イマワノキワ

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烏は主を選ばない:第14話『禁断の薬』感想ツイートまとめ

 烏は主を選ばない 第14話を見る。

 しばらくのお休みを経て、再び動き出した八咫烏の物語…その新章。
 謎の大猿が惨劇を撒き散らすバイオホラー、あるいは人を狂わす麻薬禍を追うドラッグサスペンス、もしくは高貴な身分を隠して事件を追う時代劇の王道。
 第1クールとはガラリと趣を変え、舞台を陰謀渦巻く華やかな宮中から土の匂いのする北領へと移してのスタートとなった。
 いろんな厄介ごとの種が顔を見せつつ、その裏側に何があるのか見せきらない面白さは健在で、まだ繋がりを見せない諸要素がどう結びつき、山内の新たな顔を照らしていくかは大変気になる。
 今回、初手から麻薬と殺戮ぶっぱだからな…マージロクでもないよッ!(歓喜

 

 

画像は”烏は主を選ばない”第14話より引用

 華やかで自閉した宮中を舞台とし、下々の者たちが営む生活が見えにくかった第1クールに対して、今回は雪哉が守るべき我が家と誇る垂氷の在り方がしっかり描かれ、風通しが良かった。
 綾絹の獄衣に身を包み、権力の亡者共が足を引っ張り呪いを掛け合う宮中の、薫香でも隠しきれない腐臭をたっぷりとかいだ後だと、飾るところのない素朴な家族愛、郷土愛の描写がよく染みる。
 花嫁選びに、あるいは権力闘争に汲々とし、捻くれた権勢と差別を足蹴に高い地位を稼いでいた人々が、野蛮な田舎と蔑む場所に満ちる生気と温もりが、山内の新たな景観に良く滲んでいる。

 美麗に飾り立てた貴族の住まいからは、なかなか感じられなかった、土に根ざして当たり前に生きる人達の息吹。
 雪哉が中央勤めを辞して守りたかった地道で愛すべき暮らしの手触りが、水をたたえる田畑の色、藁葺屋根の素朴な色合いに宿る。
 13話たっぷり権力中枢に宿る毒薬の匂いを嗅いだ後だと、他人を陥れたり己を歪めたり、どす汚れたモノが目立った人工的な風景を遠く離れて、家族の絆と土地の縁に包まれて”人間らしく”暮らしている人たちの様子は、ホッと体重を預けたくなる安らぎに満ちている。
 …のだが、どーせここにも人間の最悪が埋められてて、話が転がる中で暴かれる…あるいは嵐が荒れ狂うのだろうという、予感もある

 

 味方少なき真の金烏として、若宮が戦いを挑む中央の腐敗。
 それが全て間違いで、今回描かれた土着の田園的な安らぎこそが全てを救う…みたいな、素朴な話だったら話はシンプルだ。
 家族の絆、土に根付いた地道な生活を尊んで、権勢欲を投げ捨てた素朴を人間の答えに定めて、既存の権力構造を解体し、帰るべき場所に帰ればいい。
 しかし数多人民が住まう山内が、そんなシンプルな村落共同体への還元主義で収まんないからこそ、桜花宮の惨劇、中央での政治闘争は華やかな生臭さで、たいそう元気に暴れまわった。
 雪哉が世界の真実だと身を寄せるものが、万能の処方箋にはなり得ない現実は、既に描写されてしまっている。

 人を狂わせ獣に戻す魔薬が、中央から流れる形で垂氷を汚染している様子は、この素朴で貧しく、欲の薄い田舎もまた、都市生活の汚濁と無縁ではないことを示す。
 慎ましく欲を抑え、目の前にあるものに足りる賢人の生き方に凡俗が収まらないからこそ、欲に踊る連中から銭を絞り、道を謝らせる邪悪が世に絶えない。
 どうやっても人間の最悪が滲み出てくるこの山内で、少しでも尊いものを守るためには、どうしたらいいのか。
 身分を隠し、辺境を揺るがす事件の気配を己の目と足で探る若宮の振る舞いには、そういう矛盾と身一つで向き合おうとする誠実…あるいは孤独が色濃い。

