イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ダンジョン飯:第10話『大ガエル/地上にて』感想

 妹を喰らった火竜を求め、地下深き廃都市へと踏み込むもの。
 地上へと戻り、欲望と術数が渦を巻く迷宮全体を見据えるもの。
 冒険者がそれぞれの探索に向き合い、未来へ進む足取りを描く、ダンジョン飯アニメ第10話である。

 前回一話どっしり、ライオス一行の外側にいる冒険者を掘り下げた後だからこそ出来る、横幅と奥行きの広い決戦準備回であった。
 主役と縁のないもの、人となりのわからない誰かとしてナマリやタンスが存在しているのなら、彼らが地上に戻った後の風景もどこか空々しく、実感のないものとして感じられただろう。
 しかし前回、ピリピリしたファーストコンタクトから命がけの激戦を共にし、同じ釜の飯を食う所まで関係を深めたことで、変人一行が突き進む迷宮の外側にも、色んな事情と算段があり、別れた後もファリンを探してくれているナマリの情も、暖かく此方側に迫ってくる。

 魔物食という、ファンタジー世界でも常識外れなネタを真ん中に据える以上、ライオス一行はそれぞれどっか世間の当たり前から外れた、珍妙で愉快な連中である。
 第1クールは彼らの旅に焦点を絞り、戦って食べて必死に進む奇人集団を好きになれるよう、その好意を作り込まれた世界へ潜っていく足場に出来るよう話が進んできたが、そんな歩みもある程度の落ち着きを得て、ようやく主役の視界の外側に何があるのか、手応えを込めて描けるタイミングが来た印象があった。
 もちろんライオス一行の旅がハチャメチャながら面白く、美味そうだからこそそういう横幅も確保できるわけで、大ガエルと戦い廃都市を探索し、一度敗れた強敵にどう打ち勝つのか、作戦を練り腹ごしらえをする様子も大変良かった。
 地上に戻るタンス一行と、地下深く進むライオス一行を対照で描きつつも、片や妹の命、片や未来の命運と、話のタイトルにもなっている”ダンジョン”が持つ不思議な引力に引き寄せられて、同じ道を歩んでいる感じがする回だったと思う。
 『色んな連中が色んな思惑を持ってそれぞれの道を進んでいるが、その真中には確かな核があって、それこそが作品のメインテーマになっている』という実感を掴めると、群像劇は一気に瑞々しさを増すなぁ……。

 

 というわけでライオス(テンタクルスの階段)→タンス/ナマリ(地上)→ライオス(五層)と、視点を取り替えながら進んでいく今回。
 映像の時系列をカットアップし、地上組の話をまずしようと思う。
 前回の戦いでただの弾除けではなく、パーティーの一員として絆を深める決意を雇い主に告げたナマリだが、ツンツン実利的な態度の奥で死体置き場にファリンを探す、城の深いところが描かれていた。
 マルシルへのそっけない態度は、チルチャックが指摘した冒険者としての下降線をどうにか跳ね除けて、一端の戦士として家業を続けるための鎧……って部分もあったのだろう。
 無論情一本で生きてるのならば、マルシルのように損得抜きで冒険に付き合っていただろうし、実利と感情のバランスを取りつつ、自分のできる事をできる場所でやり続けているナマリの生き方は、とても好ましいものだ。
 よくよく考えると、どんくさエルフの気持ち最優先で突っ走って社会の常識置き去りにするところ、色々危ういからな……。

 

