イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ゆびさきと恋々:第8話『一歩を』感想

 広く広く伸びゆく空を求め踏み出したものと、溢れる愛しさにせき止められ進めないものと。
 群像それぞれの恋模様をえぐり出す、ゆび恋アニメ第8話である。

 色んなところが強すぎるこのアニメ、サブタイの切れ味も毎回素晴らしいのだが、今回はちょっと怖くても新しいことにドンドン踏み出していく雪ちゃんの『一歩を踏み出す』と、エマちゃんとの捻れきった関係性に縛り付けられ、『踏み出そうとした一歩がどうしても前に進めない』心くんを、同時に切り取る詩句となった。
 前半凄い速度と濃度と温度で展開され、”答え”にたどり着いた雪ちゃんと逸臣さんの恋路は、そこで留まらずどんどん広い場所へと進み出していく。
 それがずっと挑戦し、冒険してみたかった雪ちゃんの望みであり、それを優しく助けられるからこそ逸臣さんは彼女の隣りにいられる。
 そんな二人の、前向きで風通しの良い前進ではすくい上げきれない人間の業を、美しく愛しく削り出すようなエピソードだった。

 第1話以来の監督演出回となったが、草薙の美術がとにっかく素晴らしく、心くんとエマちゃんと逸臣くんがいた”あの頃”が、どういう色と空気で満ちているのかを全身の毛穴で感じ取らせてくれた。
 前半戦は、雪ちゃんが持つ透明な美しさを冬の寒さに反射し、だからこそ逸臣さんの存在が温かに感じられる手触りで情景を描いてきたわけだが、ここで既に終わってしまった青い季節への懐旧と残照を、現実では未だ遠い夏の色に宿して見せてきたのは、大変いい。
 それは冬の寒さとも、春の温かさとも違う遠い色をしていて、しかし誰もがそこを通り過ぎたことがあるような、普遍性のある風に満ちた場所だ。
 そこでは三人は高校生で、今よりも幼く拙く、真っ直ぐに必死に誰かを好きになって、誰かを傷つけて、その痛みがまだ強く残響していて、抜け出すことが出来ない。
 屋上の三角形の外側に、出会うはずがないと思っていた運命の人を見つけた逸臣さんにしても、ろう学校という優しい檻から出ることを望み続けた雪ちゃんにしても、主役二人が心地よく旅立てた過去に、心くんとエマちゃんはずっと囚われたままだ。

 素敵な職と服と生き様を、自分で選んで使いこなせれるようになった。
 大人になった。
 彼らを切り取る輪郭線はそんな外面を離れて、決意を裏切って言葉が出てこない一瞬を、視線が通らない鏡の牢獄に切り取ってくる。
 そういう切ない現在地があって、二人の魂がどこに転がっていくかはこっからのお話であるが、とにもかくにも伊柳心はそういう男であり、中園エマはそういう女であると、非常に鮮烈に繊細に、愛しさを込めて描ききる事が、彼らのスタート地点として大変良かった。
 六話かけて描いた男女の在り方とはまた違うけども、囚われてなおもがく無様で美しい魂の在り方が、愛しく呪う思い出の青が、確かにそこにはある。
 その上で、心くんとエマちゃんが何を選んでいくかを今後追いかける上で、最高の滑走路がしっかり仕立てられた感じがあった。

 

 

画像は”ゆびさきと恋々”第8話より引用

 

 と、思えるのも、このアニメが空をゆく飛行機雲を、色んな難しさを抱えつつも己の物語を必死に生きようとしている人たちの、希望の象徴として幾度か画面の中に埋め込んでいるからだと思う。
 俺が桜志くんをクソやば束縛系幼馴染で終わらせず、『なんかあるだろ……キャラとしてもドラマとしても……』と思えたのは、彼が灰色の空に真心を呟いた時、見ず知らずのどっかへと飛んでいく翼が見守ってる演出が、そこにあったからだけども。
 今回自分たちの関係を大きく変える、マブダチの『彼女出来ました! お前にイノイチ知らせに来ました!』宣言を聞き届けた時、クールな心くんの表情にはでない衝撃や動揺は、生活音に紛れて鮮烈に演出される。
 彼は親友に負けず劣らず、聴覚障害者を色眼鏡で見ない……見ないよう努力できる人であり、確かに自分の世界にそういう人がいて、親友が今まで見たことないような幸せそうな顔でその人に恋をして、自分たちを縛る鎖から一抜けするような相手になりうるのだという事実を、真っ直ぐ受け止めようとする。