 統治者である彼の理想が真実、多数の支持を受けるのであればそれは行政機構として結実し、彼自らが調査し断罪せずとも、正しく処理されるはずの事件だ。
 ここでわざわざ垂氷に足を運び、一度は切れかけた雪哉との縁を手繰り寄せて、色々調べる足場を作らばければいけない時点で、真の金烏の理想はなかなか支持を得られていない、孤独で危ういものだということが解る。
 第1クールでも他人を頼りにせず独走しがちな気質、自分の理想を他者に理解してもらう手間を嫌う姿勢が描かれてたけども、舞台が自分の庭たる中央から北領に移ることで、より鮮明になったと思う。
 もうちょい、小器用に現実と寝る方法探ったほうが良いと思うなぁ…。

 

 雪哉の父母兄弟と膝を突き合わせ、土地の食べ物を共に腹に収める若宮の姿勢は、何かと地方や下層を見下す傾向にあった中央の差別に、彼が侵されていない様子を語りもする。
 家柄だの血筋だの、ワイワイ騒ぎ立てる外野を睨みつけつつ、雪哉が本当に大事にしたいもの…今回田舎の情景に鮮烈に刻みつけられたものを、若宮もまた大事に出来る人であることは、結構グッと来る手応えで描かれていた。
 身分の差や住まう場所の匂いを気にせず、人が人であることの価値を第一に生きている近代的ヒューマニズムは、何かと分かりにくくエグみも濃い若宮を好きになる、結構大事な美点だ。
 まぁその先進性が、彼を孤立もさせてんだろうが。

 北領を揺るがす麻薬汚染、あるいは謎の怪物による殺戮は、第1クールで描かれたような貴人たちの権力闘争には、多分あまり関係がない。
 だからこそ治世全体に責任を感じる若宮が、手ずから足を運んで事件を調査しなければいけない状況にもなっているのだろう。
 これは地域の分断であると同時に階級の分断でもあり、華やかなところがない家々に暮らし、地味ーなモン食って命を紡いでいる平民、あるいは更にその下にいる下層民が、何人死のうがお貴族様には興味がない…という話であろう。
 ここら辺、ここまでのお話で匂わされてきた山内社会の問題点が、”答え合わせ”に入ってきた感じもあり、個人的に興味深い。

 

 宮廷という閉じた箱、桜花宮という密室に視点を限定して進んできた第1クールから、新章は大きく世界を広げて土と田畑の麗しさ、街の賑わいと卑俗をカメラに切り取ってくる。
 それは物語の進行に合わせて急に生えたものではなく、旧章に描かれた華やかな地獄の下部構造として、既に設定されそれを支えていたものだ。
 たとえ高貴な人の目にも、想像にも浮かばないとしても、手を汚して野良仕事に勤しみ、家族の小さな絆に幸せを感じ、あるいは生臭い業苦に飲み込まれる俗な人々は、ずっとそこにいた。
 密室の外に広がったように思える視線は、描かれなかっただけで既にあったものを、改めて切り取っているに過ぎない。

 雪哉は今回始めて描かれた景色を、生まれたときからずっと大事なものとして胸の奥に抱えていて、だからこそ若宮の傍で栄達の道を進む将来を拒んだ。
 桜花宮の姫君たち、宮廷の有象無象の目には見えなかった、少し広い世界の”本当”が雪哉には既に見えていて、作品が彼の視界にようやく追いついた…とも言える。
 そこに若宮が何食わぬ顔で、身分を隠してズカズカ顔を出したのは、彼が同じ視点で世界と人間を見てくれる情と知恵を、示しているようにも感じる。
 中央の恵まれたクズどもが、世界の全部だと思ってしまうものに囚われず、もっと広い視野で人間を、金烏が統治する山内を見て、大事に出来る君主の視点。

 これが雪哉と若宮でしっかり重なるのか、ドタバタ血みどろの事件を追うお腹で改めて問いただされるだろう。
 まー若宮孤高の理想主義、誰かが間近に支えてやんないと凄い速度でボロボロになっていく感じが凄いので、雪哉が手を添えてくれるなら良いなぁ、とは思う。
 同時に否応なくズレてしまったり、分かり得ない部分もたっぷり出てくる話だとは思うので、そういう分かり得なさを踏まえた上で、どういうふうにお互いの足取りを重ねていくか、主従はちゃんと考えなきゃいけない物語にもなりそうだ。
 そのための試金石として、麻薬サスペンスとバイオホラーを選ぶのが、この話らしいけど。
 血流れすぎ人狂いすぎなんだよなぁ初手から…だから好きだぜッ!

