イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ゆびさきと恋々:第3話『Someone is thinking of someone』感想

 恋と定めたその思いが、雪色のレッドゾーンまで加速する!
 掌で思いを伝えるピュアラブ物語、思いのすれ違いが生み出す複雑な網目も見えてくる、ゆび恋アニメ第3話である。

 それが恋だと決めた雪ちゃんの想いは止まらず、逸臣さんのこともっと知りたいと健気に迫り、近づいた距離を逸臣さんも時に無防備に見えるほど優しく受け止めていく。
 そのまんま恋の成就まで突っ走るとは行かず、色んな人々がその歩みに絡みぶつかっては来るのだが、メイン二人の思いは降り積もる雪に照らされて、あくまで情熱的で透明度が高い。
 ステンドガラスに守られた優しい檻を、意を決して出た後見つけた初めての恋に、雪ちゃんの心が熱くときめいている景色の描き方が鮮烈で甘く、大変いい。
 雪ちゃんの純情に、豊富なモノローグと切れ味鋭い情景の作り方が良く絡んで、今彼女の心がどんな温度で高鳴っているのか、見ている側にダイレクトに伝わる工夫を、良くやってくれている。
 その結果、スーパーときめき物語にシンクロ率高く、とにかく気持ちよく見終わることが出来るのがありがたい。

 愛が過保護と嫌味に変わってしまって、雪ちゃんにはぜーんぜん意識されてない桜志くんとか、何やら面倒くさい事情と感情が絡みついていそうなエマちゃんとか、恋のタペストリーを彩る登場人物も増えてきた。
 雪ちゃんと逸臣さんの恋という、メインシャフトが真っ直ぐでぶっといので、ややこしくなりそうな要素が混ざってきてもあんま不安にはならない。
 ここら辺、前回の桜志くんとか今回のエマちゃんとか、『このキャラこういう人ですよ~』って見せ方に棘がなくて、スッと好きになれる描き方してくれているのが大きい気がする。
 主役の超純愛を囃し立てる負け犬で終わらず、恋愛群像の一人として彼らにもプライドある描写を今後、積み上げてくれると嬉しいなと思える描き方だった。
 なんつーか……恋が成ればそれで終わりの単発イベントではなく、どういう結果にたどり着いたとしても関わったことで人生が豊かになる、幸せの震源地としてメインテーマを扱って欲しいんよな……。
 相変わらず、聴覚に障害を持っている人が世界をどう認識しているか、雪ちゃん独自の感覚に拘って描き続けている筆を見ると、こっちでも頑張ってくれそうな期待は高まる。
 そういう今後へのワクワクがある”第三話”なのは、いいなーと思うのだ。

 

 

 

画像は”ゆびさきと恋々”第3話より引用

 

 というわけで、今週も硬軟緩急織り交ぜて可愛らしく楽しく、このアニメは雪ちゃんの恋路を描いていく。
 やっぱ俺……気合入ったロマンス作画を良く効かせるための、”抜き”を怠けず可愛く仕上げてくれるお話が好きだッ!
 ほんとこのアニメのデフォルメは多彩で可愛らしく、おまんじゅうみたいな雪ちゃん見てるとニヤニヤ幸せになっちゃう……。
 主人公視点に強くクローズアップし、揺れる内面とそこから見える世界の色を丁寧に積み重ねるお話だからこそ、雪ちゃん視点で話が進むこと自体に飽きてしまうと危うい。
 なのでこういう風に、気合が入った硬い描写と、思わず微笑んじゃう柔らかい描写のバランスをしっかり取って描いてくれるの、とてもありがたいね。

 逸臣さんを好きでいるのだ、好きでいていいのだと自分で自分に決めた雪ちゃんは、立ち止まるのを止めてドンドンと自分を想い人に近づけていく。
 優しい檻から世界に生み出されたばかりの、殻がついたままの雛のような雪ちゃんの振る舞いは、見知らぬ感情に身を任せる喜びとかすかな不安が良く伝わり、知らず応援したくなる純粋さに満ちている。
 恋に邁進する主人公がとにかく健気で、余計なものが目に入らないくらい危うく、真っ直ぐ突っ走っている様子には、元気貰えんだよな……。
 控えめ謙虚に見えて、こういうエネルギーはモリモリ燃えているバランスも、彼女をエンジンに進んでいく物語と、見ているものが歩調を合わせたくなるポイントなのかもしれない。

