イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ブルーアーカイブ The Animation:第3話『便利屋68にお任せください!』感想ツイートまとめ

 ブルーアーカイブ The Animation 第3話を見る。

 常識外れの借金に追いこまれてるアビドスの面々が、それはさておきラーメン食って他の女の子と交流を深め、即座にガッツリそいつらと銃撃戦になるお話であった。
 終始ゆるふわな温度感で萌え萌え日常が展開され、その3センチ先に犯罪行為と銃撃戦がサラッとお出しされる、ブルアカ時空の特異性(と、アニメからの自分が感じるもの)を原液で飲み干すような回だった。
 いやー…TLで終始話題になる大覇権コンテンツだから、もっとアクが少ないもんだと思ってたが、相当ヘンテコだなこの話!
 そういうの、俺好きだよ。”サタスペ”とか”ガンドッグ”とかバリバリやってたし。

 

 かっこよくキメようとしてキメきれない、アルちゃん社長が率いる便利屋68が、荒廃したアドビスで銃抜いて”仕事”してくるのはまぁ解るのだが。
 曲りなりとも主役サイドの対策委員会が、問題解決のためにノータイムでバスジャック&銀行強盗を提案する治安の悪さは、シロコとホシノの〔犯罪〕が高すぎる結果なのだろうか…。
 困ったときの名作シナリオ”Bank Rush”!
(萌えと最悪治安が隣り合う作品世界を飲み干すべく、自分の中のサタスペ辞書で作品を翻訳しだしたマン。
 なお”サタスペ”は、冒険企画局が出してる犯罪都市オーサカの木端犯罪者を遊ぶTRPGシステム。ロクでもないルールが山盛りで最高だッ!)

 寝言はさておき、話の進展としては最初の会議シーン…それもアヤネの発言だけでだいたい終わってて、アビドスに襲い来るろくでなしの裏には金持ちのロクデナシが隠れてるらしい、という話。
 アルちゃん達がその裏を教えてくれるわけではなく、笑いと萌えと銃声に満ちたアビドスの日常がまったり流れていく話であるが、ポンコツ犯罪集団なりに一線を引いて”仕事”している感じはあって、なかなか良かった。
 バトル描写が増えるほどに、アビドス人の常識外れな頑丈さ、銃撃戦がじゃれ合いにしかならないタガの外れ方が目立つが、今後話がシリアス度を増した時、どういう味付けで洒落になんなさを醸し出してくるかは、結構愉しみ。

 C4だのクレイモアだの至近距離で爆発しても、ミンチどころか出血すらしないタフっぷりは、交錯する暴力がある種のじゃれ合いで収まる安全装置を、描写にかけている。
 『銃撃戦が書きたい』と『女の子を洒落にならない気まずい状態には追い込みたくない』を共存させるべく、『銃で撃たれたら人は死ぬ』というルールが書き換わっている状況な感じだが、では廃校の危機もまたタチの悪い冗談なのか?
 サイフへのダメージと肉体点の減少は、処理するレイヤーが違うってことなのだろうか?(再びのサタスペ語)

 

 鮮やかな青が印象的な、清潔感のある世界にどんだけ重たくドス黒いものが、存在を許されているのか。
 そこら辺を今後、お話の中描かれる作中現実を飲み干しつつ、探っていく感じかなぁと思う回だった。
 いやまぁ、『死ぬときゃ死ぬ』と血を流させて描けば、あるいは全く洒落にならない底抜けのクズが顔を出せば、作中のルールも一気に切り替わるとは思うんだが…。
 皆が皆、便利屋みたいな楽しく可愛い暴力装置ってわけじゃないだろうしね。

 一緒に楽しくラーメン食って、すぐさま鉄砲パンパン撃ち合えるような、ちょっと壊れて幸せな距離感の裏側に、どんだけ洒落にならない地獄が待っているのか。
 個人的な嗜好としては、人殺しの道具(と、僕らの現実においては機能するもの)を握ってるなら、結構な重たさも欲しい感じだが…
 まーそこら辺の濁りは、いきなりブッかけると初見バイバイになっちゃうかもしれないし、むしろゆるふわバイオレンスに慣れさせた上で思い切りブチまけたほうが”効く”毒気だとも思うので、空気が切り替わる瞬間を楽しく待つ。
 次回も楽しみですね。

 

 それにしたって、第1話でメインヒロインっ面して朝から晩まで”生活”細やかに見せてたシロコが、ノータイムで手っ取り早い解決狙ってくるのは面白かった。
 自分の中で作品と彼女を受け止めるチューニングを、ややザラついた方向へ整え直す必要がありそうだ。
 感情表現がぶっきらぼうな美少女が、感情高まったサイン抜きで調エクストリームな行動に出るの、かなり好みの要素だからな…戯れの出来ぬ女ッ!

ヴァンパイア男子寮:第1話~第3話までの感想ツイートまとめ

 ヴァンパイア男子寮 第1話から第3話を見る。

 『なかよし創刊70周年記念作品』と堂々揮毫された、男装女子と純情吸血鬼のドキドキラブコメ
 『周年記念アニメは怪作揃い!』という、個人的な鉄則にビッチリハマって、メチャクチャヘンテコで楽しい味のする伝奇ラブコメである。
 ときめきのために全てを押し流していく圧倒的なかよし力に感動しつつ、ピュアで可愛い子多くてマジ良い。

 

 超ロクでもない環境で血が冷たくなってた主人公・山本 美人(美人と書いて”みと”と読む。このネーミングの時点で、現代伝奇として最高。)が、自分を愛して血を温め、美味しいいちご味にしてくれる運命の存在と出会う…つう大筋。
 吸血鬼要素をフリルで飾りスローモーションで彩り、スキあらば心のときめきが外側に出た謎のキラキラで埋め尽くしながら、純情少年少女には許されざるエロティックを屈折させて描写可能な所まで持っていく手段として、最大限活用しているのがまず面白い。
 ブラム・ダイクストラが”倒錯の偶像”で書いたような、ミソジニーと結びついた吸血鬼物語アイコンを逆立ちさせ、なかよしテイストに染め直して蹂躙するような、もやっとファンタジックな、禁忌に満ちた憧れたるセックスの、代償行為としての吸血。
 『血を吸うって名目なら、エロティックなフィジカルコンタクトは通る!』という、タクティカルな見切りが素晴らしい。

