イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

響け!ユーフォニアム3:第1話『あらたなユーフォニアム』感想

 かくして、黄前久美子最後の一年が始まる。
 遂にユーフォがTVシリーズに戻ってきた、万感の最終章開幕である。
 大変良かった。

 アンサンブルコンサートで見せたシャープな切れ味と馥郁たる豊かさはそのままに、いよいよ本番というピリッとした緊張感、二年間の物語を経てきたからこその様々な蓄積、新たに何かが始まる期待感と不安が、どっしり腰を落として進み出す第1話にしっかり宿っていた。
 三年生となった黄前久美子と、彼女が率いる北宇治吹奏楽部がどんな朝を過ごしているのか、文字通り楽器の中へと潜っていく至福の冒頭三分間から、滝先生が新たな出会いを祝いでくれる幕引き……その先にある美しい闇の中の”新たなユーフォ”との出会いまで、感慨深く三期の実感を堪能させてもらった。
 色々あったが、音楽は続く。
 続く音楽の中で更に色々なことが起こるわけだが、悩みも苦しみも喜びも全てを一つの楽譜に込めて、どんな曲を描いていくのか。
 見届けさせて欲しいと、強く思えるスタートだった。

 

 

 

 

画像は”響け! ユーフォニアム3”第1話より引用

 というわけで、本格的な嵐は三人目のユーフォニアムとの出会いの後に回して、第1話は三年生の実感が未だ持てない黄前久美子が、それでも精一杯部長をやっている様子を丁寧に映す。
 その強がりや震えを画面と芝居にどっしり乗せて、彼女がそこにいる実在感を匂い立たせていく手際と細やかさは、今まで通り……あるいは今まで以上の鮮やかさであり、大変良かった。
 昨今色んなアニメで気合の入った光と影の表現が見られるが、ずっと前からそういう部分に全霊を突っ込んできた京都アニメーション、ユーフォ三期でも明暗の描き方は大変に鮮烈で美しい。
 時や場所、あるいはそこに立つ人によって様々に移り変わる光と影の変化を、丁寧に積み上げていく中で構築されていく、吹奏楽に高校生活を捧げる人たちの息吹。
 ただ美しくドラマティックなだけでなく、時の移ろい、季節の変化が確かにある時空間それ自体の手触りを再構築せんとする、軽やかな力みが25分の映像にみっちりと宿って、大変良かった。
 明暗が持つ様々な美しさを、黄前部長がヒーヒー言いながら”部長”頑張ってる一日追いかける中に刻んでくれることで、彼女なりの奮戦を世界全部が祝福してくれているような、暖かな気持ちになれたのは非常に嬉しい。
 俺は黄前久美子が好きだから、黄前久美子に優しくしてくれる世界が好きだ。

 部全体の舵取りや、低音パートの人集めに難しさを感じつつも、精一杯の背伸びをして夢を果たすべく決意に踏み出すときの、震える瞳のクローズアップ。
 それを際立たせるように、やや引いた距離から顔を映さず、青春の後ろ姿を日の移ろいの中で切り取ってくるカットも多くて、作中の遠近法が既に独自のテンポを生んでもいた。
 特に冒頭三分はどっしり腰を落とし、足がよく喋る”北宇治の朝”が元気に弾んで、大変良かった。
 BGMを殺して、学校に満ちる音を環境音としてしっかり効かせる演出も良くて、全国レベルの部活がバリバリやりまくっている学校特有の”色”みたいなものを、良く聞かせてくれた。
 憧れの視線で見上げられる高いレベルに自分たちを引っ張り上げつつ、等身大の震えや甘え、許されざるレベルのイチャコラなんかもしっかりそこにはあって、張り詰めたものと油断したものが、豊かに混ざり合う高校生活を感じ取れた。
 ドラムメジャーと部長という、部の真ん中を支える重大ポジションを任されてなお……あるいは任されたからこそ親友として共犯者として、とても近い間合いでじゃれ合う久美子と麗奈の姿は瑞々しく、二人なら大丈夫という安心感がある。
 ここら辺の空気が緊張の目標投票を乗り越え、滝先生の後押しで盛り上がった後に、陽の眩さを様々な色合いで描いてきたカメラが夜にフォーカスして、遠く聞いていたはずの”上手いユーフォ”を突き出してくる。
 安心したかと思えば不穏で、不安を乗り越える頼もしさも確かにある三年目の北宇治を、豊かにスケッチする出だしとなった。

 

 2年分の実績を経て、すっかり強豪大所帯となった北宇治吹奏楽部。
 ”誓いのフィナーレ”で色々バチバチやりあった一年共も、学年相応の頼もしさと親しさを手に入れてニ年生となり、懐かしくも新しい顔をたくさん見せてくれる。
 すっかり黄前姉貴一の子分っツラが板についた奏が可愛らしく、からかいとじゃれ合いを交えながら仲良く過ごすユーフォコンビは、麗奈とはまた違った間合いで繋がっている。
 劇場版でのバッチバチを見ていると、それあってこそ収まったこの距離感が大変心地よく、クセ強ながら可愛らしい低音ニューカマーの生きの良さもあって、全体的な雰囲気は前向きである。

