イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

豚のレバーは加熱しろ:第5話『イケメンは十中八九ゲス野郎』感想

 王都へ向かう不帰の旅の途中、出会った美丈夫は敵か味方か!?
 可憐な乙女心と豚の侠気が燃える、豚レバアニメ第5話である。
 最悪の五七五なサブタイで、大変いい感じだね……。

 というわけで開幕短剣二刀逆手握り、額に『強くてカッコいい男ツンデレです』と描かれたナイスガイが、颯爽登場決め込むエピソード。
 読心能力を持つイェスマにとっても読み切れないものが、少しの疑念と爽やかな前進を作品に呼び込む話数となった。
 イェスマの不思議パワーは豚の真意を他人に伝え、作品を成り立たせる便利なツールなのだが、お互いの真意までは読みきれず……あるいは読めるからこそのミステリが成立するの、なかなか面白い道具立てだと思う。
 守りきれなかった想い人の影をジェスに見るノット、そんな彼を慕うセレスがメインに加わり、四角関係が複雑化したことで、超常能力を前提にしたミステリという側面が、より際立ってきた感じもある。
 過去を知り心読めるからこそ、セレスはノットに思いを伝えるのに二の足を踏み、極めて紳士的な豚はその涙に寄り添い、穏やかに未来を切り開いていく。
 見えないもの、見えていても分からないものにどう踏み込んでいくかという、青春ミステリの味わいもより強くなってきて、ただの変化球では終わらない作品の魅力が、だんだん濃くなってきた。

 

 話としては謎めいたイケメンに豚が警戒度上げつつ、じっくり事情を知って胸襟を開いて……という流れ。
 豚は自分の恋心もめちゃくちゃ冷静に乗りこなし、ただただジェスが幸せになれるように誠実の限りを尽くしていて、信頼できる豚である。
 短い足をちょこちょこ折り曲げ、立ったり座ったりする様子も可愛いし、『主人公が豚で良かったな……』としみじみ思う回でもあった。
 ジェスとの水浴びもエロいっつーか微笑ましく、身勝手な獣欲で笑いを取りつつ、それを振り回して少女を傷つけることなんて絶対出来ない(しない)信頼感が、サービスシーンを安心して見させる。

 そんな彼なので、急に空から降ってきたツンデレイケメンにも、最適解をお出し出来る。
 ジェスの天使っぷりは警戒感のなさという、危険バリバリな旅には致命的な欠陥に繋がるのだが、頭の回転が早く猜疑に囚われない豚がうまいこと、ここを補う構造だ。
 豚の短い前足では剣も握れず、だからこそノットに同行を願うんだと思うが、彼女のシャビロンは間違いなく豚であるという、納得が僕の中にある。
 これが押し付けられた主人公補正ではなく、ジェスのために体張ってレバーぶっ刺された実際の行動で裏打ちされているのが好きだ。
 メガネオタク弱者男性を自称しつつ、劣等感に認識を歪まされて傷追い人を誤解するでなし、セレスたそとの関係構築も上手く行って、お互いの真実をちゃんと受け止めた距離感を構築していく。
 サブタイトルに反して、イケメンがどんだけ悲しい思いをしてジェスに近づいているのか、ちゃんと解って適切な関係を作ろうと頑張っているのが、豚の可愛いところである。
 ノットさんは聖遺物埋め込んだ二刀を操る復讐者だし、失われた思いに操を立てる純愛戦士だし、ド直球にカッコいいところが好きだ。

 

 豚は現代からの転生者であり、極めて健全な倫理観の持ち主なので、死ぬのが当然と思われているイェスマに同情し、血みどろの献身すら捧げる。
 このイカれた異世界においてそれは少数派なのだが、想い人をぶっ殺されて地の果てまで追いかけ、死してなお消えない炎を刃に宿すノットさんも、豚と同じ価値観で動いている。
 ここが重なるなら、豚とイケメンだろうが共に進んでいくことは可能なわけで、『見てくれや立ち位置に囚われず、真実の関係を構築する』という、豚とジェスで紡がれた物語がここでも再話されているのは興味深い。
 まだイェスマ狩りの一番エグいところが実際に描かれていないので、これに対抗する豚と双剣士がどういう立場であるか、削り出しが甘いところはあるが。
 しかしその片鱗だけで相当にロクでもない、イェスマを巡る運命を思えば、ジェスとイェスマに味方してくれる変わり者が主役なのはありがたい。
 今はイェスマを介した間接的コミュニケーションで繋がっている二人だが、今後旅を続ける中でいい塩梅の関係が作られていくと、自分好みの味で嬉しい。
 ノットさんの男ツンデレ力はこの段階で相当高いので、イースへの思いを直接聞いたり、死地に背中合わせ力を合わせたりした時の火力にも期待できる。
 そういう感じのシーン、ぜひお願いしますね……。

 ノットさんがジェスの中にあるイースの影を追っているのか、イースに似たジェスを求めているのか、どっちなのかは未だ見えない。
 これは似ているようで決定的に違う……具体的には豚との争奪戦が発生するか否かの分岐になるので、とっても気になるポイントだ。
 ミステリの味が濃いこのお話だと、そこを確かめるまでは手順踏むかなって感じもあるが、真意がなかなか見えないからこそ泣き濡れるセレスの涙が、また良かった。
 ここら辺のすれ違いは読心能力ってチートがあっても解決しない、人間の根っこに関わる問題なので、旅の中じっくり煮込んで欲しい感じもある。
 このまま動き出すと『セレス→ノット→ジェス→豚』という感情一方通行四角関係で旅が進むわけだが、根本的に良い人らだと俯瞰で見てる視聴者には解っているので、不要なハラハラが少ないのはありがたい。
 ここら辺の透明感も、豚が侠気と優しさに溢れた良い豚だからこそ生まれてるもんなので、主人公の造形って大事よね……。

 

 というわけで、旅が始まる前の整地回でした。
 シャビロンがChevalierから来ているとすると、王都への旅は悲惨な運命を背負った姫と、彼女を護る騎士の遍歴になるわけで、やっぱ凄く古典的なもんを現代的に翻案した話でもあんだな~、と思った。
 主役が豚なのも、電撃文庫版『かえるの王さま』だと思うと納得だしね。
 『献身・誠実・純粋』という騎士の美徳を豚が体現しているのは、既に描かれているとおりであり、ジェスのジャビロンは豚でなきゃいけないのだろう。(そういう人が欲しかったから、ジェスが豚を引き寄せた……って話でもあるのか?)
 そんな騎士が切り出した同行願いを、哀しみの双剣士はどう受け取るのか。
 次回もとても楽しみです。