イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

僕の心のヤバイやつ:第15話『僕は山田と』感想

 世の若人が皆浮かれる、嬉し恥ずかしヴァレンタイン・デイ。
 『あっしには関係のないことで……』と距離を取ろうとして、グイグイ引きずり込まれて山田ハウス再訪!
 好きな人の友達と、一体どんな間合いで付き合ったものか……メカクレ系男子にはあまりに難しい、冬の一本勝負が始まる!
 そんな感じの、僕ヤバアニメ第15話である。

 京ちゃんと山田の日々は毎回小さな前進を繰り返しつつ、その上に更に新たな変化が乗っかっていくように描かれる。
 大晦日のファミレスで見られていると知らず、堂々たる男ぶりを見せたからこそ萌子は京ちゃんを『友だち』と思ってくれるし、ドタバタやかましいまま初めての嘘をつかせてしまった訪問の後、二度目の顔見世ではご両親との距離も縮まる。
 ぎこちなく不器用に、何が正解なのかさっぱり分からないままそれでも必死に、自分がするべきことを探してあがく京ちゃんと、彼の好きな人の好きな人はどう向き合い、ぶつかり、繋がっていくのか。
 そういう事を描く回……であり、なんだかんだ仲がいいお姉ちゃんと甘酒の勢いを借りて、どんな未来が欲しいのか欲張りな胸キュン吠える回でもある。
 山田がどんな家庭に育まれて”山田杏奈”になったのか、なっていくのかを、京ちゃんの視線を借りて僕らも知っていくわけだが、それは市川家がどんな風に、誰かを好きになる年になった次男を育んでいくのか、見守る視線とも重なっている。
 そういう暖かな視線は家だけに限定されたものではなく、子ども達なりに育んだ友達の輪の中にも、大事な人を守ろうと新たな変化を見つめている、小さな勇者たちも描いてくれる。
 中学ニ年生なりに獲得し対峙している、小さく暖かく……見た目ほどには簡単ではない人間関係を、甘酸っぱいLOVEを交えつつ描く回だった。

 

 

 

 

画像は”僕の心のヤバイやつ”第15話より引用

 というわけでヴァレンタイン前夜、愉快なドタバタ開始である。
 『女四人に男が一……分が悪すぎる!』ってんでバクステコスろうとした京ちゃんの襟首を、萌子がガシッと掴み輪に入れる。
 歳関係なくかなりハードル高い状況だと思うので、何かと及び腰な京ちゃんを状況に引っ張り込み、ポコポコ湧いて出る軋轢をギャグに交えて潰すためには、山田いないところで萌子との関係を作っておく必要があったのかなぁ……などと思わされる展開だ。
 カノジョ芝居でもって、京ちゃんを翻弄するのを楽しんでいるのは間違いないが、友達を好きな人がどんな人なのか、遠いところで勝手に見て判断する段階を終えている萌子にとって、京ちゃんは結構信頼できる”友だち”なんだと思う。
 今回は本来いるべきじゃない、山田杏奈の周囲を取り巻いている人間関係、そこに織り込まれた個々人に京ちゃんが触れ合うことで、キャラクターの顔がよく見えてくる回だ。

 この萌子の立ち位置に、吉田さんはまだ追いついていなくて、しかし小林”イノセント・チャイルド”ちひろよりは周囲が見えていて、結構複雑な感情が渦を巻くタワマンに、鋭く眼を配っている。
 山田がボールぶつけられた時、真っ先にキレてたの吉田さんだったし、彼女も萌子と同じく、友だちがあんま悲しい顔しないように色々気を配り、目を光らせている。
 ここら辺、山田が見た目より他人のこと良く見てるから好きな小林さんだけ、目端が利かないド天然……つうか、自覚し自称しているように”子ども”なのかな、って感じ。
 でもその深く考えなさが、時に薬になったり救いになったりもするわけで、人間というのは複雑で面白い。
 あんだけマブな間柄の山田と小林さんが中学からの付き合いであり、最初は変なやつと距離をおいて始まってると解るのも、なかなかに愉快だ。

