イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ゆびさきと恋々:第9話『帰りたくない』感想

 透明な雪降り注ぐ冬を越えて、芽吹いた恋が春に花開いていく。
 生命当然の帰結として、口づけの先へと加速していく二人の恋路を丁寧に追いかける、ゆび恋アニメ第9話である。

 前回みっしり、進みたいけど踏み出せない心くんの足踏みを追いかけたわけだが、カメラが主役に戻ってくると恋が成就した後の景色が、四月の風の中眩しく広がっていく。
 人それぞれの歩調と繋がりがあって、あたりを包む光の強さ、空気の甘さも個別の色合いだけども、そこには確かに人の感情が宿り、絡み合って複雑な色を織りなす。
 恋人になった雪ちゃんと逸臣さんが編み上げていく、気持ちと身体の触れ合いをとにかく丁寧に、美々しく描いていく作品の筆が、大変元気な4月のキャンプだった。
 恋人だからこその距離感、触れ合う以上を自然と求める心の動きが表現力豊かな筆で塗り重ねられ続けることで、不可視なはずのお互いの気持に確かに触れられた手応えが、モニタの向こう側からこちらにせり出してくるような、静かな迫力が生まれていた。
 この人なら、”全部”が二人の答えになる。
 そういう信頼と依存と期待が入り混じった、恋としか言えない強い思いがどんな体温を持っていて、どんな顔をしていて、どんな匂いで時間と空間を色づけていくのか。
 ロマンスとしての強さを真っ直ぐぶん回す、甘く愛しいエピソードだった。

 既に六話かけて、行き着くべき所へたどり着いた主人公二人をしっかり描きつつ、色んな人の恋模様も横幅広く描かれ、物語を一色で塗りつぶさないよう進めてくれてもいた。
 色々ハンディの多い雪ちゃんを支え応援してくれた、りんちゃんと京弥さんの恋路は少しコミカルながら純情まっしぐらで、とても応援したくなる。
 手話合宿四人組の明るく眩しい色合いと対比するように、感情を心の奥に閉じ込めた冷たい色に閉じこもる、桜志くんの現状を切り取る筆もシャープだ。
 雪ちゃん達のダダアマラブラブリア充っぷりを前半強めに押し出しておいて、そこからはじき出された/顔を伏せたまま決着を付けられてしまった恋敵の世界の冷たさ、暗さを強調してくるのは、次回以降効いてくる筆だったと思う。
 僕は桜志くんの未熟で身勝手で純情な所が凄く好きなので、彼にガッツリ向き合う前景として、色合いからライティングからBGMから、アニメの全部が『私たち……今幸せです!』と告げてくるハッピーキャンプは、残酷で良かったな。
 こっから……こっからですよ、桜志くん……。

 

 

画像は”ゆびさきと恋々”第9話より引用

 オメーがかわいいよッッ!!(引用画像一枚目に、リアルタイムで見てた時思わず飛び出た”叫び”)
 やっぱSDめっちゃ可愛いアニメ好きだぁ……ポップな雰囲気といいテンポを生み出しつつ、心の奥底にある願望をしっかり満たしてくれる、ありがたい表現であるよ本当。
 萌え豚特有の鳴き声はさておき、お話の方はスーパーリア充グランピングへと雪崩込んでいって、最高に羨ましいハッピーデイズが、明るい春の日差しに瞬いていく。
 くっそ面倒くさそうなドデカテントの設営とか、同じくらい大変そうなその撤収とか、現実世界の汗と垢が臭う場面は徹底してパージして描かないってのがこのお話の画角であり、誰もが羨むいい感じな日常生活を、透明感高く描いていく日常カタログ的な色も濃い。
 雪ちゃんの大学生活にしても、経済的にも身体的にも不満や不安はなく、とても綺麗で行き届いた場所を舞台に、心弾む物品や体験と出会い、あるいは手繰り寄せ、毎日は眩しく輝き続けている。

 この光の引力を、スーパーときめきロマンスの火力でもって一気に加速させて、『こんな毎日送りてぇ~~~』と身悶えさせる所まで視聴者を運べる所が、このアニメの強さ(の一つ)かなと思ったりする。
 どこにもないからこそ万人の憧れたりうる、ユートピアとしての満たされた暮らし。
 笑いに満ちて自然体な『勉強』を通じて、手話という新たなコミュニケーション手段を楽しく学んで、もっと豊かに繋がりあえる可能性。(雪ちゃん先生の大自然手話講座、何かと難しく考えられがちなネタをライトにハッピーに書き直してくれてて、最高に良いシーンだった