 それもこれも、黄前部長が眠い目をこすりながら早起きし、自分の技量を磨きながら分全体に目配せして、色々頑張ってくれてるおかげである。
 ここまでの物語では先輩たちの頼もしさに甘えられる立場だったわけだが、此処から先は最高学年の孤高を抱えながら、部長の重責をなんとか乗りこなしていかなければいけない。
 その難しさを笑顔で隠し、『みんなの黄前部長』やってる久美子の姿も、またチャーミングで良かった。

 

 そういう立場を得たから久美子が今までから変わってしまったかと言えば、そうではない。
 葵ちゃんの退部トラウマをここまで引きずって、上ずった声で三年目の目標を皆に問う場面を見れば、ここまで物語を瑞々しく躍動させてきた、面倒くさく危うく美しい久美子の魂は変わらずの色合いであり、色んなことを乗り越えながら前に進んでいくのだろうと、こっから先の物語にも期待が持てる。
 久美子を取り巻くお馴染みの面々がどんだけ親しく、力みなく彼女と接してくれているかも描く今回は、彼女がけして一人ではないこと、ここまでの物語で生み出したものが豊かに育っていることも、ちゃんと思い出させてくれる。
 そういう『アンタの好きなユーフォ、全然活きてるよ!』ってメッセージが元気な第一話だったのは、ファンとしてとても嬉しい。

 今回のエピソードは強さも弱さも併せ持った、黄前久美子一個人の細やかな仕草にしっかり密着して、私人としての彼女の内側もこちらに見せてくれる感じだったが。
 他でもない久美子の頑張りもあって、北宇治は高校吹奏楽のてっぺんが狙える強豪校に育ったわけで、その部長ともなれば状況ごと必要な仮面を被り、後輩が見ていない場面でそれを外し、90人からの巨大組織を切り盛りしていく必要も出てくる。
 今後話の画角が切り替わり、黄前久美子の外側から見た黄前部長が描かれた時に、今回25分浴び続けた幸せな春のスケッチも、また別の顔を見せるのだろう。
 そういう揺れ動く未来への不安と期待も、再び彼女たちに出会えた喜びの中に確かにガリッと固くあるのが、なかなか面白いスタートである。

 

 

 

画像は”響け! ユーフォニアム3”第1話より引用

 夕焼けのオレンジと夜闇の紫紺が交わる時間帯に、久美子は”新たなユーフォニアム”に出会ってしまう。
 ここまで新部長の健気な背伸びと、前向きな空気を積み上げてきたサブタイトルの意味は不気味に反転し、待ち望んでいたはずの低音の仲間が何かを揺るがしかねない危うさが、新たな物語の幕開けを告げていく。
 今回どっしりと久美子の現状を描き、彼女なり頑張って部を全国に進めていこうと足掻く様子、それで足りなければ仲間や先生が補ってくれる姿を描いて、『ああ、今までのユーフォだ……』と安心したかったところで叩きつけられる、副題もう一つの意味。
 穏やかでゆったりした第一話の意味を、最後の30秒で一気に反転させて今後の物語に繋げるような、素晴らしい幕引きである。
 ここまで圧倒的な美しさで光り輝いてきた金管楽器の鏡面が、少し歪なフォルムでもって久美子の表情を照らし、青春絵巻に潜む怪物としての顔……思い返せば幾度も”ユーフォ”から飛び出してきた色合いを見せているのも、優れた表現だ。

 久美子と北宇治は、自分自身が積み上げ足場にしてきた物語の結果として、憧れられる強豪、社会的立場を持った先達になった。
 しかしこの最後の一年、物語のスタートを飾った『悔しくなれなさ』をダメ金の屈辱で塗り替えた後の物語において、何かが壊され曝け出され、新たに生み直される必要がある。
 やれるだけをやりきってなお、全国への扉が閉ざされるという結果が出てしまった三年目、何が足りず何を求め何を生み出せば、未踏のフィナーレへとたどり着けるのか。
 キャラとドラマが安らかな懐旧に包まれるだけでなく、傷つき壊されて始めてたどり着ける、とても”ユーフォ”らしい青春のど真ん中へ進み出すための起爆剤として、この美しい”新たなユーフォニアム”は大事な仕事をする。
 そう確信できる、鮮烈なる黒江真由のデビューであった。
 折り返しのタイミングで、姿は見えずともその音だけで実力を示し、『巧くなりたい!』という執念で前に進んできた久美子が無視できない存在感を不気味な予言のように、先んじて描かれていたのが良いよなぁ……。
 アンコンから続いてきた、幸せで不安定な揺籃の日々が、これから終わっていくのだ。

 

 

 というわけで堂々の横綱土俵入り、音楽と青春と女女が渦を巻く2024春クールに鮮烈にユーフォと京アニを刻みつける、美しい第一話でした。
 やっぱ俺……本当に好きだわ……。
 美麗であることがもはや鑑賞されるための前提条件となった、スーパーリッチな深夜アニメの現状においてなお、やっぱり京都アニメーションという制作集団が生み出す映像は別格に美麗で、幸せで、残酷だと思えて、とてもありがたかったです。

 こっからどういう物語を描いていくのか、心から期待し、作品の凄みに飲み込まれないよう腹を固めて、見ていきたいと思います。
 次回も楽しみです。