イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

僕の心のヤバイやつ:第21話『僕らは約束した』感想

 無様に身悶えしながら、探し出す二人の適正距離。
 まさかまさかの自宅宿泊の後、一気に間合いが縮まると思いきやあえてのバックステップ。
 思春期の子ども達が、自分たちがいていい場所、いたい距離を笑いを交えて探っていく、僕ヤバアニメ第21話である。

 お互いの気持が顕になりつつも、なかなかくっつかない僕ヤバアニメ終盤戦。
 遂にお互いの頭を飛び越え親御さんへと先に、燃え盛る好意を告げる展開にもなったが、それもこれも二人のトンチキな生真面目故。
 大人に見守られ優しく育てられている意味を、分かっているからこそ時折ぎこちなく身じろぎして、それもひっくるめて彼らだけの青春なのだと抱きとめてもらえる、京ちゃんと山田の思春期が温かい。
 W告白でエモく終わっても良さそうなところで、謎のヤバ野郎の影を追いかけてコミカルに終わらせたのは、こっからのクライマックスで襲い来るエモーションの嵐を前に、あえてのハズシで調子を取るためか。
 せっかくいい感じに盛り上がったムードが、ダイナシながら京ちゃん達らしくしょぼくれていく様子も、また面白く愛しいもんだと思える回だった。
 やっぱラブの部分とコメディの部分、両方が強い作風がこのお話の武器だなぁ……。

 

 

 

画像は”僕の心のヤバイやつ”第21話より引用

 というわけで告白の目前で足踏みしているシャイボーイの、”答え”の先にあるはずのプライベートな光景がビッカビッカ輝きながら、市川京太郎の朝は開けていく。
 寝顔も目覚めも共に過ごせる、特別な関係はあくまで一炊の夢であり、偶然と運命が奇妙にこじれた結果のご褒美タイムみたいなもんであるが、実際起こってしまったのは間違いない。
 その上で、有名モデル”秋野杏奈”でもある山田杏奈とどう接し、どう向き合っていくのか。
 子どもと大人の真ん中に立ち、中学生なりの社会性を有するが故の悩ましさが、今回京ちゃんが向き合うべき壁だ。

 これは山田と京ちゃん二人の問題に見えて、色んな人が関わる複雑で大事な課題であり、彼らがけして孤独な存在ではなく、完全に自立も独立もしていないことを画面は細かく切り取ってくる。
 京ちゃんの周りには一緒に花見に行くダチがいるし、山田を大事に思う女友達とも言葉を交わせるし、遠くに行くとき山田にはお母さんが付き添う。
 色んな人との関わりの中に京ちゃんも山田もいて、自分たちだけの大事な思いは常に、自分を大事に思う誰かに繋がっていることを、見落とせるほど彼らは愚かでも、身勝手でもない。
 ここら辺の社会性を、”ヤバいやつ”になりかけてた京ちゃんは切り捨て切り離して自分を守ろうとしていたわけだが、他ならぬ山田に恋したことで学校が好きになり、小さくて緊密な社会の中に自分の位置を見つけ、萌子や足立くんとも親しく付き合えるようになってきた、その足跡が見れる回なのが嬉しい。

 

 京ちゃんが山田杏奈に惹かれる、沢山の理由の中に一つに『大人だから』というのがある。
 モデルとして学校の外に居場所を持ち、大人に認められ求められ仕事をしている山田の姿が、京ちゃんにはいつでも眩しい。
 そんな彼女が思われているほどには大人ではなく、もしゃらもしゃらお菓子は食うしすーぐ泣きじゃくる子どもであることを、身近に知ってなお、京ちゃんは仕事を頑張る山田杏奈が好きなままだ。
 だからこそ適切な距離感ってのを、一般的な中学生よりも考えなきゃいけない立場に自分たちがいて、ではどうしたらいいのか……今回京ちゃんは悩む。
 それは”山田と僕”という狭く小さな関係性と、その外側にひろがる社会と人を結び合わせて、行くべき道筋を考える時間だ。

 僕がこの話で好きなのは、世間体とか常識とかを視界の端っこに入れつつも、あくまで山田杏奈と市川京太郎個人が、強く結び合い影響し合っている事実を、大事にしてくれていることだ。
 山田が良くわからない反抗期の内情を、京ちゃんは心の鎧を外して素直に告げて、その温もりが熱の入った演技へと、女優・秋野杏奈の成功へと繋がっていく。
 思わずテンパる大舞台に、物怖じせず全力で挑めるのは、自分を好きでいてくれる証を、掌に握り込んでいるからだ。
 そういう個人としての情や繋がりがあってこそ、より正しく適切な振る舞いを自分たちなり探して、思わず情熱のまま突っ走ろうとする心と体にブレーキをかけて、より善い未来へと踏み出すことが出来る。
 そんな微笑ましくも望ましい、見守られ育まれる立場からの脱皮が描かれている所が、僕は好きなのだ。

 

 

 

 

画像は”僕の心のヤバイやつ”第21話より引用

 山田と繋がる大事な手段である、携帯電話がいきなり水没し、京ちゃんの心はグダグダに揺れる。
 誰かを鏡に自己像を確認し、自分の望みを確かめていく鏡像関係のモチーフはこの作品幾度も顔を出すが、今回も萌えとの通話の中、あるいは差し出されたカップの中に、京ちゃんは相当にテンパってる自分を照らす。
 前回の桃色ハプニングではモリモリ元気だった、リビドーの具現たるルシファー濁川が、想定外のハプニングにすっかりしおれている様子が、京ちゃんが性欲だけの色ボケ人間ではないことを良く語ってもいる。
 エロいこと考える余裕すらない大パニックの中で、京ちゃんは深夜山田の自宅に押し寄せて状況を確認しに行くという、大変ヤバい行動に出る。
 陰キャの真骨頂大炸裂というべき暴走であるが、それもこれも山田杏奈が好きな故……好きでいることで変わっていける自分が、京ちゃん結構好きな故である。

