イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

【推しの子】:第24話『【願い】』感想

 青い星は昇り、赤い星が堕ちる。
 陰りを宿した偶像が奪った視線が、少女を高みに押し上げたその先に続く物語、ひとまずの終幕。
 アニメ【推しの子】ニ期、堂々の最終回である。

 前回ゴローの遺骸に導かれ、自分がアイドル好きなだけで生きていける無邪気な子どもではもはやない……というか元からそうであったことに気づき直したルビーちゃんが、瞳の中の暗黒星をギラギラ輝かせる様子をじっくり描くエピソードとなった。
 機を同じくして復讐の陰りを投げ捨てたアクアが、あかねちゃん相手に秘めてた誠実さを手渡し、番組企画で捏造(つく)られた嘘のカップルが本当になってしまう様や、口づけから得た微熱にのぼせたあかねちゃんとかなちゃん湯船の交流なども、静かな見ごたえがあった。
 垂直方向の遠さと近さで、各キャラクターの心理的・社会的距離を描く演出プランが徹底されていて、三期まで結構長めに幕を下ろすお話がどういう構造になっているのか、最後に確認できる話でもあったと思う。

 繋がっては離れ、すれ違っては出逢う人間と人間は、どこか空の上の星に似て、しかし綺麗な星座には宿らない生臭さと熱が、確かにそこにある。
 舞台『東京ブレイド』が観客の目に触れるまで……あるいは触れているその真っ最中に、クリエーターたちがどんな思いをぶつけ、衝突させ、綺麗な嘘を生み出しているか追いかけてきた物語が、その背骨に選んだもの。
 他人を復讐のコマとして使い潰す、非情なプレイヤーになりきれないアクアがその優しさと危うさでもって、手を差し伸べ掴み取ってしまうもの。
 人と人の奇妙な縁が、そのおぞましさと美しさ両方をしっかり照らされる最終回で、とても良かったです。

 結局根っこの部分は、極めて古典的なヒューマンドラマなんだと思う。
 だから僕は好きだ、このお話。

 

 

 

 

 

画像は”【推しの子】”第24話より引用

 山際が白い夜光に照らされ、闇の中の微かな希望が印象的な展望台で、嘘の恋人たちはようやく本当のことを伝えあって、割れ鍋に綴じ蓋、フェアな関係を口づけで結び直す。
 凡人なりの芸能界にしがみつき、愚直なローラー作戦で真実の糸口を手繰り寄せた結果、アクアがたどり着けた真実。
 それが破綻していることに気づきつつ、あかねちゃんはようやく似合わぬ重荷を下ろせた恋人に安堵し、その残酷で優しい告白を受け止める。

 二人の距離感は『アクアがベンチに座り、それを見下ろす形であかねが真実の告白を聞く』→『懺悔を受け止めたあと、膝を曲げてあかねがアクアと対等な視点に立つ』→『立ち上がって背中を向け、嘘の天才が流した抑えられない本当の涙を止めるべく、アクアは座り込むのを止めてあかねと口づけできる位置に己を引っ張り上げる』と推移する。
 ずっと言えなかった罪悪感とズルさを吐き出し、あかねの卓越した知性を利用して自分の死骸を見つけてもらう計画を吐露する時、アクアは過去の引力に縛られ、低い場所に座り込む。

 

 見つけて欲しかった。
 他ならぬアクアの芝居に支えられて、かなちゃんがたどり着いた太陽の演技でそう叫び続けているメッセージが、アクア自身にとっても大事であることを、雨宮吾郎の再発見は転生先に教え直す。
 どれだけ取り繕って、傷つかない復讐者の外装を身にまとっているように見えても、雨宮吾郎であり星野アクアでもある青年はずっと傷ついてきたし、一人きりだったし、自分を見つけて欲しかった。

 その叫びに応えるべく、あかねちゃんは苦しみのない高みから弱者を見下ろすポジションを放棄して、アクアと視線が通う場所に陣取る。
 目線を交わし、相手に届くように、適切に自分の心の中を言葉に出来るように、ずっと見つけて欲しかった子どもを見つける。
 それはあの歩道橋の上、一人きり死のうとしていたあかねちゃん自身がアクアにしてもらった、人間として一番嬉しいことの再演であり、恩返しだ。
 「あなたはそうされるに足りる人物だよ」と、適切なメッセージを最適なタイミングでしっかり出せるあたり、黒川あかねは頭が良いし心根が優しい。

