イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ダンジョン飯:第5話『おやつ/ソルベ』感想

 富と名声、死と危険が隣り合う迷宮では、生きるも死ぬも賽の目次第。
 あっさり斃れた新米パーティーの側で宝石を食い、亡霊に追われながら今は亡き人を想う。
 どこから来て、どこへ行くのか……分からんけども腹は減る。
 そんな感じのまったり進行、ダンジョン飯アニメ第5話である。

 いきなり重要メンバーが死に、雪崩込むように自給自足の迷宮ぐらしがスタートしたこのお話。
 ライオス達の珍道中に付き合う中で、キャラクターや世界観、テーマなんかを噛み砕き腹に落とし、身に馴染んできたタイミングで少し、お話のテンポがゆっくりになった回である。
 トンチキながら歴戦のライオス一行と対比する形で、宝虫の正体も見抜けず奇襲にも対応できないカブルー一行の旅支度がどっしり描かれ、現地調達で食事問題を解決してる主役たちの、理に適った一面も見えてくる。
 一回面白くも危険なダンジョンに視聴者を叩き込んでしまってから、ジワリジワリと世界観の広がり、キャラの魅力、テーマの奥深さを食べさせていく物語設計が、ちょっと新しい段階に入ってきた手応えを感じる回だった。
 結構なスピードで食われ死に、ライオス達が深く潜る理由になってるファリンの人柄と関係性を、僧侶だった彼女が向き合い続けた死霊を相手取る中削り込んだり、主食をガッつくワケじゃないからこその面白さを、”おやつと氷菓子”で味合わせるエピソードであった。
 こういうお話があることで、独創的で味わい深いお話を余すことなく食べ尽くす助けになってもくれるので、見た目の穏やかさに反して大事な回だったと思う。

 

 っていっても、穏やかながら人は死ぬんだがなッ!
 ライオス一行が迷宮社会のスタンダードから外れた、偏屈変わり者集団なのでなかなか描かれることのない、『普通の冒険者』の旅支度。
 どっしり描いたと思ったらあっさり宝虫の擬態に引っかかってカブルー一行は死に、生きたり死んだり蘇ったりが常態化している、迷宮都市の現状が改めて感じられた。
 宝虫の見た目に騙されてるのはライオスたちも同じなんだが、パニックになりながらも不意打ちされる前に気絶魔法で対応したり、あまつさえ自分たちを殺しかねない凶蟲を頭から食っちまったり、ベテラン冒険者のタフさが際立つ流れだった。
 彼らが火竜の待つ低層まで、スイスイ進んでいくにはそれなりの理由があるのだと、こういう形でしっかり描くことで、今後の話も飲みやすくなってくる。
 そして主役TUEEEのダシにされた形のカブルーたちも、また別の形で群像劇の一端を担って再登場するわけで、いろんな人間を引き寄せ飲み込むダンジョンという舞台の、怖さと面白さが見える展開だったと思う。

 宝虫料理は『色がついて動く絵』だからこその面白さが凄くある見せ方で、大変良かった。
 宝石ジャムの華やかな色合いは、昆虫食という(比較的)身近な異文化体験を、現実ではたどり着けないファンタジックな宝飾食へと変貌させて、『幻想の語り、かくあるべし』という面白さがあった。
 華やかに見えても虫は虫であり、こっちで言えばイナゴやハチノコ食うのと同じ困窮食ではあるのだが、そこもモンスター食に慣れてきた主役たちを逞しく照らしてる感じで、なかなか良かった。
 毎回そうなんだが、カラーデザインがしっかりしていて、面白半分のゲテモノではなく命を養う美味しいご飯として、モンスター料理を受け取れるのはありがたい。

 

 後半は迷宮に巣食った亡霊のお話であり、ターンアンデッドを専門とする僧侶を失ったパーティーが、自分たちを知らず縛っていた呪いを解くお話である。
 ここでしみじみ昔話を重ね、涙流れにファリンと”お別れ”する湿っぽさを持ち出すのではなく、むしろ即席フレイルをブンブン振り回し、テキトーな聖性で物理除霊するたくましさがあるのが、このお話の良いところだ。
 死ぬも蘇るもはや当たり前、死生観が狂いきったダンジョンにおいては死者の霊もやっかいなモンスターの一種でしかないが、しかしファリンは死人を乗っ取る悪霊を抱きしめ、優しく除霊する生き方を選んでいた。
 そんな彼女を取り戻すべく、怪物カッ喰らいながら深部を目指す一行に、同じやり方は出来ない。
 出来ないけども、自分たちなりにファリンが祓っていた死の暗さや消せない後悔と向き合うやり方はあって、常識外れなセンシの立ち回りは、逞しくそれを教えてくれる。