 自分に当たり前にある……だから山盛りのCDにも耽溺できる聴覚が、生まれつきない人はどんな風に世界を感じ取って、どんな風に愛を呟くのか。
 外野からの興味本位ではなく、自分に引き寄せて見届け、心に刻もうとする青年がその存在と出会った時、遠く響くジェットエンジンの音、近くに燃えるガスコンロの炎が、彼の語らぬ内面を上手く描く。
 なかなか心を言葉に表せない不器用さ、それが生み出すクールな麗しさが心くんの個性であるなら、べらべら感じたことを言葉にまとめるのは不適切であろうし、雪ちゃんという人生に闖入してきた見知らぬ異物に彼がどんな衝撃を受け、何を感じたかは、まず生物に反射させて描くほうが奥行きがあると感じる。

 心くんはどんな人で、彼の預かり知らぬところで形になってしまった親友の恋を、動き得なかった自分たちの関係を揺るがす闖入者を、どう受け取るのか。
 これを丁寧に描くことで、雪ちゃん達とは違う難しさと愛しさに絡め取られた彼自身の恋にも、見ている側が身を寄せやすくなる。
 手話を通じて愛をささやくその仕草に、どんな意味と思いが込められているのか必死に知ろうとする、コミュニケーションへの誠実な姿勢は、例えば電車の中で出会った時の雪ちゃんであったり、彼女と話すために手話を学んだ逸臣さんと、共通するスタンスだ。
 目の前にあるものを否定せず、まず受け入れて言葉を返す。
 率直に、誠実に繋がる。
 それが出来たからこそ主役二人は素敵な恋人となり、同じ姿勢を心くんもしっかり持っている。
 それがよく分かる、二度目のファーストコンタクトである。

 

 第一印象あんまり良くなかった雪ちゃんと、心くんがどういう繋がり方をしたのかは、聴覚保有者には”異国の言語”でしかないはずの手話で、『ありがとう』をしっかり伝えられている姿からも良く分かる。
 それは逸臣さんが惚れ込んだ、透明で美しい雪ちゃんの心が生み出した結果であるし、目の前にあるものと偏見なく向き合おうとする、心くんの性根が引き寄せた関係でもあろう。
 まぁ、いい人といい人がいいタイミングで出会い直し、虚心坦懐に向き合っていい関係が生まれた……って話ではあって、ごくごく普通の幸せなんだけども、まーこういう事って思いの外起こんないじゃん!
 なんか面白くもねー色眼鏡で勝手にジャッジして、身構えて凝り固まった姿勢で不自然な形にはまり込んで、色々痛かったり辛かったりしてくじゃん!!(溢れ出る個人的なトラウマ)
 そういう面白くもねー現実の摩擦を遠ざけて、『こうなると良いなぁ、こうあってくれると良いなぁ』というファンタジーを素直に、真っ直ぐ形にしてくれる所は、このお話の強みだと思う。

 高校時代から引きずってる、複雑に絡んだ関係を語る恋人とその親友の唇から、雪ちゃんは極力目をそらす。
 聴覚保持者なら『聞いちゃいけないこと』になるナイーブな関係性が、ろう者にとってhが『見ちゃいけないこと』になる面白さがあったが、エマちゃんがこの場にいない以上、過去を共有しない自分が踏み込んではいけない領分なのだと、揺れる心くんの瞳が教えている。
 突然出てきて、逸臣さんをかっさらった形になる雪ちゃんと、何度フラレてもずーっと逸臣さんが好きなままのエマちゃんの関係がどこに落ち着いていくかは、今回描かれた鏡の檻が砕けた後の話だとは思う。
 しかし心くんが唐突に訪れた結末を恨むでも呪うでもなく、心の底から祝福して真っ直ぐ向き合い、新たな関係へと一歩を踏み出す……少なくとも、踏み出そうと願う姿勢を見せてくれたことは、未来を明るく照らしている。

 

 

 

