イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ウマ娘 プリティーダービー Season3:第2話『スタートライン』感想

 挫折と孤独と絶望と、黒い嵐に翻弄された先に待っていた暖かな光。
 『私は私』と掴み取った決意を胸に、今キタサンブラック号の伝説が始まる。
 序盤にして主人公は容赦なくドン曇り、競走馬の一生は栄光時々大嵐な、ウマ娘アニメ三期第2話である。

 

 前回圧倒的な存在感を見せたドゥラメンテを壁役に、キタちゃんの苦悩と再起を描くエピソードとなった。
 山あり谷ありの王道スポ根を、史実への敬意を織り交ぜて描くウマ娘スタイルがこの話数から全開で、容赦なく曇らせることで勝利の輝きが眩しい、このアニメらしい明暗の描き方が気持ちよかった。
 二期では観客席で主役に憧れる側だった少女が、主人公として自分の道をひた走る三期。
 自分をここまで引っ張ってきた憧れを一度打ち捨てて、どす黒い感情も含めて自分自身を掴むという、思春期に必要な迷い道をとても丁寧に描いていたのが、”娘”の話として凄く良かった。
 回想シーンのひたむきでがむしゃらな姿から見て分かる通り、キタちゃんはとても心が熱くて綺麗な子だ。
 だからライバルの挫折を喜ぶような、汚い自分と直面したらどうしたら良いのか分からなくなって、苦しむし迷う。
 しかしそういう自分もまた自分なのだと、受け入れ受け止めて力に変えていくことこそが成長なのであり、一人では成し遂げられない自己受容に、思わぬ助け舟が出たのも大変良かった。

 まだまだ二話、テイオーという鬼札を切るには早いタイミングではあるのだが、ネイチャお姉さんの描き方は”代打”というにはあまりに眩しすぎ、二期で彼女が見せた輝きの先を感じさせてもくれ、ある意味二期アフターストーリー的な味わいがあった。
 所属チームだけが主役の助けになるわけではなく、ライバルなはずのカノープス(相変わらずワチャワチャしてて可愛い)から、人生初の大嵐を乗り越える助力が差し伸べられるのも、話が狭く縮こまらなくて良かったと思う。
 答えを見つけて挑む菊花賞の描き方も迫力があり、大胆に下方向への圧力をかけたからこそ生まれる圧倒的なカタルシスこそが、この物語最大の魅力だと分からせる力があった。
 そしてこの勝利は栄光の終わりではなく伝説の始まりであって、最高の手応えでバシッとエピソードタイトルが決まる見せ方と合わせて、ここから続いていく物語への期待をグワッと高めてもくれた。
 第1話と合わせて、大変良いキタサンブラック物語、序章完結でした。

 

 というわけで大きく下げて大きく上げる、高低差のあるエピソード。
 第1話では見えきらなかったキタちゃんのキャラクターを、その原点と内面に深く切り込んでいく構成は、主役の人となり、そこから伸びていく物語の全体像を把握するのに、とても良い助けだった。
 やっぱ細かい仕草が生き生きと可愛らしくて、テイオーのデビュー戦から魅了され、憧れ追いかけて自分なり必死に走ってきた様子が、ググッと胸に迫る。
 最強のアイドルホースがどれだけ泥臭い努力を積み上げ、涙と痛みを練り上げて伝説を作り上げてきたかは、二期の物語に詳しい。
 トウカイテイオー伝説の内側に切り込んだのとはまた別の、彼女を憧れの星として追いかける側から何が見えていたのかが、今回の回想には濃く滲んでいた。
 こういう感じで二期の補足をやってくれるのは、あのアニメが大好きなファンとしては大変嬉しいものであり、あの時描かれた戦いから数年先の激闘を描く三期との繋がりを、分厚く感じる手助けもしてくれる。

 テイオーさんのように、圧倒的な高みを駆け抜けるスターホース
 キタちゃんがなりたかった自己像は、ドゥラメンテの圧倒的な走りを間近に見て打ち砕かれて、その残骸がズタズタに心を引き裂いていく。
 現実を叩きつけられて弱った心は、黒いノイズばかりを世界からも自分からも拾い上げるようになって、キタちゃんは持ち前の真っ直ぐな前向きさ、眩しい輝きを失っていってしまう。
 ドゥラメンテ欠場の報を聞き、四方八方に惑う耳でもって主役の混迷を描く演出は、動物であり少女でもある”ウマ娘”だからこその見せ方で、とても良かった。
 やっぱお耳が感情表出器官として凄く優秀で、良い演出貰ってるの好きだなぁ……可愛いし、動物擬人化アニメらしいと思う。

 

 自分が天高く輝く星ではなく、泥に塗れる凡人だと思い知った痛みに、心の底から湧き上がる黒い感情が追い打ちをかける。
 無垢で幼い頃には出会わなかった、自分の知らない自分に出会ってしまう怖さがよく描かれていて、今回は思春期を描く物語として凄く良かった。
 この無明に誰が手を差し出すのか、配役に注目しながら見ていたわけだが……まさかまさかのナイスネイチャ、選ばれてみればこの人しかいないという活かし方で、メチャクチャハマってた。
 ネイチャを解決役に選ぶことで、彼女が所属するカノープスも自然とカメラに写せるし、『あの可愛い子たち早く出せよ!』と暴れてた俺の中の獣も、大満足の采配でした。
 やっぱカノープス可愛いなぁ……夕日のターフで課外授業、元気に手を伸ばすターボ見れて、マジありがたかった。

