イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

葬送のフリーレン:第19話『入念な計画』感想

 一級魔術師の栄誉を得るための一次試験は、参加者同士のサバイバルレースの様相を呈してきた。
 沸騰し始めた状況に反して、このお話らしいテンポで静かに展開していく、フリーレンアニメ第19話である。

 音速を超える速度で飛行し、魔力を敏感に察知する割に感知が難しい、難敵シュティレ。
 結界に閉ざされた試験会場の中で、これをどう手に入れるか……手に入れた相手を、どうぶちのめして横取りするか。
 魔物に殺されるのも想定内、なかなかにハードな情勢になってきた一級魔術師試験であるが、参加者はあくまで淡々と状況を見据え、ぶつかったり潜んだりするのが、なかなかに面白い。
 ここまで描かれたのは主に魔物や魔族相手の戦いで、魔法が使える人間相手に魔術師がどういう殺し方するのか……魔王亡き後の世界のスタンダードが見えにくかった部分もあるが、この情勢であぶり出されてきた感じもある。
 人間潰すには過剰出力な基礎魔法一本槍の、古臭くて真っ直ぐなフェルンの戦い方には含まれない絡め手が、フリーレンが旅を終えた後いっぱい開発されたんだろうなぁ……。
 ヒンメルの遺志を追いかけ、世界の綺麗な部分を旅してきたかのように見えるお話が、そういう生臭く世知辛い部分にもしっかり目を向けているのは、なかなかに面白い。

 

 現実主義者なデンケンがシビアに見つめるように、人の世を渡る魔法使いには実力も誇りももはや不要で、政治の海を渡り切る当たり前の能力こそが、最も大事……つう割には、あの爺さん強者オーラ出しすぎなんだよな……。
 アウラの末路を思い出さずとも、このお話の実力は溢れる魔力をどれだけ隠蔽し、相手の実力を適切に図る力に現れるわけで、術師自身が感知できない水場の魔力を、細密に感じ取ってる時点で、結構な嘘つきなんよね。
 ぶっ殺しての横取りまで含めて、何でもアリだと見えてきたシュティレ争奪戦。
 既に色んな場所でバチバチ火花が上がっているわけだが、ワサワサ出てきた連中が戦いの中で初見の印象を裏切り、秘めた実力と魂の地金が見えてくると面白いなぁ、と思う。
 狭いところに一気に人数ブチ込んだ結果、知らねー奴らに味が出るのをじっくりコトコト待ってるみたいな状況であり、そのための火種はやっぱバトルしかねぇワケよ。

 ……なんだけども、フリーレンおばあが見守る中若き魔術師がせっせと、試験攻略に励む様は例外的に大変穏やかで、これで良いのか主役! と少しなる。
 なるんだが、フリーレンの目の届くところでくらい血腥いバチバチが跳ね除けられて、ツンデレ幼馴染コンビが仲良く過ごしてくれる方が……正直嬉しいッ!
 周りが殺伐オーラを強めるほどに、善きものの守護者として決められた盤面ひっくり返し、殺さず奪わず勝ちに行くフリーレン組のやり方が、いい感じに立ち上がっても来るんだよな……。
 真正面から人間潰す能力含め、結界に閉ざされた会場に飛び交うシュティレをどう確保するのか、アクの強いチームメイトとどう協力体制を作るか、総合的な”強さ”が問われる第一次試験。
 既にたちの悪い魔物に早贄にされた犠牲者も出ている、禁じ手なしの潰し合いなんだが、そんなヤバさをどこ吹く風、青春魔術師物語みたいな爽やかさでカンネとラヴィーネを見守っている主役の、落ち着いた空気がやっぱ好きだ。

 

 仲間の能力、シュティレの特性、会場を包む結界。
 諸条件を鑑みて、試験の盤面それ自体をひっくり返して勝利条件を満たしに来るスケールのデカさが、魔力を極力抑え込んで、先頭には使えない民間魔法で捕らえるっていう、極めてフリーレンっぽいみみっちさと相反してるのも好きだ。
 フェルンに対人魔術を教えないのも、しょーもない民間魔法を集めるのも、魔法が殺しの手段、政治の道具になってる現状を良くは思ってない証拠だろうし、殺し合い上等な時流に乗っかるのを拒むように、静かで地味な決着に局面を運んだのも、彼女らしくて良い。
 魔王殺しの名声を引っ提げれば、地位も財産もほしいままだったろうに、そういう生臭いところに背中を向けてそれぞれ為すべきことに実直に生きた、仲間たちの歩みの先に、今回のスマートな解決があるのだろう。

 そんなフリーレンの手練手管に、唯一ついて行ってるデンケンの強キャラっぷりもなかなかのもんだが、避けて進んできた魔法使い同士の争いに追いつかれて、フリーレンと彼女の新たな子どもたちは、どう立ち向かうのか。
 どっしり腰を落としつつも、このお話らしい味わいで進んでいく魔術師試験。
 次回も楽しみです。