 その一つの顔として、温かな手触りの恋もある。

 兎にも角にも楽しいことばかり、転びかけることすら彼ピの頼もしさを感じれて嬉しい。
 そんな幸せキャンプを彩る眩しさは、『バイトが見つからない』という生っぽい悩みに切り込む時、少し陰る。
 川辺でのキャッキャウフフは、逸臣さんといる時間が雪ちゃんにとってどれだけ特別で、それを生み出せる彼もまたどんだけ特別なのかを良く語っている。
 冷たい水に足を浸したり、そこで転びかけたりすることはともすれば(例えば桜志くんが隣りにいるときとか)ネガティブな色で塗られそうなもんだが、脳みそ春色な乙女ちゃんにとっては全てが眩しく、喜ばしい。
 これは雪ちゃんが世界をネガティブに捉えにくい、前向きで透明感抜群な人間だってのもあるけども、逸臣さんと一緒にいればこそ生まれる光だ。
 それが、開け放たれているけども屋根はあり、世界を満たす幸せな光から少しだけ遠いテントの中で、現実の難しさと触れ合った時は少し陰る。

 


 そこにはは現実の反映ではなく、この作品がずっと選び取っていた心理主義の筆致であり、雪ちゃんの心……それを受け止めて踏み込む逸臣さんとの関わり合いの色が宿っている。
 心の中から溢れるものが世界を色づかせ、微かな陰りをふっとばすほどのときめきがどこから生まれてくるのか、体と心のふれあいを切り取るクローズアップが丁寧に積み上げていく。
 ”手話”を一つのテーマとするこのアニメ、身体表現をどう描くかに関しては異常なレベルで意識が高いが、そのハイクオリティが恋人たちの触れ合いにも良く伸びていて、セリフはないのに(ないからこそ)恋人となった二人の距離感は、真に迫ってこちらへせり出してくる。
 あくまで逸臣さんの内面は言葉にならないが、語られずとも伝わるものが背中を押して、どんどん恋人の距離へと進み出していく雪ちゃんの体温、心音が見るものとシンクロしていく。
 そんな、力強い演出である。

 この人になら身体を触られてもいいし、ナイーブな問題に踏み込まれても良いし、それを共通の課題として背負ってくれてもいいし、口づけの先へと進んでも良い。
 そう覚悟し希望する少女の瞳は、驚きと喜びと微かな情欲が入り混じって潤む。
 『透明で美しい器』と逸臣さんが称した雪ちゃんが、ただ純潔なだけではない人間当然の情念を宿し、”全て”を期待しているのだと示す無言のエロティシズムが、繊細な筆先に削り出されて鮮明である。
 このお話が中高生のヌッルいピュアラブより、もうちょい踏み込んだ関係性を描け、求められる大学生主役のロマンスなのだと思い返すと、逸臣さんに触れられた雪ちゃんの高まる熱が、彼女に触れる逸臣さんの身体性が、しっかり描かれているのはとても良い。
 人が生きているからこそ万物エロいわけで、ガラスの檻の外に出て知らない空へ羽ばたこうとした雪ちゃんが、出会ったことのない熱に焦がされている様子……『眼の前の男が……エロすぎる!!』ってビックリして、でも逃げ出さず差し出された掌を受け入れる様子がエロいの、マジ大事だと思うよ俺は。
 ぽってり唇エロすぎるよー逸臣ーーーーーーッ!!(豚の鳴き声)

 


 清潔感と透明感、相手を蔑ろにしない適切な同意形成を大事に進めているこの話が、人間の体温を失わず正しくありすぎないためにも、適切な可愛さとエロさは大事だと思う。
 無論作品の品位と雪ちゃんのキャラを毀損しないためにも、『燃えてます……身体の真芯がッ!』とかダイレクトなことは言い出さないわけだが、恋人たちの中に燃えている秘めやかなエロティシズムは非常に豊かな声で、彼らが生物としても惹かれ合っている様子を伝えてくる。
 そういう手応えがちゃんと在るからこそ、社会的存在としてお互いを尊重し支え合い、新しい体験へと踏み出せていける尊さに、人間らしい体温も宿る。
 コレがない状態で清く正しいことばっか言ってても、描いた理想は嘘っぽくなりがちだろうし、話としても心底ハァハァ出来ずつまんねーからな……動物と人間、両方の顔がある存在として乙女を描けているのが、まー強いよ。


