凄腕メカニックを仲間に加えるため、かつて差し出せなかった真心を届けるため。
人見知り少女が海辺のロケット決闘に挑む、星屑テレパス第4話である。
地下の秘密基地を見つけたり、三人デートではしゃいだり。
きらら原作らしいピカピカ可愛い場面もありつつ、三人で瞬に勝つために力を合わせて新作作る様子や、意固地で頑なな瞬の現状や、気持ちを込めたロケットがその壁をぶち抜いていく瞬間が、眩しく描かれていた。
僕は瞬がアタリ激しくツッコんで、作品全体に漂いかけていた主人公甘やかしの空気ぶち壊しにしてくれたの結構感謝しているのだが、そんな彼女が狭く暗い場所に閉じこもりかけていた所を、海果と仲間たちの歩み寄りが舵を変えさせた描写、とても良かった。
海果にとっても中学時代のリベンジ、前回流した涙からの一歩目で大事な回なのだが、ツンツン尖っているようで誰より自分を理解してくれる誰かを求めていた瞬が、そんな”誰か”と出会えたこと、そこから発するメッセージに自分を開いたのが、凄く意味あることだと思う。
勝ち負けで言えばルールの穴を突いた瞬の”勝ち”なんだけども、聞き及んでいた瞬の”好き”を機体に刻んだ海果のメッセージは目的を果たして、凄腕メカニックは学校へと足を進め、三人と肩を並べる道を選ぶ。
一人ではないことが瞬に、今まで得られなかった何かを与えてくれそうな眩さ、暖かさは既にしっかり予感されていて、ツンデレが情の引力に負けたこの選択が、どっかいい場所への道を拓いてくれるのだと、見ている側も信じられる。
ここら辺、闇と背中合わせの光、閉ざされた場所の開放、ロケットで突き抜ける爽快な突破力と、エピソードを貫通して描かれ続けるモチーフがしっかり生きて、成り立ってる演出だなと思う。
海果と瞬の関係性に一つの決着がつくだけでなく、それが良い場所にたどり着くよう補助してくれた二人を交えて、もっといい場所へと進み出せる期待と予感。
これが第4話というタイミングで作品にあると、残りの話数で何を作り上げどこまでたどり着いてくれるか、奥行きのある楽しさを抱くことも出来る。
それは1クールの物語と歩調を合わせる上で、とても大事なことだ。
前回瞬の閉ざされた心、そこに奇妙に重なる海果の現状と思いを上手く削り出していたガレージと灯台の明暗は、話数をまたいでも健在である。
遥乃の差し出した明かりと鍵は暖かく二人を導き、よりワクワクする新しい可能性を眼の前に広げていく。
未知の可能性を前に、ユウは眼をキラキラせながら扉へ前のめりに飛びつき、海果はおっかなびっくり距離を取っているのが、彼女たちの現状スケッチとしてとても良い。
善き可能性も悪しき予感も、両方封じられたパンドラの箱を開ける勇気はまだ海果には遠く、あくまで舳先に立つのはアクティブな宇宙人だ。
しかし共に進むことで、知らなかった……でも求めていた楽しい場所へ道が開けて、一緒に笑い合うことも出来る。
それを導く光として、遥乃の持ったランタンがとても暖かく、優しく、眩しく演出されていたのもとても良かった。
この温もりある暖色は、たった一人ガレージの中でロケットを作る瞬と、彼女を照らす冷光と対比されて、はぴはぴデート三昧なきららガールズと対照的に描かれる。
扉が閉ざされてなお、闇に漏れ出る暖かな光は少し表現を変えて、最高ハッピーな買い出しデートで眩しく瞬く。
(まだ)友達じゃない瞬は当然そこに混ざらず、画面の端っこに見えるオレンジ色の温もりを拒絶して、頑なで暗いものに向き合い続ける。
何かを勝手に決めつける暴力性に、傷ついてこの暗がりに追い詰められているはずなのに、同じモノ握りしめて他人を傷つけている瞬の現状は、やっぱり良くない。
ここを突破して瞬をガレージの外、暖かな温もりのそばに引っ張り出す行為は、同時に海果には言いたいことが言えない自分とのリベンジマッチであり、かなり強めの感情で繋がってる気になる女の子と、もう一度新しく始めるための試練でもある。
僕はこのお話、結構重たくて暗い味わいをしっかり扱っているところが好きだ。
前回ラストで海果が見せた涙は、望む自分に届かず”ここではない何処か”に逃避する己を、それでも変えたいのだという切実な叫びに満ちていた。
そういう苦くて痛いモノも、カラフルな髪したフワフワ美少女には当然あって、だからこそ友達との幸せで暖かな時間や、それに助けられてなりたい自分に近づいていく歩みや、絶えることのない笑い声が大切なのだ。
そんな明暗を可視化するべく、色んな光と闇が書き分けられているこのアニメの絵筆は、描きたいもの、描くべきものを適切に切り取ってて、やっぱいいなと思う。
ロケットが切り裂く青い空と太陽、情感を宿した茜色の夕暮れ、未来への道を示すランタンのオレンジ、孤独を照らす作業灯の冷光。
どれも違う色合いで、同じ青春の中に確かにあって、闇の中にあって眩しい。
決戦は陰りのない白昼の海辺で行われ、飛び交うロケットは今回も力強く、鮮烈で、皆が見上げる希望の象徴として描かれている。
