ガールズバンドクライ 第9話を見る。
仁菜と桃香さんの青春大激突を終え、大気は熱を孕みつつも少し落ち着いたトゲアリトゲナシ。
駆け足で仲間になったワケアリ女たちの内面をえぐるんならここしか無いぜッ! ってんで、蛇をトーテムにツンデレ智ちゃんのトゲをどう出していくか、距離感を測る回となった。
余裕の顔でビールゴクゴク飲み干す”うわばみ”をバランサーに、全力であこがれの人にトゲをぶっ刺した結果上手く行って余裕が出てきた川崎の狂犬と、本音でぶつかるバンドの現在地を照らしもする。
大きなうねりがないからこそ、細やかにキャラと関係性を映し出せる…という意味では、第4話に近い作りか。
クライマックスを前にして、ここでルパ智の過去や内面にググっと踏み込む話が来るのは凄く良い。
激動のバンド立志伝を通じて彼女たちのことを好きになり、もっと知りたいと思っていたタイミングだし、やや本筋から外れてるからこそコミカルで可愛い表情とか、繊細で細やかな心の動きとか、見たいけどなかなか見れなかった味わいが前面にも出てくる。
ここ最近ロックンローラー魂のぶつかり稽古が真っ直ぐ来ていたので、やや柔らかな手つきで細やかに積み重ねる筆致も久々だったが、やっぱこのアニメ、エモーションの編み方、積み方が上手いわな。
ここら辺は全話コンテもやってる、酒井監督の強さなのかと思う。
画面にエモーションを宿すには詩が上手い映像を造っていく必要があり、それを成立させるのは多重に暗号化されたメタファーとレイアウトだ。
トゲばっか出して周りと衝突し、結果臆病になって自分を押し込めている少女は、今回卵を飲まない蛇と、『突き刺さる相手に、全力で突き刺す』というトゲの収め方を学んだ仁菜に、それぞれ重ねられていく。
智ちゃんは尖って固く自分を守っているが、常に愛蛇の水槽を覗き込み、手を差し伸べる。
その下向きの視線は常に、己のナイーブ内面にも向いている。
…蛇をトーテムにすることで、この視線を可能にしてるの発明だなぁ。
卵を飲まず暗がりに逃げ込むヘビに対して、そんな智ちゃんを優しく見守る”うわばみ”は、桃香さん持参のビールをごっぁんキャッチして、ガブガブ飲み干す。
他人の手から餌を取ることに怯え、近づいて噛みつき殴り飛ばされる痛みに震え、なかなか世界と上手い距離が作れなくなっているバンド最年少を、外部と繋ぐ役目。
ルパは相当いい性格している自分を、微笑みで覆い隠しながら(時折ドアキックでぶっ壊しながら)、智ちゃんのアダプター役を積極的に買って出ている。
その社交性の外接は、仁菜にヨーグルト飲ませながら、前半戦の桃香さんが担当していた部分だ。
前回ぶっ壊されて、無理に背負わなくて良くなった荷物でもある。
今回のエピソードは大嵐を乗り越え自分を掴んだ仁菜と桃香さんの、ある種のエピローグ的な意味合いも濃い。
敬語を止め、持ち前の剽軽な可愛げが表に出てきた仁菜の明るい前向きさは、多分こっちが”素”なんだと思う。
何もかも壊れる覚悟で、何もかもぶっ壊す気持ちでぶっ叩いてなお壊れなかった、ダイヤモンドのような絆に支えられることで、仁菜はトゲの鎧で自分を守り、あるいは隠す必要が薄れている。
そうさせてくれたバンドの仲間には、思うがままの自分を預けても良いんだという安心感が、ウゼーくらいにやりたい放題な自由さにも繋がっている。
まぁマジ耐え難い時は、蹴り飛ばして理解らせる集団なのでこれもアリ…か?
