イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

星屑テレパス:第5話『無限ドリーマー』感想

 頼れる人格破綻者を仲間に加え、行くぞ宇宙の彼方まで!
 四人になったロケット部の日常を合宿交えて描く、星屑テレパス第5話である。

 瞬という異物がきらら時空に混入してヤバいガスがモクモク立ち上り、その処理をしてきらら時空へ帰還……て感じの話ではあるのだが、新入りの牽引力がかーなり強くて、コミュ障と天然二人で回してた時代では得られなかった速度で、部活結成に向けて話が進んでいた。
 現実的だからこそ世間の目と衝突し、棘だらけの鎧着込んで自分を守っていた女が、そろりそろりと仲間の方に近づいてくると何が起きるのか、良く分かる回だったと思う。
 逆に言うとこういう、話のロケットブースターとしての仕事を期待されて瞬がメインに加わっている部分もあるので、『常識人ツッコミ担当ツンデレ』というビルドは定番ながらやはり強い。
 ここら辺の都合の良さをぶっ飛ばすくらいに、瞬が相当ワルい考え方で動いていて、海果達にデレつつもアクが抜けきれない、いいキャラの立ち方をしていた。
 出会いの運命っぷりと、”おでこぱしー”という問答無用のコミュニケーション兵器があるので、ユウとの関係がどうしても太くなる作り(だし、その太くて狭い関係性が話の支えでもある)ではあるのだが、想定以上に瞬から海果に視線が行ってる場面が多くて、感情の多角形が育ってきた感じもあった。

 

 

 

 

 

画像は”星屑テレパス”第5話より引用

 というわけで前半戦はドタバタ楽しいガールズ時空、きらら学園モノっぽくなってまいりましたッ!
 やっぱ砕けたSD絵が本当に可愛くて、この肩の力が抜けた可愛さが作品の強みだな、と思った。
 何かに怒り続けている熱量をバイタリティに変えて、瞬はお話を部活結成の方向へとグイグイ引っ張ってくれる。
 いまいち地球人のやり口解ってないユウ、包容力があるがゆえに受け身に回る遥乃、他人に働きかけるどころの話じゃない海果と、当たり前のことを当たり前にやるのが苦手な面々に凄腕メカニックが加わったことで、いい具合に話が転がっているのは面白い。
 瞬だけだとカリカリトゲトゲしそうな所を、作品の持ち味である砕けた可愛げがうまうーく棘を抜いて、賑やかながら楽しい青春って感じにまとまっているのは大変いい。
 一勝負乗り越えて四人の間に生まれた繋がりを、じんわり食わせてくれる余韻も心地良い。

 こういう柔らかな空気の中で、ふとマジな視線で背中を追ってしまう瞬間というのはあって、ここをメリハリ付けてしっかり書く筆もこのアニメは元気である。
 居場所がほしいと己に告げた、どこかワタシに良く似たあの子の背中。
 ユウが相変わらずアーパーな空気で廊下を進む後方、瞬が抱え込んでいる重力の強さが影の中、しっかり描かれているのが良い。
 海果から瞬への感情が結構強く、これを受信し答える形で瞬からのアプローチもかなりあるのが、色んな子たちの間柄をそれぞれの色で見てみたい視聴者としては、なかなかありがたい供給だ。
 ユウは海果の至らぬ部分を全部先回りして理解し、抱きとめ背中を押してくれる特別な存在なのだが、そういう特権も柔らかさもないながら、不器用な自分なり海果に近づこうとする瞬の歩み寄りには、独自のコクがあると思う。
 宇宙人が持ち前の異能で飛び超えてしまえるコミュニケーションの難しさに、囚われ足踏みしながらなお、気になる誰かに近づこうとする営為。
 それはきらら色に輝く二次元美少女だけの難問ではなく、僕らみんなの共通課題だ。

 この歩み寄りに海果が直面した時、ちょっとだけ当惑したように目を開き、心から嬉しそうに青春に踏み出していく様子を、非常に丁寧に削り出している手付きが好きだ。
 わからないからこそ、わかりたくなる。
 踏み出したいからこそ、怖くなる。
 そういうあやふやで難しい場所に人間が向き合う時、どういう色で瞬くかについて、このお話は相当に鋭く優しい視線を向け、見つけたものをどうアニメに焼き付けるのか、工夫して描いてくれている気がする。

 

 

 

 

画像は”星屑テレパス”第5話より引用

 部活設立のアレソレなどを次回に回して、Bパートは降って湧いた宿泊合宿。
 あえてチームを分けることで仲間が海果を思う感情の質感が、より際だって伝わる構成は好きだ。
 海果は現状、ユウに手を引かれ背中を押されることでどうにか自分を前に押し出して、求めながらも遠ざけてきたコミュニケーションの銀河へと、夢のような航海を続けている。
 その特別さ、甘え寄りかかっている一方的な距離感を海果がちゃんと認識し、後ろめたくすら思っているのは第3話ラストの号泣に明らかだが、今回もユウに手を握られることで海果には魔法がかかって、嫌なことしかなかったはずの集団行動を楽しむことが出来る。
 自分のことを理解してくれる誰かがいること、それが自分を前に進める助けになることは、とても幸せなことだ。
 しかしそれは一方通行な善意の搾取であってはならないと、海果は考え……関係性を平らにするチャンス(あるいはピンチ)は未だ遠い。

