イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

Dr.STONE NEW WORLD:第19話『LAST MAN STANDING』感想

 島の全てを覆い尽くした、緑色の死の光。
 荒野に一人高笑う悪党に、待ったをかけて最後の決戦……宝島編決着の、ドクストアニメ三期第19話である。

 最後の最後はトップ同士のタイマン……と思わせておいて、石化からの復活も最後の決め手も仲間の信頼と犠牲という、大変千空ちゃんらしい決着となった。
 時間使って準備したドローンが、最後の最後でしっかり仕事をする所が好きで、計画段階のワクワクが戦場の霧に覆われてウヤムヤになっちゃった……つうがっかり感が、最高のタイミングで回収されていくのが気持ちいい。
 やっぱ最初に聞いた時、メチャクチャぶち上がったからな……石器時代のドローン空中戦。
 こういうシンプルで真っ直ぐな興奮に、嘘をつかないまま裏のかき合い騙し合いでも話を引っ張れる、欲張りなバランス感覚。
 色々強いところのある作品だが、最終局面でも(だからこそ)濃く出たねって感じだった。

 

 というわけで絶望の全島石化から生き残った理由は、覚悟ガンギマリの仲間たちが人間計測装置となり、千空一人を生き延びさせるために礎になってくれたからでした!
 迷っている暇すら無い極限状況で、”観測と計画”というメチャクチャ科学的な対抗方法をクロムが思いつき、全員堂々石になっていくの、覚悟が決まりすぎててヤバい。
 ここら辺は実際奇跡を起こしまくってきた千空への信頼が、どんだけ分厚いかという話であり、モズとはいがみ合いキリサメは騙し討ちにしたイバラと真逆な勝ち筋といえる。
 実際数で押す正攻法を選んでいたなら、イバラ側が順等に勝ちを拾っていたわけで、人間が進むべき正道からはみ出すと最適効率を取り逃すね、って感じではある。
 超しぶとく悪賢い強敵だと書き続けてきたことで、最後の最後で勝利を確信して二人がかりのハメ手に負けるスッキリ感も凄かったし、イバラが負けるまでの丁々発止は見ごたえ十分で素晴らしかった。
 自分の事位しか考えない悪党がウマい汁吸うように見えて、『善行巡り巡って効率的』つう教訓をバトルの中で示す感じになってるのは、正しく”少年漫画”って感じだ。

 最後の決着にしても、ラボカー内部での不意打ちが失敗し、『メドゥーサは至近距離で命令しないと起動しない』というデータを取っておいたからこそ、通信機が決まり手になる。
 それも龍水が体張ってメドゥーサに貼り付けてくれなきゃ仕事しなかったわけで、科学的観測と地道な信頼構築こそが、千空一番の武器だとよく分かる決戦だった。
 ここらへんを際立たせるために、徹底的に卑劣で孤独で独善的な存在として、最後まで走りきったイバラはいい悪役だったなぁ……。

 戦い終わって石化の荒野、ひとり生き残った千空が”LAST MAN STANDING”として島を歩いている姿を、じっくり描いていたのも良かった。
 必要ならば命がけの戦いもするが、千空は科学技術の発展とより善い社会実現にこそ興味とやる気がある男で、誰かを支配したり一人で生き延びたりするのは似合わない。
 しかしイバラを制してメドゥーサを確保するためには、結構な犠牲が出た(石化なんで元に戻るとは言え)戦いをやるしかなく、”生き残る役”にまた成ってしまったことに彼が疲れている姿が、美しい死の風景に良く映えた。
 命がけだからこそ燃える大仕事を描く上で、”取り返しがつく致命傷”である石化は優れた物語的装置だと思う。
 絵面の無惨さ、物言わぬ仲間の立像はやるせなさと酷さを上手く強調して、千空が最後の勝利者となるために何を支払ったか、上手く教えてくれる。

 死体だったらその無惨な風景は、元には戻らんわけだけど、千空最初の発明品である奇跡の復活薬は、絶望を希望に変え、死を生に戻す力を持っている。
 断ち切られたり終わったり、理不尽な運命が『終わりだ』と告げてくるものを乗り越えていく不屈こそ人間の力だと、このお話はずっと描いている。
 悪党をぶっ倒しても元には戻らない戦場の虚しさを、結構な長尺で切り取った上で『でも戻れる、取り戻せる』と次回以降描くだろう今回の終わりは、千空があんま自分語りしないクール&タフな生き方しているからこそ、良く支えるエンディングだった。

 イバラが宝島でぶん回していた圧政とか、それをひっくり返すための戦いの虚しさは有史以来ずっと続いてきたもんであり、もしかしたらそこら辺まで追憶しての『またか……』なのかもしれないが、千空はこの新世界で人間の愚かしいカルマが繰り返されないよう、地道に奮戦してきた。
 知識と発明にしか唆らないようでいて、人間存在の一番眩しい光をなにより愛してきた男の前に、戦い終わってなおまだやり直せる道があることは、優しくて好きだ。
 それは優しく強い彼を信じた仲間が用意してくれた道であり、そんな生き方に勝利の女神が微笑んだ結果であり、彼自身が不屈の意志で掴み取った、彼自身の道でもある。
 イバラを倒した時点で終わらず、そんな道をこれからも進み続けるという終わり方になったのは、千空らしくて凄く良かった。

 

 というわけで、長かった戦いも遂に決着、千空が”最後に一人立つ男”となった。
 勝者一人が荒野に立つ、西部劇的な爽快感をどっかに宿しつつも、『復活液で元に戻るとはいえ、やっぱ争いは虚しいし良くねぇ……』と思えるラストの夕陽、大変良かったです。
 超科学の産物を圧政の手段にしていたイバラを倒し、人類救済という大目的のために千空たちの旅は続く。
 まだちょーっと話数が残るアニメ三期、何を描いて終わっていくか。
 次回も楽しみですね!