仁菜のキレ方があんだけ過剰なのは、多分キレなれていないからこそだ。
家訓に縛られ、カリスマ教師の願う通りの”良い子”でいて、自分を嘲笑う暗い闇に食われかけた反動で、仁菜はとにかくトゲを出して己を守る生き方に舵を切った。
一度火のついたパンク魂は収まることを知らないし、出逢ってしまったロックンロールは鳴り止まないが、しかし常時バトルモードでいる必要もないかなと、前回桃香さんの涙を受け止めてようやく、思えるようになったのだろう。
そうすると結構甘えたがりな地が出てきて、心許せる人にベタベタしだす。(姉に膝枕されてた描写が、ある種の裏打ちとして効いてくる感じ)
マジウゼーけど可愛いやつよ…このバランスで描けてるの、つくづく本当に凄いな。
仁菜がひと足早くたどり着いた、烈火の如き己を預けても燃えて消えてしまわない居場所。
このバンドがもしかしたら”そこ”なのかもしれないという期待感と、燃えすぎて何もかんも焼き尽くした痛みが降り混ざりながら、智ちゃんは藤棚に遠く己を起きながら、抜身のトゲを仁菜に突き刺す。
本気でやる、プロになる。
口でなら誰にでも言えて、実際やり通すだけの強度を持ってるやつは滅多にいなくて、自分と同じだけの頑なさでぶつかり合ってくれるのか、確かめなきゃ安心もできない。
ああ、面倒くさいね智ちゃん…可愛いね。
灰色の波紋に回想される智ちゃんの過去は、『まーそりゃーなッ!』と納得のあたりの強さであり、しかしこの激しさが(仁菜と同じく)彼女のロックである以上、簡単には制御できないし殺せもしない。
どうにか生かしたまんま飲み干せる、魂の餌場を見つけなきゃ餓死してしまうのだけども、記憶に引っかかったトゲが卵を呑ませてくれない。
飢えているのに素直になれない、怖いのに踏み込んでしまう。
そんなアンビバレントが、16才の心と体を縛って、複雑な色を宿す。
この面倒くささ…仁菜と桃香さんががたがたやってた頃には、そらー触れない危険物だわなぁ。
傷つけられても立ち上がれる何かを、桃香さんと一緒に軽トラで見つけた仁菜は、結構智ちゃんの顔をよく見れている。
今まで噛みつくことで自分の身を守ってきた仁菜は、揺るがない居場所をバンドに見つけたことで、誰かを見守り優しくする余裕を手に入れていく。
これは退路を断って覚悟を決めた成果でもあろうし、過去の痛みを乗り越えて前に出たことで、昔の自分を取り戻しつつもあるんだと思う。
『額に絆創膏を貼るまで、井芹仁菜ってかなり優しい子だったんじゃねーかな…』っていうのは、期待と確信が入り混じった、僕の勝手な推測である。
優しいやつだからこそ、許せないものが確かにあったのだろう、と。
ここで仁菜も、それこそスティック叩きつけて出ていったグジャグジャ人間と同じようにバチ切れしてたら、智ちゃんは同じ轍を踏んでまた自分を閉じ込め、卵を呑まずに死んでいっただろう。
どうしようもなく理由がわからなくなり、魂の糧すら心に届けられなくなっちまう瞬間が人間にはある。
そんな風に泣きじゃくる赤ん坊を見捨てられずケアするありがたみを、かつての桃香さん、今回のルパは良く体現している。
エアコンが壊れた暑い場所じゃ、閉じこもっているのにも耐えられないから顔を出した窓辺で、涼を感じながら少しだけ素直になる時。
あるいは(まーた)すばるの包容力に甘えて、現状を相談してきた仁菜が預けられたヘビのケージに、少女の本音を見る時。
ツンツンスタスタ自分の檻に戻ってしまう、素直になれない少女が何を抱えているのか、麦茶をいただきながらルパが語る時。
心の中のトゲに引っかかり、整えた外面で止まっていってしまうはずのものは、するりと流れて何かを奏でていく。
そう出来るだけの信頼が既にバンドにはあるし、かつて何もかも壊していった本音と本気を、同じ温度で温めてくれる足場も整いつつある。
後はかつて、保証人のハンコを頭下げて頼んだのと同じ信頼を、ルパ以外にも預けられるか…である。
相変わらず甘えん坊な赤ちゃん力を漂わせつつ、仁菜が自分の考えていることを結構率直に色んな人に伝え、相手も率直に感じていることを喋る様子が、今回問題解決に大きく寄与している。
桃香さんを相手にあまりにも剥き出しなトゲを突き刺し、帰ってきた本物のトゲ(爆走軽トラ)を受け止め、新たに生まれ直すような叫びを間近に聞いた経験が、どんくらいのボリュームで思いを叩きつけて良いのか、仁菜に学ばせた感じがある。
本当の自分を捻じ曲げられ、グジャグジャ野郎と握手されかけられた仁菜にとって、どんだけ自分を出して良いのかってのは、今の智ちゃんと同じく極めて難しい問題なんだと思う。
そこで小器用にやれねぇからシーリングライトをぶん回し、泣きじゃくりながらバブバブされて、ようやくたどり着いた答え…らしきもの。
無駄にトゲを出さず、やりたいことや感じていることをちゃんと伝えて、相手のそれを受け止めて、音を返す。
走りがちだった仁菜の演奏が、周囲の音をちゃんと聞いて音楽しようとする段階に来ていることを、今回の智ちゃんクエストは良く語っていた。
同時に小器用に外面取り繕って、半笑いで上手くやる常識人のやり口が、トゲアリトゲトゲには必要ないってことも、仁菜に触れ合うメンバーの応対で良く分かる。
