さや柔らかさ……”人間らしさ”を激闘の中で見せている。
 じゃじゃ馬娘を心配する、人類最強パパンもいるしね……そんなにロボ喋りだったんスねパトリオットさん。
 同時に子守唄とともに全てを凍りつかせる戦場の女神として、圧倒的な絶望を叩きつけてくる底知れなさもしっかり描かれていて、この巨大さと小ささが同居するのが、フロストノヴァという人物なのだ。

 そんな彼女を”姉さん”と呼び、戦闘機械としての役目を果たせなくなっても寄り添ってくれる存在が、顔の見えない脅威の中にもあって、つくづくロドスは”人間”相手に戦っている事実がよく見える。
 レユニオン参加者が仮面を被るのは、個性を消した巨大な力のうねりとして”再統合”を果たし、感染者を踏みにじる世界に一石を投じる戦略的理由と同時に、ちっぽけな個人だからこそ背負える尊厳や責任から逃れ、匿名無名の暴力装置へと己を変じる心理効果を求めてだと思う。
 そういう鎧で個性を削った集団を相手取っていると、シンプルな善悪で物語を塗り分けてしまいかねないが、個別の痛みや祈りや呪いがあればこそ、顔のない怪物になろうとした”人間”を相手取っている事実を、このお話は幾度も思い出させる。
 人間ならば言葉で事態を解決できるだろうという、理性的な期待を加熱した状況は常に裏切り、人間だからこそ言葉の通じぬ獣にもなり、家族がいればこそ敵に冷酷になれる業も、激突の中で照らされていく。

 血みどろに傷つきながらも、氷使いとしての意地、命を守るために命を使う覚悟を叩きつけるフロストリーフも、そんな彼女を見捨てず背負うメテオリーテも、”人間”だからこそ尊く強い。
 そしてその強さは主人公たちの専売特許ではなく、自分たちを追い詰める敵にも共通で、鏡合わせの獣たちが噛みつき合っている状況を、廃棄都市の激戦はシャープに削り出していく。
 フロストリーフが流す凍てついた血は、石を持って差別者たちに追われたファウスがかつて流したそれであり、あるいは戦場の伝説となったスノーデビル小隊が、数多の敵から搾り取ったものでもある。
 暴力と犠牲はあらゆる人に平等であり、その事実を自分を殺したブルジョワどもに突きつけるべく、メフィストは死体の旗を高く掲げた。
 正義、善、美……主人公を飾る美しい輝き思えるものは、乗り越えるべきどす黒い闇の中にもあって、では他人を守るものと傷つけるものを隔てるのは、一体何なのか。
 激しい闘いの中、的確に重ね合わされる問いかけの答えを、これからの物語は追いかけることになる。

 

 

 

画像は”アークナイツ 冬隠帰路/PERISH IN FROST”第10話より引用

 凍てつく死闘を乗り越えて、戦士は子どもの顔で毛布にくるまる。
 殿として死を覚悟したフロストリーフが、こういう頑是ない表情で生き延びたのも、そんな彼女に命を助けられたメテオリーテが、心底安心した顔で目覚めを見守っているのもマジでいい。
 フロストリーフはここで見せているのが”素顔”で、優しくされることに慣れてない様子含めてごくごく普通のガキなんだと思うが、こういうのを艦内学校でのんびり過ごさせるのではなく、苛烈極まる偵察任務に引っ張り出さにゃならんところに、ロドスの無常があるわいな。
 アーミヤ代表もそうだけど、テラはガキどもがガキのまんまのんきに生きる当たり前の幸せを、全然許してくれない厳しさがあり、なおかつガキどもはフツーに可愛い顔をしてくるので、体が軋んで爆発しそうになる。
 サービスが続く限り闘争も続いて、鉱石病も差別も紛争もなんもかんもなくなり、皆が安楽に暮らすハッピーエンドが訪れないって約束されてる(どころか、惑星規模の災厄がまだまだ山盛りあると示唆されてる)のは、背景世界の厳しさっすわ……。
 その暗く重い引力はニヒリズムに酔うためではなく、それを振りちぎって生きる”人間”書くためにあるんだというのが、凍てつく血しぶきに負けなかったフロストリーフに、こういう顔させたことでよく解った回だった。

 そして、戦いは続く。
 生々しい冷たさが画面から伝わってくる激戦を乗り越え、一息つける……かと思いきや、タルラはその大剣に炎を灯す。
 レユニオン首魁の意思は集団へと燃え移り、龍門が燃える。
 廃墟都市の攻防を囮にすることで、龍門奪取という本命を上手く隠蔽したレユニオンの次なる一手は、何を砕き何を焼くのか。
 『ほのぼの日常とかはヨソで食ってくんな!』と言わんばかりの、ハードで重たいロドスの”仕事”を追いかけるアニメは、まだまだ続きます。
 次回も楽しみですね。