 やはり明暗の描き方にいっとう冴えたもののあるアニメで、暗闇に目覚めてユウを探す海果の不安は、一回可愛いフトン巻きSDを挟んで、非常にシリアスな遠景によって見事に切り抜かれる。
 明かりが落ちた合宿所の廊下は、幾何学的な精妙さで光と闇に塗り分けられ、非常口の緑が遠い。
 この暗い不安さを、一人佇むユウを見つけた時天然のスポットライトが照らすことで、海果の主観がどのようにピンク髪の宇宙人を捉えているのか、どれだけ彼女が救いなのかが解る気がする。
 ここで明暗のバランスを調整しているのは星空のリアリティではなく、青春というファンタジーの法則なのであり、海果にとってユウがどれだけ眩い光なのか、現実ではなく心象(あるいは、現実を凌駕し内包する心象)によって、暗闇の中の明内ユウは明滅している。
 それが美しい星だと思えたから、海果にとってのユウは暗闇に光っている。

 おそらく意識して、ユウの異能と優しさに海果がよりかかり、一方的にぐじゃぐじゃな心を受け取ってもらう関係を重ねているこのお話が、いつユウを”弱者”にするのか。
 今のユウは人生に迷う子どもを導き抱きとめる母そのものであり、である限り自身の迷いや弱さをさらけ出し、暗がりに立つことが出来ない。
 海果を包囲していた灰色の世界は、記憶もオリジンもない不確かな宇宙人の中にも等しくあるはずだが、海果がソレを受け止められる程度には強くならなければ、ユウは彼女の疑似母という役割、闇の中の光という象徴から脱出できない。
 海果がグイッと前のめりに、つんのめりつんのめりなんとか言葉に情熱を乗せてユウに思いを伝えようとする場面は、この不均衡が近いうちに崩れて、ユウと海果の明暗が公平に混濁する予感を、上手く可視化しているように思う。

 

 ユウがおでこで受け止めて、言葉にせずとも伝わったからこそ、灰色の内的宇宙で一人きり漂っているのではないと、海果は思えた。
 それは苦手なコミュニケーションに彼女が踏み出す勇気、求めていたものを掴む成功体験を与えて、ちょっとずつ受け取るだけの交流弱者を変えつつある。
 重要なのはその変化がどこから来ているのか、海果が正確に認識し、それに報いられる自分でいられるよう……ユウにとっての暗闇の光になりたいと、ちゃんと願っていることだ。
 そんな祈りに実態が追いついていないから、ユウの手を握る姿勢は不格好な前のめりになるのだが、海果は暗い場所に一人彷徨っていた忘却の星を、ちゃんと探し見つけた。
 そうしなければ気がすまない恩義と愛を、ちゃんともっているのだ。
 そこから何もかもが始まるのだから、それはとても大事なことだ。

 瞬が持ち込んだロケット花火に照らされながら、二人は中断されていた接触儀礼を、ここでも完遂する。
 満天の星空の裂け目が、上手いこと二人を隔てているレイアウトは、異質な二人だからこそ繋がることの意味を、見るもののエモーションを揺さぶる美麗でもって伝えてくる。
 宇宙をテーマにしつつ、ここまで真正面から星空の美しさが切り取られるエピソードもここまでなかったと思うが、構図と撮影の強さが大変いい感じに、闇の中だからこそ瞬く光を描いていた。

 いつも明るく元気で、優しく頼りになる無敵の宇宙人。
 このお話はユウをずっとそう描いているし、そうだからこそ未熟な海果が夢に向かって進み出す物語が、破綻なく支えられてもいる。
 しかし少女が青春の海に漕ぎ出す、眩い導きの星もまた迷っているはずで……未だ掘り下げられない彼女の背景を思うと、それは見た目以上にシリアスで重たい気がする。
 ここにどういう歩調で踏み込むかは、ユウの弱さや脆さを描いて彼女を”光れる母”という役割から開放するエピソードが始まってみないと分からない。(始まるかも、また分からない)
 しかし時折このアニメがユウを切り取る画角には、海果の主観が見落とさないユウのよるべない寂しさが確かに宿っていて、それをどうにか受け止めてあげたい、差し出された優しさに報いたいと、主役が願っていることも感じ取れる。
 何しろこんなに眩い光なのだから、それが暗い影に沈むのは耐え難い。
 そうし自分からて手を伸ばした時に、海果と彼女を主人公にするこのアニメはもう一歩新しい位相に踏み出して、より平等でより幸せで、より善い顔を見せてくれるんじゃないかなと思う。
 僕は、それを期待している。
 次回も楽しみです。