画像は”ゆびさきと恋々”第8話より引用

 物語は心くんのナイーブで複雑な回想を間に挟みつつ、『一歩を踏み出せる』雪ちゃんの幸福を、優しく描く。
 赤子のように、あるいは菩薩のようにふくふくと笑う雪ちゃんを見ると僕もとても幸せな気持ちになるが、このハッピー赤ちゃんを恋する乙女の顔に変え、その唇を甘く独占できる波岐逸臣が憎い……羨ましい……幸せになって!!(矛盾する感情に引き裂かれて爆砕)
 雪ちゃんめっちゃ良い子なんで、一生最高HAPPYに包まれてずっと笑ってて欲しいし、それを特別な熱量込めて手渡せる男が逸臣さんだってのは、納得と応援の気持ちでずっしり消化済みである。
 でも雪ちゃんホント可愛くて、逸臣のヤローそんな天使と一切の躊躇いもてらいもなくイチャイチャし倒しおって、それがまた雪ちゃん待ってましたの望み通りなので皆幸せ、モニタの向こうで歯ぎしりしてるワラジムシが首突っ込むんじゃないよ! 過ぎて……なかなか複雑な感情で、最高のイチャイチャを見ている。

 逸臣さん、自分でも予期しなかった雪ちゃんへのBIG LOVEも己の一部だと、素直に受け止め望みのまま自然と、乙女のおとがいに指を触れて花盗人決め込むの、結構勇気あるなと思う。
 いや『他人の目を気にしろ』って話ではなく、自分の知らない自分が出会いの化学反応で立ち上がってくるのは、今までの自分らしさを崩されることでもあるので、結構怖いと思うわけ。
 でも逸臣さんは雪ちゃんから目が離せない自分を素直に受け入れて、迷わず近づいていって、彼女の”ぜんぶ”になれるように彼なり全速力で突っ走って、欲しいものを手に入れた。
 そこで終わらず、もっと幸せに満ち足りるようにアクティブにLOVEし続けているの、『らしくない逸臣』も楽しむ靭やかさがあって、そらーモテるわな……って感じ。
 (高校時代の彼が描かれた結果、それが時の流れに練磨された結果生まれた”らしさ”であり、ナチュラルに備わった資質ではないと解るのは結構面白い。)

 逸臣さんが提案した手話合宿に、雪ちゃんは目を輝かせてYESを叫ぶ。
 彼女はずっとそうやって、少し怖い未知に踏み込める自分を求めているし、そこで足踏みしないですむよう、震える掌を握ってくれる誰かを求めている。
 何でもかんでも、弱くてかわいそうな自分を哀れんで与えて貰うわけではなくて、必要な助けは受けつつあくまで自力、自分を誇りに思えるような足取りで、未来を切り開いていきたい。
 その瑞々しい願いは、雪ちゃんがろう者だから生まれるものでは、けして無い。
 彼女との出会いに揺るがされて、エマちゃんとの関係を新たなステージに進めようとする心くんにも強く宿っている、人間の当たり前だろう。

 

 

 

 

画像は”ゆびさきと恋々”第8話より引用

 しかし同じ音で胸が鳴っていても、辿り着く場所は違ってしまう。
 店長に決意の電話を入れた心くんの願いは、エマちゃんにとっては『友達』からの電話でしかなく、二人を縛る鎖をぶっ壊すには、心くんはエマちゃんが誰を見続けているのか、その瞳がどれだけ眩しく輝いているのか、見えすぎている。
 雪ちゃんという存在を偏見なく受け入れる、大きな助けになった心くんの優れた視力が、エマちゃんを前にすると自分を縛る呪いになってしまって、優しさと愛しさ故に変われないというのは、人間の難しさを感じさせる描写だ。
 イヤホンを分け合っても、同じ高鳴りで隣り合ってくれないエマちゃんが、顔を向けているのはいつも逸臣さんの方だ。
 その不公平が彼らのデフォルトで、変わらず飛び込んでくる愛では変われなかったからこそ、逸臣さんは雪ちゃんを選んだ。
 その決断が、動けない自分に好機となると信じて、震えながら用意した大舞台で美容師は、あのときと同じように後ろ髪を梳く。