 ガタイの大小はあれど、山田パパがどっか京ちゃんと似通ったむっつりメカクレ美形であり、急に激ヤバ行動ぶっこんできた不審者の手を優しく握って、暗い場所から光溢れる場所へと連れて行ってくれるのは、また一つの鏡像関係と言えるだろう。
 デケー手で震える掌を握りしめ、あったけースープを差し出す不器用な優しさは、山田杏奈を夢中にさせた京ちゃんのそれとどっか似ていて、似た者同士はすったもんだのすれ違いの果て、お互いの大事なものが同じなのだと納得し合う。
 パパが見せてくれた携帯電話の中の”答え”は、京ちゃんを安心させる双方向の思いの形であると同時に、愛娘が誰を好きになったのか、父に教えるサインでもある。
 それが顕になっちまったら、もう隠し立ては出来ねぇとばかり急に堂々の告白ぶっ放してくるあたり、山田杏奈と市川京太郎も、また似た者同士であろう。

 ナンパイとの接触に自転車ぶん投げてた頃から、京ちゃんがヤバくなるのは大概山田杏奈絡みであり、旗から見たら距離を取って当然の、無様で危うい行動ばかりしている。
 しかしその奥に彼なりの共感と決意があって、どうしてもそういうヤバさに突っ込んでいかざるを得ない熱量があって、特別大事だからこそ無様に足元がもつれる、カッコ悪いカッコよさがあることを、山田家の人たちはしっかり見届ける。
 顔を青ざめさせながらヘラヘラと、愛娘の行方を聞いてくる激ヤバ青年の心根がどこに在るのか、パパもしっかり見て確かめ、真摯な交際希望を受け入れて、フレコ交換を申し出る。
 なんとも奇妙な道順で、当人より先に親に”好き”が届いてしまったが、これが京ちゃんなりのハプニングお泊りへのケジメであり、トンチキで無様なその誠実を、パパも鏡写し、嬉しそうに抱きしめる。
 ここの関係構築は、京ちゃん預かり知らぬところで展開する山田母娘の対話と合わせて、この話らしいコミカルなあったかさがあって良いなぁ、と思う。

 

 

 

 

画像は”僕の心のヤバイやつ”第21話より引用

 とまぁ、いい話だけでは終わらせませんでッ! てのが今回の運びで。
 謎の激ヤバストーカー”豚野郎”から山田を守るべく、取るものも取り敢えず駆けつけた京ちゃんが見たものは、ロットバトルへと挑む美少女モデル二人だったッ!!
 撮影現場での初対面では、あんなにクールだった香田ニコがかーなりたちの悪い秋野杏奈ファンガールなの、面白いクスグリで大変いいよね……。
 ”普通の中学生”ではない山田杏奈が、今後向き合っていくだろう世間のヤバさを、コミカルなオブラートにくるんで示す役としていい仕事をしてくれた。
 それにしたってネットの豚過ぎて、どういう面でファッションリーダーでございと鎮座ましましてんだか……それは山田も同じか。

 市川といるときに山田が見せる、油断して可愛らしい表情が”豚野郎”の、新しい扉を開く。
 自分を映す鏡になったり、想いの現在地を示す希望になったりした携帯電話が、今度は身分違いの同志と繋がる、ヘンテコな手立てになっていったりする。
 全く人生とは、何が起こるか良くわからない舞台で、そのアクシデントやハプニングも含めて楽しむ余裕、乗り越えていく強さを、京ちゃんはだんだん手に入れていっている。
 携帯水没した時は縮んでいたルシファーも、帰り道では大層元気だッ!

 そんな市川京太郎足取りは、チグハグな靴に包まれて、いつでも全力で必死だ。
 自分のため、周りの視線も考えず突っ走ってきてくれたその必死さを、山田杏奈はちゃんと見つめて、ギュッと抱きしめる。
 そういう所が、山田杏奈が市川京太郎を好きになった理由の一つなんだろう。
 一見無様でトンチキな行いの奥に、どんな思いがあるのかをちゃんと見る気質は、父と娘に共通してて、仲良しであったかい山田家で何が継がれているのか、見える回でもあったと思う。
 前回市川家の温もりを誕生日に刻んだところで、今回こういうところに昇天合わせるの、良い話運びよね。

 

 というわけで、市川京太郎のヰタ・セクスアリス後編でした。
 確かに燃え盛る欲望を抱えつつ、しかしそのまんまに暴走すれば何が起きるのか、周りを見て考えた上で、ブレーキ壊して全力で駆け抜ける。
 そんな京ちゃんの生き様を、優しく愛しく見つめる人たちは結構いるし、ゴロゴロ転がった先で新しい縁も生まれるよ! という回だった。
 主役二人のピュアな気持ちに深く分け入りつつ、関わる人達の表情も横幅広く描いてくれるの、やっぱ好きだ。

 二人の距離感がどう在るべきか、改めて考え直しての新学期。
 一体何が起こるのか……次回も楽しみッ!