イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

クローズド・ワールド

ポール・N・エドワーズ、日本評論社。冷戦時代のコンピュータ技術発展と政治構造を並列/相互に論じた本。サブタイトルはそのまま「コンピュータとアメリカの軍事戦略」 約10年前の本である(日本版の発行は2003年であるが)。
広範な領域に及ぶ書物である。基本的には冷戦構造下のアメリカ軍事技術分析の本なのだが、ディスコース概念をフーコーから、サイボーグ概念をウィーナーとハラウェイからそれぞれ借りてきており、それが必要不可欠な「クローズド・ワールド」−冷戦の構造に1945年以降強く「囲い込まれた(Enclosed)」世界と、その中で/その外で発展した情報工学、AI理論、サイバネティクス認知心理学その他の学問領域−の分析を行っている。
とにかく、冷戦の軍事技術氏を語る上で必要なアイテム−もしくはアイコン−への冷静かつ重厚な分析が眼を見張る。SAGE対ミサイル防空網、システム分析、ランド研究所、音響心理学研究所、DARPAなどなど、具体的な軍事=科学技術の発展史を丁寧に追いかけ、その中/外でいかにして諸概念、諸技術が熟成されていったかを考察している。
技術発展史以外にも、認知心理学サイバネティクス人工知能の分野を取り上げ、それが冷戦の「クローズド・ワールド」の中でイカに発達し、いかに冷戦に影響を与えたかの調査・分析も行っている。これも資料によく踏み込み、独特の視点を興味深く論じている。終章で、なぜか映画批評が「クローズド・ワールド」の視点から論じられる。
各々の領域でなかなか興味深い分析を行っていて、論考も資料分析も確かだと感じさせる。が、各章があくまでパーツであり、複合的に重なり合って何かの視座を強烈に指し示すところまで行っていないのは、惜しいといわざるをえない。が、書く論考の幅広さと踏み込みの深さ、腰のしっかりした感じはなかなかのものであった。良著。