 心くんの夢であり生業にもなった髪梳きが、エマちゃん相手には徹底して顔の見えない位置から、後ろ髪を引く形になっているのは、このアニメらしい残酷さだ。
 『後ろ髪を引かれる』は心残りを意味する慣用句であるが、空を見上げて『なりたい』と思うだけのガキではなく、仕事として夢を叶えた大人になってなお、心くんはエマちゃんの顔が見えない位置に、逸臣さんの方ばかり向いている場所に、自分たちを縛り付けてしまっている。
 その出会いがあったからこそ、かけがえない美しいものが自分の中に生まれて、砕けばもう自分ではいられないほどに愛しいからこそ、怖くて視線の先へ踏み出せない。
 髪に触れる特別な距離感を、恋とは思ってくれない切なさに引き千切られながら、心くんはエマちゃんの親友……何でも相談できる壁役に、己を嵌め込む。
 それにしたって、高校時代の美術良すぎる……草薙マジ最高……。

 

 

 

画像は”ゆびさきと恋々”第8話より引用

 眼の前で、あまりにも美しく笑う彼女が可愛いのは、自分じゃない誰かに恋をしているから。
 そんな残酷な事実も、心くんの繊細な瞳はしっかり受け止め、認識してしまう。
 その事実が心に届いた時の、微細な衝撃と震えの表現は、現在進行系で雪ちゃん相手に震えている桜志くんの瞳にも似ていて、負け犬共が燃やす魂の色を写し取るのを、全く怠けないアニメだなぁ、などと思う。
 こんな繊細な心を瞳に映す少年たちが、主役たちの成し遂げたキラキラハッピーな恋の薪になっていいわけがないわけで、途中経過としてこういう描写があってくれることで、サブキャラを粗雑に消費せず、色んな顔がある人生劇場の主役として群像を描く気概を信じることも出来る。

 心のあり方を光に託すライティングも完璧で、後ろ髪を追いかけ、『いつかなりたい自分/既に叶えた夢』で美しく飾る特別さの只中にいる時、心くんはあくまで影の中だ。
 そこは好きになった人が自分を見れない/好きになった人を自分で見れない場所であり、あくまで自分の方をエマちゃんが向いてくれた時、微笑んでくれた時に光は宿る。
 あるいは逸臣さんに詰め寄って、恋の有無を聞き届けた時に。
 待ち望んでいた王子様が自分の前に現れた時、エマちゃんの世界も光に満ちる。
 いかにもアオハルな屋上で過ごす、三人だけの特別で幸せな時間にも明暗は確かにあって、心くんが魂の奥底から欲しいと願う眩さは、心くんではない人からしか生まれ得ないのだ。
 そんな事実から、誠実で実直な心くんは目を背けられない。
 そんな彼だからこそ、雪ちゃんがどんな人で、逸臣さんとどんな愛を育んで、それが自分たちに何をもたらすのかも、良く見えるのだ。

 

 

 

 

画像は”ゆびさきと恋々”第8話より引用

 出会いの季節から時が立って、心くんは雪ちゃん相手にとても優しくて賢い、人として正しい態度を取れた。
 しかし高校時代、薄暗い陰りの中で代償行為のように、彼氏彼女の関係になった女の子相手には、割合最悪の立ち回りで破局にぶっ込んでいく。
 いかにもモブっぽいメカクレの記号が、彼女一人に留まらずエマちゃんへの思いに嘘を付き、心地よい三角形を守ろうと『エマだけは好きにならない!』と呪いを突き刺した心くん自身にも、ぞわぞわ伸びていくのは大変いい。
 モブちゃんが吠えている弾劾は全く正当なもので、屋上のアオハル三角形に耽溺して、自分がOK出した関係性に誠実に向き合えていない心くんは、キレられて当然だと思う。
 その不誠実を取り返す手立ては、彼女を顔のあるメインキャラに取り込むことなく、大人になった今まで崩れてくれない三角形を維持してきた、心くんにはもはやない。
 人が為すべきことを気持ちよく、最短距離でひた走ってきたお話にはない、薄暗い過ちと後悔の匂いが過去編には濃く匂っていて、大変好みだ。
 その上で人間存在のドス黒い臭気を掻っ捌くのではなく、そういうどうしようもなさもひっくるめて透明で美しい時代として描くの、凄いし好きだね。

