イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

建築と破壊

飯島洋、青土社。主に革命期ロシアに目をやりつつ、写真をキーワードに現在の虚無を分析する論述。切れ味のある本である。ベンヤミン、バルト、フロイトなどの理論を丁寧に解析しつつ、彼らが予見していた現在の虚無、全てが同じになってしまった産業複製社会の空疎を見つめ、解体している。
それは僕達の世界の話である。ロシア革命期のラーゲリや、ヒロシマの原爆や、ベトナム戦争の無残や、沢山の過去の死について述べながらも、作者の視線は常に現在に、もっといえば9.11に向いている。
それを支えるのは、過去へのしっかりとしたまなざしと、丁寧な文献の調査と読み込みである。引用される文章は適切であり、論を進めるために最適なタイミングで提示される。そのことが可読性を上げていて、非常に複層的な思索を受け入れやすい形で提示してくれる。
写真論とフロイト精神分析学を両手に携えて、筆者はさまざまなものを分析する。アンディー・ウォーホルの暗殺未遂。ウィキントンのグロテスクな写真。フロイトの「狼男」症例。その一間乱雑なチョイスはしかし、現在の虚無、複製に複製を重ね、何処にも何もないのと同じ無限世界としての現実を切り裂いている。その視線、その言葉。名著である。