 

 

 そういうクレバーな”黒川あかね”自身を裏切るように、ようやくアクアが吐き出した嘘の奥にあるもの……道具として利用していた罪悪感と、大事だからこそ遠ざけたいエゴを飲み干した苦みに、あかねはこられきれず涙を流す。
 お得意の心理分析で星野アクアを解体して、見えた真実を物分かりよく飲み込むのが正しいと頭では解りつつ、冷たい知性(アクアが「黒川あかねは使える」と判断したもの)を裏切って、熱い思いが瞳から溢れる。

 そういうモノが目の前でこぼれ落ちた時、アクアは大局的で合理的な判断を全部投げ捨てて、自分の手で拭ってしまう。
 巻き込みたくないから距離を取る冷たい優しさで、正しく生きていたはずの自分をかなり簡単に裏切って、素敵な女の子と本当の恋を初めてしまう。
 「アホだなー」と正直思うし、「それでこそアクアだ」とも思う。

 

 アクアは根本的に情で動いてしまう人間だし、効率的に復讐果たしているようでいて、結局不合理な愛と熱血でどうにかしていく道に、自分と他人の運命を乗っけてしまう存在だ。
 だからこそこの話の主人公たり得ているわけだが、そういう自分に足りてない冷徹なクレバーさを借り受けるべく作った冷たい関係は、アクアとあかねちゃんの魂が有する熱にあぶられて、すっかり不合理な熱を帯びてしまった。

 人生二周目で罪悪感に縛られまくった屈折人間が、果たして真実誰かを愛したり、自分を許したり出来るのか。
 そういう人間にとって一番大事で、だからこそそこに身を置いていては復讐なんてやってられない死に物狂いの幸せ探しは、本当にアクアに許されているのか。
 失われたアイを取り戻すための戦いに自分を縛り付ける呪いであり、喪われた母との唯一の絆でもある瞳の中の星を、一回は手放した男の物語はまだまだ続く。
 その浮き沈みに寄り添い、振り回されたり振り回したりする、星のアクアに救われてしまった女の子の物語も。
 それが暗いばっかりじゃなく美しい夜光に満ちていて、でもやっぱり彼らを包んでいるのはアオハル色の蒼天なんかじゃないと、上手く告げてくれるキスシーン。
 大変良かったです。

 

 

 

 

画像は”【推しの子】”第24話より引用

 兄が暗い夜の中かすかな光に口づけして、どん底な自分を人間らしい場所へ引き上げていったのに対し、あまりにダイレクトな形で終わらない過去を叩きつけられたルビーちゃんは、深い淵へと一人沈んでいく。
 前回凄くスルッと描かれた、過去と現在がシームレスに共存する静かなアクア≒ゴローの狂気に対し、屋上の情景に15年分膿んだ傷を思い出すルビーの心理は、ドラマティックでサスペンスフルに演出される。
 彼女が言えない過去を思い出す赤と黒の色合いは、『東京ブレイド』の稽古でもアクアが苦しんでいたアイ殺害の記憶とよく似た色合いをしていて、兄が身を浸した地獄にようやく妹も踏み込んだことを、上手く可視化してくれる。
 母から白い星を継いだ妹を、綺麗な嘘の中に守り続けるために汚れ仕事を引き受けた兄が、向いてない復讐稼業から顔を上げた瞬間に、運命がぐいっと足を引っ張ってルビーちゃんを闇に引きずり込むのは悲惨で、平等な風景だ。

 かつて今際の際、永遠を願って手渡した【推し】の証は、巡り巡って自分自身の手に戻ってきた。
 アイとゴローせんせいを永久の【推し】にして、その無念を晴らすためなら何だって出来る黒い愛情は、優しいお兄ちゃんが自分の代わりに果たしてくれる物語ではなく、ルビー≒さりな自身の物語である。
 ここに来てようやく、ずっと保護され蚊帳の外にいたもう一人の復讐鬼は、自分自身の物語を手に入れる。
 アネモネが世間の代表として、レンズ越し感じていたルビーちゃんのフックのなさ。
 アイへの憧れを後追いするかすれたコピーの手触りは、自分もまた黒い星の継承者であることを思い出すことで、星野ルビーオリジナルな黒さで塗りつぶされ、猛烈なメッセージを宿す。