 テイオー不在の菊花賞に、どれだけの意地と誇りを持ち込んでネイチャが挑んだのか。
 それを僕は既に見ているから、似通った状況に苦しむ後輩に手を差し伸べる姿に成長を感じるし、自分ひとりでは抜け出せない迷い道を導いてくれるありがたさも強い。
 自分が泥に塗れ苦しんだ体験から得た宝を、隣に寄り添って手渡してくれる人ほど得難いものもなく、ネイチャがそういう人に成ったのだと描いてくれて、とても嬉しかった。
 勝ちだけ見据えるなら手助けしなくて良い後輩に、わざわざおせっかいを焼くネイチャをこの話数で描くことで、小さい勝ち負けよりもっと大きなものを追いかけるのが”ウマ娘”なのだと、爽やかに例示できた感じもある。
 メチャクチャ真っ当にいい話なんだけども、『苦ッ!』なお茶で一笑い作ることで臭みを消して、素直にその尊さを飲み込める味に仕上げているの、上手いなぁと思った。
 涙あり笑いありの本気の人生だからこそ、必ず生まれる滋味ある笑いをうまーく場面に盛り込んで、過剰に張り詰めさせず描いていく手際、やっぱこのシリーズの強みだと感じるね。

 勝利へのアシストをネイチャに譲りつつ、スピカの先輩たちがむっちゃキタちゃん心配している様子もかなり丁寧に書かれていて、身内を他人に任せきりにする冷たさがなかったのも良かった。
 この後も色んな苦難がキタちゃんを襲うわけで、ホームとなるスピカがあったけぇ場所じゃなければ、その厳しさは乗り越えられない。
 凡人だからこその苦しみを知るネイチャにここ一番を任せつつ、スピカの株を落とさないよう気を配った描写をしてくれて、凄く良かったです。
 デカい故障を経験してるスズカとマックイーンが”大事故”を気にかけてたり、一期ほど前には出なくなったけど沖野トレーナーが〆る所を〆てたり、細かいところで欲しい描写がしっかり刺さり、主役チームに親しみと頼もしさを感じられました。
 まースピカとテイオーがデカい仕事をするのは、もうちょい先になるのだろう……今回のキタちゃんの苦しみ方を見てると、そんな日キてほしくないけども、まぁこの話”ウマ娘”だかんね!(来るべき嵐に備え、心のシェルター建造に勤しむ視聴者)

 

 かくして迎えた菊花賞ドゥラメンテ不在ながら強敵とのギリギリのせめぎあいを制し、キタサンブラック初のG1制覇である。
 2023年から振り返ってその戦績を見れば、どこに出しても恥ずかしくない……どころか競馬史上に燦然と輝く圧倒的な実績なんだけども、時計の針を2015年に戻してみれば、三歳のキタサンブラックはまだ海の物とも山の物ともつかぬルーキー。
 皐月賞の勝ちきれない三着、ダービーでは大きく遅れを取っての十四着。
 デカい勝負で結果を出せなかった後の英雄が、初めて掴む”G1”の金看板。

 これを『スタートライン』とするのは、迷いに迷って自分を見つけた成長の証であると同時に、この後待ち受けるG1七勝の伝説を予告する、とても良いサブタイトルだと思う。
 道に迷っていたときは暗い孤独しか見えていなかった視界が拓け、自分を応援してくれる地元の人達がようやく目に入って、まっすぐに過去の努力を、今の自分を、輝く未来を見据えたところでのタイトル・インは、序章に必要な満足感と期待感を、最高の形で両立させていた。
 あの〆はマージで気持ちよかった……欲しい所にズバッと入る演出、マジ最高。
 『ウマ娘三期は、この子を主役にこういう話をやっていきますよ!』というテストケースを、こういう仕上がりでしっかり届けられたのは、1クールの物語が望める最高の滑り出しだったと思います。

 

 

 というわけで、大変良い第二話でした。
 三期+外伝数作、『ウマ娘のアニメ』が何を成し遂げてきたのか、ファンからの期待と信頼があればこそ可能な、主人公をどん底まで追い込む早仕掛けが上手くハマり、しっかりと人間の暗い部分に向き合ったからこそ嘘なく輝く、若き魂の眩しさが鮮烈でした。
 ネイチャお姉さんの助け舟も素晴らしく、二期から受け継ぎ続いていくモノを豊かに感じられて、このアニメがもってる豊かなポテンシャルを、最大限見せつけるエピソードでした。

 この勝利を皮切りに、キタサンブラックの栄光と挫折はより熱く、より速く疾走っていく。
 僕らが知っている結末を、僕らが知らないドラマと語り口でどう描ききってくれるのか。
 ウマ娘三期、高まった期待にしっかり答えてくれそうで、大変嬉しいですね。
 次回も楽しみです!