イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ダンジョン飯:第9話『テンタクルス/シチュー』感想

 生きて千両死んで六文、迷宮の沙汰も金次第。
 そんな世知辛さに引き裂かれてなお、後ろ髪引かれる情は確かにある。
 最悪の再会と初対面を混ぜ合わせて、口に入れれば悪くない。
 別パーティーを鏡に主役を新たに描く、ダンジョン飯第9話である。

 というわけで、強敵ウンディーネを前に足止めを食らった主役パーティが、別のパーティとの交渉と交流、激戦と食事を経て良い関係を築き、迷宮の奥へと歩を進めるエピソードである。
 ここまで目的を同じくするライオス一行にフォーカスして描かれてきた物語が、至極マトモなナマリの新しい職場と隣り合うことで、『あ、やっぱトンチキ人間が寄り集まった、相当な異分子なんだな……』と解る回でもあった。
 魔物食の美味そうな面白さ、凸凹噛み合ったトンチキの愉快さは、見ている僕らを迷宮の奥にいざなう牽引力を持っているわけだが、世間一般にスタンダードな冒険者とはどんなモノなのか、ここらで一回書いておくと、主役の顔がより鮮明にも見えてくる。
 異物だから排除されるわけでも、一度分かれたから繋がれないわけでもなく、ケルピー焼き肉に手もつけないドン引きから始まって、共にシチューを食べて笑う所まで24分、”食と冒険”というテーマにしっかりドラマを巻き付けながら、迷宮内コミュニケーションが別角度から照らされる回となった。
 あえて印象悪くスタートしたナマリ&タンスと、利害をすり合わせる一時的協力関係から、生きるの死ぬのを乗り越えていく戦い、情に流されてのヤバい一歩をせき止める選択を経て、より善い繋がりを食卓に生んで終わる。
 ライオス達がどんだけ普通じゃないかを描きつつも、その異質性を乗り越えて(あるいは腹に収めて)繋がりうる前向きない希望が、ナマリと新たな雇用主が関係を深める物語に重ねて描かれていて、前向きな希望がそこにはあった。
 お互い偏見と利害があり、価値観の相違があり、対話と協力があって相互理解を深めていくという、とてもベーシックな面白さがエピソードをしっかり貫通していて、じんわり確かな手応えのある回でした。

 

 つうわけで地味にお初な、死んでない人間集団とのマトモな初接触
 コカトリスに殺されかけていた新米コンビ相手には、一方的に助けるだけの関係だったわけだが、マルシルが負傷し魔力も切れかけている今、ライオス達はどうにかタンス達との協力関係を築かなければいけない。
 しかしモンスター焼いて食う異常者相手に、金儲けのためではなく呪いの調査のために迷宮に潜っているタンスの第一印象は最悪であり、焼き肉には手もつけない。
 これがシチューを共に食らうところまで、関係を深めるってのが今回描かれるドラマの主軸であり、パーティー内部で食うの食わないの、ワーワーやってた所からちょっと、話の角度が変わった感じもある。

 傷を癒やしたマルシルが押し流されそうになり、クールに正しくチルチャックがせき止める、シビアな冒険者稼業の実像。
 利用し利用されが当たり前、お互いにとって有益でなければ対話も出来ない冷たい距離感は、幻想を剥ぎ取った冒険者という職の、確かなリアリティを孕んでいる。
 ここら辺の手触りにライオスは全く疎く、かといって利害計算が出来ないわけでもなく、ウンディーネが道を塞いでいる状況で自分たちの戦闘力を、関係構築の足場としてしっかり差し出す。
 その冷たい利害関係から一歩踏み込んだところに、真実お互いの命を預けられる戦友の情というのはあり……こっちは全く、今のライオスには感得しにくい領分である。
 冷えた利害と熱すぎる情、両方の丁度いいところを進んでいくのが善き冒険者ライフだってのを、新たなパーティーと遭遇すればこそ削り出せる話数だと言えよう。

 