 かなちゃんが『東京ブレイド』での体験を経て、バリバリ外側に出すことにした「私を見て!」をサードポジションからかっさらう、凶悪な存在感。
 本心を笑顔の奥に隠し、仮面の奥からでも溢れかえる燃え盛るエゴは、他人なんてどうでもいいなりふり構わなさを宿しているが故に、画面越し多くの人を引き付ける引力を宿す。
 アクアはアイを継ぐ復讐者の物語から降りる隣で、ルビーちゃんは彼が持っていた執念と暗さを引き継ぎ、未だ暴かれていない15年目の真実を求めて、芸能界を道具に使い始める。
 そこにいられればただただ満足な純粋さはもう戻ってこず、目の前の何かを別のなにかのために使う、大人のズルさを賢く手に入れていく以外に、ルビーちゃんが思い出してしまったものに報いる手立てはない。

 

 この暗く燃える場所へルビーちゃんを導くのが、木野日菜ボイスの不気味なガキである。
 アクアは濃厚なシスコンで凝り固まってるし、犯人サイドは復讐を加速させる理由がないし、あかねちゃんはアクア抱えるので手一杯なので、ルビーちゃんとマッチアップできる第三極をここで投入……という形なのだが、その距離感はあくまで遠く冷たい。
 暗い闇の中確かに光があった恋人たちの夜と、復讐という自分だけの物語を黎明に掴み取ろうとするルビーちゃんを対置する構図にもなっているが、立ち込める霧と不気味な烏の黒が、サスペンスフルな画面をしっかり締めていて良い。

 あかねちゃんは本心を懺悔するアクアを見下ろす高い位置から、膝を曲げてその苦しさに向き合ってくれたが、ルビーちゃんに真実の一端を伝え復讐を加速させる謎めいた少女は、視線が交わらない高い場所から一方的に降りてきて、烏とベンチを間に挟んだ遠い距離で向き合う。
 誰かの苦しさを抱きしめ、口づけできる親しさはそこにはなくて、でもそういう暖かな手触りは芸能界の眩しい側を進んできたルビーちゃんにこそあるべきものだった。
 復讐の黒い星が双子の間で移乗され、お互いが背負う物語の色が反転していく結節点で、黒い鳥が朝霧に舞う。
 あかねちゃんとアクアは自分たちが都合のいい嘘で繋がっていた事実を曝け出し、お芝居じゃない涙を抱きしめ合う距離に近づいていったが、ルビーちゃんを地獄に引き込む案内人は、地上に降りてなお冷たい安全圏を保っている。

 そういう場所に、ルビーちゃんは実はずっと立っていたし、そこで幸せな夢に守られている限り、彼女の物語はほんとうの意味で動き出さない。
 大人になれないまま家族関係に傷つけられ、無念の中に死んだ幼子の魂を継いで、【推しの子】になることで満たされ、それを奪われた孤児。
 自分が明るく輝く星になることで、いつか見つけてもらえると思っていた想い人が、暗い洞窟の中一人きり、野ざらしに死に絶えていた事実を突きつけられて、ルビーちゃんの幼年期が終わる。
 そうさせないために色々頑張ってきたアクアが、耐えきれず復讐の重りを下ろし気安い凡人に戻っていたタイミングで事が起こるのが、残酷で適切だなぁ、と思う。

 

 

 

 

 

 

画像は”【推しの子】”第24話より引用

 あかねちゃんは今回、色んなキャラクターの現在地を図る測量マーカーとしての仕事を頑張ってくれていて、彼女を間に挟むことでかなちゃんやルビーの現状も、鮮明に見えてくる。
 反転アンチと、コンプレックスに縛られたライバル。
 どう考えても素直に好きとは言えない二人だが、湯船の端っこにお互いを遠ざけつつ、裸の付き合いで繋がる気持ちは思いの外嘘がなく、かなちゃんがツンツン気持ちを覆う手ぬぐいも、温かい湯の中にズルリと落ちていってしまう。
 MV撮影で一人冷たい水に己を沈めていたルビーには、この遠いようでいて近く温かい距離は望むべくもなく、枕を並べているのに気持ちはすれ違い、賢く兄の意思を汲んで核心から遠ざけようとした言葉が、ややこしい闇の中に少女をいざなってもいく。
 一期第10話のアイドル合宿で、かなちゃんと無邪気に純粋に輝く未来を見つめていたシーンが俺は凄く好きなので、似通ったシチュエーションでルビーがたどり着いてしまった闇の深さを思い知らされるの、良く効く演出だなぁと思う。
 年上のお姉ちゃんに頭を撫でられて、大好きなアイドルの話たくさんして、それで満たされていた時代はもう終わったのだ……。