 雇い主であるタンスも、賢者の装いに相応しいバランス感覚と叡智でもって、ごろつき共が気にしないダンジョンの秘密とか、種族間政治とかと闘っていた。
 彼が島長を訪れる時、食事をしているのがつくづく”ダンジョン飯”だなぁと思うが、迷宮需要で立派に膨れた彼の館で食べられているのは、ライオス達が決戦を前に戦地で腹に収める魔物職とは違う、まさに”飽食”である。
 自分は迷宮に潜らず、探索者が掘り出してきた富で腹を膨らませ、支配者然と構えている島長は見た目ほど楽な立場ではなく、島と迷宮は長命種達の政治の焦点として、色々突っつかれる傷口だ。
 タンスが報告する迷宮の現状は、彼の高御座を保証する富が迷宮から枯れかけて、治安が悪化し秩序が崩れていることを教える。
 どうにか手を打たないと、迷宮の中にも外にもひろがる経済と政治は悪化し、飽食を貪るどころではなくなっていくが、そういう危機感を持っている人はごくごく僅かだ。
 主役からして、妹復活と魔物観察、モンスター・グルメにばっか興味あるしな……。

 戦士がクラーケンとの戦い/料理を通じて身にしみた、探索者をもその一部として取り込んで成立している、ダンジョンという生態系。
 気楽なライオス達だけにフォーカスしていると見えないが、人間の欲がそこに混ざることで既にそこは乱され、ダンジョンの外側へと不穏な気配が広がりかけている。
 魔物は迷宮から出てこず、富は無限に収奪できて、死んでも安心復活可能!
 そんなハック&スラッシュの夢とは、ちょっと違う現実主義で持ってこのお話の”ダンジョン”が動いていることを、賢者タンスの報告は良く教えてくれる。

 地上にひろがる世間から、良い意味でも悪い意味でも距離を取っているライオス達にとって、タンスがナマリを雇って挑んでいる彼の”冒険”は、縁遠い世界の物語だ。
 政治も経済もどっか遠い場所で踊るべきで、自分はただ迷宮に潜り魔物を倒し……それで、何がしたいのか?
 今は『ファリンを助ける』という眼の前の使命に突き動かされて動いているが、彼が人生の舞台と選んだ迷宮をエルフ宮廷が遠くに睨んでいる以上、遠いはずの政治や経済は思いの外身近になり得、ライオスなりの答えを出さなければ自分自身の願いも叶えられない。
 というかその願いを迷宮探索行の中で見つけていく、ダンジョン・ジュブナイルとしての味わいが結構石あるのだと示す意味でも、現状遠くにある迷宮政治、迷宮経済の手触りをタンスを通じて描いたのは、結構大事な一手だと思った。
 いかにもゲーム的に、尽きない始原で無限の富を得れそうだったダンジョンが、有限のリソースに適切に対処しなきゃ問題ドバドバ溢れてくる、極めて現実的な場所だって今回解るの、ホント面白い逆立ちだよなぁ……。

 

 まーそういう地上の喧騒ははるか上方、主役はともかく自分たちのクエストへ突き進む!
 強敵ウンディーネを倒し、オークの隠し通路で一気に五層! ……とはいかず、まーた一悶着あるのがいかにも、ライオス達らしい旅と言える。
 俺は非戦闘員のチルチャックが、シーフとしての罠知識と鋭い知恵を活かして戦闘でも活躍する場面が好きなので、丸呑みにされかけながら大ガエルをぶっ倒す活躍してくれたのは、大変良かった。
 魔物知識はライオスの領分なんだが、前回マルシルが手ずから料理を作ったように、大ガエルの生態を活かして危機を乗り越える描写があったのは、キャラがパーティに馴染み各々の垣根が崩れてきた感じを受ける。
 お互い私生活も過去も語らず、流されるまま”パーティ”になっていた連中が、大冒険の中で自分を形作るものを語り、あるいは見つめ直し、仲間に解ってもらうドラマがドッタンバッタン大騒ぎの中にちゃんと在るの、俺は好きだ。

