イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

異修羅:第9話『空からの戦火』感想

 燃え盛る炎は街を焼き、因縁を焦がして炸裂へと至る。
 リチア本陣を巡る地上と空中、二局面の戦役を描く異修羅アニメ第9話である。
 さよなら、レグネジィくん……。

 状況としてはファンタジー世界に似合わぬガチ塹壕戦を、対空兵装完備の多脚戦車が全速力で蹂躙し、黄都とあんま関係ない欲張りボーイが超絶焼夷弾で街を灼かれて、リチア大ピンチ! って感じになった。
 雑魚が雁首揃えてもチート野郎に傷一つつかない、不公平な算数で戦争経済成り立たせなきゃいけないのはなかなか大変だと思うが、それも算段に入れた上で政治するのがデフォルトの世界だろうから、弱者の立場はそらー無いわな。
 ここに歯ぎしりし噛みつく代表者がユノなんだろうけど、ダカイとの舌戦にすら勝てない小兎ちゃんが、クソヤベー蜘蛛の化け物が超絶軌道で塹壕を踏み潰し、インチキアイテム迷わずぶっ放す三本腕が空を制する戦争の現実に、一体何が出来るか……疑問は深まる回でもあった。
 まーユノちゃんが何事か強者に牙を突き立て、本懐を遂げるのはずいぶん先の話になるだろうから、今はチート野郎のチートっぷりが有象無象の血しぶきを絵の具に、華やかに咲く様子を楽しんでいれば良いんだろうけども。
 ……この『結局、序章だけでアニメが終わりキャラのコアにある部分が解消されない』感覚は、原作を原作通りアニメ化するなら絶対回避できない宿痾であり、中盤までキャラ紹介に使った構成と併せて、そうなるしかなかった消化不良感なんだろうな。

 

 さておき前半はソウジロウ&ニヒロ VS リチア守備隊の、イカれたワンサイドゲーム
 騎兵突撃を警戒する文明レベルながら、足を止めた塹壕戦が基礎戦術として運用されているあたり、客人が色んなチートを持ち込んでスキルツリーが伸びた世界特有の歪さが、夜間戦闘に匂って面白かった。
 ハルゲントのおっさんが展開した必殺の術式を見るに、この世界の魔法工業はなかなかヤバい感じに育っていると思うので、火砲の精度も威力も結構高く、タコツボに頭突っ込んで実を守るのが賢い感じなのだろう。
 しかしそこをダカダカ乗り越え、鎧袖一触軒並み肉ミンチに変えうる蜘蛛戦車が、線上の常識を軒並み書き換える。
 ゾンビと蜘蛛の二身一体呪詛で耐久力を跳ねさせ、常人なら即死の不可も死人だから無視できるつうインチキの編み方は、結構好きだ。
 蜘蛛が吐き出す斬糸も対地対空、ユーティリティーな活躍をする良い兵器で、制圧範囲と機動性、耐久力を併せ持った良いユニットだなぁ、濫回凌轢。

 インチキ装甲で通常兵器を跳ね除け、死んでも死なないゾンビ戦車を相手取るには同じくチートしか手がないわけで、『より強いやつと闘う』が行動原理なソウジロウは、雑魚狩りよりもニヒロ戦に興味津々。
 致命の一撃を見切り、弾雨を弾き飛ばす剣の技よりも、なんでニヒロが死なないのか直感する殺戮本能こそが、剣豪たるソウジロウのチートの源……って感じか。
 金でも道理でも縛れず、好き勝手絶頂に自分ルール押し付けてくるチート野郎が黄都側に付いているのはタイミングの問題でしかなく、そういう”機”を制圧できなかったからリチアは燃えていく……つう話かもしれない。
 ソウジロウやニヒロといった大駒の動きが目立つが、これを盤上に張れたのは官僚組織の情報収集力と政治力の賜物であり、マイクロコントロールを受け付けない規格外をどう、政治の軛に縛り付けて望む結果を得るかが、この世界の支配階層には大事なのだろう。
 とりあえず一方面には穴開けてくれたし、このままソウジロウとニヒロが同士討ちになっても黄都サイドは損してないわけで、鎖をつけられない猛獣をそれなりに扱う算段は、官僚組織の中でノウハウ化されてんのかな、って感じ。
 ……それとも魔王亡き新世界秩序を、確実にかき乱すだろう強すぎる”個”を刈り取る好機として、この戦争を利用している形か?
 個人の欲と意思を抱えた存在としては、明らかに強すぎんもんなー、チート野郎ども。

 