 一銭にもならないのに、死んだファリンを助けに行くか。
 魔法学校時代から縁が深いマルシルと、なんだかんだ肉親であるライオス、そして情より契約(を重視する、自分のスタイル)を大事にするチルチャックは、その選択にYESと答えた。
 ではNOを突きつけたナマリが情知らずの我利我利亡者なのか……主役パーティだけが正しいのかという問いかけを、昔なじみとの再会はしっかり掘り下げていく。
 喧嘩別れに終わっても、共に窮地を乗り越え生まれた信頼は消えてなくならず、ライオスはナマリとの共同戦線に飾りのない本音を、するりとぶつけてくる。
 命懸けの窮地に一切躊躇わない、戦士として優秀なあり方も含めて、今回はパーティリーダーとして結構頼もしいライオスの顔が、より鮮明だったように思う。
 いやまぁ、普通人が当たり前に感じる因縁の拗れを、まるで他人事のようにスルッと無視できちゃうヤバさも、またそこにはあるのだが。

 新参のセンシもひっくるめて、テンタクルスに縊り殺されるか否かの瀬戸際を、とっさの連携で乗り越えて、深まる絆。
 冒険者を稼業とするなら守らなきゃいけない一線に、素直に従ってなお胸をざわつかせる情。
 そういうものが、道を違えたかつての仲間にも確かにしっかり残っていて、実利だけが迷宮の全てではないと教えてくる。
 この視線が、あくまで迷宮を覆う呪いの調査解明を目的とするタンスにも向いてて、実質的に迷宮のスタンダードになってしまっている刹那的な実利主義とは、ちょっと違うところに足場があると照らしてくるのは、結構好きな構図だ。
 凄くシニカルでプラグマティカルな視線からすると、金剥ぎや蘇生業者のほうが『普通』であって、タンス一行もまたライオスとは違った形で、真実人間に大事な部分を残して迷宮に挑む、変わり者の集団ではあるのだ。

 

 そんなタンスじーちゃんは、初対面のライオス一行には冷たいわ、ナマリの命を弾除けに使うわ、イヤーな第一印象で描かれる。
 しかし養娘のキキがテンタクルスに囚われると見も世もなく動転し、迷宮を支配する不死の呪いには思うところがあり、ただの嫌なジジイではない奥行きを、共にピンチに挑む中で見せてくる。
 ファリンが生きていればサクッと乗り越えれ等ただろうピンチが、他人を頼るしか無い窮地になってしまう中で、蘇生も治療も余裕でこなす高位プリーストの頼もしさが際立ってくるのも、冒険譚として良い描写だった。

 死んだり生きたりが当たり前な迷宮探索において、初対面のヤバ人間を警戒するのも、雇ったばかりの戦士と冷たい雇用関係で繋がるのも、至極当然のことだ。
 変人たちが遠くにおいている、世間一般のスタンダードにナマリと同様浸ってる……と思わせた所から、戦い共に過ごす中でだんだんタンスの人間が見えてくるのは、とても良い手応えだった。
 そういう人も迷宮に潜り、死を否定する呪いの真実を探っている。
 色んな奴らが危険な場所に集いつつ、手を貸したり反目したり、お互いをよく知らない所から親睦を深めたり、シチューのように美味しく”人間”が煮込まれていく。
 作品が持つ根本的な面白さが、良いコクで煮出される回だと思う。

 そういう意味では、『迷宮の死生観は異常である』とセンシとタンス、二人の賢者から明言されたのは結構大きいだろう。
 蘇生ではなく、死の否定。
 いかなるカラクリと業が生み出したものかはまだ見えないが、当たり前に死人が生者に戻るこの迷宮が全くもって『普通ではない』事実を、新たに照らす回となった。
 ライオスたちの楽しい冒険に付き合っていると、迷宮慣れした彼らの常識がこっちにも移って目算が狂ってくるが、やっぱ人の生死は重たく大事なもので、だからこそ彼らはファリンを取り戻すため、火竜に挑もうとしている。
 ここら辺の価値観が狂ってくると、命をいただく”食事”つうテーマもブレてくるわけで、センシの死生観を新たに削り出す意味合いも含め、大変良かったと思う。
 冷徹に迷宮の価値観に適応して、サクッとナマリを殺し生き返らせたように見えたタンスが、死んではいないキキのピンチにはあんなに動転する身内びいきも、むしろ微笑ましい人間味に思えるのだから、生き死にのまつわる描写というのは不思議なものだ。