 快楽を伴う吸血行為を、血の味が美味いか不味いかによって愛されチェッカーとして機能させる描写も良いし、激ヤバ人外ダーリンに最高に愛された結果『血がいちご味になって美味しくなる』のは、夢いっぱいで可愛くてマジ最高。
 これは”ちゃめっこ”から世界で一番遠い存在であるキモオタ中年男性がスガメで当てこすっているわけではなく、愛されたいと願いつつ愛されなかった少女が追い求める願いを、凄く暖かく優しい形で結晶化させてくれてる、めちゃくちゃ良い表現だと感じた。
 『誰にも愛されず、世界全部から見放された女の子の冷え切った血が、素敵ないちご味になるまでの物語…ええやないかッ!』と、最初見た時マジ思ったの。

 

 不味い不味い文句言いつつ、ルカは美人の血だけを求め飲み干し、他の有象無象は飲む気がしない。
 運命の女を追い求め、野放図に色々飲み散らかすドンファンというイメージから程遠い、一本気純情少年が彼の本質…なのだが、彼自身がそんな自分をまだまだ分かっていない。
 つーか眼の前の存在が女の子であることすら、メチャクチャ無理くり長い髪(≒女であることの証)をウィッグに収め、晒しで胸を潰した彼だけの血袋を抱いても、全く理解していない。
 おまけに吸血鬼業界はヘテロセクシュアルへの圧力マジ高くて、”運命の女”以外に恋したら血に飢えた獣に落ちるの確定だからな…何もかもがねじれている。

 ねじれは二人の間で起こっている行為と、その持ち主の心根の間でも同じで、フツーの高校生がやっちゃいけないアツアツ吸血行為の熱量と、純情極まるピュアピュアっぷりの落差が、微笑ましくもエロティックでいい。
 『血を吸う/吸われる』という、世間一般では認められないけど、二人にとっては唯一絶対のコミュニケーション。
 世間の視線(を代表する、いい人吸血鬼ハンターな蓮くん)に何を言われても、愛し合いされている自分を強く実感できる、特別な行為。
 それが秘めている性的な匂いを、感じ取るにはあまりにも未熟で純粋な、汚れのない二人の幼さが、作品全体に広がっていい空気を生んでもいる。

 

 女を堕し血を啜る、パブリックイメージに則った吸血鬼のあり方と、誰の地を吸う気にもなれず美人だけを求める(くせに、その特別さを自覚してない)ルカくんの在り方は、強いねじれを秘めている。
 これを可視化するべく、『アイツらマジ獣だから近づいちゃダメだって!』と、めっちゃ親切に忠告してくれる蓮くんもまた、魔狩人やるには純粋すぎる。
 ヴァンパイアとハンター、バチバチのつぶしあいが発生しそうな座組なのに、起こっているのは優しく純情な少年たちによるお姫様争奪戦であり、しかも当人たちは恋の自覚が全く無いという、小学生レベルの情緒が生み出すチャーミングな現代伝奇ラブコメ

 これを成り立たせるファンタジックな物語装置として、”ヴァンパイア”が使われている事自体が、欲望に負けた人間の似姿、打倒されるべき堕落の獣として始まった怪物が、その魅力故にポップにこすり倒されて、可愛いマスコットになった変遷とねじれを感じさせて、なかなかに面白い。
 『怖いけど/怖いから惹かれてしまう怪物』だったヴァンパイアは、快楽と死を与える牙を丸くされ、ついには愛されなかった女の子の血を温めいちご味にしてくれる、特別な王子様になったのだ。
 セックスではないから堂々描けて、セックスよりも獣性の強い吸血行為も、微かなエロティシズムを残したまま極めて安全に、癒やされ傷が残らない。

 このお話が”吸血鬼”を変奏する手つきは、ゴスの本道にずっぷり浸かった本格派には色々文句もあるだろうが、しかし文化的変遷の中で彼らがどう愛され、受け入れられてきたかを照らす、非常に面白い鏡だと思う。
 ルカの根源的な善良さ、幼く健全な純粋さ、それ故恋を知り己を知り成長していく余地は、時を止めた動く死人である吸血鬼の属性とは真逆の、とても生き生きとしたものだ。
 そういう存在として、間近に”吸血鬼”を起きたくなる誰か達の欲望がこのお話を削り出したのだろうし、怪物を王子様に変えてしまうその祈りと呪いが、僕にはとても素敵なものに思える。

 

 同時に吸血鬼が人を引き寄せる蠱惑的な闇も、変質し活用される。
 ママをクソ吸血鬼に寝取られた、蓮くんのトラウマが描かれることで、ルカの善良さがヴァンパイアの基本装備ではなく、彼だけが持つ特別な美質であることも理解ってくる。
 世のバケモノは蓮くんが危惧する通り超ろくでもないのだが、ルカだけが他人を傷つける獣性から自由に、スキな女の子を大事に出来る。
 血が不味かろうが、男だろうが、美人が美人であるがゆえに強く求め、熱く抱きしめてくれる。
 そういうヒューマニズムが、怪物にこそあるねじれを活かして、この物語は面白くなっている。
 ルカくんが自分の善良さに全く無頓着で、『俺様は人類の天敵、夜の貴族だぜー!』みてーなツラしてるの、マジ面白いんだよな…。

 更にいうとヴァンパイアの貴族イメージも、ラブコメ温度を上げる燃料として、良い使われ方してる印象。
 男が男を好きになる自由も、定められた相手以外に恋をする自由もない、吸血王子の宿命。
 現代的に変奏された『イエの定め』がルカを縛っていることが第3話で示されたわけだが、その鎖は美人とのロマンスをより熱く燃えさせるための、破壊されること前提の束縛でしかないだろう。
 しっかり悩めばこそ、自分の目の前にあるものが真実であるかを確かめることも出来るわけで、そういう束縛は大変大事なわけだが、まー二人の純情ラブラブっぷり、スキあらばキラキラが溢れ出す画面の作り方見てると、”フリ”だよなぁ…。

