イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ゆびさきと恋々:第2話『恋々へ』感想

 胸を焦がすこの高鳴りは、憧れなのか恋なのか?
 青空へ飛び立たんと願う元籠の鳥を、運命の出会いが未来へ解き放つスーパーロマンス、ときめきの第2話である。
 一気に胸キュンの頂上まで駆け上がる初速を見せた第1話に対し、やや落ち着いたペースで雪ちゃんがどんな世界に生きているのか、なぜ逸臣さんに惹かれるのかを、ゆっくりと描いてくれた。
 心象風景を見事な美術に重ねて描くような、絵画的でロマンティックな場面もあれば、可愛く崩れたSDで笑いを作るシーンもあり、作品が心地よく生み出してくれる緩急を、たっぷり味わえる話数となった。
 雪ちゃんの内言多めで展開される、恋を選び取るまでのステップはとても繊細で甘く、恋色一本で作品を牽引できる強さがある。
 ……のだが、聴覚障害者であるがゆえに生まれる難しさや気後れ、だからこその夢なんかを丁寧に追いかけることで、『ハンディ背負った可哀想なヒロインが、素敵な王子様に見初められて幸せになる』つうシンデレラ・ストーリーから、上手く距離を取れている感じがあった。

 人間生きていれば色々難しいことはあるもので、感覚の一つが機能していないとなればなおさらだろう。
 雪ちゃんがただただ可愛くて綺麗な天使ではなく、当たり前の難しさや薄暗さと向き合いながらそれでも、顔を上げて恋と未来に進み出している存在だと描くためには、彼女の影と対話できる存在がいる。
 額に”噛ませ犬”と烙印されて舞台に躍り出た、桜志くんがその立ち位置を担うわけだが、コミュニケーションの取り方が小学高校学年なだけで純粋に雪ちゃんを気にかけているのだと、影に沈ませすぎない加減も良かった。
 駅の改札で、ハンディキャップ起因のトラブルを引き起こしそうになった見知らぬ人を、好きな人と対話するためだけに身に着けたはずの手話が助ける。
 あの場面があることで、雪ちゃんが望まぬ安全な檻に閉じ込めておきたいと手を伸ばすヤバ幼馴染ってだけでなく、明るい場所にも拓けていける可能性があることが良く伝わった。

 明らか恋愛対象と思われていないし、出会いを通じて世界を新たに開いてもくれなかった桜志くんが、恋愛レース絶対勝てない立場にあるのは一目瞭然なのだが、逸臣さんやりんちゃんといった『ええカッコしたい』相手には出せない、苛立ちや気後れや怒り……天使ではなく人間である雪ちゃんに必ずある影をぶつけられる相手として、良い存在感を出していた。
 この陰影があることで、超絶ピュアピュアラブストーリーにいい塩梅の重みが生まれて、キャラクターにも立体感が生み出されると思うし、桜志くんを慕ってそうな子も顔見世したことで、それぞれのLOVEが絡み合いながら広がる、恋色タペストリーへの期待感も膨らむ。
 主人公の描写を深めつつ、今後物語が転がっていく舞台の奥行きや横幅をしっかり教えてくれる、とてもいい”第2話”でした。

 

 

 

 

画像は”ゆびさきと恋々”第2話より引用

 というわけで、SD表現がめっちゃかわいい~~~~~。
 前クールの”星屑テレパス”で強く意識させられたのだが、僕はコミカルなテンポを作るべく挿入される崩した表現が可愛いアニメが相当好きらしく、このお話もめっちゃソコ良いのでありがたい。
 背景のカラーリングパターン含めて、崩しの手数がいっぱいあって色んな可愛さ見せてくれるのも、欲しいところに球来てる感じでほんと嬉しい。

