イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アークナイツ 冬隠帰路/PERISH IN FROST:第11話『呼応 Conceal』感想

 苦境のアーミヤ達を廃都市に置き去りにした、龍門近衛局。
 法と秩序の万人は、どんな痛みを噛み砕いて戦っているのかを描く、アークナイツアニメ第11話である。

 ここまではあくまでロドス視点、アーミヤ視点で展開して輪郭しか見えてこなかったチェンと近衛局が、一話まるごと貰って己を語るエピソードである。
 不鮮明な他者、理解不能な異物に思えたものに主役との共通点があり、物語を通して人間味を感じられる……という話運びは、前回のスノーデビル小隊にも通じるかもしれない。
 極めて過酷な世界観と、そこを必死に生きているキャラクターの輪郭を描き終わり、その周辺にあるもの、それぞれの事情と理念を抱えて戦う人たちへ、画角を広げられるようになった。
 そういう作品の変化を、チェン隊長と仲間たちの奮戦を通して描くエピソードでした。

 

 

 

画像は”アークナイツ 冬隠帰路/PERISH IN FROST”第11話より引用

 というわけで動く! 喋る! 龍門近衛局!!
 Yostar Picturesが原作を解釈し再構築する技前の凄さに、初プレイ時の感動が蘇ってくるのと、『え、そんな顔と調子でやり取りしてたの!?』という驚きが驚きが同時にせり上がってきて、まさにアニメ化の醍醐味を堪能した。
 ゲームという一人称的な体験を、アニメという三人称的な作品に作り直すのは視聴者が想像しているより大変なことだろうけども、やり遂げてくれるとこういう喜びがあるので、つくづくありがたいことだ。
 アークナイツは色々と複雑で全体像を飲み干せないまま、分かったつもりで噛み砕いてる部分が結構ある。
 なので、アニメ化という形で適切な再解釈を施され、食べやすくなってもう一度向き合うチャンスがあるのは、”原作そのまま”とはまた違ったアニメ化の嬉しさよね。
 ……ここら辺、ジョジョのアニメ化でも感じたなぁ。

 さておき、これまでカメラが内側に入ることのなかったロドス協力者。
 ツンデレお嬢がギャーギャーわめき女丈夫が後ろを支え、切れ者が先頭に立つ基本形を、保っていられない情勢が激しく燃える。
 一話で三回気絶に追い込まれ、体を張って龍門の平和を守る近衛局の仕事の厳しさ、激しさをしっかりと描かれることで、これまでアーミヤ視点で感じ取れたチェンの厳しさ、優しさがどこから来ているのか、答え合わせをしている感じもある。
 組織の代表として協力者に向き合っている時、必死に伸ばしている背筋が身内の前では震え、それを支えてもらえるからこそ仲間でもある。
 そういう親しみと頼もしさが、スワイヤーやホシグマと仲良く過ごし、あるいは協力者の死やレユニオンとの激戦に激しく燃えるのは、見ていて楽しい。

 

 ロドスの仕事が成功を約束された”正義の味方”ではないように、近衛局の任務も感染者差別や複雑怪奇な政治となんとか付き合い、譲れぬものを守り切る為に時に傷つく、過酷な任務だ。
 チェンの隣りにいるときは穏やかで鷹揚な態度を崩さないチェンが、昔なじみが命を燃やす現場でその仮面を崩し、生身の脆さを一瞬見せる場面が印象的だった。
 そういう弱さが彼女の全部では当然なく、巨大すぎる瓦礫を生身で押しのける鬼の怪力を見せつけて、隊長の危機を乗り越えたりもする。
 隣り合う、あるいは向き合う相手が”人間”である以上、事態には常に複雑怪奇な事情と感情が絡み、それでもなお靭やかに背中を支えるものがあればこそ、戦い続けることも出来る。
 ロドス以外にもこのテラにはそういう個人と集団が……敵の中にすらあると示してくるのは、二期特有の視点かなー。

 打ち捨てられた懐かしき家に、かすかに残った思い出の残滓。
 そこで微笑む少女たちに何があって、チェンは命がけの現場に立ち続けているのか。
 そこら辺はレユニオン事変がより加熱し、謎めいたタルラの真実が白日にさらされた時に見えてくる部分ではある。
 今は彼女が秩序遂行の機械ではなく、人間だからこその痛みと笑顔と日常を全部ひっくるめて抱え、遠いバカンスを日常の残骸に夢見て剣を取っているのだと、正確にスケッチするターンなのだろう。
 近衛局隊長の長い一日がどんなもので、そこで彼女がどんな表情を見せるのか。
 焦ることなく丁寧に見せてくれるおかげで、難しい天秤の上で常時厳しい決断を強いられている彼女に、なぜ人がついてくるのかにも納得がいく。
 チェンが(アーミヤと同じく)悩める主体の一人であり、常に自分の選択は間違いではなかったのかと問い続け、それでも歩みを止めない人なのだと描かれることで、ロドスの外にも志を同じくする仲間がいて、孤独ではないと思えるのも良い。

 密偵が近衛局に身を寄せるしかなかった事情を思えば、感染者対応においてロドスと近衛局が完全に同じ道を歩くのもまた難しいわけだが、それでも道は重なっているのだと……それぞれの持ち場で肩を寄せ合い、死地を譲らぬ戦士がいるのだと、今回のエピソードは語っている。
 近衛局本部奪還へと、隊長以下進み出す戦士たちの死闘に、ロドスもまた馳せ参じるだろう。
 感染者への差別を、荒れ狂う嵐となって世界を飲み込むことで跳ね返す道を選んだレユニオンに、正しくはないと告げる手段もまた、暴力を伴うしかない。
 ならばせめて、軽んじられてはいけない命の重さを知った上で使い所を探す者たちが、握った剣の行く末を決めれる未来を。
 その理想を貫く難しさも描き流れ、物語は続く。
 次回も楽しみです。