 逸臣さんしか見えていない……だから彼に近づくエマちゃんも気になる、雪ちゃんの初恋旅路。
 その危うさを桜志くんは心配しているのだが、そんな彼の純情は凄く尖った形になってしまっていて、雪ちゃんには怖い凶器に見えてしまう。
 そういう距離感だからこそ、雪ちゃんは逸臣さんを初恋の相手として見初めたわけだし、桜志くんが選ばれない理由の描き方が、適切で残酷で誠実で、なかなか良いなと思う。
 恋に限らず人と人との繋がり方は、お互いが手を伸ばして適正距離で繋がるものだと思うし、桜志くんがズイと突き出しているものに確かに理はあれど、雪ちゃんはそれを受け取る姿勢を作れていない(桜志くんの態度が、作らせていない)。
 包容力ある手話の”匂い”にあらわれているように、逸臣さんは雪ちゃんが今欲しいところに手を伸ばし、おずおずと伸びてきた手を時にグイと引っ張って、雪ちゃんが見たかった景色へと連れて行ってもくれる。
 強引なマナー違反に見える踏み込みも、当人が『そこッ! そこが欲しかったッ!』と思ってるんなら”正解”だし、無自覚にドンピシャど真ん中にぶっ込める才能と幸運を、逸臣さんは持っているわけだ。
 ……ここら辺、作品を動かす運命にウィンクされてない桜志くんは徹底して外し続けるわけで、ここの対比は残酷ね。

 

 

 

画像は”ゆびさきと恋々”第3話より引用

 選ばれる側/選ばれない側の内実を掘り下げていく筆致は、雪ちゃんと向き合う男二人が、どういう色合いの光に照らされているかで、鮮明に可視化されていく。
 雪ちゃんのレッドゾーンにズカズカ踏み込み、あんま聞きたくない注意をビカビカ光らせている桜志くんの、落ち着かず危うい赤。
 それでは求める安らぎが得られなかったから、雪ちゃんは門限ギリギリまでコインランドリーに足を運び、逸臣さんが手渡してくれる柔らかな暖かさを求める。
 帰り道、車道から突っ込んでくる危険を己の身を立てにして庇う、ナチュラル紳士の振る舞いに心ときめく時、街灯の光はオレンジに暖かく、攻撃的な色合いがない。

 桜志くんの赤と逸臣さんのオレンジは、雪ちゃんが求めているものを適切に手渡せているか、コミュニケーションの色合いを鮮明に示す。
 雪ちゃんは前回の回想で見せたような、優しい檻に守られるだけでなく自分の足で外に広がっていきたい気持ちと、今回歩道に守ってもらって感じたような、自分だけを見つめて守ってくれる柔らかさを同時に求めている。
 桜志くんの心配は全くもって正統であり、初恋に溺れている雪ちゃんが色々危うい状況にあるのは事実なのだが、その突きつけ方があまりにむき出しで……こういう言い方もアレだがガキっぽい。
 『お前のためだぞ!』と振り回す、愛という名前のエゴの凶暴さを自覚できていない桜志くんがなぜ、雪ちゃんに選ばれないのか。
 それを逸臣さんがまとう柔らかな色合いで示しつつも、そこには確かに愛があるのだと教える筆も元気で、なかなか複雑で面白いものを見せてもらっている。

 

 天然マイペースで語らいを進めているが、逸臣さんは雪ちゃんが欲しいだけ踏み込み、恥ずかしさや怯えで踏み出せないところに、適切に踏み込んでいる。
 『身近な異国の言葉』として、天地がひっくり返るくらいの衝撃を受けた雪ちゃんの手話を、持ち前の言語センスで手早く習得し、携帯電話での文字コミュニケーションや、唇を”読んでもらう”対話よりもうちょい、個人向けの特別な会話を身に着けつつある。

 私のために、私の世界に入れる言葉を選んでくれた。
 この感慨は、同じく手話が使える桜志くんに向いてもいいはずの感情なんだが、男女の別を自覚するより早く関係が繋がってしまった哀しさか、桜志くんの手話は雪の世界に入るための特別パスとして、機能していない。
 まー接触もすくねぇ、大学で始めて学校一緒になったイヤ幼馴染つうのが雪ちゃんサイドの認識なんだから、『手話で話せる』ってことだけが理由じゃあないよね……。

 もっともっとと、恋と温もりに欲張りになっていく雪ちゃんにちょうどいい速さで、逸臣さんは歩調を合わせ、世界に入ってきてくれる。
 この”ちょうど良さ”が噛み合っているから、雪ちゃんは会うほどに逸臣さんが好きになっていくし、そこから桜志くんは置いていかれる。
 冬を舞台にし、時折雪片を舞わせることで寒さが強調され、それを触れ合って埋める温もりのありがたみが伝わってくるように、選ばれない桜志くんの描写が細やかだから、逸臣さんが選ばれる理由にも、自然と心を寄せられるのだろう。
 桜志くんを取り巻く、徹底したワンチャンのなさは展開誤解せずにすんでありがたくもあり、『そ、そこまで先回りして潰さなくても……』と震えもして、なかなかに凄いよね……。