  性別、種族、吸血種の定め、血の味という価値。
 色んなハードルが二人の恋路を阻むのだと描かれているが、んなもん余裕でぶっ飛ばすくらいのトキメキが二人の間では既にボーボー燃えていて、愛だけが絶対の真実であるラブコメ時空において、答えは既に一つしかない。
 重要なのは、どんだけチャーミングな寄り道を積み上げて、ハッピーエンドまで突っ走れるかだ。
 行き着く先はバレバレだが、それが全く見えていない主役たちの純情っぷりがマジ可愛くて、すれ違いや回り道も楽しく見れてしまう。
 そういう状況に視聴者を持って行けているのは、乙女向けラブコメとして大変強いところだと思う。

 

 ルカくんが吸血鬼かくあるべしという社会の常識を、幼く無批判に受け入れて『お前は本命までの繋ぎ!』とか言っちゃう残酷と、そのクセ無価値な血袋なはずの美人ちゃんにぞっこんLOVEなところとか、本当に面白い。
 誰かに押し付けられた当たり前が、自分を突き動かす願いと全然噛み合ってない事実に、少年は現状全く気づいていない。
 その無垢なる盲目が、恋の中で自分を見つけていくオーソドックスな成長物語のキャンバスとなり、運命の相手を自分で選び取る決断の熱量を、強く発火もさせていく。
 『いや理解れよッ!』と思わず叫ぶもどかしさも、チャーミングなキャラクターと世界設定の妙味に助けられて、むしろ心地よい。

 愛し愛された経験がない…ないからこそ愛を強く求めてる美人ちゃんが、自分の胸に湧き上がっているものがなんなのかまーったく理解しておらず、しかしそれは圧倒的に”本物”なので、行動自体はバリバリLOVE色なのも最高。
 なんとはなしにそういうものと、非常にあやふやな理解で自分や世界を突き動かすものを把握してるぼんやりちゃん達が、自分とその外側にあるもの、心の一番深い場所に繋がる存在がどんなものなのか、ワイワイ賑やかに可愛く探していく話なんだと思います。
 やっぱそういう、ジュブナイルな手つきがしっかりあってくれると、お話を楽しく飲み干す姿勢も整ってくるというか。

 高校生という設定年齢ながら、キャラの世界把握、情緒の複雑さは非常に幼く、過剰なロマンティックが世界全てを支配する演出で彩られながら、優しくピュアな作品世界が成立している。
 ともすればシンプルすぎるトゲのなさが、しかし数多のねじれを含む吸血鬼伝奇としての味わいと入り混じって、非常に興味深い味を生んでもいる。
 これ、フツーの高校生でやってたらなかなか飲み込めなかった話だと思うんだけども、フツーじゃないヴァンパイアの話にしたことで思わぬ新鮮味で食べれてるの、組み合わせの妙味を感じ取れてマジ面白いね。

 

 シンプルでオーソドックスな恋物語を、二重三重の捻ったファンタジーで包むことで、生まれる律動。
 それはこの物語にしかない面白さとして、しっかり僕に届いてくれました。
 ズレた位置からシニカルに笑い飛ばす姿勢が僕の中に無いわけじゃないけど、そういうスタンスだけに安住させてくれない真っ直ぐな可愛げ、ヤリ過ぎ感溢れるロマンティック一本勝負が、お話から近い場所にオッサン視聴者を引っ張ってくれてる感じ。
 大変好みの味なので、今後も楽しんでみていきたいと思います。

 女性向けラブコメが対象年齢ごと何を描くかの違いとか、最新鋭の吸血伝奇の扱われ方とか、端っこの面白さもかなり強いんだけど。
 なんだかんだ、美人ちゃんとルカの純情恋物語を見守りたくなる、真っ直ぐな面白さがとにかく太いんだよな。
 次回も楽しみッ!

となりの妖怪さん:第3話感想ツイートまとめ

 降れよ雷光叫べよ嵐!
 哀しき怨霊を人と妖怪の絆が打ち破る、スーパーバトル巨編”となりの妖怪さん”第3話である。

 ここまで超絶ほっこり田舎暮らし with 妖怪をお届けしてきたお話が、ヒグマ感覚でひょっこり顔出す鵺とか、ガチ消滅の危機ぶち当ててくる大怨霊とか、一気に舵を切り替える回…ってわけでもないか。
 妖怪さん達が人と隣り合うため、抱えた異能を自覚的に制御している優しい獣だってのは既に描かれていたし、となれば枷が外れた連中が牙を剥いた時どうなるか描いた今回は、ほっこり日常と背中合わせ、全然あり得る作品の一つの顔なのだろう。
 というか、これを描かないと多分片手落ち。

 それにしたって稲妻落ちるわ火は出るわ、蛇霊決戦のアクションは作画に気合も入っていて、意外な角度から殴られる喜びが大きかった。
 いやー…正直こういう味も出してくるアニメだとは全然思っていなかったので、嬉しい不意打ちだったな。
 穏やかに流れる田舎の情景と同じくらい、必死に戦う皆の様子もちゃんと描いてくれて、実は色んな事が起こり得る作風を受け入れるのに、しっかり腰の入った作り込みがいい仕事してくれてる。
 平和も闘争も、最初っから当たり前にあるわけではなく、何もかもが起こり得るからそれに備え受け入れる、タフな柔軟性が良く分かる回だった。
 この思考停止してない空気は、かなり好みだ。

 

