イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ウマ娘 プリティーダービー Season3:第9話『迫る熱に押されて』感想

 行く宛のない旅の果てで、たどり着いた眩い道標。
 そこはゴールではなく新たなスタートでしかなく、あまりにも遠くあまりにも熱い星を追って、また二人で駆け抜けていく。
 二度目の直接対決、キタサンブラックサトノダイヤモンド天皇賞(春)を追う、ウマ娘アニメ三期第9話である。

 

 開幕から十分ぐらい、ウマ娘に信心を捧げて毎朝毎晩勤行してきた人が死に際に見る夢みたいな映像見せられて、脳髄の深い所がガツン食らったけども。
 前々回ダイヤちゃんに負けて道に迷い、前回自分なりの答えを手に入れたキタちゃんが、『あなたに勝つ』を言うためになぜあの長く当てのない旅へ出なければいけなかったのか、明確な答えは描写されない。
 必要だから世間の期待を一身に背負う最強ライバルは、まるで少女のように気ままな旅に出て共に笑い、美味しいものを食べ、美しい景色を見なければいけなかったはずだが、その理由はキタちゃんの口から語られることはなく、一つの大きな……美しい謎として独自の感触を残した。
 前々回キタちゃんを置き去りにしたダイヤちゃんの背中は、同じように謎めいて答えがない(だからこそ追いたくなる)引力に満ちていて、これを追いかける中で色んな人に出会い、目の前にあって見えないものを見つけ直して、それを伝えなきゃ真実戦えないと思ったから、キタちゃんはダイヤちゃんとデートした。

 それがどっからどう見てもデートであることが、恋に似て愛より熱い感情を燃料に永遠を疾走っていく、ウマ娘という存在に相応しい穏やかな熱で、僕には凄く良かった。
 お互いを導きの星として、幼年期からずっと抜きつ抜かれつ進んできた二人が今、どこにいるのか。
 どこから来て、どこへ往くのか。
 それを示す象徴として”灯台”以上の場所はないだろうし、しかしその結論だけが大事ではないから、キタちゃんは当てのない旅の過程全てを、恋人よりも強い絆で繋がった幼馴染と共有する。
 彼女たちの”ウマ”成分はBパート、煽りVまでバッチリな天皇賞でやるとして、多幸感に満ちたAパートの夢のような景色は、どれだけ戦士の顔で多くのものを背負い、多くのものを賭けて走ってもあの子達が”娘”なのだと、再確認するような仕上がりだった。
 少女の形をして、少女の魂を宿せばこそ眩しく輝くものの一つ一つが、史実のドラマをなぞりつつその上を行かんと疾走している、”ウマ娘”の物語にとって大事だからこそ、今たっぷりと描いた。
 そういう手応えのあるデートだった。

 

 物言わぬ競走馬に人間が見出すドラマが、馬にとっての真実であるかを確かめるすべはない。
 その不確かさが魅力的なミステリとなり、”娘”にならないウマが人を引き付けるのは間違いないと思うが、”ウマ娘”は人間としての形を手に入れ、言語化可能な環状と関係の中で、自分たち独自のドラマを編む。
 二期以来積み上げられてきた、テイオーとマックのライバル関係を導きの星にしてたどり着いた、宿命のライバルの対決。
 そんなものは史実にはなく、しかし僕が見届けてきたアニメの中には確かにあって、現実を再放送するだけではけして生まれ得ない、擬人化すればこその魅力がそこには宿っている。
 ”娘”としての、網膜を眩しく焼くような強い光に満ちたあの旅路は、そういうレースの中に瞬く輝きとはまた違った……でも根本で通じ合っている、”ウマ娘”だからこその善さみたいのが、原液の濃厚さであった。

