イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

梅霖未だ音聞かず -2024年3月期アニメ 総評&ベストエピソード-

 

 

 

・はじめに

 この記事は、2024年3~7月期に僕が見たアニメ、見終えたアニメを総論し、ベストエピソードを選出していく記事です。
 各話で感想を書いていくと、どうしてもトータルどうだったかを書き記す場所がないし、あえて『最高の一話』を選ぶことで、作品に僕が感じた共鳴とかを浮き彫りにできるかな、と思い、やってみることにしました。
 作品が最終話を迎えるたびに、ここに感想が増えていきますので、よろしくご確認を。

 

 

ダンジョン飯

 ベストエピソード:第17話『ハーピー/キメラ』

lastbreath.hatenablog.com

 TRIGGER初の原作付きアニメは、自分たちらしさと原作の良さを見事に組み合わせた、素晴らしい一皿となった。
 フタを開ける前は制作集団としてのエゴが過剰にはみ出す仕上がりを警戒もしていたが、放送されてみればポップで奥深い作品の美味しさをしっかりアニメに落とし込み、心地よいテンポで多彩な面白さを毎回届けてくれる、素晴らしい食卓となった。
 圧倒的なクオリティで見るものを飲み込む……というよりも、見せるべきものを毎回しっかり見定めて、作るべきものをしっかり作り込む丁寧な職人気質が、気負わず作品を下支えする作りだったと思う。
 こういう角度から原作を”アニメ化”しきる作風もなかなか久々に味わうもので、腹に落としてみると適切かつ鮮明な味わいが染み出していた。

 ダンジョンと飯、命がけの冒険とシニカルなコメディ、絶え間ないドタバタとシリアスな人間ドラマ。
 様々な味わいを贅沢に使いこなし、見ている側を飽きさせないバラエティでもってライオスたちの冒険を描く筆は、”食”という極めて身近なテーマを足がかりにすることで、迷宮の中へと力強く僕らを誘い込む。
 最初は魔物食をゲテモノとして遠くに置く、マルシルの視点に共感していた視聴者がグルメと冒険の日々に付き合う中、気づけばライオスたちと視線を重ねている。
 上質なコース料理を味わうが如く、作品世界にしっかり浸れるよう計算された傾斜に乗っかって、次第に深くダンジョンへと引っ張られていく視聴体験は、手広さとクオリティを両立させたアニメとしての表現力に、しっかり支えられていた。

 

 旅の目的だった火竜打倒とファリン復活を成し遂げ、主役の冒険に見る側の体重が乗り切ったタイミングで描かれるこのエピソードは、踏破したと思った迷宮にはまだまだ見えざる闇が広がっていること、ライオス達の生き方にはかなり多くの危うさが秘められていることを、鮮明に描く。
 ここでシュローやカブルーが、地上の価値観や人間中心主義を背負って舞台に上がり、それらに親しみがないライオスと衝突/観察/対話を果たすことで、”魔物と食、生と死”というテーマ、それを背負うキャラクターと世界観が一気に立体視され、奥行きを増した。
 主人公たちの生き方を絶対視しないクレバーな視線を、真逆の在り方をしている第二の主役の登場でもって作品に突き刺すことで、生まれる複雑な美味しさ。
 これが本格的に煮込まれていく二期がどんな味わいになるのか、一期放送を終えたこの段階ですでに楽しみであるが、その期待感はこの回(あるいはこの回に至るまでのチラ見せ)でカブルーを鏡に、ライオスという青年の危うさが可視化される手つきの見事さに支えられている。
 真逆に思える誰かを通して自分を見つめ、真実の己を成し遂げるためにどんな冒険に挑めば良いのか。
 そういう極めて普遍的な成長のドラマを描くために、必要な武器をこの作品はしっかり研ぎ澄ませているのだと、こちらに教えてくれる回だった。

 そしてそういうレトリックの見事さは、常にアニメーションとしての切れ味に支えられている。
 キメラと化したファリンが振りまく災厄が、どれだけ濃厚な死に満ちて容赦がないのか。
 喉笛を切り裂かれても死なず、怪物めいた足取りで駆け抜けていく”妹”がどれだけ人間離れしてしまったか。
 語らず、描けばこそしっかり伝わるアニメの強さがそこにはあって、要所要所(例えば第9話のウンディーネ戦、第22話のグリフィン戦)でしっかり力を入れたアクションを作り上げることで、ただテーマをこねくり回しているだけじゃ生まれない面白さと手応えを、作品に宿してくれる。
 口に含んでしっかり美味しいからこそ、作品が伝えたい栄養が見ている側の心に染み渡る……というのもあるが、ただただ楽しいアニメを作り上げるという手段と目的の一体化もそこにはあり、しかしそれに溺れず適切に制御もされている。
 そういう、このアニメ全体を貫く”料理”の仕方が、一番色濃く出ているエピソードだと思う。
 たいへん面白かった。
 おかわりッ!

 

 

・花野井くんと恋の病


 ベストエピソード:第3話『初めてのクリスマス』

lastbreath.hatenablog.com


 『400万部を売り上げる、スマッシュヒット少女漫画原作』という、むくつけきオッサンから全く縁遠い作品であったが、とても楽しく見終わることが出来た。
 これは自分が興味を持っている、児童の発育段階と領域が被っていたのがかなり大きく、謎めいてヤバい花野井くんの過去が顕になる度に、歪むのも当たり前な劣悪環境でどんどん自意識を傷つけられたのだと解ってきて、彼を愛する気持ちが強くなっていった。
 イケててヤバい特級男子にときめく、ロマンス受容に一般的だろう態度とはまた違った角度ではあるのだが、主要人物としっかり腰を入れて向き合える足場が自分の中にあったのは、アニメを楽しむうえでとてもありがたかった。
 そんな花野井くんに恋を教えられえ、人間を教えていくほたるちゃんの清廉な正しさもまた心地よく、そんな彼女が花野井くんの情熱に当てられて、自分の知らなかった熱量に突き動かされていく様子も、見ていて面白かった。
 あらゆる物語がそうであるけど、特にヘテロブコメは主演となる男女を好きになれるか、そうなるだけの可愛げと誠実があるかが自分的に大事で、『これください!』って要素がみっしり分厚かったのは、作品を噛み砕いて腹に収める大きな助けになってくれた。

 そういう主役の良さを、要所要所の冴えた演出でしっかり支えていたのもこのアニメのいいところだと思って、物語の大きなターニングポイントとなるこの第3話で、『足元』という自分なりのグリップポイントを掴めたのも、楽しく見続ける足場になった。
 自分は作品がどういう暗号を練り込んで映像を作り、それによってどんなメッセージを届けたいのかを探り当てる行為……アニメを”読む”のが好きで、こういうブログを続けている。
 ただロマンティックな定番シチュエーションを積み重ねるのではなく、作品なり、アニメだけに出来る表現でもって花野井くんとほたるちゃんの特別な恋を描こうと、色々工夫してくれていたのは大変良かった。
 話数としても序章が終わるに相応しい力強さでロマンティックが暴れていたし、後に色々背景がわかる花野井くんの危うさと優しさがしっかり描かれていて、事情は見えないなりに彼を好きになれる話数だったと思う。
 読み返すと過去が分かる前から、色々危ういながら必死に頑張ってる彼のことを僕は好いていて、やっぱそう思える男の子とであること、そういう風に男の子を書いてくれるお話が好きだな、と感じた。