 

 魔物食に一切慣れていないナマリたちのドン引きを調味料に、新たに主役たちの当たり前になってしまった行為を照らすのも、また面白い視座だった。
 ヒゲおじさんがバナナもってる可愛い絵面で、テンタクルスを処理して齧る行為はただの栄養補給ではなく、ある種の戦闘行為でもある。
 魔物を好んでかっ食らうゲテモノ嗜好は理解できなくても、『戦って生き残る』という迷宮の当たり前は、ナマリ達にも親しい価値観だ。
 ここから始まって、ドワーフの金剛力が二つあればこそのウンディーネ退治、マルシルの魔力枯渇を癒やす医療行為でもあるシチューの食卓と、戦いを経て埋まった溝をメシで均していく味わいが、見ているこちらにも良く伝わってきた。
 地味にマルシルが初めて積極的にメニューを提案し、包丁を握って料理を行う回でもあり、さんざんヤダヤダ言ってきた彼女が食餌治療の当事者として、前のめりな積極性を魔物食に見せてもくれた。
 モンスターと戦いとモンスターを食う行為は、ナマリやタンスだけでなく、主役一行もより親しい関係で繋いでくれるのだ。

 これはタンスとナマリにも言えて、かつての仲間と呉越同舟、ワイワイ騒ぎながらピンチを乗り越えていく中で、冷徹な雇用関係でしかなかった間柄は本物の仲間へと……少なくとも、それを望んでいるとちゃんと判る距離感へと踏み出していく。
 情一本でファリンを救うのが正しいのだと、アンバランスな価値観に染まってしまいそうなところを外部の視点を入れて是正するこのエピソードにおいて、関係性の改善、価値観の再確認が色んなところで起きているのは、とても面白い。
 ナマリが無謀な救出行に背を向け、新たな職場に赴いた現実感覚を、一番色濃く持っているのは実はチルチャックであり、その怜悧な感覚がマルシルの提案のヤバさを正し、色んな価値観と決断を尊重できる場所へと彼女を……彼女と”パーティ”である自分たちを留めてくれる。
 同じ場所に向かい、同じ戦いをしなくても肩を並べることは出来るし、だからこそ自分たちの居場所で大事なものを大切に出来るという、至極当たり前で、でも迷宮では蔑ろにされがちな視点が、今回はとても爽やかだった。
 武器や鍛冶に強いこだわりがある、”普通”なドワーフのナマリが隣りにいることで、ボロッボロの斧を構え霊鋼アダマントを鍋にしちゃうセンシのヘンテコさと、そうであっても”普通”の価値を認められる善さが描かれてるのも、そんな爽やかさの一つかな。

 

 という感じの、色んな人間を窮地の炎で炙り、利害と情をコトコト煮込む回でした。
 マルシルの魔力切れがウンディーネシチューで治る描写が、食えばこそ健康に生きていける”人間”を描こうとするこのアニメらしさに道てて、大変良かったです。
 そんな治療行為はライオスたちだけではとても成し遂げられなくて、タンスの調査もまた彼らだけでは達成できず、お互い目指す場所も信じる価値も違えど、ちゃんと分かりあえるのだと描く回でした。
 俺はタンスパーティ皆可愛いので、アニメでも魅力的に書いてくれて嬉しかったな……ずーっとニコニコしてるクセに首飾りがグロゴツい、ヤーンおばあちゃんが特に好き。

 かくして旧友とのわだかまりも温かな食卓に溶けて、冒険者たちはそれぞれの目指す場所へと進み出す。
 呉越同舟お互い様の利害関係が、ナマリが新しい仲間と善い関係を築く終わり方で収まるの、怜悧と人情のバランスが見事でホント好きなんだよなぁ……。
 色んな強さがあるお話なんだが、なんだかんだ豊かな人間観察力に支えられたヒューマンドラマの分厚さが、お話の支柱だと感じるね。
 強敵を討ち果たし、遂に旅の目的地への進路は空いた。
 いよいよ火竜との決戦が近づくダンジョン飯アニメ、次回も楽しみッ!