 乙女が乙女であること、キタちゃんがキタちゃんでダイヤちゃんがダイヤちゃんであることの尊さに溢れた時間を、たっぷりと映し堪能した果てに告げる、プロポーズにも似た宣戦布告。
 それは前回キタちゃんが一話かけて迷って見つけた、今の自分が何で出来ているかの解答にも思えた。
 自分にとってどれだけ深く、サトノダイヤモンドという存在が突き刺さって、皆を笑顔にしたいという答えを見つけれる自分を削り出したのか。
 その存在の大きさを確認し伝えるのに、ずっとそう過ごしてきた大親友の幼馴染としての、溌溂と眩しい”娘”としての自分たちを、嘘なく共有するしかなかった。
 一瞬限りの今を必死に駆け抜けていく競走馬の定めを思うと、そんな現状主義は疾走る動物の本分に立ち返った感じも強くあり、そういう意味でも”ウマ娘”的なデートだなと感じた。
 キタちゃんが、サトノダイヤモンドに勝つしか無いと思っている自分の全部を伝えるにあたって、ライバルとして切羽詰まった殺気ではなく、とても幸せな時間を前置きにしたのも、彼女らしいし彼女たちらしく思う。
 そういう幸せの中に二人はずっといて、しかしそれは本気で競い合うことを排除するものではない。
 むしろ”友達以上仲間でライバル”が題目ではないからこそ、穏やかな幸せの先でこそ自分の中の本当を告げるしかなかった。
 そういう間柄として、ウマ娘アニメにおけるキタサンブラックサトノダイヤモンドの物語は、一つのピークを迎えていく。

 

 

 何しろ描くモノの多い三期だが、決戦の天皇賞(春)はどっしり腰を落とし、二強対決を見守る多くの人の気持ちが間近に伝わる描き方となった。
 名ウマ娘が多く名を刻んだ歴史の最先端として、あの世界の”天皇賞”が持っている意味合いをもう一度確認するようなPVを全部見せてくれたのも良かったし、キタちゃんが笑顔にしたいと願った全ての存在が一同に介し、彼女の走りを見守る”広さ”が感じられたのも素晴らしい。
 前々回とは真逆に、遠い背中をダイヤちゃんが追い追いきれない形となったことで、彼女にとってキタサンブラックがどれだけ眩しい星であり続けたのか……それが燃え盛る熱を間近に伝えてくれたからこそ、ダイヤモンドが強く在れた秘密も、真に迫ってよく見える。
 キタちゃんの迷いを追う中では、ダイヤちゃんは魅力的で追いきれない少女型のミステリとなっていたわけだが、答えを見つけ勝利の道標となる今回、追うべき星の役割はキタちゃんの方に移る。
 勝って、負けて、また勝って。
 時折見えなくなるけど、それをまばゆく晴らしてくれる爽やかな笑顔で強く手を引いて、お互いを導きにしていく永遠の双子星。
 その関係性は、一勝一敗の五分に決着した今回を一つの答えとして、終わることのない追いかけっ子を続けていくように思える。

 特別EDも眩しいこの決着が、永遠には続かないからこそ今回”9話”なのであり、予期され予定された美しい筋書きを、運命は裏切っていく。
 その裏切りを”面白い”と思わせるためには、ライバル二人で完成された関係性がどんだけ美しいものか、二人の輝きがお互いを眩しく照らし、ウマであり娘でもある彼女たちの全てが美しい、この完成度が必要だったのだと思う。
 疾走る時も平和に日々を過ごす時も、ライバルとしても友達としても、お互いが誰よりも眩しく熱い星であるような、満ち足りた間柄。

 これが永遠であることを史実に刻まれた物語は許してくれないし、それでもなお疾走るから、こっからの三期終盤戦は面白くなっていく……はずだ。
 誰もが永遠であって欲しいと願う、相補う双子の星。
 二期から続いてきたキタダイの物語としては今回のEDが一つのクライマックスであり、頂にたどり着いてしまったのなら、その場から新たな物語が始まる。
 満ち足りたものが欠け、新たな可能性とドラマが生み出されていくうねりを、どう魅力的に描くのか。
 終わってみると、見事に互いを追い求める少女たちの視線を豊かに描ききった、第7話からの三部作は、”ウマ娘 プリティーダービー Season3”の……競走馬・キタサンブラックのフィナーレではない。
 レースも物語は、まだ続くのだ。
 だからこそ面白いのだと、どうしたら伝えられるのかが、大事な課題になるだろう。

 

 こんだけ美しいものを描いてしまった上で、その宿命にこのお話がどう向き合っていくのか。
 残りの話数は、色んなモノが問われる難しい構成になった感じがある。
 個人的にはキタちゃんとダイヤちゃんがお互いを見つめる視線が、深いほどに置いてけぼりにされているシュヴァルグランの使い方、描き方が勝負かなと思うが……さてどうなるか。
 次回も楽しみだ。