 つーか物語がややスローペースが展開する今回、俺作品のいちばん大事なトコ理解っちゃったんだけども……雪ちゃん可愛くねッ!!?(周回遅れ人間)
 逸臣さんへの湧き上がる思いに戸惑い、しかし上がる体熱に嘘は付けず、周りの人に助けられつつ自分が進むべきをじっくり定めていく感じが、凄くチャーミングでいい。
 このお話は主人公が何を考え何にときめいているのか、それを邪魔するのが何なのかを丁寧に折り重ねてくれるので、キャラとドラマへのシンクロ率が高い感じがある。
 きゅるんとしたお顔が良く仕上がってるのは一つの武器として、戸惑いつつも一生懸命な心中、弾むように色を変えていく雪ちゃんの世界がしっかり演出されていて、それを身近に感じて好きになれるのは、なかなか良いなぁ。

 

 この可愛さだけが雪ちゃんの全てでは勿論なくて、生徒四人の小さな聖域から意を決して出たからこその難しさとか、確かにそこにあってしまうハンディキャップと社会の摩擦とか、色んな影が静かに伸びても来ている。
 これをなかったコトにするでなし、露悪に強調しすぎるでもなし、自然な距離感でときめきの合間に織り込めているのは、聴覚障害者を主役にすることに向かい合ってる作風で、とても良いと思う。

 唇を読むにも限界があること。
 後ろから声をかけられると困ってしまうこと。
 だからこそ、手話という言語を通じて”雪の世界”に入ってくれる人には、特別な親しみを感じること。
 色々具体的に、聴覚障害者が大学生活を続ける難しさがひっそり、しかし確かに描かれていて、ややガリッとしたその質感が独特で良かった。
 この難しさを主題に描くアニメではなく、超王道スーパーロマンスではあるけど、無視して良いもんでもないし、丁寧に雪ちゃんが感じている日常を描くことで、存在感も増していくしね。

 

 そこに歩み寄ろうと手話学んだのに、まーったく望む距離感に入れていない桜志くんも本格顔見世してたが……心配ゆえに棘のある言い方しかできない不器用さが、初手から”負け犬”の看板を背負わせているッ!
 いやー……このポジションと立ち回りで始まって、逸臣さん追い抜けたら大したもんだわ……。
 逸臣さんがナチュラルに雪ちゃんが欲しい言葉と掌を差し出してくれるのに対し、考え抜いた挙げ句嫌がる棘しかぶっ刺せていない時点で桜志くんに分が悪いのだが、そういう生き方ばかりする男なのだなぁ……という不器用への共感が、じんわり湧き上がっても来た。
 ヤなやつポジションに首までハマった彼が、内に秘めた優しさの気配を雪ちゃんもなんとはなしに読んでくれている感じで、しかし狭い檻の中で守ろうとする愛情は、雪ちゃんの望んでいる未来とは違う色で……。
 ここら辺、逸臣さんとの中が深まる中でどう化学反応していくか、今後も楽しみ。

 桜志くんが相当苦労して身に着けたであろう手話を、言語能力に図抜けた才能を持つ逸臣さんが、軽やかに飛び超えてガンガン習得しているの、エグいなぁと思う。
 自在に言葉を操り気軽にラオスに行ってしまう、籠の鳥ではいたくない雪ちゃんが濃いと一緒に憧れも寄せる逸臣さんと、飲み会という新しい体験への扉を心配ゆえに閉ざしてしまう桜志くんは、分かりやすく対照的だ。
 愛ゆえに暗く自分を縛る桜志くんの手を振りちぎり、新たに訪れた逸臣さんという光に飛び出す……つうシンプルな構図にせず、桜志くんもまた結構良いやつで、だからこそ雪ちゃんも自分も縛ってしまっている部分があると、描くのは面白い。
 勝った負けたの狭い話運びになるより、それぞれ秘めてる良さを羽ばたかせて、みんなが幸せになっていく話だと俺に嬉しいので、今後も”負け犬”桜志くんの描かれ方には注目していたい。
 いや良いやつなんだけどさぁ……絶対勝てないだろこの初期状態……。

 

 

 

 

 

