村上春樹、講談社。僕は春樹がすきなのだが、この本は読んでいなかったので買って読んだ。春樹の強さは言葉の選択の確かさが支えている。きらり、と明るく輝く言語のナイフを選択し、適切なタイミングで適切な場所に突き刺してくる。それが、春樹の強さなのだ、と個人的には感じている。
この本の言葉はひどく曇っていて、くすんでいて、僕を突き刺してはくれなかった。ところどころ、はっとするような言語のナイフがおいてある。デモそれは、周りの言葉のあまりの頼りなさに地面に投げ捨てられたままで、起き上がって僕の心を切り裂くことはない。
話の進捗もぼやけていて、どうにも要領を得ない。主人公が同じところで足踏みをするのはいい。春樹は多分、そういうことを大切にしている作家だからだ。でも、この本においてそれはやはりぼやけている。それは選択した言葉のくすみ、切れ味のなさが原因なのだと、そんなことを感じながら読んだ。読み終えた感慨はひどく、淋しいものだった。