 やっぱむーちゃんとぶちおくんのW主人公の感があり、前半は化学修行の成果が出てきたぶちおくんメイン。
 ヌッと鵺が通学路に顔出す世界観、相変わらず面白すぎるけども、大事な人を守るために勉強してたことが役立つ展開は、めっちゃ素直に良かった。
 その後のぶちおくんがブルブル震えてビビってるのも、当たり前の猫又が必死に勇気振り絞って闘った感じが濃く、しみじみいい味。
 当たり前に危険が襲ってくる世界だからこそ、有事に備えて力を磨くのは無駄じゃなかったわけだなぁ…。
 今後ぶちおくんは、力あるものとしてどう振る舞っていくかも、悩みながら学び取っていくわけだ。
 …猫又若武者修行旅の味出てきたな。好きだ

 とはいえまだまだ未熟な化けっぷりを、ママさんに見抜かれ感謝を伝えられる下りも良い。
 幼い日の記憶、新しい家族に守られた思い出が今もぶちおくんを包んでいる描写が、後々蛇霊がなぜ呪いを背負ったのか明かされる時共鳴してくるのが、良い構成だった。

 愛ゆえに強くなれる人も、愛ゆえの呪いに化ける存在もいる中で、ぶちおくんはどういう猫又になっていくのか。
 ただただのんびり過ごせるわけではないと、ハードな戦いに奮闘する様子が描かれたことで、お話が伸びていく先がグンと広がった感じもある。
 バトル要素をこういう使い方してくるの、なかなか意外で面白く、不思議な納得もあるね。

 

 後半はむーちゃんとジロウが、ここまで撒いてきた不穏要素を回収する形で、過去の因縁と決着をつけるまでのお話。
 山と人界の守護者として、荒ぶる大蛇を子ごと殺すしかなかった過去のジロウに、穏やかな日々の中戦い以外の生き方を学んだ今のジロウが、己を犠牲にケリ付けようとしたところで、消えたオヤジ代わり親身に向き合ってきたむーちゃんが現世に引き戻す…という形。
 天狗がどういう役割背負って山間の村にいるのか、しっかり教える展開となり、収まりが良かった。
 こんだけ怪異が身近な世界だと、オカルト要素はガッチリ国家が管理してそうだなぁ…のんきな田舎なので、そういう要素は表には出ないけども。

 むーちゃんの寂しさに付け込まれる形で、蛇霊が恨みを晴らそうとする展開が、結果として彼女が自分の気持と向き合い、今自分がどこにいるかを確かめる助けになっていたのは、試練を通じて成長していく正統派ジュブナイルで、大変良かった。
 自分の中の寂しさに向き合い、巫女としての勤めを果たすことで、ジロウに助けてもらってたむーちゃんが消えようとするジロウを引き戻す形になってて、お互いがお互いを支え合ってるフェアな関係が、お話にグッと両足踏ん張ってきた。
なんてことない平和な日々が、戦い生きるための力になる。
 ここまで二話、妖怪田舎暮らしとしての良さをちゃんと書いたからこそ、むーちゃんの強さも映える。

 

 守られ導かれるべき、弱く幼い存在だと描かれてきたむーちゃんやぶちおくんが、彼らなりのヒロイズムを発揮する今回は、彼らに大事な人を守るために戦える強さを育んだ、ジロウやママさんのつよさを描く話数でもある。
 戦うしか知らなかったジロウが受け入れる道を選んだように、水神が嫉妬の毒により蛇霊に落ちたように、人はどんな風にも変わりうる。

 そんな変遷をより善い方向へ導くためには、導き抱きとめてくれる誰かの存在が必要で、愛し愛されながら日々を積み重ねて、もっと強い自分になっていく揺りかごとして、結構ヤバめな危機もフツーにある美しい田舎は、とても良い。

 

 作品が持つ新たな…しかし確かにここまで描いたものと繋がった魅力を顕にし、更に好きにさせてくれるエピソードでした。
 まったりテイストで進んでいくとばかり思い込んでいた”ナメ”を、いいタイミングでぶん殴ってくれたのは、今後お話と向き合っていく上で大変ありがたい。
 やっぱこういう『俺達こういうことだってやるぜ!』つう一撃が気持ちよく入ると、怠けた視聴態度がビッと背筋伸ばして、アニオタの健康にも良いな…。

 かくして守られた平和な日常が、幼き人間と妖怪をどう育んでいくのか。
 次回も描かれるだろう静かな幸せを、改めて楽しく見れそうで、大変楽しみです。
 いいアニメだ…”となりの妖怪さん”…。

烏は主を選ばない:第3話『真の金烏』感想ツイートまとめ

 絹の衣と金の玉座に、秘めたる御毒はいかほどか。
 烏は主を選ばない 第3話を見る。

 ぼんくら次男が若宮のもとに出仕し、常人がこなせない難題をブツクサ言いながら乗り越えつつ、だんだん御代の近しい所…つまりは宮廷の毒のど真ん中に近づいていく過程を描く。
 人と獣の間で、抱えた獣性を下賤と切り捨てることで権力構造を維持している八咫烏の社会の実態も見えてきて、華やかに見えてグロテスクな匂いが心地よい。
 ホワイトカラーとブルーカラー、貴族と奴隷を切り分ける制度は、複数の役所が複雑に絡み合う官僚制といっしょにずいぶん発達しているみたいだが、衣一つ剥けば人に劣らず烏もまた、ずいぶん畜生のようだなぁ…。

 

 前回ぼんやり予測してた”馬”の真実がズバッと当たり、的中の喜びよりもそのロクでもなさにげんなりもしたが、蝶よ花よと育てられたあせび様は下々の事情を、何も知らない感じで。
 囲碁をやるにも長ーい箸ごし、現世の汚れを遠ざけ高御座でふんぞり返っている貴族の、最上級の方々は汗を厭い獣であることを嫌っているわけだが、その頂点に立つはずの真の金烏は、はしたないはずの羽衣(漢字これでいいよな?)でスラスラ歩き回る。
 窮屈な格式を嫌い、実質的に生きている様子はみすぼらしい庵住まいからも感じられ、婚礼政治の毒が詰まったハーレムからも身を遠ざけている。
 清廉…とも少し違うその眼光が、何を睨んでいるのか。

