イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

豚のレバーは加熱しろ:第9話『生きてその土を踏みにいけ』感想

 迫る悪意と殺意を跳ね除けて、豚と少女は旅の終わりにたどり着けるのか。
 イェスマ狩りとの因縁が暗い森に燃える、豚レバアニメ第9話である。

 一話まるまるバトル展開なのだが、作画……というか演出に息切れが見れ、緊迫した状況にもかかわらずボッ立ちしてる時間が結構あった。
 生きるか死ぬかの瀬戸際、お互い力を尽くして望みを掴もうとする場面で相手のやってることを見逃してる感じになってしまっていて、緊張感がスルスル抜ける感じになっていたのは勿体なかったと思う。
 一話休んでクオリティを維持する選択をしたことからも、制作現場は色々ギリギリなんだとは思うが、気楽な視聴者の立場からするともうちょっと張り詰めたアクションシーンであってくれたほうが、展開が求める情動が画面に宿ったんじゃないかな、とは感じた。
 急に暗殺担当ダークニンジャとか、ゲスの極みなラスボスとか出てきて、真顔のぶっ殺し合いになること自体はまぁ……そういう世界だと最初から言ってはいるし、ブレースが前回晒した土手っ腹で思い知らされてもいるので、来るべきものが来た、って感じ。
 むしろジェスとの幸せなじゃれ合いの奥に隠した、血みどろで薄汚ぇ世界の本質がようやく顔を出してきた感じで、不思議なワクワクがあった。
 情報の一部を覆い隠して、そこを推測させながら進んできたミステリ仕立ての作りなので、覆いが外されて真実が叩きつけられる局面は、どんだけ悲惨でも『待ってた』ってなるのよな……。
 まぁブレースが死ぬのを『待ってた』わけじゃないし、そういうモンだと飲みつつもイェスマ狩りのゲスな実態はイヤ味濃いけどな……。

 

 旅の最後に立ちはだかったクズカスの親玉は、ノットさんの青春をぶっ潰した張本人でもあり、復讐の双剣士の当事者性がガガッとアガって来てもいた。
 殺人童貞を生き死にの現場で失い、イェスマの守護者たらんと固めたはずの決意が、目の前で人が死ぬ……自分が殺すリアリティで微かに揺らぐ描写があったのは良かった。
 ここで生き死にへの感受性がグラつく、”優しい”人だからこそイェスマなんぞ命がけで守ろうとしたんだろうし、イェスマ狩り共はそういう共鳴を完全に塞いでいるから、対話可能なヒューマノイドを家畜のように犯し、バラし、売り飛ばせるのだろう。
 そして狂ったシステムがイェスマ死出の旅を肯定している以上、異世界のスタンダードはイェスマ狩りの方にあり、ノットさんや豚は奴隷種族に命を投げ出す狂人……になってしまう。
 異世界転生が主役にあんまり都合よくなく、ロクでもない異質性をゴリゴリ押し付けられ、血みどろに命奪われるヤバさを残している味付けは、なんだかんだ好きだ。

 同時にその残酷やグロテスクは、被差別美少女唯一の理解者、守護者となって命がけ、クソオタクが本気で生きたり死んだりするだけの理由を際立たせるための、結構不自然な道具立てでもある。
 イェスマが可哀想なのは自然の成り行きではなく、社会制度からして『そうなってる』異世界の歪さ故であり、今回荒れ狂った暴力と危機には、どこか人造的な匂いがある。
 ここら辺が間延びしたアクションで更に強調されて、ダンドリ感が滲んでしまったのはやっぱり、(制作サイドのとても苦しい事情があるのを理解した上で)惜しいなと感じた。

 片や我欲、片や使命。
 願いの色合いは真逆であっても、誰かぶっ殺してでも叶えたいものがぶつかり合う現場はむき出しの人間性が試される決戦場であり、必死さやら尊さやら醜さやら、色んなモノが見えるべき場所だろう。
 都合の良い夢を引っ剥がして人間の地金を暴く、物語的砥石としての血みどろのアクションにもうちょい圧力があると、そういう場所に常に追い立てられているイェスマの苦境、手を差し伸べようと思った騎士たちの純情、それを踏みにじるクズどもの生っぽさが、よりダイレクトに伝わったのではないか。
 異世界転生ジャンルが転生という操作を、共通の手順として孕む以上必ず宿してしまう、『チートにしても追放にしても、豚にされて美少女と心を通じ合わせるにしても、欲望充足のために一捻り、便利な手順を付け加えていますよね?』というツッコミを超えて、豚とジェスが運命の必然として出会って、筋立てへの奉仕者としてではなく作中の現実を必死に生きている主体として、なんとか頑張っている感じが出せたのではないか。
 そんな事を感じてしまう回だった。
 まぁそうなっちゃったからにはそうなる事情と理由があって、そんなん観客席からブーブー(それこそ豚のように)文句たれて、どうにかなるもんじゃねぇんだけどさ。

 

 兎にも角にも、この狂った世界で幾度も行われただろう蹂躙と虐殺に主役たちはNOを告げて、ありふれた殺し合いがブレースの命を奪った。
 生まれ落ちてからずっと、報われないことが約束されたイェスマの生をそのまま、侵され傷つけられ生きて終わらせられた、百万の犠牲の一人が死んだ。
 死闘も殺戮も、この世界とイェスマにはよくあることで、それを”よくあること”で終わらせたくないから、物好きな善人たちは戦う。
 旅路の果ては、狂った世界のどんな真実を突きつけてくるのか。
 次回も楽しみです。