 そういう硬い芯をしっかり確保しつつ、イカれてカワイイ絵面で思わず笑っちまうのもこのお話の強みで、お手製カエルスーツで危険領域を越えていく、ファンシーなんだか狂ってんだか良くわからない場面、素晴らしく良かった。
 片手にお皿抱えて、モグモグ飯食ってるのが”狂い”を加速させててなお良いんだよなぁ……。
 僕はこのお話が、料理を食べるだけだけではなく作る物語であり、食材と命懸けの死闘を繰り広げる所からしっかり描いているのが好きなのだが。
 自分たちの生活を支える糧がどう得られ、どう調理されて食事となるか、過程を楽しく余す所なく各筆が、今回は衣食住全面に伸びていて良かった。
 センシが”食”を、ライオスとチルチャックが”衣”をそれぞれ担当し、マルシルのツッコミが惑っている隙に、極めて迷宮的なイカレスーツが完成している様子は、”飯”を主題にしつつそれだけで終わらない、人間が生きる根底を様々な角度から描くこのお話の多彩さを、コミカルに削り出していた。
 普通の服では切り抜けられないテンタクルスのダメージゾーンを、大ガエルアーマーをDIYすることで乗り越え、目的地へとたどり着く。
 それが血まみれの生臭い作業だという事も含めて、”衣”がどう作られ何の役に立つのか、しっかり描いてくれるのが良かった。
 ここら辺の複眼はケルピーの石鹸作りでも生きていたところで、エンジンかかってきたお話が豊かな作品世界へと、貪欲に画角を広げつつ在るのを感じる。

 

 黄金の野を抜けてたどり着いたのは、オークが廃棄した古き廃都。
 ファリンを助ける旅の最終目的地、火竜彷徨う第五層である。
 おそらくTRIGGERアクション班が大暴れするだろう、大怪獣決戦は次回にとって置いて、今回はメインディッシュ前の下ごしらえ、腹ごなしと事前調査が描かれた。
 ここも”過程”を飛ばさない丁寧な手つきが生きているところで、変人ながら熟練の探索者であるライオス一行がどういう風に、ネームドモンスターを攻略していくのか……丁寧に描いてくれた。
 いざ本番を前にマルシルがナイーブになっている描写が、『やっとる場合か!』なセンシの食事の支度が今こそ必要であり、一大事だからこそ人間の根底を丁寧に満たし、しっかり食ってしっかり戦える姿勢を作る意味と価値を、良く際立たせてくれた。
 センシ抜きのパーティーが空腹で負けた冒頭の描写が、ホスピタリティ溢れるセンシおじさんが一向に加わってくれた意味をこの決戦前夜、しんみり確認させてくれた良かったな。
 オレ、センシスキダイスキ。(センシの話になると語彙力低下マン)

 今回はパーティーリーダーとしてのライオスの頼もしさが、事前準備の手際に良く映える回だったと思う。
 人間に興味のない、手のつけようがない魔物マニアではあるのだが、剣の腕だけでなく魔物の知識、観察力と戦術立案、集団統率力に優れたライオスは、確かに五層までたどり着ける力を持っている。
 行き当たりばったりの力押しではなく、現有戦力と地勢を確認した上で打てる手を探っていく慎重さは、ベテラン冒険者であるが故の知恵であり、一回負けているからこその痛い教訓でもあるのだろう。(この失敗から学ぶ姿勢は、タンスの苦言を嫌そうに聞いてる島長の怠惰と面白い対照で、こういう対比ができるから群像劇は面白いと思う)

 最終決戦を前に仲間への感謝を言葉にし、この旅で得たものを振り返るのは正解だし大事……なんだが、モグモグ口いっぱい食べてる真っ最中に突きつける間の悪さは、まぁここまで彼の旅に付き合ってきた僕らもよく知るところだ。
 気づけば10話。
 イカれた所も優れた所も、全部ひっくるめてライオスが好きになっていて、彼と彼の仲間が本懐を遂げるのか、火竜決戦をハラハラ見守る気持ちが自分の中に生まれていることを、美味そうなカエル・カツレツによだれ流しながら確認する回であった。

 

 というわけで、迷宮の深奥と明るい地上、複数の画角から作品全体を照らす回でした。
 火竜との決戦場が廃都になったことで、ドラゴンのスケール感がより強く感じられるのは、シチュエーションの妙味だな。
 TRIGGERが描くとモロにゴジラになってるのはマジ面白かったが、絆を確かめ腹を満たし、やるだけやっての大決戦。
 次回一体何が描かれるのか、大変楽しみです!