イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

豚のレバーは加熱しろ:第3話『推しにガチ恋してはならない』感想

 少女に迫る黒い影……豚といえども豚だからこそ、今立ち上がる時!
 転生豚と奴隷少女の異世界二人三脚物語、豚のレバーにナイフがぶっ刺さる第3話である。
 祭りから抜け出すミッションは結構スルッと攻略したが、その帰り道で出会っちゃったガチの殺意に豚が勇気を絞り出し、愛する少女のために短い足で必死に頑張る話であった。
 何しろ剣も握れぬ豚なので、問題の解決手段が知恵と泥臭い頑張りになるのは見てて気持ちよく、フツーの転生少年がスペシャルな力貰って主役張るより、僕の性にはあっている。
 ジャンルの極北を突っ走る魔球に見えて、純情青春物語のど真ん中に力強く己を投げ込む、真っ直ぐなお話であると解ってきて、なかなか好きになってきた。
 ジェスとの純情満載な繋がりもどこか懐かしい味がして、『何も出来ねぇ豚だからこそ、自分に優しくしてくれた美少女のために死にたい』という全ヒョロガリクソメガネ共通の野望も叶えてくれて、豚はとても程よい”願望の乗り物”だと思う。
 エンタメにおいて、主人公がその仕事をしっかり果たすというのはとても大事だ。
 見ててしてほしくないことしないというか、セクハラ要素もいい具合にブレーキ効かせて熱血純情で押し流してくれるし、食べやすい話よなぁ……豚だけに。

 

 話の流れはダンスと知略で人間を操り、首輪を外したはいいものの愛しの美少女を狙うガチの殺意に行きあって、震えながらも勇気を振り絞り豚が男を見せるのだ……って感じ。
 この話の豚は、ブルブル震えつつもいざとなるとヤれる頼れる豚なので、グジグジ悩んで状況が停滞しないのは大変いい。
 自虐の割に頭も切れ度胸もあるので、ジェスにお世話されていなくても自力で運命の扉をこじ開けていくタフさもあるし、愛のため負傷をおして走る気合もある。
 そんな主人公の活躍をお膳立てするべく、作品世界がちいと都合いい安さに流れている感じもあるが……ここらへんはジャンルのお約束と飲み込む部分か。
 未だ片鱗しか見えないイェスマ差別の真相、今回牙むいてきたイェスマ狩りの目的なんかが暴かれて、どんだけヒロインに都合の悪い過酷な世界か描かれてくると、ここら辺の補正が相殺されて気にならなくなる……かなぁ?
 今回の修羅場を無事生き延び、王都への長い旅に本格的に漕ぎ出した後で、豚がどういう主人公っぷり、それを際立たせる試練に出会っていくかで、当然作品の味は変わっていくと思う。
 主人公もヒロインも、俺好みの素直な造形(豚であることを除く……って言いたいところだけど、豚さん可愛いから豚なのも好き)しとるので、そのポテンシャルを活かす感じで話転がしていって欲しい。

 凶賊を前にしてもジェスの所有者は大きく動く気配がないし、ジェス自身も相手を殺してでも生き延びる気概を見せなかったので、社会の中にその殺害をひっくるめたイェスマ差別は、”常識”として組み込まれてしまっているのだと思う。
 豚が正しく恩義を感じそれに報いた、人と人の温かな繋がりをこの異世界は保証してくれないし、それに『おかしいだろッ! 狂ってんのかッ!!』と叫ぶ権利と異質性を、現代社会からの転生者である豚は有している。
 世界はあまりに美少女に厳しく、豚だけが彼女の真の味方で要られる特別さを、今回描かれたたった二人の生存闘争は予期し、強調している。
 どう見ても死出の旅オーラを漂わせている王都行き、旅立つ前から血なまぐさいが……さてはてどう転がっていくのか。

 第3話のこの段階で、豚がジェスにべた惚れなこと、そうなるのもしょうがねぇくらいジェスが優しく正しい存在であることは、今後話を支える柱として、自分としては重要視してるポイントだ。
 刃を見れば当然震える現代人の臆病と、それを乗り越えてジェスだけのヒーローになりたい願いが豚にあること(松岡くんのモノローグでもって、それが前面に押し出されていること)は、変化球に見えて王道青春物語なこのお話のエンジンとして、とても大事だと思う。
 今回はその真っ直ぐな勢いが、試練を前に濃く煮出されていて大変良かった。
 色々変態的な妄想をだだ漏れにするのもサービス程度の話で、ガチで生き死に賭かった現場でマヌケするタイプじゃないのも、見てて安心できるポイント。
 豚は豚なので思う存分スケベ……なんだけども、程よく制御されたスケベっぷりなのよね。
 これまでもその片鱗は見せていたが、豚の短い足でも困難に立ち向かえるだけの知恵と勇気を持っているわけで、主役が主役であるためのオーソドックスな資質は、かなり手堅く揃っているのが良いと思う。
 そこに一滴、”豚”というオーソドックスじゃないスパイスが効いていることで、作品独自の面白さも出てるしね。

 イェスマが読心種族であることで、豚の外見に囚われずピュアで熱い心、真っ直ぐに自分を信じ愛してくれる本心を素直に受け取り、愛し返してくれるコミュニケーションが既に成立しているのも面白い。
 豚と被差別エスパー、世界に石投げられる二人の間だけでは、物語も序盤のこのタイミングで既に、揺るがない真実が成立しているのだ。
 実際豚は愛されるに足りるだけの気持ちも行動もしっかり備えているし、下品を装いつつ愛に生きるピュアピッグなので、異世界美少女の慕われても『まぁ……スゲー豚だしコイツ……』となるしな。
 しかし愛に向かって一直線駆け出してしまうと、お話は美味しい迷走を生み出してはくれないわけで、豚のひねくれた自意識はジェスの愛に向き合いきれない壁として、今後いい仕事をするのだろう。
 『しょせん豚だし……』と己を卑下する主人公に、真っ直ぐアプローチを仕掛ける美少女ヒロインという構図も、まーオーソドックスよね。
 片方豚だけどねッ!!

 

 というわけで、なんの力も持たない主人公が愛する少女のため、知恵と勇気を振り絞り戦うエピソードでした。
 要素を抽出するとメチャクチャ王道なんだが、やっぱ”豚”の一点で面白くなってるな……。
 僕は真っ直ぐなお話大好きなので、選び取ったヘンテコ要素に引っ張られすぎず王道邁進してくれるのは嬉しいし、豚が豚であることで生まれる面白さも活かしてくれてて、なかなかいい感じです。
 『イェスマがイェスマであることが、この異世界においてどんな意味を持つのか』は、今回の厄介ごとの根っこなんだけども、やっぱりなかなか全体を見せない感じ。
 このミステリをどういう塩梅で暴いて、その過程で熱い血流れるパワフルな豚の主人公力を、どんだけ気持ちよく見せてくれるか。
 序章も終わり、本格的に王都へ旅立つ物語の行方が楽しみです!