 本来なら運命共同体であるB小町がルビーの抱えた闇を共有し、問題点を認識して一緒に進むべき局面で、かなちゃんとルビーは直接顔を合わせないし、二人と接触するのは部外者のあかねちゃんだ。
 一人で全部抱え込む気質は兄妹そっくりで、その片割れの重荷を膝を曲げて背負ってあげた女の子も、もうひとりが背中の向こう側抱える地獄には気付けない。
 ここら辺のすれ違いと独断がさらなる地獄を生むことを、いい塩梅に予期したカットで大変良かった。
 ルビーの孤立が今後生み出すだろう泥沼の暗さが、反発し合うようでいて近いあかかなの温もりに照らされる配置でもって、より冥く思えるのがええやな。(良くない)

 

 

 

 

 

 

画像は”【推しの子】”第24話より引用

 三期の物語がギアを上げていくために必要な、新生B小町の売れっぷり。
 それに説得力をもたせる”Pop in 2”MVの仕上がりは、多彩な魅力を90秒にみっちり詰め込み、素晴らしいものだった。
 センターに立ってるはずのかなちゃんを押しのけて、誰もが目を奪われていく異様な存在感を持つ、黒い星を宿した三人目の少女。
 枯れた大御所が火を付けられた純粋な白い星と、職業クリエーターが思わずアーティストに戻る黒い引力が同居する、明暗入り交じる怪物のお披露目。
 タイトル通りポップな曲調と、旧B小町の後追いを止め”今”生きてるアイドルだと世間に吠える現代的な表現から、大きくはみ出す黒い重力源。
 実は自分がずっと泣いている子どもであり、真実を暴き復讐を果たさなきゃそれは止まれないのだと気づいた、太陽の色をした女の子。
 星野ルビーが、世間に見つかる。

 MV開始時、背中を向けてこっちを見てないアイドルたちを切り取っているのが、ずっと見続けてきたOP出だしに見事に戯画化されていた、このお話の根っこを改めて捕まえ直してて良かった。
 そこには多重の嘘があり、真正面から本当のことを偶像は告げてくれない。
 観客は見たいものをそこに見て、仮面の裏には興味がなくて、あるいはそこに見つけた自分だけの真実に呪われ狂っていく。
 自分がアイと繋がっているのを確かめるためにもがいている連中が、ずっと求めている真っ直ぐな視線を裏切って背中を向け、焦らされた狂熱をいたずらに受け止める姿勢を作って、おどけた演技で翻弄する。

 【アイドル】は、そういうお仕事。
 本気で嘘を付いて、それが愛になり暴力になり何もかもを狂わせていって、血みどろに終わったあとにも呪いと祈りが残響し、表と裏が幾度も入れ替わる仕事。
 病床のさりなちゃんがずっと夢見て、念願の【推しの子】になったあともママの夢を継ぐべく追い求めた、明るい星の裏側だ。
 暗黒星の表側にしか住んでなかったルビーちゃんは、ゴローの遺骸に過去を突きつけられて、ようやく世界のもう半分へ踏み出した。
 ようやく、星野ルビーであり天童寺さりなである少女の物語が始まるのだ。

 

 

 

 

画像は”【推しの子】”第24話より引用

 そういうお話が明るいわきゃねーだろッ!
 ってんで、第三期に続くルビーの小路は木漏れ日満載、ノンキに青春を謳歌する兄貴の後ろでビカビカ暗い星が瞬くッ!!
 兄貴が似合わぬ復讐鬼頑張ってた時は、ルビーちゃんが前に出てノンキしてた構図が、完全に反転したのを上手く示してて、良いラストカットだと思いました。
 最後の最後にすっげぇ血のり使ってくる、謎の男のロクでもない殺人スケッチと合わせて、とても良いクリフハンガーだと思います。
 一期ラストがB小町初ライブ、ウルトラオレンジに瞬く希望で終わったのに対し、ニ期は暗黒星の覚醒で冥く沈んで続いていくの、シーズンを跨いだ良い話運びで、むっちゃゾクゾクするワイ。

