イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

わんだふるぷりきゅあ!:第18話『まゆの気持ち、ユキの気持ち』感想

 巣立ちの頃を迎えて、少女たちの世界卵に罅が入る。
 強く結びついた関係性が、新たに生まれ直すための鮮烈な痛みは、”ふたり”でいるための必然か。
 猫屋敷姉妹の幸福と衝突を、ずっしりどっしり描いていくわんぷり第18話である。
 大変良かった。

 つーわけで猫屋敷サーガも最終章、ユキが喋れると解って更に縁が深まり、しかし言葉があればこそ愛の鎖も重くなって、それを跳ね除ける末っ子の手つきにも力が入る……という感じ。
 色々危なっかしいまゆの”姉”として、身近に守ってきたからこその過干渉と過保護が、ユキの視野を狭めて変化を取りこぼしている様子を、ハムスターガルガルとの追いかけっこで重い空気抜きつつ描く回だった。
 飼育環境下でしか知らないハムスターが、野生に置かれるとどういう動物になるのか。
 わんぷりらしい視点を活かして、アニマルタウン地下迷宮を行ったり来たりする犬飼姉妹パートは、程よく肩の力が抜けてて良かったな……。
 悟くんが俯瞰で状況を整理してくれるおかげで、こむぎのまっしぐらがユキへのウザ絡みにならず適正距離で保たれていて、自分なりの考えがあるユキをちゃんと尊重できる塩梅を保っていた。
 一緒に戦ってくれると嬉しいけど、ワンダフル達は彼女なりの信念で街を守っているわけで、説得よりガルガル対策優先した結果いい距離作れてたのは、結構良かったと思う。
 まー本格的に触れ合うと心が通じ合ってしまって、問題解決のバルブが閉められなくなるので、あえて犬飼と猫屋敷を遠ざけて展開するフェイズ……って話なんだろうけど。

 

 言葉を得たユキが色々今までの舞台裏を話してくれたわけだが、愛の番猫として臆せずガルガルに立ち向かい、プリキュア超常の力を信念一つで掴み取っていた。
 力を得るまでの過程にも、生粋の”強者”としての風格が漂ってるのもユキらしくて良いのだが、あくまでイエ単位の狭い(からこそ強い)思いで人に変じたユキの、優先順位はとにかく分かりやすい。
 自分を愛し救ってくれたまゆだけを、徹底して守り切る。
 呪われ苦しむハムスターの顔面に暴力叩き込むのも、結構色んなことをやりたい”妹”の自由を愛で縛るのも、そのためなら全く躊躇いなしである。

 猫屋敷姉妹の過去と関係性は、メチャクチャ分厚く描かれてきたのでユキの気持ちや行動理念もよく解るし、それで色々危ういまゆちゃんが守られてきた過去にも、納得はいく。
 その上でブルブル怯えながら新しい街に来て、自分の手を引いてくれる素敵な女の子と友だちになって、やってみたいことが色々出来てきたまゆちゃんの、現状に適切に向き合いきれているとは、やはり言えない。
 実母であるすみれさんがメチャクチャいいバランスで、色々難しさも抱えてる娘の人生を見守り支えているのに対し、”姉”であるユキは庇護を必要とする子どもではなくなりかけている、大事な”妹”の成長を受け止めきれていない感じがある。
 そしてそんな自分も、なかなか客観視しきれず思い詰めて、狭い世界でまゆだけを味方に、その他全部を切り捨てる危うさを、抱え込んでしまってる印象だ。

 

 この狭さと危うさがとんでもない強さ……ともすれば湿った美しさを宿しているのは認めた上で、愛ゆえに視界が狭まり、お互いを尊重できなくなっている状況は見ていて痛ましい。
 ユキと二人きり極めて緊密に……それほどその体臭を自分の中にいれることで平安を得る程に、ぎゅっと結び付けられて離れなかった二つの魂。
 生物にはそういう距離感でしか生きられない時代が確かにあって、二人きりの聖域にお互いを守ってきたからこそ、まゆちゃんは新しい街、新しい友達、新しい夢に踏み出せるくらい育った。
 ユキを拒絶する自分の言葉の強さに、まゆちゃんがビックリしていたのは、ユキとの関係を切り離すなど考えられない、これまでの距離感にどれだけ彼女が慣れているか、救われてきたかを物語っているように思う。

 それは同時に、みっちりと近しい愛の鎖が結構な重荷にもなっていて、羽ばたく時を迎えつつあるまゆちゃんにとって、ユキの押し付けと束縛が過大なストレスになってる証明でもある。
 愛しているけど縛ってほしくはなく、開放されたいけど離れられない。
 極めて普遍的な親離れ・子離れのアンビバレンツが、『プリキュアに変身しての戦い』つう非日常を軸に回転していくのが、なかなかに面白い構図でもある。

 