 旧パーティーの一員ではなく、ファリンとは面識がないセンシが自由な発想と闊達な力強さでもって、亡霊と一緒にライオス達の暗さもぶん殴り、美味しいソルベで吹き飛ばし腹に落としていくのが、爽やかでいい。
 センシ自身はあんま深く考えることなく、目の前の現実に己のやりたいまま、スルスル対応しているだけだ。
 しかし縁あって”パーティ”になったライオス達は、彼の蛮勇に救われ、後悔に飲まれて暗い場所に沈みかけた魂を、殴りつけられるようにして救われていく。
 この手前勝手な救済が、怪物食ってでも前に進む彼らの現状にマッチしてて、とても良かった。

 亡霊が何を思って死者に取り付き、生者を呪うのか。
 それを未だ知らぬライオスたちであるが、テキトーで粗雑な彼らなりの弔いはそこまで間違ってはいなくて、出来上がったソルベに苦味はない。
 行動の後ろにある事情や理由を完全にわかることは出来ずとも、考えすぎて足を縛られるよりやりたいように飛び跳ねることで、拓けていく道もあるのだろう。
 思いつきと興味の赴くまま、知らず未来を切り開く。
 やってる事は完全に天真爛漫太陽系ヒロインなんだが、それをおヒゲがキュートなずんぐりむっくりなオジさんが担当する所が、俺は大好きである。
 センシほんとに可愛いよなー……賢いし手際良いしタフだし。

 

 古典ファンタジーに範をとり、独自解釈で広げていく迷宮大喜利という側面も持つこのお話。
 今回は”亡霊”がテーマになったわけだが、これを除霊を生業とするファリンの深掘りに使ったのは良いなぁ、と思う。
 『声が早見沙織』という圧倒的アドバンテージはありつつ、人となりを深く知る前に龍に食われて死んじゃった彼女を、追ってライオス達は危険な迷宮に潜っている。
 主役たちのモチベーションに共鳴するためには、彼女が救われるに値する人格を持っていたかをどっかで書く必要があり、ちょっとメインが落ち着いたこのタイミングはドンピシャだろう。

 既に5話、生き死にの観念がかーなりぶっ壊れ、それが迷宮の外に広がる/迷宮を核として展開してる冒険者社会の倫理にも染み出している様子は、愉快な冒険に混ぜて描かれている。
 銭と暴力と荒んだ人間関係が支配する、かなり末法冒険者の世界で、それでも哀れな死霊に手を差し伸べ、『人間だったもの』として向き合うファリンのヒューマニズムには、暖かな匂いがあった。
 こういう人間性の描き方は、死霊が実際ライフドレイン仕掛けてくる世界だからこそであり、ファリンを掘り下げる筆がそのまま、ファンタジーとしての面白さを描いているのも巧い。

 

 ファリンの霊に寄り添う人情除霊と、センシの暴力的でテキトーな除霊が、てんで別々だけど対等に価値があるもので、去っていった(からこそ取り戻すべく必死になっている)過去も、いろんな縁が転がって生まれている今も、両方大事なんだと話がまとまったのは、とても良かった。
 どっちかを手にとってどっちかを諦めるわけではなく、確かに繋がっている過去と現在……もしかしたら未来を見据えつつ、各々どっかがぶっ壊れたポンコツ人間ご一行は、迷宮を降りていく。
 奇抜なアイデアと美味そうな飯が混じり合う、現在進行系の冒険を見ているとつい忘れてしまうけど、旅の大目的はファリンの蘇生だからな……。
 そういうの思い出させてくれると、物語の行先がスッキリ見えてきてありがたい。

 あと人間の根っこが悪いわけじゃないけど、人の間で生きるにはあまりに思考と言葉に引っかかりを生みすぎる、ライオスのヤバっぷりも暴かれたな……。
 『妹死んでよかったなッ!』と、爽やかなデザートの後にぶっ放してくるダメっぷりでもって、色んな場所からはみ出したんだろうな……と、主役の過去に想像が行く良い描写だった。
 人の心を慮るセンサーが働かないからこそ、普通の生き方ができずに迷宮に吹き溜まって、妹食われて龍を追うハメにもなっとるわけだが、そんな彼の人間性はこれまでの出会いと、ここからの旅で変わっていけるのか。
 そんな面白さの一角を担う、新たなメンバーたる生きている剣・ケンスケデのビュー戦でもあった。
 『鍔鳴りでもって、主に危機を知らせる魔剣』って古典中の古典なんだけど、それを迷宮甲殻類の生理現象と再解釈して描くの、やっぱ好きだなぁ……。

 

 というわけで、話の主軸からちょっと外れた、嬉しい箸休めでした。
 最初に話しの雰囲気とキャラの魅力が見えるエピソードを連ねておいて、視聴者が食卓についたところでこういう味付けの話が出てくるの、良い構成だなぁと思う。
 ライトな食味に反して話全体への効きが良く、好きになったキャラクターの好きなところをたっぷり食べれる作りだったのも、凄く良かったです。

 一つの影を乗り越えて、パーティーはさらなる闇の向こうへと歩みを進める。
 一体何が飛び出すか、わからないから面白い。
 次回差し出されるのはどんな迷宮料理か……ワクワク待ちたいと思います。