 ここら辺は雪哉がその主に近づく中で、あるいは陰謀の温度が燃え上がる過程で、否応なく暴かれていく部分だろう。
 まだ死人も陰謀も匂い程度、プンプン匂うだろう八咫烏社会のハラワタが暴かれていない状況なので、その汚れを跳ね除ける気高さや強さも、気配程度しか見えない。
 ドタバタ振り回され振り回し、コミカルに展開する宮中の日常の外側…例えば烏人が”馬”にされる現場とかが描かれた時、華やかな社会が孕む矛盾と、それに立ち向かう気概が誰にあるのか、より鮮明になっていくだろう。

 

 今回はそのための助走、周辺情報の説明回という感じだったが、想定より八咫烏社会が律令官僚制度をしっかり備えてたのが面白い。
 烏衣では上がり込めず、若宮専属の帯を肩から下げれば通行御免な、衣一つで態度が変わる世界。
 本来衣を必要とせず、裸で生きれるはずの八咫烏は、人の衣を纏う権利を剥奪することで、人間を”馬”にしている。
 彼らの本性が人に近いか獣なのか…あるいは人間という最悪の獣にそっくりなのか、未だ見えきらない状況である。
 けども、するりと鳥形に化けれる人でなしが、社会制度もそこに軋む差別も、人間社会の良くない所を擬しているのは、良い感じに趣味の悪いジョークと思える。
 まー差別と搾取を前提に社会を編んできたのは、山内の外にある僕らの社会も全く同じだから、上から目線で偉そうなことは言えないが。

 家柄、血縁、性別、身分、装束。
 八咫烏はあらゆる手段をもって、上に立つべき存在と踏みつけにされる連中を切り分ける。
 近代以降の価値観が血に染み付いた僕らにとって、それは”悪いこと”なのだが、彼らにとっては呼吸するより当たり前な社会の当然であり、華やかなお后選びも貴族の勢力争いも、不平等と差別に立脚している。
 そんな世界でも、全ての烏が一個人としての尊厳を求めている様子は、ここまでも幾度か描かれた。

 人間が当たり前にもっているものを抑え込めば、当然の反発があらゆる場所に満ちる。
 俺達は汚れ仕事を背負う”馬”でも、家格を上げるための婚礼ゲームのコマでも、政治と権勢の道具でもない。 そういう澱は、あせびが知らぬ俗世の塵の中にずっしり溜まっているだろうし、抑圧を吸い上げる上澄み…宮中の外側にカメラが向いた時、より鮮明に見えてくる感じがする。

 バッキンバッキンに不満高まってそうな世界で、どんな弾圧と暴力装置がそれ抑え込んでいるのか、お綺麗な行政手続きの外側にある血みどろを一回、見てみたいんだよなぁ…。
 人間社会の中世レベルの、そうとうエグい抑え込みしなきゃ、この超身分社会維持できてないでしょ多分。

 

 ここら辺の生っぽい事情は今後暴かれるとして、雪哉が出仕した若宮は、”真の金烏”なる存在らしい。
 年功も才能もぶっ飛ばして、オカルティックに権力の中枢に座る霊王。
 散々『このクソ烏共、自分たちの獣っぷりを衣で隠し、権力片手に人間ごっこやってますよ!』と書いた後、霊獣たる八咫烏の本文が全部の道理を押し流して皇位を決めると語られるのは、なかなかに面白い。
 あんだけ”人間的”な在り方に支配されておきながら、その中心は理屈を蹴飛ばした宣託が支配してて、年が上だとか、能力があるとか、当たり前の理屈で主上を選べない前中世が居座っているわけだ。
 宣託に選ばれし霊王たる若宮が、底の見えない白面の奥にどうやら、身分や建前に囚われない超中世的発想を抱えてるっぽいのが、更に興味深くもある。

 八咫烏社会を支配する、古臭く軋む差別と権勢の”人間的”世界。
 霊的宣託によって特権的に選ばれる旧さと、社会の当然に縛られない新しさを兼ね備えている…ように思える若宮が、一体何を考えているのか。
 陰謀渦巻く御簾の奥から、ずずいと飛び出した御前会議がそこら辺、雪哉と僕らに見せてくれそうである。

 

 時代を越えた快男児の社会改革絵巻となっていくか、世界を支配する枷の重たさがそれを押しつぶしていくのか、全然見えない所が面白い。
 フツーに気持ちよく話し進めるなら、若宮と雪哉の近代的価値観が古くてヤベー因習殴り倒していくんだろうけど、華やかな桜花宮…花嫁候補の牢獄をもう一つのメインに据えているのが、どうにも湿り気強くて一筋縄ではいかない予感。

 一見華やかな女の子の憧れッ! みたいな衣整えつつ、イエ制度と政治と差別を練り合わせた地獄の碁盤なわけで、それも姫君の誰かが蹴っ飛ばすのか、婚礼制度が犠牲を飲み込んでしぶとさを見せるのか。
 恋という個人的で大切…なはずなんだが、身分と建前に一番最初に押しつぶされる脆いものを、王子様が全然顔を見せない婚礼ゲームがどんくらいの温度で扱ってくるのか。
 そこら辺も、大変に気になる。

 一人間として、誰が誰をどんくらい慕っているのか、姫君達のハラワタもまだまだ見えないからなぁ…それが解んないと、悲劇にすり潰される純情無惨も際立たないわけで。
 邪を払うとされる桃がどんだけ、あせび姫を俗世の塵から守るのか…
 あるいはそんなシンプルな、乙女物語的構図を越えたところにキツいのブッ込んでくるのか。
 まだまだ御簾の奥に作品の顔が見えきらず、だからこそ追いかけてみたくなる所が、なんとも平安の趣があって良い。
 秘すればこそ花が咲くのは、芸事もミステリも同じだね。

 

 今回見せたややコミカルで、あんま洒落になんないことが起きない温度感がこっからも続くのか。
 匂わされてる色んなヤバさが、牙を剥いて襲いかかるのか。
 御前会議でそんな風向きも判断できると、アニメからの新参としては嬉しい感じです。
 やっぱなぁ…”腹”ってのを早めに決めておきたいわけよ、重いブロウで死なないために!
 次回も楽しみ!

