イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

うる星やつら:第31話『扉を開けて 前編』感想

 神様ウサギが落とした鍵で、騒がしいアリスたちは可能性の国の扉を開けていく。
 あり得るかも知れない未来を覗き込み、求める結末を求め彷徨う不思議な旅路。
 令和うる星第31話である。

 というわけで満を持しての因幡くん登場、物語が終わったその先を紐解いていく多言世界旅行記エピソードである。
 今となってはマルチバースパラレルワールドもオタクのド定番となっているが、40年前は当然目新しい新機軸であり、コミカルで騒々しいうる星テイストを濃厚に交えつつも、SFマインド濃い目の話で面白かった。
 多元世界を渡り歩く旅のきっかけになる因幡くんは、複数の世界を観察・管理可能な神様みたいな存在であるが、すぐさまいつものノリに波長を合わせて騒がしく駆けずり回り、しのぶといい感じのオーラを出していく。
 最初はラムとあたるを取り合う三角形の一点を担っていたのに、話数が積み重なるほどにマッタリいい感じの友情物語に引っ張られていって、ラブコメの相手役としては存在感が消えていたしのぶにとって、待ってましての固定カプ候補とも言える。
 しのぶがあたるに対してあんま太い矢印を伸ばしておらず、ラムと気さくな友達関係をすぐさま作ってしまった結果、緊張感ある三角関係が維持できてないって意味では、面堂くんも似た所あるな……。

 

 さておき、結構トンデモナイことが起こっているのにお話はいつもの調子で進み、不可侵なはずの可能世界にラムは扉を作り、好奇心旺盛に土足で駆け抜けていく。
 思えば前回Bパート、スナック感覚で通学路にショートカットを作ろうとして、あり得るかも知れない未来に迷い込んでる時点で、鬼ッ娘宇宙人のDIYは時空間移動や因果操作の領域に手をかけていたわけで、スルスルと神様領域まで話がぶっ飛んでいくのもまぁまぁ納得である。
 そうして覗き込んだ未来は主に、誰と誰がくっついて家庭を築くかという一点に集約していて、ここら辺は確かにラブコメらしい味わいである。

 どんだけ扉を開けても、主人公とメインヒロインがくっつく未来は観測されず、お互い納得行かないガッカリ未来を否定するために、一行は扉を開けては観測し、別の未来へと乗り換えていく。
 ここら辺のノリの軽いお試し感覚はいかにもこのお話らしくて、ドタバタワイワイ騒がしい珍道中と合わせて、不要な重たさがなくて良い。
 管理局のウサギ達とドッタンバッタン大騒ぎしている所は、”ふしぎの国のアリス”と”注文の多い料理店”をかき混ぜて、SF味のスパイスを効かせた感じがあって面白かったな……。

 

 あり得るかも知れない未来を覗き見て、あれが気に食わないこれを認めないとワイワイ騒ぐ行為は、可能性を狭めると同時にどんな未来を望んでいるのか、暴き立てるリトマス試験紙のような意味合いも持つ。
 なにしろ永遠の狂騒を駆け抜けていくハイテンション・コメディ、『真実の望み』とかいうマジで重たいものを真っ直ぐ見据えるチャンスもなかなかないわけで、そういう場所に楽しく騒がしく……つまりは”うる星”らしくたどり着くための道具立てとして、運命を観測し製造できる稲葉くんが選ばれた感じもある。
 彼の手を取って一緒に走りつつ、自分は本当は何を望んでいるのか、不定形の未来を鏡にして考える仕事は、そういうエピソードがさっぱり無いまま終わりなき日常に埋没仕掛けていた、三宅しのぶが主に担当することになる。
 旅の果てに彼女が見つける望みこそが、彼女がどんなキャラクターであり、この物語において何を求め何を為すのか、一つの答えを照らすだろう。
 そういう感じで、キャラクターの核にある小さな祈りを結晶化出来るエピソードがあるのは、やっぱ良いことだと思う。

 話のど真ん中からちょっと外れたところで、ワイワイやかましい掛け合いしながら望む未来を探している主役カップルは、では何を望むのか。
 ラムの場合はダーリン一筋で分かりやすいが、即物的で多情に思えるあたるが何を望んでいるのかは、分かりにくいようでいてバレバレではある。
 ここまで幾度かあった、シリアスな手応えのエピソードで示されているように、プレイボーイ気取りで空振りばかりの諸星あたるの本当に大事なものは、傍から見ているとバレバレなのに、あたるはそれをけして正面から見ない。
 そんな自分のマジを観測してしまえば、物語の未来は一つに固まってしまい、永遠の狂騒は終わりを告げるしかなくなってしまう……のかもしれない。
 友引町が終わらないカーニバルの只中で、宇宙人から妖怪まで、常識ブッ壊れた何でもありの混沌を踊り続けるためには、それなりの幕引きを用意しなければならず、それはまだまだ……具体的には三ヶ月ちょっとぐらい先の物語なのだろう。

 

 自分が何者であるのか、観察せず確定させない浮っついた浮遊は、友引町の物語が長い長いモラトリアムであることを示す。
 猶予期間であるからにはいつか年貢の納めどきがやってきて、その先にある未来が思いの外多様性に満ちて、色々ハチャメチャであるってのを因幡くんの力を借りて、観察している真っ最中であるが。
 どんなふうにも転がりうる、不定形の未来をどんな形に固めていきたいのか。
 次回後編は、それぞれの願いが照らされる話になっていくだろう。

 もっと地道に、もっと当たり前の普遍性を持たせて掘り下げても良いテーマなのだが、あくまで騒々しくもSFマインドに溢れた、大変”うる星”味わいでそこにアプローチしていくのが、やっぱこのSFラブコメの金字塔という感じはある。
 ヒロインが空を飛ばず電撃を出さず、世界は野放図なやりたい放題を許さず、時間も運命も飛び越えていけない当たり前の窮屈さは、やっぱりこのお話には似合わないのだ。
 同時にそういうぶっ飛んだ作風でありながら、どっか思春期の普遍的な柔らかさをしっかり捉えて、SF的道具立てを活かしてジュブナイルの真ん中に突き進んでいく手応えも、またうる星らしさであろう。
 ここら辺、やっぱ”ドラえもん”イズムの正統後継者というか、児童誌から少年誌へ語り部を変えて継承されてるものがある感じなんだよなぁ……。

 可能性の扉を開け放って、迷い道の先に望むのはどんな未来か。
 アニメがこの重要エピソードを、どういう色合いで書ききるか。
 次回後編、楽しみですね!