 というわけでそんな好き勝手絶頂野郎が、かつての同胞と決着つけるBパートである。
 大虐殺者じゃん星馳せアルスッ!!
 いやまぁ、ロクデナシしかいない世界なんで自分のエゴのために街一つ焼くのも当然ではあろうし、そういうエゴの強さがあればこそ怪物的な実力にもたどり着けるんだとは思うが、周辺被害と戦術的影響がデカすぎる……。
 『群れない、炎で街を焼く、宝物に執着する』というアルスの特色は、ワイバーンというよりドラゴンのそれであり、龍になり残った亜龍の怪物ってのが、彼の本質なんだろう。
 自分が狙いを定めた宝物を奪われたら、そこに住まう人の幸せも事情も一切合切無視して飛来し、何もかも切り飛ばし焼き尽くして奪い去る生き方は、ロクでもないが痛快ではある。
 そういうメンタルの持ち主が、あの低血圧で冷えたキャラクター性持ってるのも、個人的には好きだなぁ……。

 そんな彼を越えて戦争に勝つべく、色々情報集めて群れをけしかけ、必殺の調略でフィニッシュ! ……しようとして、ボーボー燃やされたレグネジィくん。
 初登場時からこういう末路だろうと思っていたが、想定通り散っていってしまって残念半分、大空中戦で大暴れして死んでいく華やぎに喝采半分といったところ。
 レグネジィくんもグロ蟲脳みそに突っ込んで、他人を死兵に書き換えているロクデナシなわけで、死ぬのが当然……とまではいかないが、業は十分背負ったキャラではある。
 しかし群れを離れ自由に強欲に生きて、まだ満足を知らないアルスに対して、美しい歌を自分に歌ってくれる少女という、何よりの宝を見つけれた彼の人間味は、殺伐としたお話の大事な潤いであった。
 いやまぁ、人間味なんぞ残しているから死ぬんだけどさ。

 『群れのために生き、群れのために死ぬ』というワイバーンのスタンダードから、亜龍たるアルスは勝手に抜けて、レグネジィくんは逃げ切れなかった。
 アルスは自分が生み出した炎に突っ込むことで窮地を逃れ、レグネジィくんは炎から遠ざかる性質を読み切られて、特大の罠に飲み込まれて死んだ。
 群れを呪いつつ、蟲で脳みそ弄って作り上げた偽物の群れの中……それを拡大したリチアという群れにアイデンティティを預けることでしか、魔王に心を壊された青年は戦後を生きていけなかったのだと思う。
 ユノとはまた違った形で、弱者の怨嗟が骨身に染み付いたキャラではあるのだが、エゴを貫ききれなかった弱虫なりに情報を集め、策を束ね、修羅狩りまで後半歩に迫ったのは、素晴らしき奮戦だったのだろう。

 この空中戦、勝敗を分けたのは情報収集の不徹底であり、アルスが抱えたアイテムの性質を丸裸に出来ないまま、伏せたカードに綺麗にやられた形だ。
 自分が制御できる炎だからこそ、火の中に突っ込んでいった不自然をレグネジィくんが疑問視できたのなら、魔法ナパームの嘘くさい性質を読み切り、罠をかいくぐって勝てる目もあったわけだが……。
 自分がどれだけアルスに勝っていて、群れに従順な善きワイバーンであるか喋らざるを得ないエゴの薄さが、徹底して対手の札を読みに行く臆病と慎重を、レグネジィくんから奪い去った感じもある。
 アルスが指摘した”逃げ”を、自分の本音を、徹底して貫き切るエゴの強さがないからこそ、それを果たしてしまったアルスに焦がれ、自分が彼をどう上回ったのか、言葉で足場を作るしか無い。
 自分は群れの真ん中に位置し、自分だけの群れを維持し、誰よりも強く誰でも蔑ろに出来る、強い存在だ。
 数多の市民を焼いて一切の後悔ない”個”としての強さを、レグネジィくんは結局持ち得なかった。
 エゴの比べ合いつう側面が濃いチート合戦、その当たり前の弱さと人間味が敗着になるのは、納得の行く末路ではある。
 ……こんだけ状況が発火してきてなお、『誰かのために生まれる強さ』みたいのをアイデンティティにしてるキャラがいない、ロクでもなくて凄いよね。
 それを体現出来たかもしれないレグネジィくんは、ズタボロの焼きワイバーンにされちゃったしさ。

 

 

 つうわけで、正面から戦争状態にある二国に属さない、孤狼が戦場を食い破り燃え上がらせる回でした。
 一応雇用関係にある地上班はさておき、アルスまーじで我欲一本抱えて引っ掻き回してるだけだからな……ぜってぇこの世界で政治したくない。
 制空権優位をリチアにもたらしていたワイバーン空軍、その中枢が瓦解し、魔王自称者も『恐怖による支配』とか抜かしている場合じゃねぇ感じになってきたが、その理念を支えるだけの実力を、未だ隠し持っているのか。
 遺跡から回収したインチキレーザーだけだと、キアとナスティーク残してる黄都側を押しきれない感じはあるが、さてこっから市街戦の地獄絵図、どう転がっていくのか。
 次回も楽しみです。