 

 場を取り繕うためにねじ込んだ嘘が、捻れて拗れて居心地悪く、京ちゃんは一旦逃げようとする。
 彼の客観的理性であり、封じている情熱でもある”イケてる京太郎”が、スパイダーマンみてぇな張り付き方で告げる、奇跡の可能性。
 そこに向けて布石を打つというより、もっと幼くて純粋なものに突き動かされて、京ちゃんはニセモノの彼氏を自分の意志で止める。
 流されるままついた嘘で、好きな人の立場を危うくしたくない。
 そういう山田中心の考えもあるだろうけど、何より『嘘をつく自分ではいたくない』という、絞れば青汁ジョッキいっぱい取れそうな青く真っ直ぐな思考が、ペコリと頭を下げさせたんだと感じた。

 言い捨てて消えようとした京ちゃんの手をママが優しく引き止め、山田が家の中に戻していく。
 ここ数話、一気に山田家の内情に切り込んでいってるこのアニメだが、不器用ながら実直に誠実に、真っ直ぐ生きようとする青年に抱く好感が、母子共通っぽいのも見えてくる。
 奇跡のように優しく健やかに、家という揺り籠に守られて育って、日常を共にする家族が好きな二人は、好みや生き方が家族とよく重なり合う。
 後出しと言えば後出しなんだが、山田の内面がダイレクトには描かれず、『好きだ』という自覚が不定形の感情を追いかける形で恋をしていくこの話において、家族から子に継がれたモノが効いてたと解っていくのは、なかなか楽しい体験だ。

 

 

画像は”僕の心のヤバイやつ”第15話より引用

 ていうか山田パパの『デカくなった市川』感がスゲーんだってッ!
 どう考えてもラブラブ仲良し親子で、パパ大好きっ子である山田がなんで京ちゃんに惹かれたのか、それが全部じゃないにしろ『好きな人に似てたから』はデケーな! と、思わされるセカンドコンタクトである。
 ぶっきらぼうながら真心があること、見た目で誤解されやすいこと、好きになったら一途で情熱的であること。
 髪上げたら整った顔立ちしてる所含めて、山田パパは京ちゃんのシャドウとして、良い造形してるなぁと思う。

 間近な距離に近づいて、色んな壁を超えていくのは呼ばれた京ちゃんだけでなく、呼んだ山田家も同じで、娘がグイグイ近づいていくのに引っ張られる形で、シャイボーイの可愛い所を知っていく。
 三者面談のときは少し怖くも見えた山田ママが、学校離れてみるとめっちゃフレンドリーで、グイグイ歓迎してくれるのも、どっか娘と似ておるなぁ……。
 友達の視線も親の目もある状況下で、カーテンの奥ひっそりとゼロ距離接触試みてくる山田のような、一途な情熱をご両親も備えていたのだろうか。
 いつもは京ちゃんの心象風景として、光バチバチ虹色キラキラになる世界が、窓ガラス越し秘密の空間では、現実の風景として描かれているのもなかなか面白かった。
 あと萌子の行動全てがいちいちあざとくて、可愛すぎてキレそうになる……(可愛いものに惹かれている自分を認めたくない、一種の防衛行動)

 

 傷つかないために逃げるか、難しくてもやるべきことに飛び込むのか。
 後者を選んだことで京ちゃんは、チョコ作りの会場になった山田家だけではなく、山田杏奈を取り巻く友情のサークルにも認められていく。
 吉田さんが正体定かならぬ異物をずーっと見つめ続けて、友だちを悲しくさせる存在なのか見定めていた描写が挟まれるけど、それは小林さんが山田杏奈を好きな理由と、どこか重なっている。
 他人をちゃんと見ること、違いを認めた上で魂が重なる嬉しさを大事にすること。
 そんな当たり前に見えて結構難しいことに、ぶっきらぼうに見える吉田さんが真摯であることが解って、とてもいい夕焼けだ。
 ここら辺の観察力、山田が『家では自分を”杏奈”と言う』に気づいた京ちゃんと、実は共通してるポイントなんだろうなぁ……。