ガールズバンドクライ:第3話『ズッコケ問答』感想ツイートまとめ

声無き魚が、遂に産声を上げる。
 ガールズバンドクライ 第3話を見る。
 前回生粋のロックンロール・モンスターとしての資質を見せつけた仁菜が、その才能を初ステージに炸裂させるまでを描くエピソードである。
 Aパートで”三人目”であるすばるちゃんの人柄を掘り下げ関係を築き、満を持しての”声無き魚”まで一気に駆け抜けるカタルシスが、勝負の三話に相応しい仕上がりだった。

 

 やっぱ仁菜を演じる理名さんの歌が、圧倒的な説得力を持って作品を下支えしているのを感じる。
 燃え尽きたはずの桃香さんがもう一度魂を熱く燃やし、面倒くさいガールを導きたくなる、圧倒的な才。
 運命を引き寄せ人生を捻じ曲げる、巨大な星。
 スーパースター誕生の物語に必要な存在質量を、歌の説得力が分厚く下支えしてくれるのは大変いい。
 仁菜のチャーミングな面倒くささをここまでどっしり描き、それを爆笑しつつ嘲笑わない…むしろ面倒くさいからこそ期待を寄せる仲間たちの頼りなさで毒気を抜いて、『今爆発しなきゃ嘘だろ!』って所まで、物語のテンションを持っていく。
 熱さ一辺倒で力むわけではなく、心地よく抜いた笑いを随所に交えて、独自のテンポでバンドをやるしかない女の子たちの叫びを、高く高く響かせていく。

 濃い口なキャラの魅力をこすり合わせ発火させていく、ダイアログの良さを最大限活かして、気持ちよく初ライブまで行ける回だった。 初ステージを天国までぶっ飛ばすには、色々と仕込みがいる。
 前回顔見世だけしてたけど人間が見えきれないすばるちゃんを掘り下げ、バンドの起爆剤となる仁菜のロックンロール魂、自分が認められない魅力を発見し肯定してくれる仲間のありがたさを積み込んで、初舞台が話の筋書きで用意されたものではなく、運命であり必然であると思わせないといけない。
 今回のエピソードは、そういう物語的要請をしっかり果たしつつ、川崎や渋谷に生きる彼女たちの息吹を、今までよりも更に色濃く描き直してくれる回だ。
 嘘っぱちの世界に、確かに彼女たちが在る。
 その実感が、作品に前のめりに踏み込むための足場になっていく。
 ありがたい

 ここまで二話、圧倒的に面倒くさい主人公を目が離せない引力弦として削り出し、その推進力で進んできた物語は、やっぱり仁菜を真ん中に据えて進んでいく。
 冒頭、作曲アプリにドハマリしてガンガンその才能を燃やしていく(ついでに勉強して大学受かるフツーの幸せから、ガンガン遠ざかっていく)様子が、鳩の縦ノリを伴奏に大変良かった。
 小気味いいコメディと真っ直ぐな音楽スポ根を描きつつ、細かいところで『今、川崎で、ロックをやる』ことがどういう風景を生むか、編み上げていく指先が繊細だ。
 ド素人が『今、川崎で、ロックをやる』なら、教本より先に感覚で操作できるアプリが手渡される。
 なるほど、そういう手応えかと、小さな描写の中に納得が積み重なっていく。

 

 

 

 

 

画像は”ガールズバンドクライ”第3話より引用

 最高の初ライブに向けて笑いと期待をガン済みしていく、早くて強い流れの中で、作品が乗っかる舞台がどういう場所で、少女たちがどこに生きているのか横幅広く見せるのも怠けないのが、大変良かった。
 今回のエピソードは、ここまで描かれなかった少女たちのパーソナルスペースのお披露目会でもある。
 仁菜の予備校、桃香さんの家、すばるのアクターズスクール…そして後に仲間となる連中の吉野家
 それぞれ異なった場所に、それぞれ異なったキャラクターが、自分たちの在り方を反射させながら立っている。
 お互いがお互いの領域に足を運び、匂いを感じメシを食う。

 勉強して、大学行って、クズどもを見返す。
 仁菜の復讐計画をダイナシにする楽しいことを、ドンドン手渡す桃香さんの視界に”進路指導室”が入っているのが好きだ。
 それは確かにそこにあって、しかしそこから伸びていくフツーの幸せに背中を向けて、ロックンロールをやるしかない。
 桃香さんは仁菜をそういう存在だと、極めて正しくみぬいいているし、バカ後輩が無駄なあがきでその部屋に迷い込む前に、行くべき場所への道を拓く。
 全然自分に自身が持てない怪物を、自分がどっかに置いてきてしまったものを持ってる眩しい星を、受け止め励まし送り出していく。
 桃香さん、佇まいがかなり”姉”でありがたい…。

 

 ねじくれて面倒くさい仁菜のキャラクター性を、破壊力ある物語のエンジンとして肯定的に受け取れるのは、桃香さんの頼りがいが大きいだろう。
 彼女がクズの中にある炎を信じ、吉野家奢ってアプリ渡して、自分自身気づいてない可能性が開花するよう、期待し面倒見てくれるからこそ、仁菜を『おもしれー女』として受け取れる。
 ロックンロールをやるしかないバケモノを、フツーにいい子として矯正してアク取りするのではなく、エグみやヤバさ込で楽しい主役として受け止めさせるためには、三歳上の大人力が絶対必要なのだ。
 ここら辺、すばるちゃんが自分と他人をしっかり把握し、適正距離を積極的に探れる人格なのとも重なる。
 とにっかく面倒くさい主役一本に人格的問題≒作品に独自性と爆発力を与える、扱いの難しい火薬を絞り、物わかりの良い二人が主役の可能性を面白がり、支え導く構造が、前回に引き続き鮮明に照らされていく。