『そのおままごとで、ステージ上がれるわけねぇだろ』という、極めて言い出しにくい本音は(言わないルバ含めた)メンバーの共通見解であり、智ちゃん一人の尖った凶器ではない。
そしてそう指摘されたからと言って、自分を全否定されたと暴れまわる脆さも、今の仁菜からは抜けてきている。
出来ない事実を指摘されたからって、止める理由にはならないし、嫌いになって離れていくわけでもない。
ぶつかったからって終わるわけじゃない、だからこそ本当に光るものに近づいていける、トゲだらけのまま生きていくメソッドを、仁菜と仲間たちは掴みつつある。
ここら辺の本音コミュニケーションが、飾った題目になってないのは、治安最悪なお話を楽しく緩みなく書き続けてる強みだわなぁ。
かくしてそれぞれの痛みと決意が確認され、ヘビが卵を飲む時が来る。
『どーでもいいわよ…』と、シニカルな態度を気取っておいて、いざ命を繋ぐ食事に愛蛇が踏み出した時顔を覆ってしまう智ちゃん。
その感情のうねりは、不気味な丸呑みしか出来ない存在に自分を重ねていたからこそ、生まれるものだと思う。
そして智ちゃんは、不器用少女の全部を間近に見守り、一緒に生きてきたルパの囁きに、導かれるように川辺へ進み出す。
前回仁菜の頬を撫でた桃香さんの手つきと良い、要所要所の”湿度”が精妙に削り出されてて、百合が上手いのこのアニメの強みだよなぁ…。
今回はビンタと軽トラで超勢い良く飛び出すロック調ではなく、コミカルな崩しと細やかな感情の変化を活かす、ややバラードな味わいの演出が光る。
”ツンデレ”という四文字にはまとめきれない、繊細な傷つきやすさと攻撃性、自己防衛のための自閉と満たされたい甘えを同居させている、智ちゃんを描くうえでベストな選択だと思う。
智ちゃんが面倒くさくてチャーミングであることで、彼女を見守り導き続けているルパのキャラも、仁菜の変化も良く映えるしね。
ところどころ、自分たちらしい治安の悪さを忘れていないところも、継続性のある味わいで大変よろしい。
あのビール投擲、半歩の間違いで仁菜死んどるからな…。
俺は話の都合でなんとでも上手く出来るようになるアニメのキャラが、それでもシコシコ何かに打ち込んでいる描写が好きなので、仁菜が譲り受けたギターを延々練習し続けている描写は、大変良かった。
その地道さが本気を飾り立てる嘘っぱちに過ぎないのか、それとも自分と同じ温度の熱なのか、智ちゃんはどうしても信用しきれない。
だからルパに見守られ促されて、『下手ッくそー!』と探査針を打ち出す。
それは仁菜にとっては『知ってる』であり、キレて何かを投げ返すようなことじゃあない。
そういう相手でもない。
仲間で、友だちなのだ。
だから自分の飾らない本音が、豪速のスティックで叩きつけられ返された灰色の記憶とは違って、夕焼けの中で仁菜は笑ってくれた。
その光景が、智ちゃんを暗い檻から出す。
ずっと待っていた卵を食べて、不気味でかわいい不器用なヘビのまま前に進む準備が、ようやく16歳の心に整う。
ここまでお膳立てしないと本音を叩きつけられない、自分を変えられない智ちゃんの面倒くささは、下手な火加減で炙るとまるで食えたもんじゃなくなるわけだが、仁菜のロック魂と同じく、ルパを補助線に絶妙な塩梅にまとめたなー、って感じ。
そのルパも、微笑みの奥の修羅を時折のぞかせてはくれとるからな…メイン回あるなら、マジ凄そう。
かくして冒頭の再演、喉の奥で止まっていた『つまんねー!』を思い切り吐き出して、トゲに刺された側が不敵に笑う。
桃香さんもまた、仁菜が全力でぶつかって自分の枷を壊してくれたことで、一段階自由な場所へと自分を解き放った感じ…もっと強くなった感じがある。
そんな風に、世間一般では耐え難い傷って事にされてる本気の擦過傷でお互いを磨きあって、瞬くダイヤモンドに自分たちを作り変えていく道が、ようやく智ちゃんの前に開けたから。
凄く無防備な顔をした後、海老塚智は戦士の顔をする。
ロックンロールをやる、16歳の肖像画だ。
凛々しくて切なくて、ちゃくちゃ良い。
という感じの、クライマックスに向けてトーンを整える回でした。
今みたい海老塚智の顔がたくさん見れて、彼女を取り巻く人達の心根や変化も味わえ、大変良かったです。
時流に合わせてハイテンポで転がってる話なんだが、シリーズ構成が巧みで無駄な布石がないのが、荒くれた魅力を下支えしてるなー、って感じ。
毛筋一本ずれればビーンボールになる、危うく攻めたネタを視聴者の好感範囲にズバッと収めてるのは、見た目以上に理性的で、なおかつ情熱的な作りの証明なんだろうなー。
この巧さと熱さの同居は、僕がこのアニメを好きになる沢山の理由の、結構大きな一つだ。
ここでルパ智の過去と内面、仁菜の成長を描いたことで、次回以降のクライマックスが大暴れする足場も整った。
ダイダスのピンク髪との因縁が意図的に伏せられる中、待ち受けるロックフェスにはどんな嵐が吹き荒れるのか。
大変いい感じに最終コーナーを回ってくれた作品が、残りの話数をどう突っ走って、新世代のロック神話を描ききってくれるのか。
期待と信頼しかありません。
次回が大変楽しみです。