画像は”ゆびさきと恋々”第2話より引用

 可愛いSDを使って緩急を生み出すのは、雪ちゃんが歩んできた世界、これから進みだそうとする未来を象徴的かつドラマティックに描く場面を、より鮮明にしたいからだ。
 今回は空と光、そこから遠い影が印象的に描かれ、優しい檻に守られてきた雪ちゃんが何を求めて大学に来たのか、その願いを逸臣という人間がどう広げ受け止めるのかが、印象的に刻まれた。
 優しく暖かな……でも狭くて小さなろう学校を世界の全てだと終わらせたくないから、黒髪の少女は夏空のオープンキャンパスに踏み出し、出会った眩さに瞳を輝かせた。
 ステンドグラスに彩られたろう学校の光は、悪意もにごりもなく満ち足りて優しく、しかしそれでは雪ちゃんは満たされなかったから、髪を赤く染め”普通の大学生”を目指して、イラガっぽいところもある世界を生きている。
 雪ちゃんが抜け出してきた優しい檻の描き方が、歪さのない素直なものだったからこそ、そこに育まれだからこそそこから抜け出したかった、年相応の健全な野心にも納得がいく。

 そういう気持ちをより広い場所へと、連れ出してくれるのが逸臣であり、思わぬ邂逅に雪ちゃんは、存在するはずもない青空を見る。
 自由に高く、どこまでも高く飛べる鳥。
 雪ちゃんが見上げる景色とは違うものを、桜志くんは飛行機雲の向こう側に見ていて、暗くて狭くて嫌な場所……自分の手のひらだけが届く場所へと、雪ちゃんを縛り付けようとする。
 ここがズレてるから、二人は恋人にならなかったしこれからもなれないんだと思うが、しかし桜志くんの純情はどす黒い影としてだけではなく、彼独自のあこがれと夢と恋情の入り混じった、複雑な光として描かれている。
 この描き方が、僕は凄く良いなと思った。
 好きな子とうまく繋がれない、望んでいる世界を形にはしてやれない不器用人間にだって、ピュアな夢や優しさはあって、それは独自の色合いで夕焼けを染めるはずなのだ。

 

 しかし独占欲と保護欲の入り混じった影は、雪ちゃんにとっては優しさ含みの棘でしかなく、それよりも青く遠い空を体現する運命の青年の方に、瞳を専有されてしまう。
 それが憧れなのか恋かすら、自分で決めていい自由。
 未だ空をゆく鳥を見上げる立場だが、あの時目を開いた眩さは確かに、大学生になった雪ちゃんの間近にある。
 守られるだけの子どもではなく、自分の足と言葉で世界を広げていける存在になりたいという、若者が抱く普遍的な願いが、超ときめく恋物語の背骨にしっかり入っているわけだ。
 この手応えがあることで、逸臣さんにギュンギュン惹かれていく話運びに納得がいって、スッキリ飲みやすいのだろう。

 まー”陰”である桜志くんに比べて、逸臣さんは欲しい物全部手渡してくれるスーパーイケメンとして一切の陰りない”陽”しか見せてねぇから、自然そっちに体重預けちゃう……てのもあるが。
 今後話が進み二人の距離が近づくに連れ、あこがれの人も当然もってるだろう影や傷を目の当たりにした時、雪ちゃんがどういう反応するかが楽しみでもある。
 つーか人間の陰影を作品に持ち込んだ以上、逸臣さんだけがピカピカ綺麗なイケメン天使ってのも片手落ちなわけで、今回桜志くんの善さを手際よく見せた筆でもって、彼の影もまた魅力的に書いてほしいもんだ。
 ここら辺がググっと立ってくると、いい感じの凸凹が付いてまたいい感じなんじゃねーかなと思う。

 

 というわけで、前回凄い勢いで引き込まれていった雪ちゃんの世界がどんな色合いか、ちょっとペースを落として教えてくれる回でした。
 表現の手数と横幅が広く、色んな面白さで緩急つけながら話に浸らせてくれる巧さがあるので、凄く素直に楽しめます。
 このテクニカルでクレバーな筆が、ロマンスのど真ん中を全速力で駆け抜ける力強さにも繋がっていて、大変良いバランスだなと思う。

 掴み取った自由を片手に、目の前にある想いが恋なのだと選んだ雪ちゃんの、世界はもっと眩しく輝く。
 そこに満ちていく色彩が、作品がメインテーマに選んだものをより強く照らしても行くでしょう。
 次回もどんな景色が見れるのか、大変楽しみです。