 しかし桃香さんも無傷の天使ってわけではなく、自分が置き去りにした/自分を置いていった仲間を眩しく見上げて、燃え尽きてしまった自分を燃やしてくれる新たな才能に、人生を預ける歪さを持っている。
 バブちゃん仁菜がちったぁ自分の足で立てるようになった時、多分この歪さに飛び込んで今までの恩を返す展開になると思うので、今からメチャクチャ愉しみである。
 マージで桃香さんには世話になっとるからな、井芹は…。

 第1話ラストで故郷に帰ろうと、青春を終わらせようとした桃香さんを川崎に留めた、仁菜の吠え声。
 カラオケボックスでそれが炸裂する時、桃香さんが陶然と聞き惚れている様子が良かった。
 それは彼女が失った…と思いこんでいるものを、もう一度取り戻してくれる特別な歌であり、だからこそ彼女は極めて面倒くさい情緒赤ん坊女の面倒を見る。
 思いの外、河原木桃香は利己的なのだ。
 透明でエゴのない天使の思いやりより、自分から失われ諦めきれない、ロックの原液を間近に浴びれるから助けていると、少し濁ったとびきりの優しさを感じれたほうが、もっともっと桃香さんを好きになれる。
 そういう描き方で、大変良かった。

 

 

画像は”ガールズバンドクライ”第3話より引用

 現状、自信ないくせにプライド高く、卑屈なのに傲慢な仁菜は自分を見れていない。
 そんな彼女がどんだけ特別で、どうすれば一番自分らしく叫べるのかは、仁菜の外側…河原木桃香の視界の中にある。
 ヨーグルトと肉まんを口に運んでもらい、ワンワン泣いては爆笑しながらあやしてもらい、『お前は最高の怪物だ』と褒めておだてて、歌わせてもらう。
 『完全にママじゃん…』って感じの、期待と信頼が仁菜の世界を開いていく。
 その先にあるのが”声無き魚”の眩い光であり、モニター越しようやく自分の姿を、数多同じ屈折を持った観客席の幻影を、見つける井芹仁菜である。

 井芹仁菜がどんな存在であるか、他人に決めつけられたくないと反発するくせに、自分でも見つけられていない…だからこそロックンロールをやるしかない少女は、世界に山ほどいる自分の分身へと、必ず声を届けていく。
 観客席にフリフリ衣装の仁菜の影が、彼女の叫びを待っている描写があったのは、この後主役たちの声が世間に届き、共感性で若者を殴るロックンロール兵器として仁菜達が、売れていく未来への滑走路を確かに開いていた。
 仁菜の鬱屈と爆発力は彼女固有の才能であると同時に、小さな身一つ飛び超えてもっと大きな場所へと届き、その反響で仁菜に己を教える、大きなエコーになってく、
 桃香さんは、そんな未来を確信してる。

 

 プロデューサー(あるいは教育者)に必要なヴィジョンと信頼を、プロ経験者である桃香さんはしっかり持っている…という話なのだが、そんな彼女の自己評価は思いの外低いと思う。
 何しろ全部辞めて故郷に戻ろうとしていたわけで、若いまんま人生に勝てなかった負け犬として、仁菜という才能…自分から失われてしまったモノを持ってる特別に照らされなきゃ、もう輝けない老いた星だと、自分を見ている感じがある。

 『んなわけねーだろ!』と、ロック幼児の面倒見てる姿を眺めりゃすぐに解るが、この客観と主観のすれ違いは、それこそ桃香さんと仁菜の間にある期待と自己卑下の構造に重なる。
 仁菜を信じ引っ張り上げた女が、自分を地べたに投げ出してる。

 自分のことで手一杯、人間的伸びしろしかない激ヤバ女はまだそういう事に気付けないが、仲間とロックンロールを駆け抜ける中で快楽と光りに包まれ、自分と世界のあり方が見えてきた時、そういう残酷を見落とせるのか。
 自分すら愛してなかった自分を愛し、信じ、導いてくれた人が、『アタシ終わってるし…』と下向いてるのを、ロックンロールの申し子が我慢できるのか。

 

 そういう未来への疑問を、熱の入ったハイボルテージに押し流されながらしっかり感じ取れる、良い”第3話”だった。
 桃香さんが『メシ食わす人』として描かれ続けてるの、俺好きなんだよなぁ…。
 ヨーグルトに牛丼、アプリに衣装にマイク。
 自己肯定感を簒奪され、己を証明するものに飢えている若者にたっぷり食わせて、自分を叫ぶための武器を用意してあげる、フィーダーとしてのありがたみ。
 それに報いて、実は飢えてたかぁちゃんに手ずから魂の糧を渡し返す責務が、間違いなく仁菜にはあるだろう。

 一歩後ろに引いて『井芹仁菜の物語』を軌道に乗せるサポーターを、自分の立ち位置とすることでなんとか背筋を伸ばしている桃香さんに、仁菜が『アンタ主役じゃん! アタシを主役にしてくれたじゃん!』と叫ぶ瞬間を、僕は心待ちにしている。
 それを果たしたときが、ロックンローラー井芹仁菜、真実の一本立ちになると思うから。
 やっぱね、ロックは仁義ですよ。

 

 

 俺は断然ももにな派なので、お話の順序をすっ飛ばしてその話をしてしまったが、Aパートのすばるちゃん掘り下げも大変良かった。
 仁菜と同レベルの激ヤバだと話が制御不能に沈没していくわけで、距離感解らず後ろに引く仁菜にグイグイ前に出つつ、自分を適切に開示して魂預ける足場を用意もしてくれる、とても人間育ったいい子だった。
 まー拗れて面倒くさい所も山盛りありそうだけど、今回のライブで成功体験を積んだ仁菜がもうちょい頼もしくなったら、そっちを掘り下げるターンが来るのだろう。
 つーかこのお話が面倒くさい女を描く筆は最高なので、すばるちゃん固有の面倒くささも、ガンガン表に出ていって欲しい。

 

 