 

 聞こえないことを承知で、雪ちゃんに触れ合う理由を逸臣さんが吐露してもいたが、現状恋と言うには少し熱の少ない、知的興味に近い感じだった。
 『身近な外国』として聴覚障害者と向き合うのは、個人レベルでのオリエンタリズムがブン回りかねない危うい距離感ではあるが、まー『手話を喋る人』つう認識よりもうちょい、目の前にいる人間の顔見た向き合い方出来ているので、問題はないだろう。
 色んな国を巡っても視界に入らなかった、しかし身近に確かに存在する、ハンディを背負う他者。
 雪ちゃんを通じて聴覚障害者の存在を自覚したことが、逸臣さんの世界をどう変えていくのか、そこを見ていきたい気持ちもある。
 身近で特別な誰かと接する中で、その人と共通するもっと大きい人間集団に優しくしたり、親身になったり出来る善さってのは、確かにあるからな。
 ……これって、桜志くんが前回、自動改札通り抜けちゃった人相手に示していたものだよなぁ……。

 主人公である雪ちゃんは自分が何を考え、何が世界を眩しく照らしているかを、かなり分厚く語る。
 この内言の分厚さが、いかにも少女漫画的な繊細さを堪能する足場にもなっていて面白いのだが、謎めいた恋の攻略対象であり、自分を新しく高い場所へ連れて行ってくれる逸臣さんは、何を考えているのか、その答えを簡単には見せない。
 人間が人間である以上認識にはギャップがあり、聴覚に障害を持つ雪ちゃんはことさら、その断絶を自覚せざるを得ない立場にいるのかもしれないが、それでもなお知りたい相手、知ってほしい相手として、逸臣さんは魅力的な他者だ。
 そんな彼の思いは、雪ちゃんが突き動かされるほどまだ熱くはないが、しかし桜志くんが危惧する『俺は優しい人間、良い人』というエゴの装飾品扱いとも、また違う匂いがある。
 逸臣さんは、雪ちゃんといることで何を得て、何を求めるのか。
 その過去や内面、恋心の温度と合わせて、ここら辺も今後掘り下げて欲しいところだ。

 

 

 

 

画像は”ゆびさきと恋々”第3話より引用

 桜志くんに向いている残酷で誠実な筆は、雪ちゃんがリバル登場と焦らされているエマちゃんにも、しっかり向いていて。
 触んねぇんだよなぁ逸臣さん、エマちゃんのこと……。
 雪ちゃん相手には、『おい、イケメン以外ならレッドカードだろコレ!』みたいな、恵まれたフィジカルから繰り出す身体接触でガンガン間合いを詰めている逸臣さんだが、エマちゃんと対峙するときは同じ画角に収まらず、心と体が離れていることを強調するようなカット割りでもって、関係性が暗示される。
 プルプルの唇スレスレまで指が伸びて、その手が新しく学ぶ”約束”の手話を実演するような距離感で、エマちゃんは逸臣さんと触れ合わない。
 そこには未だ内実が見えない過去が埋まっていて、なんやら色々あった上で、この間合いらしい……。

 ここら辺の応対を雪ちゃんは目撃していないので、可愛らしい身悶えはまだまだ続くわけだが、まーワンチャンないわなエマちゃんもッ!
 そういう人も、大変可愛らしく崩して泣かしてくれるので、俺はこのアニメが好きだ。
 逸臣さんのつれない態度、それに涙しつつも引っ付いてくるエマちゃんには、高校時代の色々が関係しておるのだろうが……それにしたって、SDエマちゃん可愛いッ!!
 こんなに可愛く泣く人を、今望んでいる場所には立てないにしてもなんかいいところに、連れて行ってあげてほしいなぁと思えるお話なのは、やっぱ良いよ。
 みんな幸せになってねッ!!(第3話時点での総論)

 

 という感じの、恋愛一年生猛ダッシュ絵巻でした。
 恋だと決めたこの思いに突き動かされ、うぉおおおってなってる雪ちゃんがとにかくピュア可愛く、作品の一番つえー所を全力でブン回すのに迷いがない、良いアニメだなぁと思います。
 この純情をスカすでも弄ぶでもなく、程よい間合いで向き合ってくれる逸臣紳士にも好感度上がってきて、メイン二人がバリ強い。
 そこに面白そうな群像がドシドシ絡んできて、さぁどうなるか。
 次回も大変楽しみです!