 確かめなくてもいつだって、二人の心は同じ。
 そんな自他境界線が曖昧な、幸せなまどろみに包まれていた姉妹の時間は、まゆちゃんの成長と共に変化しつつある。
 守っている側のユキが実は守られる弱いまゆを必要としていて、そこに留める/留まるために戦いを否定しているグロテスクが、相手を純粋に思う愛と絡み合っている様子が、そこに重なって複雑な色を生んでいる。
 縛ってでも愛するものを守りたいユキの思いも、そこから抜け出して色んな可能性に飛び出したいまゆちゃんの変化も、両方スルッと飲み込めるのは、やっぱ地道な描写をたっぷり積んできた強みだと思う。

 二人の愛は難しい所にハマり込んでしまった形だが、それを開放していく力をもっているのが、お互いの思いを伝える言葉であろう。
 『ネコは愛情を込めて飼い主が投げかけた言葉を、全て覚えていてお返事したがっている』という、善性のファンタジーをしっかり叶える形で、最初ユキが言葉を使っていたのが印象的だった。
 わんぷりはメイン視聴者層の『動物さんとお話したい!』つう、頑是なくピュアな願いを真っ向から抱きとめ、毎回ちゃんと形にして答えているのが凄く偉いと思ってんだけど、今回ユキがまゆちゃんとお話してた姿はまた新たに、そういう夢に応える描写だったと思う。
 ここら辺、既にデカいケンカもして言葉を使ってお互いを分かり合い、良い距離感を獲得した犬飼姉妹のキャッキャっぷりと響き合う感じで、大変良かった。
 わんぷりはとにかく、むせ返るように濃厚な幸せと仲良しが毎週溢れてるところがオラ好きだァ……。

 

 言葉抜きでは、離別の痛みは耐え難いほどに強く、思わず頑なに成長を拒絶してしまうのも無理ないことだろう。
 ユキは現状、ただ一方的にまゆちゃんを戦い≒危険≒成長から遠ざけ、幼い時代に閉じ込める”悪しき母”に近づいてしまっている。
 そういう行為の根っこには、幼く危なっかしい最愛を守り抜かなければならなかった日々の記憶があり、そんな戦いに己を駆り立てる本物の愛があり、雪の寒さを溶かすほどの愛を確かに手渡してくれた思い出がある。
 だからこそ重たい鎖で可能性を縛り付ける相手に、投げつける言葉がただ強いだけの拒絶では、あまりにも寂しい。

 人間という生物が手に入れた、言葉という武器が相手を傷つけるためではなく、時に伝わりきらない思いを真実届けるためにあるのだという事実に、まゆちゃんもユキも今後向き合っていくだろう。
 言葉を使える動物としての人間の価値を、動物が人になり言葉を使えるようになる設定を活かして新たに削り出すのは、例えば第7話でのこむぎの自己探求などで冴えた、わんぷり得意の語り口でもある。
 なにより愛し愛され共に生きてきた二人が、より自分たちらしく新たに繋がり直したほうが、猫屋敷の姉妹にとって全然善いわけでね。

 ここまで18話、1000話のプリキュア史上類を見ないほどに濃厚に、同じ苗字を持つ者同士がみっちり親しい距離感で愛を育み、魂で繋がっている尊さを描いてくれたふたりは、最高に幸せにお互いを分かり合ってほしいからよ……。
 あとまゆちゃんの生きづらさも丁寧に書いて、そこに友だちとか戦いとか生業とか、色んなことに触れて向き合う中で変わってきた様子も、応援したくなる大きな理由だ。
 まゆちゃんの怯えも発見も、凄く小さな日常の一コマなんだけども、だからこそ内向きな人間がなにかに前向きになれる瞬間を瑞々しく切り取ってて、その一歩一歩を見届けたくなるのよ。

 ユキがせき止める戦士への道だって、ニャミーが優しい強さで自分を守ってくれるありがたさとか、だからこそユキに傷ついてほしくない愛とか、そのために強くなりたい願いとか、二人がふたりだからこそ生まれているものでね……。
 そういう自分たちの間にある輝きを、ユキにもまゆちゃんにも見落としてほしくないし、言葉を使って伝え合って欲しいの俺は!
 最高ハッピーラブラブ姉妹でいて欲しいのッ!!!
 そのためには魂がぶつかり合うこのタイミングで、ちゃんと自分と相手のことを鏡に照らして見つめて、思う存分気持ちを言葉にしていかなきゃダメなのッ!!!!!

 

 そんな欲望を吠えつつ、必然のすれ違いへと猫屋敷の女たちを導くエピソードでした。
 根っこにどんだけ分厚い愛あればこそ衝突しているか、長きに渡って積み上げた日常がしっかり教えてくれてもいて、バチバチいってんだけど妙に安心して見守れる、なかなか面白い手触りでした。
 まゆちゃんのじっくり育っていく様子、ユキの愛と執着をちゃんと書いてるから、このすれ違いも衝突も必ず起る運命だって納得できるし、言葉を得たからこそ拓けていく道が、二人の前に広がっているのもよく分かるしね。

 ぶつかったって全然平気、新しい私たちへと踏み出していける。
 そういう凄く普遍的なメッセージを、キュアリリアン爆誕にどう刻み込むのか。
 次回も大変楽しみです!!

 

・追記 話数積むほど、あえてどっしりノーバトルでやることを選んだ強みがガンガン物語に滲んできてて、わんぷりマジおもしれーしすげーな、って気分になってる。