イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ウマ娘 プリティーダービー Season3:第12話『キタサンブラック』感想

 湧き上がる憎しみと燃え盛る愛を重ねて、遠いあなたの背を追った。
 タメにタメたシュヴァルグランの激情が遂に炸裂する、ウマ娘アニメ三期最終話一個前である。
 タイトルには主役の名前があるが、ニ位に終わるジャパンカップを描く今回はキタちゃん当人ではなく、引退を決めた彼女がターフに残るものがどう見えるのか、外側から輪郭を埋めていくようなエピソードとなった。
 前回どっしりと、己の衰えと向き合って引き際を決めるキタサンブラックの内側を描いたのと同じ抑えた筆致でもって、今まで延々彼女の後塵を拝してきたシュヴァルグランの思いが描かれていく。
 物語が積み上げてきた必然からすれば、一番感情が濃いダイヤちゃんが最後の勝負に顔を出すべきだが、史実はそうなっていないし、最後のG1三連戦を華やかに勝ち切って終わりそうなものだが、同じく史実はシュヴァルグランに勝たせた。
 引退会見でもキタちゃんが言っていたが、大過なく現役生活を走りきれてしまえる幸運が、ある種の縛りとなって物語の流れを妨げている不自由を、少し感じもする。

 ここら辺、”娘”になった名馬たちの現実には存在し得ない(したとしても、人間には真実わかり得ない)感情のドラマを薪にすることで、”ウマ娘”はむしろジャンプ台として高く飛躍してきたポイントでもあろう。
 シュヴァルグランが今回のレースに見せた感情の炸裂は、それに相応しい強さがあったが、望みうるならもう少し有機的な繋がりがあった上での爆発だと、より強く飲み込めたかなという感じがある。
 ”お祭り娘”というキタちゃんのキャラ性、彗星のように駆け抜け去って行ったドゥラメンテとの関係性、商店街の人達との通り一遍ではない絆。
 三期を思い返すと、作中に盛り込んではいるものの(僕の感じるところでは)上手く削り出せず、物語としての繋がりと説得力が弱い要素が、散見されるようにも思える。
 要素としてそれを入れ込みたいのは解るが、エピソードとしての熱量、この物語だけの独特な手応えが弱く、あまり強く心に刺さらない……どこかサラッとした味わい。
 キタちゃんからシュヴァルグランに、『同期の友だちでありライバル』以上の思いが感じられる場面が無かったことで、今回彼女が吐き出す強く熱い感情、それに導かれて勝ち取る勝利に、『今、ここでこのように物語を描かなければいけない』という必然のうねりが弱くなってしまったとも感じた。

 しかし三期全体に漂う抑えめでザラついた質感を思うと、キタちゃんの視界に物理的に入り得なかったこれまでのシュヴァルグランの想いが、一方的なのは不思議な納得もある。
 G1六勝の大記録を打ち立てながら、泥臭く星を追うチャレンジャーだと引退前のこのタイミングですら己を規定し、だからこそ強く走りきれるキタサンブラック
 彼女の視界にはいるには、それこそサトノダイヤモンドのように燦然と優雅に輝き、あるいはかけがえない日々を幼い時から共有する特別さが必要なのだろう。
 ここら辺の、博愛に満ちた人格者にはなりきれないキタちゃんの描き方も結構好きなのだが、そういうある種のエゴイストに”シュヴァルグラン”をねじ込むだけの結果を、彼女は今まで出し得なかった。
 引退を決めた片思いの相手にラストチャンス、己の存在を刻み込めたと見るべきか、夢の彼方へ駆け抜けていく女に追いすがりしがみつくには、一歩遅い勝利なのか。
 この敗北を受けてキタちゃんが、次回どういう目線で”シュヴァルグラン”を見るのかは楽しみでもある。

 商店街のおじさんたちとか、『どうした急に』コンビとか、キタちゃんの走りを通じて大事な何かを貰ってきた人たちが、”キタサンブラック”をどう見ているかも、今回しっかり描かれていた。
 綺羅星の如きスターホースたちだけでなく、その光を受けて瞬く伴星にもカメラを向けるのは三期らしくて、結構好きな語り口だ。
 親しみやすく頑張り屋、見ているだけで元気を貰える等身大の憧れ。
 そういう目線でキタちゃんがファンに受け止められていたのだと、最後に確認できるのは良かった。
 ここでそこに焦点を合わせるのであれば、もう少し前にトレセンの外から見たキタサンブラックの素描を積んでいたほうが、より説得力も出たかなとも思うが、ここらへんは叶わぬ未練であろう。
 ただの視聴者でしかない僕が思いつく要素は、洗い出し検討した上でこの形に物語が収まっているのだろうから、タラレバを言い過ぎても詮無い。

 

 キタちゃんが夢の彼方に駆け抜けて行っても、まだターフを走るダイヤちゃんやシュバルグラン。
 あるいはその勇姿を胸に刻んで、自分なりの人生を歩いていく普通の……”キタサンブラック”が好きな人達。
 キタサンブラックの外側に立つ人の視線が、彼女が何を成し遂げてきたかをジリジリと削り出す回であり、ようやっと一矢報いた連敗続きの負け犬の重たく強い感情が、そこに強い一擲を加えるエピソードであった。
 今までウマ娘のアニメが描かなかった、衰えと終わりとその先を扱うのであれば、買っても負けても走り抜ける力強さから何かを受け取り、誰かを勇気づける輝きは、やはり明確にしておかなければいけなかっただろう。
 燦然と遠いキタサンブラックの背中を、追って追って追いつけず負け続けたウマ娘の想いが、そういう仕事をしっかり果たしてくれていた。

 これだけの想いを背負って、次回キタサンブラックは最後のレースを駆け抜けていく。
 衰えること、終わること。
 終わってなお何かを残し駈け続けること。
 一期・二期で踏み込まなかった領域に果敢に挑み、競走馬とウマ娘……そして全ての人に追いすがる運命の必然を描く筆が、何かを語りきれているかは、この最終回にかかっているように思う。
 史実を踏まえた展開にしなければいけない、大きくなったコンテンツとファンに目配せしなければいけない、これまでの物語とは違うものを描かなければいけない。
 内情の分からぬ外野席から勝手に覗き込んで楽しみ、感じ取った様々な鎖のゴツゴツした質感を、打ち破って自分だけの物語を叫べるか。
 僕は”ウマ娘 プリティーダービー Season3”の最終話に、とても期待している。
 次回も楽しみだ。