イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

生命40億年全史

リチャード・フォーティ、草思社。古生物学、特に三葉虫の世界的権威である筆者が、徹底して古生物学に基盤を置いて書き上げた、生命発生から人類史開始までの本。450ページオーバーの、なかなかボリュームのある本である。
とにかく横幅の広い本である。タイトルのとおり、この本が扱うのは生命の発生から海洋での発達と大気組成変化、植物の上陸、陸生動物の進化、恐竜の発生と大量絶滅、哺乳類の隆盛と、地球上に生命が発生してからのほぼすべて、である。このような本は基本的においしいエピソードのつまみ食いになりがちだが、この本は違う。一章ごとにはっきりとした文章と視点、そして何より古生物学という学問に背中を預け、分厚いボリュームで丁寧に書き上げている。
この本における記述は、その横幅の広さとは不釣合いなほどに細かく、深い。生命の歴史における個別史(それこそ筆者の専門である三葉虫とか)と比べればまだ浅いが、とにかく化石資料と四つに組む古生物学から見た生物全史、というテーマと目的に従い、徹底した掘り下げと細やかな記述を行っている。そのため、論とスキップや荒い記述はほとんど見当たらない。全般的に神経の行き届いた、細やかな文章である。
その上で読ませるのは、一つには筆者の文章の巧さであろう。ひっさやは古生物学者であるから、時には極寒の北極圏へ、時には熱砂のオマーンへ、化石発掘の旅に出る。その冒険端を要所要所で挟んだり、広い文学的素養を生かし、無味乾燥になりがちな記述に彩を添えていたりする。それらアクセントの使い方が巧さの一つである。
もう一つは、本自体の骨の太さである。筆者はグルードの断続並行説の重要性を認めながらも異論を唱えている立場の人物であり、その議論は非常に理性的かつ滑らかなものである。大量の証拠と反証をひっぱて来て、ライトサイエンスらしい解りやすさと、科学的厳密さを両立させながら持論を展開させる。それは非常に誠実な論の進め方であり、確かに学術的な実力を匂わせてくる。それに支えられ、ここで語られる生物全史には分厚さと重さがあり、神応えは十分ながらも非常に楽しい。
かなりのボリュームが在る本だが、語り口は柔らかく、かといって安易な比喩や省略に頼るでもない。誠実な議論と豊かな文章を積み上げ、魅力的なライトサイエンスに仕上がっている。名著。