 俺はこのもう出番がないだろうモブちゃんに結構感情移入してて、ピカピカ綺麗な人生お送りになられてるスーパーリア充様に憧れて、自分も顔のある存在になろうと彼女の位置に座って、そしたら自分が存在を許されない青空の下で三角形に閉じて排斥されて、人間ナメてんじゃねぇよ! と叫びたくなるのはよくよく解る。
 彼女を置き去りに、わざわざ作ってくれたお弁当と真心を腹に収めずに三人でいることを選んでしまった心くんが、思い出の中の彼女に相応しい自分になるためには、あの時ほざいた嘘を取り戻して、壊れる覚悟で前に進むしか無い。
 エマちゃんが好きな自分に素直になって、後ろ髪ではなくその前髪に手を伸ばして、自分含めた誰かをほんとうの意味で大事にできる自分に、変わっていくしか”答え”はない。
 しかしあの時も今も、心くんはエマちゃん相手にだけは”答え”が出せない少年であり、長く伸びた前髪は彼の武器である鋭い瞳を、愛という呪いの中に覆い隠してしまう。
 これさー……モブちゃんの属性とおんなじなのマジしんどくて、そらー『素敵彼氏ゲットしてスクールカーストバク上げ!』つう算段もあったとは思うんだけども、マジで心くんの事好きだったから彼女の前髪も伸びて、でもまだ美容師じゃない心くんはそれを切って、あるべきものに目を向ける道を開いてあげることが出来なかった……とも読めるじゃない。
  明らか考えすぎなんだけども、雪ちゃんを前にして心が感じ取るものの鋭さ、それに素直に自分を投げ出していく勇気と誠実さこそが心くん”らしさ”と描かれた上で、エマちゃん相手には一生後ろ髪触って前髪に瞳隠してるの見ると、こういう読み方もしたくなる。

 

  そう。
  雪ちゃんと逸臣さんを前にした時あれだけ誠実で率直だった彼は、エマちゃんを前にしたときだけ前髪で瞳を隠して、何も見えなくなっていってしまう。
 ”美容師”である彼の迷いと弱さを描く象徴として、髪で目が見えていない状況を過去と現在にわたって活用し続けているの、つくづくパワーがある演出だなと思わされるけども、夢と追いかけ叶えたものに呪われて、心くんはあるがままの自分と自分たちを、見えないものにしてしまっている。
 この見えなさはエマちゃんにも共通で、バレバレな好意も扉にかかった『CLOSED』の特別さも、見えないまま逸臣さんへの変わらぬ恋心を、最高に可愛らしく輝かせる。
 『まーしょうがねぇな……こんだけ可愛いと呪われもするよ……』と、納得してしまう輝きでエマちゃん書いているのも、このアニメらしい残酷さで最高。
 心くんの痛みや辛さを押しのけて、便利に使うエマちゃんの”見えなさ”は、徹底的に逸臣さんだけを好きでい続ける、真っ直ぐな純情と裏腹であり、エマちゃんらしさが独とも薬ともなってる状況なのだろう。

 『好きになってくれるかなぁ!』と、雪ちゃんとはまた違った幼さで無邪気に……残酷に弾むエマちゃんの顔を鏡に閉じ込めて、心くんは『一歩を踏み出せない』側として、青い牢獄に自分たちを閉じ込めてしまう。
 そこに暗い陰りだけでなく、かすかな光が差し込んでいることに希望を見出したいが、まー大変に根が深い。
 出会いが呪いとなり、長所が鎖に変わる人間のままならなさは、お互いの善さをフル稼働して最速で駆け抜けた主役二人には照らせなかったものなんで、ここをディープに掘り下げていくことでもっと、作品が豊かになっていく期待感凄いな……。

 

 

 

 という感じの、新たな恋を描くための複雑怪奇な滑走路が、豊かに敷かれていく回でした。
 やっぱスゲーなこのアニメは……絵の綺麗さが、キャラクターが身をおいている場所の空気がどんなものか、余す所なく伝える手立てとして活用されてるのが良い。
 俺はクオリティがドラマに寄与している作品が好きなんで、そういうアニメであってくれて最高です。

 こんだけ丁寧に、心くんの善さとダメさを描いてくれると、『おいぃ! 皆幸せになるんじゃねーのかよッ!』と思わされてしまうわけですが。
 願いが叶ったり叶わなかったり、叶ってしまうからこそ動けず辛かったりする世界の中で、善き人たちが幸せになるまでの一歩一歩と、最高ハッピー彼氏彼女になった後の人生をこのお話、まだまだ豊かに描いてくれるでしょう。
 次回も楽しみです!