イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

中世の死

ノルベルト・オーラー、法政大学出版局。タイトルどおり、ヨーロッパ中世における死、埋葬、処刑、戦争などについて述べた本。「メメント・モリ」や「ダンス・マカブル」など、「豊穣なる中世」は死の季節、として理解されることも多い。その理由は何か。簡単なことだ。処刑が公開されていた事、墓地が共有されていた事、そしてペストの流行や栄養状態の貧困、新生児死亡率の高さなどから、平均寿命が27歳と推測される時代だったからだ。
一事が万事この通りで、中世にかんする曖昧な知識や見解、疑問を圧倒的な博識と資料の提示で一刀両断する筆の力は見事なものだ。あまりに内容が詰まっていて少々読みにくい部分もあるが、当時の図版も多く、また憶測ではない資料提示が骨太な説得力を持っている。
「中世の秋」としてこの100年で、暗黒の中世期は一種の幻想、といわれるようになった。しかし、死、をテーマにしたこの本に出てくるのはいわれ無き魔女裁判、見せしめ効果を狙った残虐な公開処刑、聖遺物を得るために死体を損壊する行為、そしてペストの流行の原因を覆いかぶされ、大穴の中で火刑に処せられるユダヤ人である。なるほど、中世は豊穣である。だが、同時に過去言われてきた暗黒の中世の姿は、豊かな中世の姿が現れてきたからといってなくなるわけではないのだ。そのことを教えてくれる名著である。