 めっちゃ居心地悪かった女だらけのチョコ作りが、色んな人と縁が繋がる楽しい時間になったのは、京ちゃんがどんな人なのかちゃんと見ようとする優しい素直さと、それを裏切りたくないと小さな勇気を絞った、京ちゃん自身の決断が、入り混じった結果だ。
 中学受験に失敗したことで、未来に期待したり自分を信じたりするのが難しくなった少年は、人生を暗い場所に引きずり込む引力に引きずり込まれかけた保健室のベッドの下から、鼻血ボダボダ流しながら泣きじゃくる女の子を見上げて、隠しきれない恋に気づいた。
 その熱に翻弄され腕を折り、抱きしめられたり抱きしめたりしながら今回も、京ちゃんは今までの自分ならしなかっただろう、でもずっと心の底でしたかった決断に、一歩踏み出す。
 その勇気が何も生み出さないまま、あるいは傷と痛みだけ生み出して終わるのではなく、確かになにか変わって、綺麗で素敵な景色に子どもたちを連れて行ってくれるのが、僕はやっぱり好きだ。

 

 

 

画像は”僕の心のヤバイやつ”第15話より引用

 そこに、市川香菜も一緒に連れて行ってくれやマジ……良い姉貴なんやホント……。
 京ちゃんに酒の勢いで恋バナダル絡み……と思いきや、一介高望みから地面に突き落とされて動けなくなった愛弟が、傷つかないよう賢い逃げ道を用意してやる姿が、あまりに”姉”で良すぎた。
 賢く先回りを繰り返して、思いっきりぶつかったからこそ生まれる痛みに予防接種をする姿は、姉弟良く似てて、でもそんな姉の掌から恋のエンジンフル回転しだした京ちゃんは飛び出しつつもあって、はぐらかされるかと思っていた”答え”をド直球で突き出してきたときの、驚いた表情も良い。

 『京ちゃんに、気になる子ができたらしい』と気づいて以来、慣れ親しんだウザ絡みを収めるくらい真面目に自分と弟がどこに進んでいくべきか、結構おねえは悩んだんだと思うが、そんな姉の生真面目を突きつけられずとも、京ちゃんは誠実で勇気ある態度でもって、自分の気持ちに向き合っている。
 そしてそれは、身近に自分の思いを時にからかい、時に受け止めてくれる家族がいてくれるからこそ、選べる道なのだろう。
 山田の前ではなかなか出てこない、堂々真っ直ぐ愛を見据えたカッコいい京ちゃんが見れたのは、やっぱり市川香菜の愛が、何気ない日常の中で感じやすい少年を包み、守ってきたからだと思うんだよなぁ……。

 

 そして、この予行演習あってこその『やめたら』でもあるわけで、良いラストカットで次回に引いたわぁ……。
 明らかに山田は『やめたら』って言って欲しくて、優しい好きピのちょっと独占欲メラってる顔欲しくて、義理チョコ渡すの渡さないのモダモダを突き出している。
 ここら辺の面倒くささと貪欲さ、毎回ながら怖くもなるが、欲しい時に欲しい場所に欲しい言葉を叩き込むからこそ、ロマンスの主役は主役足り得るわけよ。
 悪くなるばかりと諦めかけていた未来に、素敵な夢を見ても良いのだと思えるようになって、ちょっと欲張りな夢を言葉に、真っ直ぐな気持ちを視線に乗せる。
 中学ニ年生の冬、市川京太郎はそういうことが、ちょっと出来る少年になっているのだ。
 はー……立派だよ、本当に立派。

 幾度目家のまばゆい光の先にも、まだまだ日々は続いていく。
 決戦のヴァレンタイン当日、一体どんな嵐が吹き荒れるのか。
 どんなことが起きても、今の京ちゃん達ならどうにかなりそうな頼もしさが、笑いの中でしっかり作られてきたのは、やっぱ良いなぁと思います。
 次回も楽しみです。