 二人だけの秘めやかな暗号を交わし、口づけの距離へと近づいた時、カメラは少し引いた距離から恋人たちを切り取る。
 『バイトが見つからない』という、重たく暗い話題に踏み込んだ時は見えなかった風通しと光が、恋人だからこそ生まれる息吹を唇に交わした二人を描いた後、世界に満ちていることが示されていく。
 この心地よい開放感、『このキスの後色々上手くいくんだろうな……』という予感は、このお話の見事なムードコントロールを示すものであり、恋を真ん中に据えたこのお話の文法を語ってもいる。
 素敵な恋が上手くいくほど、人生の諸問題も前向きに転がっていく。
 恋愛至上主義のヤダ味を上手く逃がしつつも、あくまで主題と選んだ濃厚な感情衝突こそが物語のメインエンジンであり、キスするのされちゃうののドキドキを丁寧に描いていくことこそが、人生のめんどくせーアレソレを乗り越えていくパワーの源になるのだ。
 俯瞰で冷静に見れば、チュ~したからバイトが見つかる因果はどこにもねぇんだが、本来結びつかないはずの恋と人生を強烈に結び合わせ、良い恋してれば良い人生が引き寄せられるというルールを、美麗なときめきで納得させる剛腕が、このお話にはある。
 そういうパワフルな問答無用が、何かを主題に選んだ物語(つまり全ての物語)には必要だと僕は考えているので、雪ちゃん達のラブラブを力入れて描き、『ここで生まれた繋がりとか熱とか自己肯定感とかが、人生より眩しく風通し良くしていくぜ!』と告げてくれるのは、大変嬉しい。
 ガンガンときめき、ガンガン充実していこー!!!

 

 

 

画像は”ゆびさきと恋々”第9話より引用

 っていう物語の流れに、果たして主役のマブダチー’Sも乗っかれるのか!
 序盤からコミカルでかわいい触れ合いを重ねてきた、店長とりんちゃんのLOVE模様も合宿を通じて一歩踏み込んだところに進み出していて、大変良かった。
 ふたりとも主役たちを応援し支えてくれる、めっちゃ良い人だからさぁ……幸せになってほしいわけよヤッパ!
 彼らの関係を進めるために、バイト先のニーちゃん(額に”当て馬”と書いてある)が唐突にポップアップしてきたのはマジで面白かったが、横槍あればこそ加熱する恋心ってのも確かにあり、普段はクールな店長も己の思いを水面に照らすぜッ!
 俺は物語にとって都合の良い存在だった人が、身勝手で幼い”人間”だと解る瞬間がスゲー好きなので、今回京弥くんが我欲モリモリ出してりんちゃんに迫ってきたの、大変良かったな。

 我欲言うてもエゴむき出しの嫌な感じではなく、自分の気持ちをちゃんと言葉にし、勝手に結論決めつけるわけでなく相手を尊重し、京弥くんらしいジェントルさが失われてもいなくて、『やっぱ好きやわ~この人』ってなった。
 心くんもそうだけど、サラッと小気味いい距離感を保ちつつも冷淡ではなく、人間らしく弾む心の熱量を保ったまま、気持ちの良い距離感に自分を置いてくれる系男子が多いの、見てて気持ちいわな。
 ネトネト絡み合う情念の網からあえて距離を取って、清潔感と透明感を大事に恋を描いていくってのがこのお話の特徴だと思うんだけど、店長&りんちゃんの微笑ましい純情はその色合いが、一番濃くでてるのかなーとも感じる。
 ちょいドジで一生懸命な所がりんちゃん可愛いので、足グキーなってキャンプ台無しになっても許せる(許せる関係性が、キャラと僕の間に出来ている)のは、強い語り口の産物だわな。
 顕になったお互いの気持にどう踏み込んでいくのか、今後の描かれ方が大変気になる二人でした。
 もう付き合っちゃえってマジ!(豚の鳴き声Ⅱ)