画像は”ガールズバンドクライ”第3話より引用

 カトゥーン調の小気味いコミカルと、最高に熱い音楽描写と同じくらい、情感を背景とレイアウトに反射し、人間関係の変化を美術で語る表現の上手さはこのアニメの武器だ。
 尊大なくせにビビりな仁菜がまとう影に、前向きで力強いすばるの光が追いつき、逃げられ、また追いつき返して一緒に光の中に飛び込んでいく様子を描く、Aパートの変遷。
 それは仁菜が自分を追い詰める凶器になってる、持ち前のネガティブがかけがえのない誰かの助けで、少しは希望のある方へと向き直るまでを削り出していく。
 そうしてくれる、すばるちゃんのありがたさと素晴らしさも。

 薄暗く遠い街頭ですれ違う距離感は、役者を目指す明るい(と思われてる)光に、暗い仁菜の領域が照らされる間合いまで縮まり、最終的にハチ公前でズッ友写真取る所まで行く。
 すばると語り合い、お互いをよく知る前は気になっていた顔のない嘲り(仁菜が熊本で、一回殺された凶器)も、友達が隣りにいてくれるならもう聞こえない。

 お上りさんで陰気で、だからこそ炸裂するロックを内に秘めた怪物の顔は、すばるが撮ってくれるからこそ目に見える形になる。
 仁菜はつくづく自分の顔と辿り着きたい未来が見えない子どもで、すばる(と桃香さん)はそんな彼女の卑屈な退却戦を許さない。
 お前は、もっと出来る。
 私がいてやる。
 仁菜(が代表する、世界すべての子ども達)が一番欲しい言葉を、グイグイ前に出てガンガン手渡してくれる少女は、ロックの怪物がその才能を羽ばたかせるために、絶対必要な仲間なのだ。

 

 空気読めず自分の光を押し付けると思わせておいて、ビビって身を引く仁菜の呼吸をしっかり読み、柔らかく絡め取って本音引っ張り出せるあたり、すばるは相当に視力が良い。
 仁菜のチャーミング・モンスターっぷりに当てられている視聴者としては、作中でもアイツのやりたい放題を『しょーがねーな!』と受け入れて欲しい。
 その通りにすばる(と桃香さん)が振る舞ってくれるのは、求めているものと描かれるものが重なる、幸福なありがたさだ。

 とりあえず東京出て大学行けば人生に復讐できるだろうと、旧日本軍並のガバガバ戦時計画で逆襲戦に挑んでいる仁菜に対し、すばるは未来が見えないながらしっかり自分を探って、やりたいことを世界に突き出している。 
 家のしきたりに押し流され、やりたくもない役者人生を背負わされつつも、怒りをスティックに叩きつけドラマーでいる自分を、自分で選び取る。
 自分の手綱を己で握る独立独歩が、彼女の背筋を伸ばし眩しく輝かせ…そういうのに憧れつつもビビって背筋が曲がる仁菜を、影の方向に逃げさせようとする。

 でも仁菜だって、好き好んで暗い場所に逃げ込んでいるわけではない。
 そこじゃなきゃ、息なんて出来ないから。
 自分を殺してくる親と学校から、自分を生存させられないから、仁菜は自己卑下の影に必死に隠れて、何をやりたいのか見えなくなっている。
 ならそういうやつほど、光り輝く表舞台に引っ張っていかなきゃいけねーだろ! つうことで、すばるちゃんとぶつかり触れ合う中で、仁菜は光に近い場所へと進み出していく。

 安和すばるはそういう事をロック赤ちゃんにしてくれる、マジいい子で良い姉貴だということを教えてくれるAパートで、大変良かったです。
 三話にして既に、自分の中で仁菜は愛すべきベイビーになってきているので、自分じゃメシも食えねぇ赤ちゃんをバブバブさせてくれる人たち、全員好きになってしまう…。

 

 というわけで、大変良かったです。
 『勝負の三話』という深夜アニメの方程式が、通用しなくなるほど作劇もアップテンポになってきていると思いますが、時代に追いつく速さと熱量を維持しつつ、大事なコーナーを最高速で回りきる妙技を、たっぷり堪能させてもらいました。
 ファーストライブを最高の輝きと受け止めさせるために必要な、キャラとドラマへの愛着と期待をしっかり作り上げた上で、望んでいたより遥かに高くぶっ飛んでいった”声無き魚”、素晴らしかった。

 『やっぱ勝負どころで、キッチリ勝てるアニメはつえーな!』と、当たり前のことを思いつつこの後のお話、大変楽しみです。
 おもしれーなこのアニメマジ…。

 

 

 

・補記 あの時照らしそこなった、普通怪獣の陰りが彼らの瞼の奥に、僕と同じように突き刺さっているのなら。
 仁菜のロック野郎っぷり、矛盾だらけの青春モンスターっぷりは、ある意味高海千歌のリベンジなのかなと、極めて勝手に気楽に思ったりもする。
 スクールでもアイドルでもない、クドい萌記号を拾わなくてもいいセッティングで、本来は相当暗くてヤバいはずのキャラがキラキラ青春に飲まれ何かが歪んだ、遠い昔のあの話。
 あの時見たかった、怪物が怪物のまま怪物らしく暴れるお話を、ようやく見れてる手応え。

 でもそれは、怪物が怪物ではない何かになって、色々ガタつきながら必死に己の話を走りきったからこそ、今見れているものなのだろう。
 勿論、この話は内浦の続きじゃない。
 でも自分の中確かに、あの子の残影を追ってる部分がある。

 話のあやふやな輪郭、スタッフの共通項だけで何かを語るのは何の意味もない空言なんだが、こうして新たな波動に心揺さぶられてみると、全然あの子の物語にケリつけてられてなかった自分を新たに見せつけられて、その事書かないのも嘘だろうと思ったから、今ここに余計な補記を付け足してる。

 暗くて面倒くさくて暴力的で、ロックの怪物になるしか道がないくらい真っ直ぐな、仁菜の顔。
 彼女を主役とする、”ガールズバンドクライ”の顔。
 そこに重なる、怪物として設計されていながら、甘く柔らかな光でその影を塗りつぶされた少女の面影。
 それが妄想であると刻まないと、引きずられすぎて仁菜の顔、ちゃんと見えなくなりそうだ。