これは勝敗がかかっている”敵”のロケットにも同じで、思いを込めた自分のロケットにも、レギュレーション違反の瞬のロケットにも、海果は顔を上げて手を伸ばし、瞳を輝かせる。
天空へと飛翔するエネルギーの塊が持っている、根本的なパワフルさを凄く肯定的に描き続けて、瞬間瞬間何かが変わっていく青春という舞台としっかり噛み合わせて、題材を活かしているのは凄く好きだ。
瞬は『自分を利用しようとしてる』と思い込んだ相手を負かせるために、対等の条件からはみ出して”勝てる”ロケットを作る。(これは瞬が三人に欠けている現実感覚、注意深く状況を見通す冷静さを備えていると示す場面でもあるので、そこまでズルとは感じなかった)
海果はガレージ扉越しの語らいで受け取った、瞬の”好き”を機体に刻んで、勝ち負けを超えたところに届くよう思いを込めている。
宇宙人の異能で心が通じ合わない人間達は、お互いの願いや考えを無条件に読み解くとは出来ず、不器用にすれ違う。
しかしだからこそ相手に届くメッセージを発すること、そこに目を開くことは大事で、価値がある。
水平にカッ飛ぶ海果のロケットとは、別の軸にぶっ飛んでいく瞬のロケットは、ここで実際に顔を合わせるまで瞬が縛られていた、思い込みの強さを形にしている。
ルールの穴を探り、相手を屈服させるために、遠ざけるために作られたディスコミュニケーションの道具。
しかしその飛翔に海果は大きく目を見開き、それと競うために作ったロケットに刻んだ『あなたの”好き”を、私は大切にします』というメッセージは、確かに瞬の目を開かせる。
ユウのバックアップを受けつつ、届けるべき言葉を自分で届けることに遂に成功した海果の歩み寄りは、瞬が傷つきやすい己を守るべく作り上げた、トゲトゲの鎧を武装解除させる。
ここで瞬が、ゴーグルを装着することで目をそらしていたものに向き合う描写が、凄く良かった。
それは額に飾られ他人を遠ざけ、瞬が学校や社会に馴染むのを遠ざけていたのだが、本来あるべきポジションに戻ることで、瞬は拭った土足でもって新しい居場所へ進み出し、見るべきものをしっかり見れるようになる。
それは中学時代、(ユウの支えがなかった)海果が差し出したくて差し出せなかったものであり、瞬がそれを真っ直ぐ見据えてくれることは、海果が(ユウが自分にしてくれたような)率直な歩み寄りを、与える側に一歩近づいたことも示す。
コミュ障と人間毒ガス発生装置、お互いコミュニケーションに難しさを抱えた二人が、ロケットを作る過程、飛距離を競う中でお互いを知り、メッセージを発し、受け取れる自分になっていく。
そんなスタンダードな青春の記録に、印象的に寄り添うチャーミングな小道具として、無骨なゴーグルはとてもいい仕事をしていた。
瞬からの歩み寄りの象徴として、ずっとかっこいいと憧れていたおでこゴーグルを許して貰って、にへへと笑う海果の表情を見ていると、月面に刻まれたアームストロング船長の一歩のように、小さくて偉大な歩幅を刻んでいることを実感する。
前回決意の涙で終わった物語が、喜びの笑顔で幕を下ろしていくのは、やっぱいいよね。
朗らかな人格、鷹揚な包括力、おでこパシーという異能。
コミュニケーションに図抜けた才能を発揮するユウは、今回も海果の理解者、庇護者として特別な位置に立ち続ける。
朝の昇降口を満たす白い光も、多彩なまばゆさを追いかけるこのアニメらしい表現で大変にいい。
このエモい空間に寄り添う特権はやはりユウにこそあり、しかし慈母の如き彼女との関係性に閉じていかない風が確かに作品に吹いているのだと、瞬との交流は告げる。
なにしろ憧れが発酵していた時間は瞬相手の方が長いわけで、ジクジク溜め込んだデカい感情がここで一つ形になって、ロケット部として一緒に進んでいける喜びは、海果にとって格別だ。
そういう強い思い、強い絆で結ばれた相手と、色々助けてもらいつつあくまで自分の言葉で、言葉にならないメッセージで向き合って、望んでいた未来へ近づける頼もしさが、このオドオドウジウジ主人公にはちゃんとある。
そういうのは、ユウだけを相手取ってたら書けない輝きだったと思う。
瞬が耳の痛い事実をブン回し、主人公に何処かに通った間違い方と閉ざし方をした、あんまり都合の良くない子だからこそ削り出せるものが、瞬との出会いを描くエピソードには、しっかりあった。
とても良かったです。
というわけで、雷門瞬攻略後編でした。
初手のアタリの強さに面食らいつつも、終わってみると瞬だからこそ描けるもの、生まれるものがちゃんとあるエピソードで、凄く良かった。
無条件に自分を理解し導いてくれる特別な心地よさで終わらず、ぶつかればこそ見えてくるものとか、傷ついた心を抱きとめてくれるありがたさとか、色んなものを書くつもりがあるのだとわかったのは、作品と付き合う上で大きな助けになります。
もっと”星屑テレパス”が好きになれるお話を見れて、僕はとても嬉しかったです。
凄腕メカニックを加え、四人になった星屑少女たちは、一体どこへと旅立っていくのか。
次回も大変楽しみです。