 

 狂気に侵され暴れ狂う元人間の烏も、素性の分からぬ獣形の殺戮者も、その裏に何があるかは全くわからない。
 分からないからこそ、身分を隠した名探偵として若宮がその謎に挑みもするわけだが、ただの怪事件として片付けるには麻薬汚染も大殺戮も、ちと被害が大きい。
 とっとと解決するべき社会課題が、解決可能な権力を持つ中央に真剣に扱われていない危うさが、まさかの金烏探偵颯爽登場に滲んでもいるが…さてはて、ここからどうなるのか。
 事件を追う中、絶対に超ロクでもない個人の事情、社会の矛盾がドバドバ噴出してくるはずなので、色々覚悟を決めながら見届けたいと思う。
 理解ってるからよぉ…ロクでもない話だってのは。

 桜花宮に視点を固定し、婿取りロマンスを惨劇のサスペンスへと転換させた語り口自体が、優れたミステリに必要な誘導と開示を背負ってもいる。
 謎めいた主候補に付き従うことで、権力中枢の地獄絵図を暴き立てた雪哉の物語と合わせて、このお話は読者の視界を限定することで『ああ、この話はこういう感じなのね』という余談を生み出し、筆致をぐるりと転換し別視点を暴くことで、そこに猛烈な足払いを食らわせるのが得意だと、僕は考えている。
 華やかで苛烈な少女小説、ドタバタ騒がしい少年の立身出世物語。
 そう思えていたものが、真相が暴かれるにつれグロテスクな真実を開示し、新たな構造へとシフトする衝撃。

 

 読者がいた場所が精妙に用意された”密室”だったと、暴かれて初めて分かる面白さを武器に綴られている物語が、新たに挑む謎。
 それは一見、中央から視線を広げ人間真実の幸せを描いているように見えて、実は”山内”というもう一つの密室に、見るものの視界を固定する幻惑なのではないかと、僕は結構疑っている。
 謎めいた猿の正体、悪魔の薬の出どころ。
 そういうモノが見えてくるほどに、当たり前の正しさに体重を乗っけて生きる普通の人々…その代表たる雪哉が、どれだけ危うく狭い了見に囚われていたかが、改めて暴かれるような構造を、ここから始まる物語は秘めているのではないか。
 僕はそう推察し、期待する。

 何しろ山”内”が舞台なわけで、山の外側にどんな真実が広がっていても、おかしいことは何も無い。
 密室の外側は既に示唆されていて、しかし新たに広がった景色こそが真実なのだと、思いたくなるような手応えに上手く矛先をずらされ、思考を誘導されている感じもある。
 姫君たちの物語に、雪哉が世界を知っていく歩みを交えることで、そういう誘導を意図して緩めている感じもあるアニメの語り口が、今後どういう真実を描き、そこからどういうふうに密室の向こう側を描くか。
 作品全体へのメタな視点が成立させる、ある種のミステリを僕は結構、楽しんでいるのだ。
 映像に描かれたものだけを楽しむ素直さが、欠けてる証拠でもあるな……作品に飛び込む姿勢としては、角度が素直じゃなくてあんまよろしくはないか。

 

 とまれ、桜花宮の殺人で作品世界のグロテスクを暴いた、その先に続く物語はもはや、血の匂いを隠すつもりがない。
 ワケのわからねぇクソザルが超絶大殺戮ぶっこんでのスタートとなったが、あせびの罰なき無垢な殺人が”真相”であった物語の後に、殺人から始まる物語は何を語るのだろうか?
 どーも猿側の事情が大事になってきそうで、また読むべきものが増えたと嬉しい気持ちだ。

 謎めいた麻薬禍と殺戮を繋ぐ糸がどうなるかも気になるし、なかなかに良いスタートを描く新章開幕となりました。
 絶対山盛りロクでもない出来事が襲いかかってきそうで、次回も楽しみです!