 先が見えないハラハラ感は、サスペンスを駆動させる一番大事な燃料なので、そこら辺ワケわかんねー木野日菜とワカわかんねー宮野真守でもって、たっぷりサービスしてくれたのも親切よね。
 蓋を開けてみたらどんな本当が出てくるのか、思わず追いかけたくなる魅力的なハッタリ……あるいは【嘘】をしっかり作って、視聴者を気持ちよく翻弄しながら突き進んでいく、ポップで血みどろなジェットコースター。
 それがまだまだ終わらないことをしっかり伝えるラストで、大変良かったです。
 こっからルビーちゃんがどんだけ沈むか、暗いカタルシスの予感にブルブル震えられるの、嬉しいし悲しいよ……。

 いつかは覚めなきゃいけない夢だったとしても、俺もアクアのように、ルビーちゃんの無邪気なアイドル頑張り日記を、ずっと見守ってたかった。
 でもそれを終わらせなきゃ、アイに憧れるだけのコピーを脱してルビー個人の物語が動き出すことはないわけでね。
 そうして進み出す先が、赤く黒く塗りつぶされた思い出と同じ色だって見せた上で、さて、未来はどうなるのか。
  三期も見るしかねぇなッ!

 

 

 

 というわけで、アニメ【推しの子】第二期、無事完結しました。
 面白かったです、ありがとう!

 一期で特大の場外ホームランをかっ飛ばし、特大コンテンツとしての期待と重責を背負っての船出でしたが、クリエーターたちの熱が特別な何かを生み出す2.5次元舞台編、物語が大きな転換点に差し掛かる高千穂残酷絵巻と、見事に書ききってくれました。
 感情がぶつかり合う勝負どころを真っ直ぐ、力強く描いてくれる筆のパワーも凄かったですが、誰かが特別な感動に出会い、人生を捻じ曲げられてしまう瞬間をアバンギャルドなアートアニメでもって、毎回多彩に表現しようとする姿勢が、ビッグコンテンツの高御座に胡座かいてなくて、マジ良かったです。
 今季一番、ヘンテコな表現を追求してたアニメだったと思う。

 舞台裏のゴタゴタひっくるめて、次元の壁を超えて物語が形になる全てをどっしり追いかけた2.5次元舞台編は、この作品が持っているクリエーター信奉を一番熱く、素直な形で表現してくれる章だと感じました。
 世知辛く生臭く狂いきった世界の中で、何かを生み出し、感動を与えるクリエイティビティだけには嘘がなく、何かを強く求めればこそ激しくぶつかる人々の思いが、最高の舞台へ結実して欲しい。
 そういうピュアな祈りを、自身の創作に込めて創られたマンガがアニメになり、アニメでしか出来ない表現を多数生み出しながら、パワフルにうねり魅力的にスイングしていく全9話。
 とても良かった。

 後半戦はB小町に視点を移しつつ、復讐者の重荷を降ろしたアクアの浮上と、真実を思い出したルビーちゃんの堕天を、印象的な対比で描いてくれました。
  2.5次元舞台編がアクアたちの”今”を活写したのに対し、故郷でのMV撮影は逃げられない過去の重たさ、自分を縛り付ける呪いと祈りをサスペンスフルに描いて、この話が死人を巡る重たい物語だったことを改めて思い出させてくれました。
 ここで描かれた引力を引きちぎり、嘘を本当に、呪いを祈りに変えて翔び立てるまでを追いかける話だと思っているので、影は暗く濃く救いなく刻まれたほうが、ふりちぎりがいがある。
 このまんま地獄まで沈みそうなくらい、重たく描かれてる?
 まぁ……そうねぇ……そこが良いんじゃないかッ!

 

 というわけで、望まれる以上のハイクオリティで最後まで駆け抜け、バズの大波に飲まれない手応えと芯の強さをしっかり保ってくれた、素晴らしいセカンドシーズンでした。
 ここで描かれたものを足場に、更に高く飛び上がり深く沈むだろう第三期、大変楽しみにしております。
 お疲れ様でした、ありがとう!!