 

画像は”ゆびさきと恋々”第9話より引用

 そして主役周辺を満たす明るい光から、遠ざけられ冷たい、未だ恋成らざる人たちもまた、このアニメは丁寧に切り取ってくる。
 ラブラブ彼ピとメッチャイチャコラして、周りが見えないほどハッピーな雪ちゃんを照らす温かな光と、それを思わず目撃して桜志くんに伝えるべきか、複雑な鎖に囚われている少女の影。
 ともすれば今回、一番鮮烈な演出はここにあって、光と影が入り交じる街角が上手いこと、恋人たちのイチャイチャエピソードから甘さを抜いていく。
 誰かを好きだと選ぶことは、果たして誰かを選ばないことと不可分なのか。
 ノートに刻まれた文字にすら、胸高鳴る愛しさを感じられるような温かな関係の隣には、常に選ばれなかった者たちの悲哀が滲むのか。
 そういう難しいけど踏み込まなきゃ嘘になる領域へと、お話が突入していく気配がビリビリ匂って、大変に良い。

 前回の心くんと同様、自分の”好き”を素直に言葉にできない系男子の前髪は、本心を隠して長い。
 親切に忠言してくれる相手に背中を向けて、顔を見せないその姿勢は、相手の顔を見ないとコミュニケーションが難しい雪ちゃんと、その顔を見ようと近づく逸臣さんの在り方とは真逆だ。
 ここら辺、ろう者特有のコミュニケーションがいかなるものなのか、丁寧に積み上げてきた作風が生きている演出で、大変良かった。
 目を見る、口元を見る、心を見る。
 音を頼りに出来ない主人公に、積極的に己をさらけ出してきたからこそ恋人になり得た青年とは、全く真逆の一に閉じこもっている青年の部屋は、爽やかな風が吹いた開放的なテントに比べて、あまりに冷たくて青い。
 しかしその青さも人間の否定せざるべき顔ならば、そこに踏み込む意義は大変大きいだろう。

 

 ここで連絡受け取ってしまった逸臣さんが、くっそ生意気な恋のライバル相手にどういう応対を見せるのか。
 彼をもっと好きになりたい自分にとって、次回は大事な天王山になりそうだ。
 好きになった女の子相手にスーパージェントルなのはメッチャ得点高いとして、純情な横恋慕を燃やしここまで彼女を見守ってもくれた不器用ボーイ相手にも、逸臣さんは人格を保てるのか。
 彼の侠気が試される局面になってきて、なかなか楽しみではある。

 つーか桜志くんが彼なり雪ちゃん大事に思って、手話学んだりぶっきらぼうな防波堤になったり、守ろうと頑張ってくれたのは間違いない事実で。
 逸臣さんが惹かれた透明な美しさも、あの厄介ボーヤが人生の一部注ぎ込んで育んでくれたからこそ、濁らず守られてきたもんだと思うわけよ。
 その美しさを特別な距離感でもって、見つめ触れ合い口づけできる立場に立ってるオメーが、桜志くんの厄介な難しさに肘鉄食らわすのは見たくねぇっつうか、助けてやってよホント! って感じ。
 自分を大事にしてくれる人を大事に出来ない、桜志くんのありふれた間違いが今回鮮烈だったけども、そういうところに手を差し伸べてこそスーパーリア充超絶イケメンだろッ! って気持ちが、自分の中に確かにある。
 つーか逸臣さんがストレスなく問題を解決していく超絶イケメンだからこそ、描けない影の部分を一身に背負っているのが桜志くんだし、そういう物語的献身に報いるところを見てぇつう話ではあるな。

 桜志くんの捻くれ方も当然問題山盛りなんだけども、『最高キャンプにキラキラ出来る人間ばっかが、世の中溢れてるわけじゃねぇし……』つう気持ちもあって。
 影あらばこそ眩しい光の、真ん中に立ってる特別さをどう相対化して、薄暗い自分の鏡と向き合っていくのか。
 そこら辺、次回大変気になります。
 あとスルスル密室へと雪崩込んでいった、完全に”仕上がってる”雪ちゃんとのラブバトルの行く末もな……。
 開始(はじま)っちまうのか……”ゆび恋SAGA”が……ッ!